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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
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触れ合う:心


「決めた! わたし、きみがわたしを幼名で呼ぶかぎり、きみのこと『ねこちゃん』って呼ぶから!」


 とある日。

 薬術の魔女はそう告げた。


「……はあ。お好きになさっては」

「あれ!? そんなに恥ずかしくないの?」


なんと、魔術師の男は心底どうでもよさそうに溜息を吐いただけだ。

 予想外な反応に、薬術の魔女の方が赤面する。


「はい。貴女から呼ばれるの成らば。罵倒以外は如何様にも」


「ふ、ふーん?」


 名前や言霊について重要視されているこの魔術社会で『あだ名をつけること』、『あだ名を容認すること』は、よほど親密でないと行われない。なぜなら呼ばれた名前に影響されることがあるからだ。

 つまり、魔術師の男は薬術の魔女によって呼ばれた名に()()()()()()()()と、言っている。


「ね、ねこちゃーん」


 呼ばれたらさすがに照れるだろうと思い、薬術の魔女は呼んでみた。


「はい。何用でしょうか?」


「馴染むの早い!」


だが、彼は嬉しそうに目を細め微笑むだけだ。


×


 二人でゆっくりと触れ合うようになってから、日が過ぎる。


 夕食と風呂を終えたら少しだけ時間を空けて、まずは手袋越しで互いの手に触れ合い、お互いの話をする。話の内容は、その日の楽しかったことや気付いたこと、その他色々だ。

 大抵は薬術の魔女が一方的に話すばかりで、魔術師の男が自ら話をすることはあまり無かったがそれでも良かった。

 それに彼女と違い、彼の方は宮廷魔術師という職業柄、話せないことが多いだろう。

 薬術の魔女が楽しそうに、嬉しそうに、新たに発見した薬草や生成した薬のこと、やってみたいことや行ってみたい場所の話をすれば、魔術師の男も目を細めて相槌を打ってくれる。

 たまに皮肉めいたことや毒の様に棘のある言葉も吐くが、それは彼なりに気を許してくれている証拠なのだと彼女は思うのだ。

 会話をし互いに触れる時は薬術の魔女は魔術師の男の腿の上に座った。その方が、より引っ付いていられるから。


 そんなゆっくりした時間を過ごして、以前よりずっと、お互いの距離は近くなった。

 薬術の魔女は彼に触れられても、捕獲されているかのような、嫌な緊張を覚えることはもう無い。

 魔術師の男の方も彼女に、無理に縁を繋げようとはしなくなった。

 互いにある程度で束縛と自由の許容範囲の話し合いを行い、一応の折り合いを付けたのだ。

 価値観の擦り合わせにはあまり問題は生じなかったが、この話には()()長い話し合いと説得、弁明、その他諸々があった。

 まだ一緒には寝ておらず双方共に個人の部屋で過ごしているけれども、結婚の契約を結んだら世間一般の夫婦と同様に夫婦寝室で寝るという話も済ませておいた。


 そして、結婚の契約をいつ結ぶかはもう決めた。

 その話題が出た際に


「嫌でも『絶対に忘れない日』だから」


そう、彼女が提案したのだ。

 彼は少し驚き、


「一周回って、寧ろ目出度い日になりそうですね」


と、さも面白そうに提案を受け入れた。


 その日に向けて婚姻の準備や手続きを始めた。実際のところ、相性結婚に関連する制度のおかげで特に用意することも用意する物もそれほど無かったのだが。

 薬術の魔女も魔術師の男も人を招くような大きな挙式を挙げる気は無かったので、その旨を薬術の魔女は友人達に話した。だが、友人達にものすごく驚かれてしまった。

 魔術師の男の方は、誰にもその話はしていないらしい。身内や同僚の者、上司などを呼ぶ気が更々に無かったからだ。

 とりあえず挙式の話は婚姻届を出した後の宣誓と必要な儀式だけ、という結論にしておき、現状では薬術の魔女と魔術師の男の二人は、結婚後に行わなければならない書類関係の用意や将来設計などの話し合いをしている。


 2人は近い距離にいると安心でき、互いの意見をぶつけ合える仲になった。

 今までに色々と大変なことはあったけれど


「(これなら、もう大丈夫)」


そう、心の底から思えたのだ。


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