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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
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星祭り。


 その2もとい聖女の所に匿って貰った夜、薬術の魔女は懐かしい夢を見た。故郷の森の山で行われていた、星の祭りの夢だった。

 満天の星の下、キラキラと輝く月見草や星の花に囲まれて光る生き物達の舞う姿を眺める不思議なお祭りだ。


「(……最近、行ってなかったな)」


 今まで、魔術アカデミーの門限のお陰で行くのを控えていた。


「(なんだか、呼ばれてる気がする)」


薄く目を開くと、朝になったばかりのようだ。まだ聖女は眠っているようで、小さな寝息が聞こえている。


「(今夜、あるのかも)」


いつもは夏だけど、と思いながら再び目を閉じた。



「本当に、いいんですか?」


 夕方に、聖女は薬術の魔女に問いかける。薬術の魔女が、聖女の元から離れると告げたからだ。


「うん。ちょっと行きたいところもあるし」


 聖女は首を傾げるも、止める理由が無いので引き留めることはできなかった。


×


「んー、自由っていいね」


 伸びをして、薬術の魔女は夕闇に沈み始めた街を歩く。本来ならば、少なくとも巡回の軍人に声をかけられるはずなのに、一切足を止めることなく街を出られた。

 必ず居るはずの門番にすら、薬術の魔女は出会わなかったのだ。


「(やっぱり、呼ばれてるんだ)」


そう、確信した。


 あっさりと入れた山の中は非常に足取りが軽く、()()()()()()()()()()()()心地が良かった。


 やがて、真っ暗な山の道が、キラキラと輝くものが混ざり始める。


「ん、いつ見ても綺麗だ」


 嬉しくなって、更に奥へと足を進めた。

 地面の輝きは薄青く、薬術の魔女が踏む度に、ぱきり、ぱきりと、細かく砕ける音がする。


 星の花が燐光を放って、静かに揺れる。


 楽しそうな笑い声が聴こえる。


「もうすぐ、」


 星祭りの会場にたどり着く。


×


「まさか、」


 魔術師の男は、呟いた。

 こんな時間に山の中に入るとは思いもしなかったのだ。軍の警邏の者や門番はどうしたと、詰め寄りたくなる。


「(恐らく、彼女の魂が()()だからか)」


 本物の妖精に手助けされて、運良く見つからずに山まで辿り付けたのだろうと、示された場所に向かいながら推察する。


 昔、兄から聞いた話があった。


「お前は、夜空の星が美しい日は、山には入るなよ」


そう、山に向かう魑魅魍魎の類いの行列を見た夜に言われた話だ。

 何故、と問いかければ、


「あれに混ざると、向こうへ連れて行かれてしまうからな」


そう、山の方を見ながら兄は答えた。


「名の有る山には其々(それぞれ)、『祭り』というものが存在する。分かりやすく言えば、山や森に棲む妖精達が騒ぐ日だ」


 どうして自分が山へ入ってはいけないのかと訊くと


「魂が人間でない者を、()()()()()儀式の場でもあるからだ」


と、頭を撫でられた。


 随分と昔で、いつの記憶だったかもう覚えていないが『妖精と、魂が人間でない者のための特別な日』で、呑み込まれると二度と戻って来られないことだけは分かっている。


 今向かっている山にも、名が付いていた。

 恐らく彼女は、その山の祭りに行ったのだ。

 

 仕事部屋から直接、示された場所に魔術式で飛んだ。


 はずだった。


「なっ?!」


 術式は発動した直後、外部から術の干渉を受けて座標がずれる。そして着いたのは、山の(ふもと)だった。


「(……『祭りの邪魔をするな』という事でしょうかね)」


 ぎり、と奥歯を噛み締め、魔術師の男は躊躇なく山に踏み入れる。


 外部から入った干渉は()()

 まともに感知出来ないような不可思議な力と()()()()だった。


 不可思議な力が魔術式を歪ませ掻き消そうとし、呪猫当主の術が式の形状を元に戻し不可思議な力の影響が及び難い麓まで座標をずらしたのだ。


「(……またもや、助けられた)」


 口惜しさにやや顔を歪ませながら、懐に入れられた物体に触れる。硬い紙の感触がしたので、どうやら御守りらしい。


×


 怖気がするほどに、山は静かだった。

 生き物どころか、夜行性の魔獣の気配すら一切しない。


 示された方向に向かって歩くと、段々と明るく、音が聞こえ始めた。

 足元が軋むような感覚に陥ったので、即座に特殊な足の運びに切り替えて足音を殺す。気配と息も殺した。

 得体の知れない力を感じて、間違いなく昔に兄が告げた妖精が連れて行く祭りだと確信する。

 急いで連れ戻したい気持ちになるが、薬術の魔女がくれた夢見草の匂いが香り、早る気を落ち着かせた。


 少しして、一層輝きが強く騒がしい場所が近付く。


「……」


 一日振りに、薬術の魔女の姿を見た。彼女は不気味に光る地面や植物達に囲まれて、楽しそうに微笑んでいた。そして小さな光る何かに手を引かれ、


「――」


彼女自身が、薄く燐光を放っている。


 その姿はまるで、天使かと見紛うほどに美しく愛らしくて、息が止まりそうだった。


 だが、直後に()()()()()()()と直感で感じる。


 その恐怖に、思わず彼女の名前を呼んだ。


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