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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
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獲物としての素質。


 婚約してから、魔術師の男の帰宅が随分と早くなった。早朝に出かけて行くところは変わらないが、薬術の魔女が夕食を作る頃には帰るようになったのだ。

 薬術の魔女は、外から戻った彼が式神達に荷物や上着を預ける様子を興味深そうに見る。


「もしかして、『色々な準備』って」


「早く帰る為の手回し等です」


 見ながら彼女が問いかけると、魔術師の男は普段通りの澄ました顔で答える。手回し、ということは早く帰って来られるように、と、婚約する前から彼は準備をしていてくれたのかと、彼女は感心した。


「其れと、使える部下が最近出来まして」


「へぇ。よくわかんないけど、よかったね」


 彼が早く帰ってくると一緒にいられる時間も増えるし、食事も共に摂れるので薬術の魔女は大変嬉しく思うのだ。


「……やはり、早く帰れるのは嬉しいものですね」


 魔術師の男は少し安堵している様な、柔らかい声色で零した。


「そっかー」


薬術の魔女も、彼と一緒にいられるので早く帰ってくれる事は嬉しいものだと思っている。


「ねぇ、やっぱり近いよ?」


 だけど、やはり距離が近い気がした。

 ()()()からする声に身を(よじ)ると


「腕に抱く程度は良いのでは」


薬術の魔女の胴体に腕を回した彼が、普段通りに済ました様子で答える。


「んー、そうかもだけど」


 婚約したのならば、と眉をひそめながら小さく頷いた。しかし、距離感は近くなったが彼は一向に薬術の魔女を本当の名で呼んでくれないのである。


「慣れて下さいまし」


「んー……」


 それに抱きしめられることは別に不快でないので、彼に触れられること自体は嫌ではない。逆に、触れられる温かさや匂いに嬉しさを感じていた。

 だが、彼の感触を背後に感じながら薬術の魔女は小さく呻き、早鐘を打つ胸に手を当てる。


「(……なんでかな)」


 そして、内心で首を傾げた。薬術の魔女は『好きな人が近くにいてどきどきする』ような甘い感情は抱いていない。

 なぜか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を感じていた。


「……」

「え、なに?」


 一瞬、彼は薬術の魔女の首元に顔を埋めた。


「いえ。気にせず」


「(なんだろ)」


というか、何気なく、自然ににおいを嗅がれたような気がした。


×


 屋敷での生活はともかく、店の調子は相変わらずいい感じだった。

 売り物のバリエーションも少しづつ増やしたり、改良を行ったりを繰り返て、少しづつ固定客を増やしていったのだ。


「やぁ」


 そこで、貴族が現れた。明るい茶色の髪色の男性だ。


「いらっしゃいませー。何かお探しですかー?」


 薬術の魔女は、にこやかに笑みを貼り付けて対応する。礼儀などが必要となる、貴族を相手することは少し苦手だった。


「こう言った商品探してるんだけど、あるかな?」


そう言い、貴族は商品の特徴を挙げる。


「少々お待ちください」


一瞬でどの商品が近いかを思い出し、薬術の魔女はごーちゃんに指示を出して該当する品を持ってきてもらう。


「(最近よく来るお客さんだなぁ)」


 商品を渡しながら思うのだ。商品を気に入ってくれたんなら別にいいとも思っている。それに、家に帰る頃には存在を忘れていた。店に来る度に思い出しているだけだ。

 そして、その貴族は


「上手くいったよ、ありがとう!」


と、数日以内に再び戻ってくる。喜んでもらえたようでよかった、と薬術の魔女は思うのだが


「(この人、もしかして複数の人とお付き合いしてる人?)」


と、思ってしまう。

 店に訪れる大抵の理由が『彼女への贈り物』らしいのだが、買いにくる度に商品の趣向が変わるのだ。

 薬術の魔女自身は気にしていないのだが、買われた商品達が雑に扱われていたら嫌だと思っていた。


「こういう商品とかあるかな?」


と、貴族は薬術の魔女に問いかける。


「(……また来たのか)」


思いながら、対応をした。香水のにおいがきつい。


 この貴族の正体は、実は薬術の魔女から魔術師の男の情報を得ようとした者だった。だが、今は逆に虜になっており、会うために店に何度か足を運んでいる。

 ちなみに、本当に多数女性のための贈り物も買っている。

 しかし、それらを薬術の魔女が知ることはない。心底どうでもいいからだ。


「あれ、結婚……違うか、腕輪がつながってないから婚約中、なんだね?」


 と、右腕を見た貴族は問いかける。実際は知っているので話題作りのための声かけである。


「えーっと、個人的な質問は承ってませんので」


 薬術の魔女は雑に笑みを貼り付けて対応する。


「お店じゃなかったら良いのかな?」


貴族は首を傾げた。


「……えーっと、あ。いらっしゃいませー」


 そう言葉に詰まった時に、丁度新しい客が現れたので薬術の魔女はそちらに対応する。


「(なに、この人)」


 せっかくの客だけれど、拒んだ方が良さげかもしれない、と思った。


×


 家に帰ると、薬術の魔女は魔術師の男が帰っていなければ夕食の準備をする。店であった嫌なことを忘れて、鼻歌混じりに『おいしくなあれの歌』を歌って調理をしていた。


 それから少しして、魔術師の男が帰ってくる。


「只今、戻りました」

「うん、おかえりー」


 調理を終え、薬術の魔女は答えた。すると、彼は自然な動きで彼女の近くまで寄る。


「(なんか、やっぱり距離感がおかしい)」


 初めは魔術師の男の距離が近くなったことに戸惑っていたが、今は何となくで慣れてきたし薬術の魔女自身は彼の匂いに安心した。


「…………」


 ふと、魔術師の男の動きが止まる。


「どうしたの?」


 首を傾げて見上げると


「……知らぬ男の臭いがしますね」


ぼそりと、彼は小さく、低く呟く。


「え、におい?」

「いえ、お気になさらず」

「(なんか怖……)」


 思いながら、彼が離れたので食事を始めた。


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