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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
三年目

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色々な意味で地獄。


「うっひゃあ……地獄絵図」


 窪みから引き上げてもらうと、周囲には肉の山があった。見える部位の形状などから、その肉の正体は魔術師の男が言っていたように蛇型の魔獣のようだ。そして、その魔獣全ての腹が綺麗に切り開かれていた。


「これ、全部きみがやったの?」


「ええ、はい。(わたくし)一人で来ましたからね」


 薬術の魔女が振り返り見上げると、彼はさも当然のように肯定する。随分と大きな魔獣を、複数体も相手にしていたらしい。


「すっごーい。切り口が綺麗だねー」


 そして薬術の魔女は綺麗に血抜きと内臓の除去が行われているそれに関心する。すぐにでも肉として回収できそうだ。


「……思いの外、平気なようですね。……()しや、慣れて居られる?」


 少し驚いた様子で魔術師の男は紐で吊ったままの薬術の魔女を見る。


「まぁね。動物の解剖とか、狩りとかやってたし。鼠から熊まで(さば)けるよ。食べられるのは大体いける」


「…………貴女は、本当に特殊な方ですね」


 むん! と得意そうな薬術の魔女に、魔術師の男は感心しているらしい。


「褒めてる?」

「えぇ。勿論で御座います」


×


 地面に下ろしてもらい、薬術の魔女の身体に巻き付いていた紐を魔術師の男は回収する。


「こんなのがいっぱいいたのに、なんで無事だったのかな?」


肉の山を見ながら、薬術の魔女は首をかしげる。


(さて)(わたくし)にはとんと見当も付きませぬが」


そう言い、魔術師の男は少し屈んで薬術の魔女の頭に手を伸ばす。


「ん、なに?」


()の『花』か貴女の荷物に何か要因が有るのでは?」


 薬術の魔女の髪に触れたその手には『夢見草』の花が摘まれていた。すっかり萎びていたが、ただ水分が抜けているだけのようだ。


「……なるほど?」


 周囲を見回すと、夢見草の花が散れている箇所には魔獣の足跡や暴れた後らしきものが非常に少なかった。

 それに肉の山の、花に触れている箇所が少し縮んでいるような。薬術の魔女は急いで花に(まみ)れていたはずの自身の体を見るが、どこにも異常は感じていない。


「少々お待ちを。肉を回収致しますので」


 観察をしていると、魔術師の男が声をかけた。


「回収? あ、腐ったり他の魔獣に食べられたりしたら色々大変だもんね」


言いつつ、薬術の魔女は彼の側まで下がる。


「『宣告。“解体(のち)収獲”』」


 そう短く彼が告げた直後、一瞬で肉がブロックの塊になり、地面に落ちる前に消えた。

 どこに消えたんだろう、と思うがどうせ教えてくれないだろう。そしてやっぱり宮廷魔術師なんだなぁと、術式の影響範囲に感心した。


「……では、帰りますよ」


 魔術師の男は手を差し出す。


「うん」


言われるままに何の疑いもせず、薬術の魔女は手のひらを重ねた。それに一瞬、魔術師の男は固まったが、何かを考えている様子の彼女は気付いていないようだ。


「……あ、荷物は」


 ふと、薬術の魔女は自身の荷物の安否確認に周囲を見回す。


「袋に詰まった草の(たぐ)い成らば、私の屋敷に運んであります」


薬術の魔女から目を逸らし、魔術師の男は平坦な声で答えた。


「わ、ありがとう!」


「いいえ。お気になさるな」


 そして、魔術師の男の作った移動用の魔術陣で彼の屋敷に移動した。


×


「あっ……門限……」


 屋敷に到着した直後、薬術の魔女の視界にに入った時計はアカデミー寮の門限を過ぎていた。


「『婚約者の家に泊まる』と、予め連絡しておきましたので、御心配無く」

「えっ?」


 慌てる薬術の魔女に、魔術師の男はさらりと答える。


「学園の方より貴女が居ないと連絡が入りまして。なので騒ぎを大きくしないよう、()の様に答えました」


「そんな勝手に……でも、助かったよ」


 色々としてもらってばかりだ、と頭の下がる思いだった。

 話を聞くと、連絡が入ってからすぐに探しに来てくれたらしい。


「……連絡の直後は非常に、肝が冷えました」


「ん……」


薬術の魔女はきゅっと口を結ぶ。


「……まあ、先ずは身体を清めて下さいまし」


 十分に反省しているからと、魔術師の男はあまり追求するつもりはないらしい。


「あ、土まみれで汚いよね。ごめん」


「いいえ。何方(どちら)かと言えば、()の花を早く身体から落とした方が良いのでは、と思うての提案でしたが」


 言われて、薬術の魔女は自身にまとわりついている夢見草の花に毒があることを思い出した。


「あっ、ごめん。わたしあんまり毒が効かないから忘れてた」


「…………然様ですか」


「というか、きみも魔獣の血まみれだよね?」


 外は月明かりがあるとはいえよく見えなかったが、屋敷の魔石の灯りに照らされたその姿は随分と汚れていたのだ。


(わたくし)()()しか汚れておりませんので、お気になさらず」


 いうなり、魔術師の男はその外套を脱ぐ。それを綺麗に折りたたみ、現れた恐らく式神であろう人形に手渡した。


「わぁ、本当に汚れてない」


外套の中身は見事に無事だった。


×


「湯浴みの場は此方(こちら)です」


 魔術師の男に案内された先は、風呂場近くの脱衣所だ。


「下着類に関しては浄化装置を使い、寝巻きは()の服では寝難いでしょうから、(わたくし)の服を。落とした砂や花は私が後で如何にか致しますので気にせず」


「……ん」


 物の有る箇所を手で示し、魔術師の男は端的に説明をした。


「手の届く範囲に石鹸等は置いて有る筈ですが……もし、何か困り事が有れば遠慮無く」


そう告げて魔術師の男は薬術の魔女を置いて居なくなった。


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