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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
三年目

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自覚。


 休日になったので、薬術の魔女はあてがわれた部屋に本や器具などを移すことにした。

 魔術アカデミーの寮から彼女自身の荷物をいくつか持ち、魔術師の男の屋敷内へ木の札を踏んで移動する。

 どうやら、彼も荷物運びを手伝ってくれるようだった。だが、なんとなくで薬術の魔女は魔術師の男が手伝ってくれるそれを意外に思う。物の移動など、明らかに雑用としか言いようのない肉体労働だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから、手伝うならせめて式神くらいだろうと思っていた。そして


「あ、それはあっちに置いて」

「ちょっとこれ、持ってて」


などの薬術の魔女の雑な指示にも、魔術師の男は嫌な顔一つしない。むしろ「何処へ運びますか」とか「()れを持ちましょうか」などを問うタイミングや動作が滑らかで、そういった()()()使()()()()()()に慣れているかのように感じた。


×


 一通りの物の移動が終わったタイミングで


「飲み物(など)如何(いかが)ですか」


と、魔術師の男が、液体の入った器を薬術の魔女に差し出した。


「ん、ありがと」


 器を受け取ろうと薬術の魔女が手を伸ばし、その指先に、魔術師の男の手が触れた。


「っ!」


 驚き、薬術の魔女は思わず手を引っ込める。


「おっと。大丈夫ですか」


 その様子に驚いたのか、やや目を見開きながらも魔術師の男は冷静な様子で問いかけた。


「う、うん。なんかごめんね?」


触れ合ってしまった方の手をもう片方の手で握り締めながら、彼女は魔術師の男に謝罪をする。手同士を触れ合わせるなど、よほど親密な友人やパートナー同士か恋人、夫婦間でないと赦されない行為だからだ。

 幾度か手を触れ合わせるような行為をしたような気はするが、それは仕方ない理由があったはず。だから、今のようなふとした瞬間の触れ合いに薬術の魔女は驚いてしまったのだ。


 しかし反応を見る限り、彼はあまり気にしていないように見えた。それが、なんだか意識しているのが自分だけの様に思えて、薬術の魔女は少し恥ずかしくなる。


「いえ。……手が、触れてしまいましたか。申し訳ありません」


申し訳なさそうに、魔術師の男は触れ合ったであろう薬術の魔女の手を一瞬だけ見、謝罪をした。


「ううん。ちょっと驚いただけだから」


 誤魔化すように曖昧に笑い、今度こそ薬術の魔女は器を受け取る。


「(びっくりした……)」


 心拍数の跳ね上がった心臓を少し抑えつつ、薬術の魔女は器に口を付けた。なんとなく、頬が熱い。

 それを、魔術師の男は目を細め薄く微笑んで見ていた。


×


「ふー。今日はこれくらいにする」


 魔術アカデミーに入学してから第五学年までの教科書やノート類、購入した本類を積んだ山を見て、薬術の魔女は満足気に溜息を吐いた。

 魔術アカデミーの寮から運び出された荷物達は思いのほか量があった。教科書類は購入したり受け取ったりしたものをそのまま捨てずにとっておいたものがほとんどだ。だから、(いず)れは要るか要らないかの分別を行う必要があるだろう。


「……貴女の部屋に本棚や薬品棚等でも買って、置きましょうかね」


 山のような本達に目を向け、魔術師の男は提案する。恐らく、彼は薬品の(たぐ)いもこれから大量に運ばれるのだろうと予想したからだ。

 おまけに、今は許可をされていないが、卒業後はきっと薬術の魔女の衣類なども置くので更に物が増えてゆく。


「え、買ったやつ置いて良いの?」


見上げ、薬術の魔女は目を輝かせた。買った棚を置いても良い、ということはもっとたくさんの薬品や本達を綺麗に置けるのだ。

 それに、『買って、置きましょうか』と魔術師の男は言ったので、きっと一緒に本棚を買いに行ってくれる。そのことが嬉しかった。


「勿論です。……仮に、貴女が()の屋敷を出る自体に成ったとしても、落ち着くまでは荷物は置いていらしても構いやしませんよ」


 それをじっと見つめ、目を細めながら彼は薬術の魔女を見下ろした。


「え、出ていくの? なんで?」


その言葉に、心底驚いた様子で薬術の魔女は魔術師の男を見上げたまま、首を傾げた。


「……まあ。万が一、等もあるでしょう」


すい、と彼は視線を逸らす。


「んー……そうかも?」


なぜ一瞬、彼が気まずそうな表情をしたのか、全くわからなかった。


×


 屋敷から、魔術アカデミーの寮に薬術の魔女は戻る。


「…………」


そして、ぱたり、と自室のベッドに倒れ込んだ。


「(つ、つかれた……)」


 小さく、長い溜息を吐く。


 魔術師の男との思わぬ接触から、なぜか心拍数が上がったままだった。

 それに、彼が近くを通った時、彼がこちらをまっすぐに見つめた時にも、心拍数が少し上がっていたような。


「……(もしかして、あの人のこと……)」


 ベッドに横たわったまま、薬術の魔女は普段より赤い頬に触れる。

 ふと、去年の愛の日周辺で落ち込んだ時に友人Aに訊かれた言葉を、思い出す。


「(…………すき、なのかも?)」


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