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薬術の魔女の結婚事情  作者: 月乃宮 夜見
三年目

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始まりの季節。


 秋の始まりと同時に、薬術の魔女は魔術アカデミーの第六学年となった。


「……もうすぐ、卒業かぁ」


 呟き、机に向かっていた薬術の魔女は、椅子の向きを変えて寮の自室を見回す。あと一年もしないうちに、この部屋から荷物を運び出さなければならない。

 薬術の魔女が居なくなった後、この部屋は次に入ってくる学生の部屋となる。だから、なるべく早いうちに移動の準備は済ませておいた方がよいだろう。


「家具は大体備え付けだから、あんまり大荷物じゃないけど」


 言いながら、彼女は自身が魔術アカデミーに在籍している合間に購入した本や器具などに目を向ける。入学した当初よりも、随分と物が増えてしまった。


「…………どこに置こうかなぁ……」


 増えたもの全てが実家の部屋に納まるとは到底思えなかった。実家は狭い。

 いくつかを古物回収に持っていけば減るだろうが、実家の自室にどのくらい置けるのだろうか。と、考えたところで、


「あ、そういえば同棲するんだっけ」


と思い出す。

 『相性結婚』では一ヵ月、婚約者となった相手と一緒に住まなければならない。


「……つまり。結婚するしないは置いといて、少なくとも一ヵ月くらいはわたしの荷物を預けられるってことじゃん」


 と、思い至った。


×


「まあ、宜しいですが」

「いいんだ」


 荷物の相談をしたところ、魔術師の男は屋敷内に置くことを難色を示すこともなくあっさりと許可してくれた。

 ただ、屋敷内に置く事を許可された物は衣類などではなく本や薬品を生成するための器具、保存している薬品や薬草などだ。ついでに学生寮のベランダに置いてある植物などの持ち込みも許可された。

 恐らくは学生生活には不要で、現状で屋敷に置いても困らない物を置いて良いと言っているのだ。要するに、第二の部屋ではなく倉庫のような扱いである。


()れと、屋敷内で薬品の生成等を行っても構いません」


「え、いいの!?」


 魔術師の男の思わぬ提案に、薬術の魔女は目を輝かせる。学校生活に不要だからと言って薬品を生成する道具を屋敷に運んだとしても、薬の生成が彼女の趣味なのでどうせ休日には道具達を使用するのだ。


「はい。(むし)ろ、薬品生成の(ため)態々(わざわざ)、屋敷と寮を行き来する方が面倒でしょう」


「うん、助かるよ! ありがと!」


(そして)()れを」


 感謝の意を述べる薬術の魔女に、魔術師の男は一枚の黒い石版を差し出した。片手で持てるハードカバーの本くらいの大きさだ。無機質な雰囲気で、つやつやに磨かれている。


「なにこれ?」


「……合鍵を、御作り致します」


一瞬だけ、魔術師の男は薬術の魔女に視線を向け、板の方に視線を向ける。


「え? 合鍵?」


彼の意図が()めずに彼女は不思議そうに首を傾げた。


()の屋敷は王都の中心地に近く、様々な物が容易に手に入ります」


「うん」


 確かにそうだな、と同意したので彼女は素直に頷く。その様子を見彼は一瞬だけ表情を緩めた。そして、魔術師の男は普段通りの抑揚の薄い声で答える。


「貴女が買い物をなさりたい時等に御入用(ごいりよう)になるかと」


「なるほど、確かにそうかも。ありがとう」


薬術の魔女はあっさりと納得した。『まあ、結婚するだろうし』と心の端では思っていたのかもしれない。結婚をするならば、いずれはこの屋敷に薬術の魔女も住むことになる。だから、鍵はあった方が良い。


(これ)で、私が屋敷内に居ない状態でも外に出られますでしょう」


「そうだね」


今まで、薬術の魔女は魔術師の男と一緒の時でないと外に出ようとしなかった。きっと、そんなところを彼は気にしていたのだろう。そういった魔術師の男の細かい気遣いが、薬術の魔女は嬉しく思えた。


「では、()れに御手を乗せて下さいまし」


「うん」


 彼に勧められるがまま、そっと石版に手を置く。すると、石板は彼女の魔力の色である珊瑚珠色に淡く光った。


(これ)にて、貴女の生態情報が()()()()記録されました」


 薬術の魔女が手を退けたのを確認し、魔術師の男は石版を取り上げる。


「正確には()()()ですが……おや」


石版に目を向けた直後、魔術師の男が軽く目を見開いた。


「え、なに?」


「……何でも御座いませぬ。お気になさらず」


「そう? わかった」


首を傾げるも、教えてくれないらしい。それならまあいいか、と薬術の魔女はそこまで気にしていなかった。


×


「……此方(こちら)が鍵で御座います」


 それから少しして、薬術の魔女は魔術師の男から鍵を受け取る。


「ありがと! なくさないように気を付けるね」


微笑んで、彼を見上げると


「無くさぬ様、特別な(まじな)いを掛けました故、ご安心を」


と、告げた。


「『特別なおまじない』?」


「ええ。具体的に言えば、『無くしても手元に戻ってくる』もので御座います」


「へぇ、便利だねー」


 そういうこともあり、薬術の魔女は自身の部屋にある本や薬品などを少しずつ魔術師の男の屋敷に運び入れるようになった。


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