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憧れの医療  作者: 赤坂秀一
第七章 インターン
56/69

56 飛鳥の想い……

お待たせしました第56話を更新しました!


前期研修も終盤です。それが終われば飛鳥は山岡大学病院へ特別研修ですけど……

 私達の前期研修も順調に進んでいます。救急搬送された磯村(いそむら)さんは、私達が手術して二週間後に街の病院へ転院になりました。あの時、整形外科の野村(のむら)部長が無理を言って骨折の手術に私達を参加させた事で、私も二階堂(にかいどう)君も整形外科の手術を経験する事が出来ました。やっぱり夏の時期はなかなか骨折の手術は無いようです。

 今は晩秋の中、精神科で二階堂君と二人で研修中です。二階堂君の精神科医っていうのはなんだか想像出来なかったので不思議ですね!

「それでは、今日は今村(いまむら)先生の診察をするから二階堂先生は見学をしてください」

「はい」

 今から糸井(いとい)先生の治療を受けます。知ってる人のそばで治療を受けるのは何だか恥ずかしいですね……

「今村先生、気分はどうですか?」

「えっと、ちょっと恥ずかしいですね」

 やっぱり二階堂君がそばにいるので気になりますよ……

「今村先生、二階堂先生は気にしないで気楽にね」

「はい…… でも気分は良好です」

「睡眠は、ちゃんと取れていますか?」

「はい、宿直以外の時は大丈夫です」

「うん、まあ問題ないようだね! それじゃプロギノンの注射をするんだけど…… 二階堂先生やってみる?」

「えっ、俺ですか!」

「うん、注射はやった事あるよね」

「はい、内科でも外科でも、でも、筋肉注射は初めてです」

 えっ、二階堂君に注射してもらうの…… なんだか嬉しいような恥ずかしいような複雑な感じです。でも、お尻にするんじゃ無いから良いかな…… あっ、でも、二人きりならお尻でも良いけど、糸井先生がいますからね……

 糸井先生は、お互い恥ずかしそうにしている私達の事を見ながら不思議そうに説明を始めます。

「筋肉注射は肩峰から二横指から三横指下の三角筋に角度をつけずに垂直に刺入します。針は23G(ゲージ)から25Gを使います。針の長さは25mmで針の三分の二から根元までの間で刺してもらって大丈夫だから」

 糸井先生からそう説明はありましたけど二階堂君は不安そうです。

「あの、神経がありますよね」

腋窩(えきか)神経があるけど、それは三角筋の側でも脇の方だからから大丈夫だよ」

 それでも、二階堂君は躊躇していますね、しょうがないな……

「二階堂君、ここに注射して! 針を刺す深さは私が合図するから」

 私はそう言って右手の人差し指で左肩の下の付近を指差しました。二階堂君はちょっと自信を持ったようです。

「今村、ここで良いんだな」

「うん!」

 そして、二階堂君は私の左肩を消毒した後、針を垂直に刺し、針を奥に入れていきます。

「うっ! そう、そこまで! そこでエストロゲンを入れて……」

 私は顔を顰めながら二階堂君に指示します。長年注射してますからね、大体の感覚で三角筋に到達したかどうかは解ります。

「二階堂君、今の感覚忘れないでね……」

 私がそう言うと彼は頬を赤く染めながら……

「これくらい一回の経験で把握出来る」

 だって! 格好つけちゃって…… でも、二階堂君にしてもらったエストロゲンの注射は私の良い思い出になるかも知れません。ちょっと痛かったけど……


 その後も順調に研修は進み、十二月の下旬に精神科の研修が終わりましたけど、私は引き続き精神科を選択していますので一人で研修です。二階堂君は外科で研修です。でも、私は年が明ければ山岡(やまおか)大学病院のジェンダーセンターで特別研修ですけどお正月はどうしょうかな…… 確か三十日は日直で元旦が宿直だったよね。二日から四日は休みだから帰ろうかな…… 正月に玲華(れいか)梨菜(りな)に逢えるかな…… 瑞稀(みずき)久美(くみ)もどうかな? でも、あの二人は高校の先生だからお正月はいると思うけど……


 私は病院のアパートで新年を迎えました。といっても今日の夜は宿直です。前回三十日の日直はとても暇でした。精神科の外来も三人来ていましたけどほとんどの人がお薬をもらいに来ただけでしたので。地域医療も大体がお薬を届けるのがメインなんですよね! という事で今から病院へ宿直に行きます。

飛鳥(あすか)先生、お疲れ様です。今年もよろしくお願いします」

「あっ、お疲れ様! 私の方こそよろしくお願いします」

 梨子(りこ)ちゃんがいました。

「日直だったの?」

「はい、日直からの宿直です」

 はっ、看護師さんは大変です。

(しずく)ちゃんは?」

「雫は、今津(いまづ)に帰りましたよ! 昨日が宿直だったから今朝終わってから」

「それじゃもう四日まで帰って来ない訳か……」

「いえ、三日が日直だったと思いますけど! ひょっとして淋しいですか?」

「ううん、そんな事は無いけど」

 そんな事は無いけど…… なんだか気になる存在なんですよね!

「あら、飛鳥も宿直?」

 あっ、城戸(きど)先輩もいました。

「先輩、おめでとうございます」

「あっ、おめでとう!」

「今年は良い年になりそうですね先輩!」

「うん、そうね……」

 ちょっと幸せそうな城戸先輩です。

「飛鳥、夜食は持って来た?」

「あっ、はい、昼間に下界のコンビニで買って来ました」

 明日の朝食のサンドイッチとカフェオレ、夜食のカップ焼きそばです。

「まあ、何も無いとは思うけどよろしくね」

「はい」

 でも、まさか三人だけじゃ無いよね……

 その後、ナースステーションに行くと他にあと二人看護師がいました。看護師長の秋野智子(あきのともこ)さんと看護師の長坂美智子(ながさかみちこ)さんです。この二人も宿直のようです。

「あっ、慶子(けいこ)先生、飛鳥先生もちょっと良いですか」

「はい」

 いきなり、なんでしょうね……

「202号室の長野(ながの)さんですけどお昼から熱があるみたいなんですけど……」

「何度くらいあるの?」

 城戸先輩の顔つきが変わりました。

「三十八度くらいです」

「えっ、まだ下がってないの?」

「梨子ちゃん知ってたの?」

「はい、でも本村(もとむら)先生には報告したんですけど……」

「飛鳥ついて来て、梨子はアセトアミノフェン1000mmバッグ用意して!」

「はい」

 城戸先輩は長野さんの元へ行くなり検温します。

「長野さん、大丈夫ですか」

「はい、ちょっと怠いですけど……」

 やっぱり熱は三十八度あります。

「城戸先生準備出来ました」

 梨子ちゃんが戻って来ました。

「飛鳥ライン確保して」

「はい」

「長野さん、ちょっとチクっとしますからね」

 その後すぐに点滴を開始しました。

「これで大丈夫だと思うけどね」

 私達はナースステーションに戻りました。

「秋野師長、この事は知っていたんですか」

「あっ、私は昼間はいなかったから……」

「梨子が報告したんだっけ」

「はい、私が本村先生に言った時は、一応見には行かれたんですけど……」

 梨子ちゃんが最初に発見して本村先生には報告しているようです。

「それで、本村先生は何もしてないの?」

「いえ、他の看護師さんに何か指示をしてたので、私は他の患者さんのところに行きました」

 うーん、でも解熱剤を処方した感じじゃ無かったですね、本村先生は何をしてたのか…… 困ったものです。

 その後、長野さんの熱は下がり顔色も良くなりました。これでもう安心です。

「城戸先生、長野さん楽になったみたいでよく寝まれています」

 そう言ってナースステーションに梨子ちゃんも戻って来ました。

「そう、良かった!」

 その後も、しばらくは起きていましたが何も無さそうなので宿直室で仮眠をとることにしました。

「飛鳥、夜食はどうする?」

「私はちょっと眠くて限界なので横になります」

「そう、それじゃ何かあったら起こすからね」

「はい」

 しかし、その後は平和な宿直でした。私は朝までグッスリ睡眠をとる事が出来ました。

 翌朝、私がナースステーションへ行くと……

「飛鳥おはよう」

「おはようございます!」

 なんだか城戸先輩の様子が可笑しいですけど……

「どうかしたんですか? 目の下にクマが出来てますけど……」

「うん、あの後、眠れなくて……」

 どうやら城戸先輩は寝不足のようです。その後、午前八時から申し送りがあり、私達は解放されました。

「飛鳥はこれからどうするの?」

「私は実家に戻ります。母がお節と雑煮を作って待っていますので」

「梨子ちゃんは帰らないの?」

「はい、今晩雫が戻って来るので誰かいないと淋しいでしょうから」

 そうか、梨子ちゃんは優しいんだね!

「そう、じゃあ私は取り敢えず昼まで寝るわ! お疲れ」

「お疲れ様でした」

 私と梨子ちゃんはそう言って城戸先輩を見送りました。それにしても先輩は東京には帰らないのかな……


 私は、実家に戻って来ました。父と母は私を迎えてくれました。

「飛鳥、お節食べるでしょう」

「うん、ありがとう」

「お雑煮はお餅いくつ入れる?」

 なんだかサービス満点ですね!

「お姉ちゃんは?」

「お友達と映画に行ってるけど」

「ふーん、そうか…… 男の人かな」

「さあ、どうかな?」

 姉も良い年頃ですからね!

「飛鳥、そういえば斎藤(さいとう)さんから手紙が来てたわよ」

 手紙? なんだろう…… って、これ招待状じゃない! 瑞稀と(せき)先輩は結婚するみたいです。式は五月みたいだけど…… 私はすぐに瑞稀に電話しました。

『もしもし飛鳥、おめでとう』

「瑞稀おめでとう!」

『うん、今年もよろしくね』

「うん、そうじゃなくて…… 結婚おめでとう」

『ああ、そっちね!』

「関先輩は仕事は何をしてるの?」

『うん、結婚式場のイベントスタッフをしてる』

「それって、自らお客さんになるって事?」

『まあ、そうだね! 自分で企画した式や、披露宴をするの写真も勿論隼人(はやと)君が撮るんだよ!』

「ふーん、そうか!」

『飛鳥の時も盛大にやってあげるからね』

「うん、ありがとう……」

 そう言われてもちょっと無理だよね……

『あのイケメンと付き合っているんでしょう』

「うーん、でも、私の手術もまだだし…… 彼には本当の女性が良いんじゃないかと思ってる」

『彼がそう言ってるの?』

 瑞稀の声がちょっと変わったので、私は慌てて否定しました。

「そうじゃないよ。私がそう思っているだけ…… それに手術をしないと法的にも無理だからね」

『そうか…… でも、飛鳥が手術をすれば良いんだよね』

「うん、そうだね……」

 瑞稀はそう言うけど…… 私は二階堂君を彼氏候補から解放してあげようと実は思っています。もう私も本当に辛いから……


前期研修後半、ここまで二階堂君と一緒の研修でしたけど選択研修は別々です。二階堂君には最近思う事があります。このままで良いのかちょっと辛いです。瑞稀に訊かれてそう思いました。お正月休みが終われば、いよいよ山岡大学病院への研修ですけど…… ?

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