4 ドライバーズスクール
お待たせしました! 第4話を更新しました。今回は自動車学校へ行きます。やっぱり車の免許は持っていた方がいいだろうという事です。飛鳥と玲華はどんな運転をするのかな……
今週火曜日から自動車学校へ行きます。大学も一年前期はまだ余裕があるので今のうちに免許も取っておこうと玲華と話し合ってのことです。
「ねえ飛鳥、講義も終わった事だしお茶しない?」
カッキーと梨菜が誘って来ましたが……
「今日は駄目よ! 今から大事な用事があるんだから」
玲華、そんな言い方しなくても……
「ちょっと玲華ばっかりずるい、私達も飛鳥と一緒に遊びたいのに!」
カッキーは頬を膨らませ玲華にちょっとお冠です。
「カッキー、飛鳥は用事があるなら仕方がないじゃ無い」
梨菜はカッキーを宥める様に言いますけど……
「カッキーごめんね、今から自動車学校に行くの」
「自動車学校って、運転免許を取るの?」
「うん、そうだよ! 大学も後期になると試験とか大変そうだしね!」
「あなた達も今のうちに考えてた方が良いわよ、先で取ろうなんて思ってたら卒業までは取れないかもね」
玲華のあなた達が出てしまいました。あまり良い表現じゃ無いよ玲華!
「カッキー、梨菜ごめんね! またね」
私と玲華はそう言って自動車学校の送迎バスに乗りました。カッキーと梨菜は黙って私達を見送ってくれましたが……
「今日はスカートなんだね!」
玲華に言われてしまいました。
「だから、レギンスとかデニムとかは、まだ違和感があって……」
「でも、自転車が来たら通学に使うんでしょう」
「まあ、そうなんだけど……」
「そうなると、ミュールも駄目なんじゃない」
「えっ、ミュールも駄目なの?」
「スニーカーが一番良いよ」
なんだかショックです。一番大好きなスカートが履かないしミュールまでも履けないなんて……
「どっちにしても自動車学校ではミュールは駄目だよ。教習車を運転するときは踵のある靴じゃ無いと駄目だから」
「えーっ、でもうちのお姉ちゃんはミュールで運転してるよ」
「でも、自動車学校は駄目だしそれって違法だよ、警察にバレたら切符切られるよ」
はあ…… なんだか溜息しか出ません。お姉ちゃんにも教えてあげないと……
「まあ、お洒落なパンツもお洒落なスニーカーもあるから元気出しなさい。飛鳥のレギンスは綺麗で大人の女性って感じだったよ」
玲華はいつも前向きで良いな…… スカートも駄目、ミュールも駄目とかだったら自転車はママチャリでも良かったんじゃないかな、そしたらスカートでもミュールでも良かったかもしれないから……
自動車学校に到着です。早速入校手続きをします。
「あの、あなたが今村飛鳥さんですか?」
「はい、そうですけど……」
受付の女性から不審そうにそう訊かれます。どうかしたのかな?
「あの、住民票には男性という事ですが……」
あっ、そうか、そこですよね…… 私はちょっと困ってしまいました。
「あの、実は私、性同一性障害なんですけど……」
「えっ、どういう事ですか? 診断書とか身分を証明する物がありますか?」
なんだかとんでもないことになりました。受付だけでかなり時間が掛かってしまいましたけど、なんとか分かってもらえ、無事入校する事が出来ました。
その後、視力検査と適性検査の後、入校式があり引き続き第一教程の教習がありました。その後も学科教習をもう一時間受け、明日の教習車の予約をしてから帰ります。明日はいよいよ初めての実技教習です。なんだか楽しみだけどちょっと不安です。
「飛鳥は受付で何をしてたの? かなり時間が掛かっていたみたいだけど」
玲華にそう訊かれてしまいました。
「住民票の私の性別がね……」
「あっ、そうか! それで大丈夫だったの?」
「うん、大学の学生証が写真付きだから…… それで」
「なるほどね」
本当、住民票より写真付きの学生証が身分証明になるんだから変な話です。そんな話をしながら私達は送迎バスで橋本駅まで戻りました。
次の日も自動車学校へ行くために送迎バスを待ちます。
「飛鳥、玲華!」
梨菜が来ました。
「どうしたの? 梨菜」
「私も自動車学校に行こうと思って、昨日カッキーと二人で自動車学校へ問い合わせをして住民票が必要だったから取って来たんだけど」
「それじゃ、あれから市役所に行ったの?」
玲華は梨菜に訊きますけど……
「ううん」
梨菜が首を横に振った時カッキーも来ました。
「カッキーも行くの?」
「うん、もちろん行くよ! だって飛鳥達が行くんだったら一緒がいいもん」
「ねえ、住民票は市役所で取ったんだよね!」
玲華は何を気にしているのかな?
「コンビニで取ったけど……」
梨菜は普通にそう言いますが……
「住民票ってコンビニで取れるの?」
玲華は知らないのかな……
「マイナンバーカード持ってるでしょう」
「うん、持ってるけど」
「それを使うとコンビニで住民票とか印鑑証明書がとれるんだよ」
「えっ、そうなの?」
梨菜もカッキーもそんなの普通じゃんとでも言いたそうだけど……
「玲華知らないの?」
カッキーがそう言うのを無視して玲華は私に訊きます。
「飛鳥もコンビニで取ったの?」
「うん、橋本駅前のコンビニで」
「どうやるの?」
私は、ちょっと面倒に思えましたけど……
「コンビニにマルチコピー機があるでしょう」
「うん、えっとムビチケとかが買える機械だよね」
「そう、あれの行政サービスの所を選んでマイナンバーカードをかざせば、あとは住民票を選べばいいんだけど」
「凄い、簡単に取れるんだ」
「玲華は市役所で取ったの?」
「あ、私が取りに行ってないから解らないけど……」
「誰が行ったの?」
カッキーが不思議そうに訊きますけど……
「お手伝いさん!」
「……」
皆んな何だか黙り込んでしまいました。お手伝いさんもたぶんコンビニで取ったんだと思います。だって、市役所に行ったのなら委任状とかが必要でまた面倒だから…… それにしてもやっぱり玲華はお嬢様です。
その後、私達四人は送迎バスで自動車学校へ行き私と玲華は初めての実技教習に臨みます。
「ねえ、飛鳥達はどこに行くの?」
あの元気なカッキーが借りて来た猫のように不安な様子です。
「カッキーと梨菜は受付をした後視力検査と適性検査をして入校式と第一教程の教習があるよ。明日から実技教習も出来るから帰りに実技の予約をしないといけないからね」
「うん、よく解らないから終わったら待ってるね」
カッキーってこんなんだっけ? 大丈夫かな…… まあ、梨菜が一緒だから大丈夫かな……
私と玲華は実技教習のため駐車場へと行きます。
「飛鳥は何号車?」
「私は112号車、玲華は?」
「私は107号車」
そんな話をしていると、四十代くらいの男の先生が来ました。
「如月玲華さん」
玲華が呼ばれました。
「じゃあね、飛鳥」
そう言って教習車の方へ…… 私はまだ先生が来ません。あっ、玲華の教習車が動き出しました。早く先生来ないかな…… すると小走りでこっちへ若い女性が来ました。
「今村飛鳥さん?」
「はい」
「お待たせしました。私は担当の工藤です。教習を始めますので教習車へ」
私は112号車へ行きます。
「まず初心者マークを前と後ろに付けてね、その時に前と後ろに人がいないかも確認してね」
「はい」
と返事はしたものの…… いや、普通は誰もいないでしょう! と思いながらもそこはきちっとやりますけどね……
「まあ、普通は人はいないと思うんだけど検定では確認しないと減点だからね」
えっ! 私が思っている事を言い当てられたようでちょっとびっくりです。そう思いながら工藤先生を見ますけど…… 先生は優しく微笑んでいます。
「乗ったらシートとバックミラーとルームミラーを調整してね! シートベルトを着けたらエンジンを掛けて」
私はエンジンを掛けるためハンドルの右側を確認しますが…… あれ?
「あの、鍵が無いんですけど……」
工藤先生を見ながらそう言うと、またもや先生は微笑んでいます。
「あっ、そうだね! 鍵は私が持ってるから、ブレーキを踏んだままスタートとボタンを押してみて!」
先生は丸いプラスチック製の小さなリモコンみたいなものを見せながら言います。
私がスタートボタンを押すと『カチッ』という音がしてスイッチが入ったようですけど……
「それじゃギアをドライブにして右にウインカーを出してスタートしてね」
「あの、エンジンは?」
私が訊くと……
「あれ、ひょっとしてハイブリッド車は初めて? 最近の車はこんな感じなのよ」
今度は先生が私の顔を見ながら笑っています。もう、そんなに笑わなくても……
「それじゃ、ギアをドライブにしてブレーキをゆっくり離してみて」
すると車はスーッと動き出しました。
「うわっ、動いた」
「これがクリープ現象ね」
私の生まれて初めての車の運転が始まりました。車を運転するというのがこんなに楽しい事とは思いませんでした。姉の気持ちが少し分かったような……
「はい、それじゃスタート位置に戻ってね」
あっ、という間の一時間でした。
「今村さん、結構良い運転していたわね! でも、もう少し目視確認をオーバーにしたら良いと思うわよ」
工藤先生はそう言いながら原簿になにか記入しています。
「それにしても本当に男性なの? どう見ても普通の女の子なんだけど……」
「あ…… 一応戸籍上は男ですけど治療はしてますので……」
私はちょっと困ってしまいました。まさかここで、こんなことになるなんて。
「でも、それって言わなければ解らないよね! 今回はあなたのことで男性教官はちょっと敬遠気味だったんだけどね」
先生は原簿にハンコを押して返してくれました。
「はい、それじゃまた明日。出来れば毎日来てもらった方が上達も早いと思うからね」
工藤先生はそう言って微笑みました。これで私の最初の実技教習が終わりました。その後、学科教程を受けるため学科の第一教室へ行きます。
「飛鳥、とってもスムーズで上手に運転出来てたよ」
カッキーは教室前の廊下で私の運転を見ていたようです。
「112号車だよね!」
「うん、ありがとう! とっても面白かったよ」
「そう、飛鳥は面白かったんだ……」
振り返るとゲンナリした玲華が戻って来てました。
「玲華どうしたの?」
ちょっと心配して声を掛けましたけど……
「あの教官、いちいちうるさいのよ、確認が遅いだのカーブは中央線に寄らないで大回りしなさいだのキープレフトが基本だの細かい事が多くて……」
「そうなの? 私の教官はそんな事は無かったかな…… ただ最後にもう少し目視をオーバーアクションにした方が良いよって言われたけど」
玲華は私の方を羨ましそうに見て……
「飛鳥は優しい教官で良かったわね」
そう玲華に言われてしまいました。
「飛鳥達はこれからどうするの?」
梨菜が訊いています。
「私達はこれから第三教程の学科を受けるけど」
「そうなんだ、私達はさっき第一教程を受けたばかりだから次は第二教程なんだよね! だから一緒にて訳にはいかないか……」
「えっ、一緒に受けようよ! 順番通りじゃなくて良いんだよ」
私がそう言うと……
「えっ、そうなの? だってカッキーが……」
カッキーは顔を顰めながら……
「だって、私はてっきり順番に受けないといけないって思っていたから……」
どうやらカッキーの勘違いで学科が遅れるとこだったようです。
「もう、カッキーは適当なんだから」
カッキーは梨菜から呆れられてるみたいです。でもこのコンビは最高に面白いです。
その後私達は学科を二時間受けた後、明日の実技の予約をして送迎バスで橋本駅まで戻って来ました。
やっぱり自動車学校の入校受付で飛鳥は引っ掛かってしまいました。もう一つのお約束です。しかし、なんとか入校出来たので良かったと思います。運転免許については性別違和者のあるあるネタがかなりあるみたいですので、ちょっと書いてみたいとは思ってました。