2 病院実習
お待たせしました! 第2話を更新しました。
今回は病院実習という事で飛鳥達の班は玲華の親が経営する如月総合病院へ行きますが……
私達の班は病院実習のため一條市にある如月総合病院へと行きます。班は私を含めて六人います。その中でもよく話をするのが、冬野梨菜と柿本彩香、通称カッキーだ。あとの三人は講義とかで一緒なんだけどあまり話さないかな……
如月総合病院に到着して二階堂義樹君が代表して受付で挨拶をします。すると私達六人は何故か院長室へ連れて行かれました。
「えっ! どうなってるの?」
冬野さんが訊きますが…… 当然誰も分かりません。本当、どうなっているのかな? その時でした。
「飛鳥さんいらっしゃい! さあ、皆さんも座って、まずはお茶にしましょう」
玲華のお母さんです。
「おはようございます。如月先生、今日はお世話になります」
私がそう言うと……
「しっかり勉強していってね! このあと、いろいろ見学してもらいますからね」
ひょっとして私がいるから特別扱いなのかな…… 普通病院見学に来て院長室でお茶飲んだりしないよね……
「今村さん、院長先生を知ってるの?」
「あっ、玲華のお母さんだよ」
「あっ、そうなんだ……」
「はい、皆さんうちの玲華の事よろしくね! 気が強くて世間知らずなわがまま娘だけどね」
私達は皆んなして苦笑しています。
その後、私達は三人ずつに分かれて見学します。私は二階堂君と黒瀬美咲さんの三人で見学します。まず最初に行ったのが外来の待合室です。
「結構多いな」
二階堂君は待合室の患者さんの多さに驚いています。
「今日は少ない方じゃないかしら、この中には外科や整形外科の患者さんもいると思うけどね」
如月先生はそう言って微笑んでいます。
「外来は何人の先生で診るんですか?」
黒瀬さんが興味深げに訊いています。
「そうね、内科が二人から三人と外科と整形外科が一人ずつからしら…… でも、お昼前には終わりますけどね」
お昼前には終われるんですね…… 私もちょっと圧倒されました。
次に行ったのが人工透析室です。ここは、腎不全等の患者さんが四、五時間くらい掛けて血液に含まれる老廃物を人工的に取り除く治療をしています。私達が見学に来てしばらくするとお昼時になって皆さん透析をしながら食事をするみたいです。
「あなた達も食事を運ぶのを手伝って!」
看護師さんにお願いされたので手伝います。看護師さん達は片手にひとつずつお膳を持って一度で二膳ずつ運びますが、私達はひとつのお膳を両手で持って一膳ずつ運びます。ベッドの上にはテーブルがありその上にお膳を置きます。
「有難うね!」
そう患者さんに言われた時なんだか照れ臭さを感じました。患者さん達は手に透析の針とチューブを付けたまま食事を始めます。
人工透析室の見学の後、私達も食事に行きます。病院内のレストランでお昼です。
「ひょっとして今村さんって私の叔父を助けてくれた方じゃないですか?」
突然、黒瀬さんが思い出したように言いますけど……
「えっ! なに、私が?」
「うん、城南高校の文化祭の時に心臓マッサージやAEDでの処置をして頂きました」
「あっ、そういえばそんな事があったわね、あの時は玲華と二人で必死だったから……」
「あっ! やっぱり、あの時は有難うございました」
私はちょっと微笑んで……
「もうお礼は言ってもらったよ! 北山大学病院でも一度会ったよね」
「あっ、そう言えばそうですね!」
「確か、ブルガダ症候群だったよね」
「はい、まさか一緒の大学で同じ班になれるなんて思いませんでした」
そのやりとりを見ていた二階堂君。
「なんだ、今村と黒瀬は知り合いか!」
「うん、まさか大学が一緒なんてね! あっ、カッキー達も来たよ」
「飛鳥、二階堂君!」
カッキーと冬野さんの二人は小走りで私達の所まで来ましたけどなんだか生田君の様子が変です。
「冬野さん達は何処で見学してたの?」
「私達は外科病棟で先生達と一緒に回診に回っていたの」
「生田君は患者さんの治療中に出血したのを見て卒倒しそうだったけどね! 大丈夫?」
カッキーは、また余計な事を……
「もう何ともねえよ」
そう強がっている生田君ですけど、まだ顔色が悪そうです。
昼食を食べた後、午後から冠動脈バイパスの手術があるという事で別室で見学させてもらう事になりました。もちろんこれも特別扱いです。普通はこういうのも無いと思います。
「凄いなあ、手術室が上から一望出来るし術部をモニターで見る事が出来るなんて」
二階堂君はテンションマックスのようです。
「そうね、でもその方が手術の邪魔にならないし、術部もよく見えるでしょう」
如月先生はそう言って微笑みました。こういうところを見てると玲華は何故お母さんの事悪く言うのかな……
「生田君大丈夫?」
生田君はモニターを見る前から顔面蒼白です。
「生田、無理なら手術の様子を上から眺めてろよ! それだけでも勉強になるぞ」
モニターの前は生田君を除く五人が陣取っています。
「今から始まるわよ! よく見ときなさいね」
モニターでは丁度胸の中央がメスで開かれたところです。中に白い膜のような物が……
「あれは心膜といって心臓を覆っている膜よ」
心膜も開かれ心臓が顔を出し、しきりに動いています。その時『ドサッ』という音が……
「生田君大丈夫?」
「駄目、卒倒しているわ」
「全く、また強がってモニターを見てたんだろう」
二階堂君が迷惑そうな顔をしています。
「残念だけど彼には部屋の隅で眠っていてもらいましょう」
黒瀬さんはちょっと心配してるけどしょうがないですね。その時手術室ではバイパスに使う血管グラフトが準備されています。
「先生、あのアルファベットのUのような形をした器具は何ですか?」
私が興味本位に訊くと……
「あっ、あれはスタビライザーといって心臓の波動を止める働きがあるの吸盤みたいにひっつくからオクトパスとも言うけどね」
「心臓の波動って止まるもんですか?」
「ピタッと止まる訳じゃないわよ、波動を弱めると言った方が良いかしらね」
「心臓は動いたままなんですね」
冬野さんもつい思っている事を口に出して訊いています。
「そうね、人工心肺を使って手術するオンポンプバイパス術もあるんだけど、今は心臓を動かしたままのオフポンプバイパス術が主流なの。その方が患者さんの負担が少なくて済むからね」
如月先生から説明を訊いてる間にグラフトの吻合が始まります。左冠動脈の先端付近と右冠動脈の先端付近にグラフトが吻合されていきます。
「あんな細かい作業は私には無理かな」
黒瀬さんが思っていることをつい口に出しました。
「まあ、最初からは無理だけど練習すれば出来るようになるわよ」
如月先生はそう言いますが……
「黒瀬は外科志望なのか?」
「うん、二階堂君は?」
「俺も、目指すならやっぱり外科かな」
「まあ、外科は技術も必要だから大変よ! 内科は身体の知識、薬学に関する知識が必要だしね」
如月先生の言う通り簡単では無いと思います。
「飛鳥はどうなの?」
カッキーが興味深く訊いています。
「私は精神科希望なんだけど……」
「あら、飛鳥さんはそうなのね! 精神科は幅広いから大変よ、精神的な事、神経的なこと様々ですからね」
やっぱり大変そうです。まあ、医師になる訳だからそう簡単なものではないでしょうけど……
「どちらにしても内科的な事と外科的なこと両方の知識は学んでいた方が良いわよ、先ではどうなるか解らないからね」
「はい」
そして、病院見学が終わり大学へ戻って来ました。
「飛鳥おかえり! どうだった?」
玲華が私を迎えてくれました。何か気になるところがありそうですけど……
「うん、玲華のお母さん自ら見学にずっと付き合ってもらったよ」
「やっぱり」
玲華は苦笑しながら言います。
「どういうこと?」
「飛鳥はうちのお母さんのお気に入りだからね!」
確かに、見学に行っていきなり院長室でお茶だしね……
「玲華はどうだったの?」
「退屈だったわ、ロビーや外来の待合室でずっと立ったままだったし、これと言って何かを見せてもらう事もなかったかな」
「まあ、普通はそうだよね」
すると向こうから玲華と同じ班の竹内遥香さんと渋谷静香さんが来ました。
「玲華、サークルどうするか決めた?」
「サークル? 私は勉強に専念するわ」
面倒臭そうに玲華はそう言いますが……
「それが、そうもいかないみたいなのよ! 必ずサークルに入らないといけないみたいなの」
「えーっ! そうなの?」
私は顔を顰めながら言います。
「飛鳥さんもサークルはやらないつもりだったの?」
「うん、だって…… ね!」
私は玲華に同意を求めますけど……
「静香はどうするの?」
玲華は静香さんを参考にするつもりです。
「私は遥香と一緒にテニスでもしようと思っているけど…… 玲華も一緒にやらない?」
「テニスか、他には何があるの?」
すると静香さんがサークルのチラシを玲華に渡します。私も横から一緒に覗き込みますが……
「体育会系が多いんだね」
私が言うと……
「医師は体力勝負なところもあるからじゃない」
玲華も納得しているみたいです。
「この自転車部ってなんだろう」
遥香が訊いていますが…… 私は高校の時の自転車部を思い出しました。もちろん入部はしませんでしたけど……
「先輩の話じゃ自転車部は大学での活動はほとんど自転車を使うことになってるらしい。通学とかも含めてな、後たまにサークルでサイクリングとかもするらしいぜ! 俺も自転車部にしようかと思っているんだけどな」
松坂君が急に話に入ってきました。
「自転車部かいいね、飛鳥一緒にやらない?」
「良いけど…… 自転車買わないといけないんでしょう。あと駅とかに駐輪場も借りないといけないかな……」
なかなか難しいかなと思っていると……
「私のマンションに駐輪場があるから置いといて良いんじゃない」
玲華はそう言うけど、マンションの入口は勝手に入れないよね!
「玲華のマンションはオートロックでしょう」
「うん、そうだよ。だからインターフォンで呼んでもらえれば良いじゃん」
「まあ、そうだけど…… 面倒じゃない?」
「だったらルームシェアしない? 部屋だってひとつ空いてるし、飛鳥だったらお母さんも許可してくれると思うけど」
なんだかサークルの話題から話が飛んでルームシェアの話に…… まあ、取り敢えず私達は自転車部へ行ってみる事にしました。そこには男性も女性も結構部員がいるみたいです。
「あれ、飛鳥! どうしてここにいるの?」
私と玲華が振り返るとそこには高校の同級生だった戸田郁美がいました。
「私達もここの医学部になったのよ」
玲華はなんとなく気まずいような……
「郁美はどうしてここに?」
玲華の代わりに私が訊きました。
「私は看護師を目指そうと思ってここの大学を受けたの。私も一応医学部だよ? 看護科だけどね」
そうでした。橋本大学医学部には三つの科が存在します。医師を目指す医学科、医療検査技師を目指す医療技術科、看護師を目指す看護科があります。それにしても郁美が看護師を目指していたとはね……
「ひょっとして自転車部に入るの?」
「うん、それでちょっと見学にね」
郁美はロードレース用の自転車に乗っていますけど……
「ねえ、それって郁美の自転車なの?」
「そうだけど……」
「それ、普段は大学に置いてるの?」
「ううん、毎朝これで通学してるけど……」
「えええっ! 本当に?」
私は驚きました。毎朝十五キロくらいの道のりを自転車で来ているの?
「ねえ、家を何時に出ているの? 何時間くらい掛かるの?」
郁美もちょっと驚いているみたいだけど……
「あのね、自転車を使うのは家から城南駅までと橋本駅から大学までだよ。自転車は輪行バッグに入れれば電車に乗せられるから」
「電車に乗せられるの!?」
「うん、ただし輪行バッグに入れて最後尾じゃないと人が多いからね!」
知らなかった! 電車に乗せられるんだ。
「やあ、君達は戸田さんの友達? レンタルの自転車が何台かあるから乗ってみるかい?」
自転車部の先輩に誘われましたので私はちょっと乗ってみたくなりました。 私が自転車を持って来ましたけど……
「ちょっと飛鳥、あんたスカートで乗るつもり?」
「あっ!」
タイトスカートじゃ無理だ! ロードレース用の自転車にタイトスカートはやばいです。でも、楽しそうなサークルで先輩達も優しそうな人が多かったので私達は自転車部に入部する事に決めました。
病院実習が終わり一段落と思いきや、大学のサークルは全員参加という事で、取り敢えず自転車部に入部を決めた飛鳥達ですが……