19 今津赤十字病院
お待たせしました第19話を更新しました!
今回は噂の先生、案西先生に会いに行きます。どんな先生なんでしょうか?
それにしても飛鳥は二階堂君と一緒のときは幸せそうですね! 二階堂君も背後からギュッと抱きつかれたら、やっぱり気分は良いと思うけど…… 男同士なんだよね……
実習が終わった後、私は今津赤十字病院まで二階堂君に送ってもらう事になりました。
「今村、ヘルメットとジャンパー!」
この間のワインレッドのヘルメットです。このヘルメットってひょっとして私専用なのかな? それにジャンパー?
「これ、着るの?」
「ああ、俺がちょっと前まで着てたやっだ! バイクに長時間乗ると冷えるから着てた方が良い」
確かに二階堂君もジャンパー着てるもんね! 私はヘルメットを被りジャンパーを着ました。かなり大きいんですけど…… でも、二階堂君の良い匂いがします。私はバイクの後ろに乗り彼の背中に抱き着きます。なんだか幸せです。あっ! でも、これは安全のためですよ! 決して二階堂君に抱き着きたい訳じゃないですよ! 私がそんな妄想をしていると……
「どっかで飯でも食ってから行こう」
彼はそう言ってバイクで走り出しました。でも、何を食べようか? あっ、信号で止まりましたので訊いてみる事にしました。
「ねえ、何食べる?」
私が訊くと……
「なんでも良いけど、何か食べたい物はあるか?」
逆に訊かれてしまいました。
「うーん……」
考えているうちに信号が変わってしまいました。
「あっ、えっ、もう! バイクってやっぱり不便…… だけど心地良い」
「えっ、なに?」
走りながら彼に訊かれてしまいました。ひょっとして聞こえたのかな?
「ううん、なんでもない」
そういうやり取りをして五分くらい走ったところでバイクは止まります。
「ミックでも良いか?」
ミックのハンバーガーです。まあ、手軽で良いかな!
「うん」
そう返事をして中へ入ります。
「いらっしゃいませ!」
注文です。
「あっ、ビックミックのセット、飲み物はコーラ、単品でチキンナゲットとテリヤキバーガー」
えっ、そんなに食べるの?
「今村は?」
「あっ、私はテリヤキバーガーとコーラのMサイズ」
私が注文したあとに……
「今村はそれだけで良いのか?」
そう訊かれたので「うん、これだけで充分だよ」と言うと……
「今村ってハイブリッドだな」
なんて言われました。
「どういう事?」
「少し食べただけで普通に行動出来るから」
「それじゃ、二階堂君は燃費悪すぎだよ」
「ハハ、そうだな……」
二人でテーブルに着きますけど二階堂君の方はビックミックのハンバーガーとテリヤキバーガー、セットのコーラのMにポテトのM、それに単品のチキンナゲットです。私の方はテリヤキバーガーとコーラのMなのです。まあ、二十歳くらいの男性はこんなものかな、私も半分男性ですけど…… 半分女性だからやっぱりこんなもんでしょう!
食事も終わり、ジャンパーとヘルメットを身につけバイクに乗ります。ここからまだ一時間くらい掛かります。その間、二階堂君の背中に密着出来ます。さっきまではジャンパーの匂いで気付かなかったけど、良い香りがします。何か付けてるのかな……
そして、一時間ほどツーリングを楽しんだあと今津赤十字病院に到着です。
「今村着いたぞ!」
「えっ!」
私は声を掛けられるまで判りませんでした。
「あっ、ありがとう…… 二階堂君」
ちょっと恥ずかしそうに顔を赤く染める私です。ヘルメットを返しましたけど、ジャンパーは何だか惜しいような…… でもちゃんと返しましたよ。
「それじゃ月曜日な!」
そう言って私を降ろした二階堂君は颯爽と行ってしまいました。うん、やっぱりカッコいい!
私は赤十字病院の正面玄関にいますが、鍵が掛かっているようなので夜間休日入口から入ります。
「あっ、すみません。面会の方ですか?」
守衛さんに訊かれました。
「あっ、いえ、案西先生と約束しているんですけど……」
私がそう言うと……
「それじゃ、お待ちください。あっ、お名前は?」
「今村飛鳥です」
そう言うと、連絡を取ってくれました。
「この先を右に曲がって真っ直ぐ行くと外来の待合室があるからそこで待っててください」
守衛さんからそう教えてもらった私はお礼を言って待合室へ行きました。休診の病院は静かでちょっと淋しいです。そう思って椅子に座った時でした。
「今村飛鳥さんですか?」
白衣を着た男性から声を掛けられました。
「はい、そうです」
「初めまして医師の案西潤です」
「あっ、はい、よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ」
挨拶を済ませた私は先生に連れられ診察室へ行きました。
「お休みのところすみません」
「なあに、大した事じゃないよ! それに私の方こそ急に呼び出して申し訳ない。君の事は楓先生から聞いていてとても興味深かかったからね」
「はあ……」
「ところで素敵な男性とお付き合いをしているという事ですが……」
「あっ、はい」
「まあ、その事で楓先生が悩んでいるみたいでね」
「はい、すみません」
「いや、君が謝る事じゃないよ! それで手術はしたくないんだよね」
「はい」
「うん、でも、今の彼と将来一緒になるのなら手術は考えないといけなくなるよね」
「はい……」
なんとなく気不味いです。でも、案西先生は終始笑顔なので私としてはそこは救われています。
「あの……」
「うん?」
「実は高校の頃付き合っていた彼女もいるんです」
「えっ、彼女?」
「はい」
恵美子ちゃんの事を考えると胸が痛いです。
「その彼女さんとは今も逢ったりしますか?」
「いえ、彼女は今、アメリカにいますので……」
「アメリカですか?」
「はい」
「それじゃ、なかなか逢えませんよね」
「はい」
「うーん、彼女さんとはちょっと難しいかな」
「はい」
それは私も判ります。逢えないし、大体がメールだし、良くて電話だから……
「私はどうした方が良いでしょうか?」
「今の彼氏さんの方が良いんじゃないかな」
「どうしてですか?」
恵美子ちゃんは逢えないからということ……
「うーん、好きな人はやっぱり側にいて欲しいんじゃないかな」
それは判りますけど……
「まあ、今答えを出さなくても良いでしょう! それより今村さんは医師になるんだよね!」
「はい」
「希望する診療科はあるの?」
「はい、精神科を希望しています」
「それは君がGIDだから?」
「はい、私と同じように悩んでいる人の手助けが出来ればと思っています」
私は自分の考えをすべて話しました。
「なるほどね…… でも、それならジェンダー外来とかジェンダークリニックを目指した方が良いかな」
「でも、そういう診療科はあるんですか?」
「まあ、この辺じゃ聞かないね、だから君も北山大学病院や橋本大学病院で治療しているでしょう」
「はい」
「でも、首都圏や大都市部には数は少ないけど存在するんだよ。だから君達がそういうクリニックを作る必要はあると思う」
確かにそういう専門のクリニックがあればとは思うけど……
「でも、なかなかそういう専門的な事学べませんよね」
「それは、私が教えるよ! 楓先生も精神的な病についてはかなり積極的だったからね、私の一番弟子なんだよ」
もし本当に教えて頂けるのなら私は今津赤十字病院で研修をしたいです。あっ、でも……
「私は、先生から専門的な事を学びたいんですけど、今の大学は地域医療枠を使って医学部に入学しましたので病院勤務も行きたい所には行けないと思います」
「そんな事は関係ないよ! 今はメールもあればTV電話もある。そういうのを使って私に訊いてくれれば必ず返事はするよ」
「はい」
それを聞いて一安心ですけど…… 大学卒業まではまだまだです!
「今村さんは二年生だっけ!」
「はい」
「という事は解剖実習真っ只中か」
「はい、私達の班はちょっと遅れていたので今日も午前中実習をやって来ました」
「そうか、まだ脂肪除去がメインかな?」
「はい、ようやく脂肪除去が終わるくらいです。ただ神経を一本切ってしまったので繋いでみました」
「繋ぐというと……」
「フィラメントを使って縫合しました」
「えっ、解剖実習にどうしてフィラメントが……」
「判りませんけど、手術用の道具の中にフィラメントが入っていたので大平准教授に言って使わせてもらいました」
「大平准教授だって…… そうか、なるほど! 彼はタヌキだからな」
タヌキ? どういう事でしょうね?
「あの、大平准教授はタヌキなんですか?」
「ああ、そうだよ。外科医として使えそうな人を学生の中から探していろいろやらせているんだよ! という事は今村さんは大平准教授とは前にも会った事があるのかな?」
そういえば一度だけ会いましたね。
「はい、一年の終わりの頃、病理解剖の見学に行った時に会いました」
「そうか、まあ大学を卒業するまでにいろいろな技術や知識を身につけて良いんじゃないかな! 大平准教授を利用して外科の知識も学んでおけば将来何かと役に立つよ」
「はい」
あっ、そうだ、恵美子ちゃんに二階堂君の事を話した方が良いか訊かないと……
「あの……」
「はい、なんでしょう」
「あの、さっき話したアメリカの彼女の事なんですけど…… 今、付き合っている彼のことを話した方が良いですよね……」
先生は私の方を見て……
「うーん…… 飛鳥さんが気になるなら話した方が良いかな」
「私、彼女の事を裏切っているようで…… でも、彼女は大学受験中だし……」
「まあ、裏切っているとかはあまり考えない方が良いかな」
「でも……」
「彼女だって分かってると思うよ! 海外にいる訳だし、夏休みに逢いに行くとか逢いに来るとかはない訳でしょう」
「はい」
「それなら、彼女も解ってくれると思うよ! ただし受験が終わってからが良いかな」
「そうですね…… あっ、あともう一つ」
「はい、なんでしょう?」
案西先生は笑顔で私の事を見ています。
「あの、もし手術をする場合は海外の方がいいんでしょうか?」
「うん、そうだね…… 海外ではそういう手術は頻繁にあるみたいだからね、でも日本ではそう頻繁にある訳じゃないし、性別適合手術をやっている病院は国内では数カ所しかないんだよ」
「手術をするのも大変なんですね」
「うん、だから海外へ行く人が多いみたいだけど、費用もかなりなものだから…… まあ、そのつもりがあれば言ってくれ、いつでも相談に乗るから」
「はい、ありがとうございます」
何だか私の心の中が綺麗に洗われたようでした。
「あっ、最後にLGBTQって知ってる」
「はい、男性、女性以外の少数派の性別みたいなものですよね」
「うん、まあそんなところだけど、いろんなタイプの人がいるからこれだけじゃ事足りないんだよ! 君だってGIDだけど手術はしたく無いという事だよね、だからいろんな考えの人がいるからその辺は解ってほしいから覚えといてね!」
そういう事で、気が付けば先生とは二時間くらい話をしていました。そのあと私は先生に今津駅まで送ってもらい電車で帰って来ました。今日もまた夕食を作らないと! そう思いマンション近くのスーパーに行きました。
「飛鳥!」
あっ、玲華です。
「午前中は実習って聞いてたけど、午後からなにやってたの?」
あっ、そうか案西先生に会いに行く事は言ってなかったよね!
「今津赤十字病院に行ってたの」
「えっ、なんで今津まで……」
「精神科の案西先生に会いに行ってたの」
「そう、案西先生に……」
「知ってるの?」
「うん、名前だけはね」
「そうか、それで今晩は何食べたい?」
「うーん、今日はおでんにしない? 花見の時静香のおでんを食べて美味しかったから」
「うん、あれは出汁が良く出ていてスジとかも柔らかくて美味しかったよね!」
なんとなく気持ちが晴々とした良い気持ちです。
案西先生にいろいろ相談して来て少しはスッキリした飛鳥ですが、恵美子ちゃんには二階堂君の事をそのうち話さなければならないです。まあ、取り敢えず恵美子ちゃんの受験が終わったあとに……




