18 噂の先生
お待たせしました第18話を更新しました!
今回はサブタイトル通り噂の先生案西先生の名前がよくでて来ます。精神科の権威でとくにGIDに詳しい先生みたいです。
翌日実習の後、私は大学病院の方で本郷先生の治療を受けるため、まず受付をします。
「あら、今村さん治療?」
「はい、お願いします」
「ちょっと待ってね!」
この受付のお姉さんとは最初は大変でした。愛想が悪いし、人の話は聞かないし、やっと問い合わせをしてくれたと思ったらなんだか私がちゃんと説明しないから…… ともう大変でしたけど、今はとても仲良くなれました。
「今村さん、それじゃ待合室で待っててね」
「ありがとう、それじゃね!」
手を振って見送ってくれます。人って分からないですよね! 私が待合室でファッション雑誌片手に十分くらい待っていると……
「今村さんどうぞ!」
先生が待合室まで呼びに来ました。
「先生、どうしたんですか今日は?」
「うん、患者さんがちょっと心配だったから待合室まで様子を見に来たの」
先生はそう言って私と二人で診察室へ行きます。
「飛鳥さん、どこか変わったところはない?」
「あっ、はい」
「その後、二階堂君とはどうなの?」
本郷先生は私の気になるところを訊いて来ます。私は少し俯きながら頬を赤く染め……
「取り敢えず、彼とは友達ですよ…… この間は一緒に映画を観て、カフェでお茶をしました」
私の話を訊いた本郷先生はちょっと頭を抱えて難しい顔をしています。
「うーん、それはデートじゃないの?」
「えっ…… やっぱりそうなりますか?」
「だって、二人で逢ったんでしょう? 他の友達と一緒じゃなかったんでしょう?」
「はい……」
「それに、あなたの顔が赤いのが何よりの証よ!」
やっぱり可笑しいですよね……
「これは上杉先生も知ってるのよね……」
「はい」
「うーん…… 一番良いのはあなたが手術をして女性になるのが良いと思うんだけど、無理なのよね!」
「だって…… どこも悪く無いのにメスを入れるのは、ちょっと……」
私は尻すぼみになってしまいました。
「まあ、案西先生からはいろんなタイプの人がいるからとは訊いていたけど…… 飛鳥さんは珍しいタイプかな? 普通は性別適合手術に豊胸手術は希望する人が多いのに!」
「すみません……」
「あっ、ごめんなさい…… 責めてる訳じゃないのよ! ただ珍しいタイプだから……」
本郷先生は私みたいな患者は面倒臭いだろうな……
「先生、すみません我儘で……」
「ううん、いろんな患者さんと会っていろんな症状を訊いて経験を積む事が医師としての財産だと私は思っているから、そんな顔しないで、勉強させてもらっているんだから」
「でも……」
「それに、上杉先生から初めて話を訊いたときもいろいろ経験を積めると思って引き受けたんだから、患者さんが気にしちゃ駄目よ」
「はい……」
「うん、それじゃプロギノンデポー筋注10mmg投与しますので終わったらまた待合室で待っててね!」
「はい、分かりました」
私は診察室を出て婦人科へ注射を受けに行きます。婦人科の待合室には産科に来てる妊婦さんもいらっしゃるのでなんだか羨ましく思って見てしまいます。私には絶対経験出来ませんけどね……
「今村さんどうぞ!」
看護師の空野さんです。
「ねえ飛鳥さん、ひょっとして恋してる?」
「えっ!」
私はびっくりしました。どうして……
「何故そうなるの?」
「だって、恋をしてる人はとても綺麗で幸せそうな顔をしてるもん」
私って綺麗かどうかは別としてそんな幸せそうな顔をしてるのかな……
「イテッ!」
「あっ、ごめん痛かった?」
「うん、大丈夫」
「指先まで痺れたりしてない?」
「うん、問題ないよ」
そう言ってる間に注射は終わりました。
「ねえ、相手はどんな人?」
「えっ!」
なんだか今日の空野さんはグイグイ来るな……
「同じ医学部の同じ班の人」
「それってひょっとして男の人だよね? どうするの」
まあ、そうなるよね……
「まだ分からないよ、どうしたら良いのか……」
「葵さん、なに油売ってるの!」
他の看護師さんから注意されてしまいました。
「あっ、すみません! それじゃね」
注射が終わり、私は外来の待合室へ戻って来ました。
「あっ、今村さん!」
今度は精神科の看護師の人です。
「もう、診察室へ良いんですか?」
「ああ、そうじゃなくて、この間背の高い男の人と手を繋いで歩いていたでしょう! あれ彼氏さん?」
「ええっ、見られてたんですか?」
「うん、看護師はみんな知ってるよ! 相手の人カッコ良いね」
まさか見られてたとは…… 私はまだ一年間しか橋本大学病院で治療をしていないのに、もう有名人扱いです。
「今村さん、診察室に良いわよ」
本郷先生に呼ばれました。私が診察室に入ると先生は溜息を吐いています。
「はぁ!」
「先生、どうかしたんですか?」
「ごめんね! 女性は恋バナが好きだからね」
「はあ……」
「飛鳥さん、大学が早く終わる日ってある?」
「えっと…… 今は解剖実習をしてるのでちょっと無理ですよ」
「そうか、二年生だもんね」
本郷先生はちょっと考えてから言いました。
「土曜日はお休みだっけ?」
「今度は午前中は実習になると思います。ちょっと遅れているので……」
「それじゃ、午後からは大丈夫?」
「はい」
「それじゃ、午後から今津市の赤十字病院へ行ってくれる?」
「赤十字病院ですか?」
「ええ、案西先生が一度会いたいそうだから行っていろいろと話をして来たら……」
「はあ……」
「それじゃ、連絡しとくからよろしくね!」
なんだか話が大きくなってるような気がするんですけど……
私は治療が終わったあと上杉先生に電話をしました。いろいろと訊きたい事がありますので……
『あっ、飛鳥君どうかしたのかい?』
いつもの口調の上杉先生です。
「上杉先生、今お電話よろしいですか?」
『ああ、構わないよ』
私は今度の土曜日に案西先生と会う事になった事を上杉先生に話しました。
『そうか、案西先生ならいろんな事を教えてくれるかもね』
「上杉先生はご存知なんですか?」
『うん、一度如月総合病院で会ったかな…… それで、彼とは続いているの?』
「はい、ただ二人で逢ってお茶してみたいな感じですけど……」
『恵美子ちゃんには話したの?』
「いえ、言ってません」
言える訳ないです。なんだか彼女を裏切ったような感じなのに……
『うん、そうか…… まあ、いろいろ相談して来ると良いよ、こういう機会はなかなか無いからね』
「はい」
土曜日、今日は午後から今津赤十字病院へ行く事になっていますが、午前中は実習です。今日も脂肪摘出の続きです。
「梨菜、この間のバイクカッコ良かったよね」
「うん、あの黒いバイクでしょう! 後ろに女の子を乗せてたみたいだったけどね!」
えっ! それって私達の事…… 二階堂君は聞いて無かったのか平常心で作業をしています。
「でもさ、後ろに乗っていた女の子、飛鳥のような感じしなかった?」
カッキーはよく見てるな……
「あの、ワインレッドのヘルメット? そんな訳ないでしょう」
梨菜は否定してるけど…… 本当はどう思っているのかな……
「今村、ここ抑えといて」
うーん、判らない……
「今村、聞いてるか?」
「えっ、なに?」
「実習に、集中しろよ!」
「ご、ごめん」
あーあっ、二階堂君に怒られてしまいました。私が悪いんだけどね……
その後、梨菜とカッキーに交代して私と二階堂君は休憩です。
「今村、なにボーッとしてるんだよ!」
「うん、今日お昼から今津赤十字病院に行くからそれで……」
「GIDの件か?」
「うん、そこの先生が一度話を訊きたいんだって」
「そうか、俺はてっきりカッキー達の話を気にしてたのかと思ったよ」
「えっ、聞いてたの?」
「うん、まさか見られてたとはね」
「まあ、俺がバイク通学してるのを知ってるのは今村だけだから大丈夫だろう! それにヘルメットも、フルフェイスだから」
「あっ、君達ちょっと良いかな?」
大平准教授です。今日は私達に付き合ってもらっています。
「なんでしょうか?」
「うん、君達の班は遅れているという事だったけど、今日の実習でかなり進んだようだ。脂肪摘出もほぼ終わったようだから。ただ、神経を一本切ってしまったのは残念だったね」
カッキーがちょっと項垂れていますけど……
「まあ、しょうがないよ脂肪と神経と血管が一緒になったようなところだから」
梨菜はそう言いますけど……
「いや、カッキーは除去しやすいように血管と神経を横に避けてピンセットで抑えてくれてたんだ。俺のメスの使い方が悪かったんだ」
そう言うのは生田君です。
「生田、大丈夫なのか?」
「ああ、少しは俺もやらないと、俺の所為で土曜日に実習やってんだからな……」
「それじゃ、もう少しやろうよ」
私はそう言ってピンセットを持ってご献体の横に行きます。
「ほら、生田君」
そう言った後、私は神経と血管をピンセットで端に寄せ脂肪摘出をしやすくします。
「ほら、左手のところに脂肪があるからそれを剥がして」
生田君はピンセットとメスを使いますが……
「メスは使わない方が良いよ! ピンセット二本で剥がしてみて」
すると生田君はいとも簡単に脂肪を剥がしていきます。
「生田君凄い!」
美咲がそう声をあげました。
「いや、今村のアシストが良かっただけだよ」
そう謙遜しています。でもこうなるとさっきの切れた神経が悔やまれます。そのとき手術道具の中に手術用のフィラメントがありました。4-0と表記されています。これだったら繋げられるかも……
「先生、手術用のフィラメントを使って良いですか」
「良いですけど……」
先生はちょっと驚いた表情をしています。
「今村、おまえ出来るのか? それにやるならサージカルルーペもいるだろう」
すると大平准教授が……
「それじゃ、私のを貸してあげよう」
准教授はそう言ってサージカルルーペを貸してくれました。
「ありがとうございます」
そして、切れた神経を見つけます。
「今村、邪魔な血管と神経は俺が抑えとく」
「ありがとう、二階堂君! カッキー、4-0のフィラメントをとって!」
カッキーはフィラメントを一本取ってくれました。私は管子を使ってサージカルルーペ越しにフィラメントの先に付いている針を見ますけど、かなりデカく見えます。私は自己流で切れた神経を縫合しました。
「今村君は器用だな…… なかなか出来るもんじゃないよ」
大平准教授はそう言って褒めてくれました。
「今村君は外科志望かな?」
「あっ、いえ、私は精神科希望です」
「そうか、勿体無いな!」
大平准教授はなんだか残念そうですけど……
「ところで先生、解剖が終わったらこれ、どうするんですか?」
カッキーが訊いています。
「ご献体は中身も外側も縫合した後、棺桶に入れて遺族に返すよ! 勿論、返すのは大学側がやるけど、縫合して棺桶に入れるまでは君達にやってもらうよ。なにしろ遺族から預かっているんだからね」
なんだかみんな神妙になりました。
「中には、ご献体を汚してふざける学生もいるんだよ……」
「その学生は何か罰則があるんですか」
「罰則じゃなくて、即放校だ!」
「放校ですか……」
「それは当たり前だろう、ご献体は私達の医学の為にお預かりしている。それを汚す奴は許せん。厳しいかも知れないが遊びじゃないんだからね! まあ、そういう奴もいれば今村君みたいに切れた神経をフィラメントで繋ぐ人もいるんだ。どれだけ真剣かが伺える」
准教授からはそう言われましたけど…… それ、褒められてるんだよね……
そして、切りの良いところで実習は終わりました。みんなは一斉に帰宅しますが……
「今村は帰らないのか?」
二階堂君です。
「うん、今から今津赤十字病院に行くから……」
「あっ、そうだったな! 電車で行くのか?」
「うん!」
「そうか、もし良ければ俺が今津まで送ろうか……」
「えっ、いいよ」
「うん、でも帰り道だから乗って行けよ!」
「えっ、どういう事?」
「俺の実家は今津の先の有村町なんだ! だから通り道なんだよ」
「でも、良いの?」
「ああ、別に構わないよ」
私は今津赤十字病院まで二階堂君に送ってもらう事になりました。
次回案西先生に会う事になった飛鳥ですが、どんな話になるでしょう!




