17 解剖実習
お待たせしました第17話を更新しました。
今回から飛鳥達は二年生になります。医学科の二年生ということは…… そう、解剖実習です。これから四ヶ月間は大変そうです。
橋本大学に入学して二回目の花見の季節が来ました。姉は三月に無事、橋本大学教育学部を卒業して四月から地元の聖華高校の教師として赴任する事が決まったそうです。そんな中、私達の班と玲華達の班で合同のお花見をすることになりました。場所は橋本大社です。そういう事で私と二階堂君で桜の花と上からの眺めの良い所を場所取りして来ました。それというのも……
「場所取りに行く人をジャンケンで決めようよ!」
玲華がそう言い出したのです。
「桜の花が見えればどこでも良いんじゃね!」
松坂君がそう言いますけど……
「でも、桜の花に囲まれたところが良いかな」
今度はカッキーがそんな事を……
そういう事でジャンケンをしたんですけど…… 二階堂君が負けてしまったので、ひとりじゃ可哀想だと思い、私も一緒に行ったのでした。
「今村が一緒だったから場所取りのシートを広げるのが楽で良かった! ありがとう」
「うん、結構眺めが良いところが取れて良かったよね!」
私と二階堂君がそう話していたら……
「はい、はい、解ったから……」
なんだか玲華に呆れられてしまいました。
「二階堂君、私達は遠慮した方が良いかな……」
静香がふざけながら言ってます。
「いや、みんなで行こうぜ! 折角場所取りして来たんだからさ……」
「そうだよ、それにみんなで行った方が盛り上がって楽しいから」
そう私と二階堂君が言うと…… なんだか呆れられてしまっています。みんななんでそんな顔するの? おまけに私は梨菜からまた睨まれています。
そういう事で私達は生田君と神地君の車で橋本大社へ行きます。この二人は大学生の分際でワゴン車に乗っています。
「こういう車を持ってる奴がいたら何かと便利だな」
二階堂君が言います。
「生田、釣りとか行かねえか?」
「あっ、いいね! でも春休みが終わったら親父が車を取りに来るから」
「お父さんの車なんだ」
美咲がちょっと残念そうです。
「ああ、親父はゴルフをするからこういうのが便利なんだよ」
そういう話を聞きながら私は二階堂君の隣でおとなしくしています。
「飛鳥どうしたの? 借りて来た猫みたいにおとなしいじゃない」
「えっ、そんな事ないよ!」
「いっそうのことニャーンって甘えてみたら」
カッキーが変なこと言うから二階堂君が顔を赤くしてるじゃない。まったくもう!
そして、橋本大社に到着です。橋本市には、いくつか桜の名所があるんですが橋本大社が広くて桜の木も数多くあるのでここが一番なんです。
早速、バーベキューの準備を松坂君がやりますが今回はちょっとやり方が違います。カセットコンロで炭に火をつけています。
「カセットコンロはどうして持って来たの?」
梨菜が訊いてますけど……
「あっ、それはおでんを温めるのに持って来たのよ」
静香さんがそう言います。
「静香のおでんは出汁が効いてて美味しいのよね」
「遥香、おだててもなにもでないよ」
などと言ってる間に準備完了です。
「それじゃ、飛鳥以外はビールで良いよね!」
「はーい!」
「いや、いや、俺と神地は飲めないよ」
「あっ、車だよね」
玲華、そこは察してあげないと……
「今村はビールは駄目なのか?」
「ビールというかアルコール全般的にね……」
「飛鳥はそう言って男の子の前では猫被っているの?」
「もう、そんなんじゃないから遥香だって同じ自転車部なんだから知ってるでしょう」
そんな感じで私は酒の肴にされながらも花見はいい感じに盛り上がって来ました。
「二階堂君、おでん食べる?」
私がそう言うと……
「飛鳥は本当に女子力高いね、私にも大根と厚揚げを頂戴!」
梨菜にそう言われました。取って欲しいのなら余計な事を言わなきゃいいのに…… そう思いながらも取ってあげるんだけどね。
「飛鳥、私にもおでん頂戴!」
今度は玲華です。まったく、私はおでん屋のお姉さんじゃ無いっちゅうの!
「飛鳥はコーラのおかわりは?」
「うん、烏龍茶とかもある?」
「あるよ、沢山買って来たから」
えっ、どんだけ買って来たのよ? まあ、そんな感じで盛り上がってますけど…… みなさん乾杯忘れてますよ! もうみんなそんなのお構い無しなんだろうけどさ! ってあれ、神地君と生田君もビールを飲んでますけど……
「ねえ、帰りは誰が運転するの?」
「あっ、大丈夫俺達ノンアルコールビールしか飲んでないから」
「あっ、なるほど! 取り敢えず飲んだつもりだね」
「ああ、結構気分はそんな感じだな」
まあ、そんな感じでお花見も終わり、ある程度酔いが醒めるまでみんな本当のお花見ですが二階堂君は気持ちよさそうに私に寄り掛かっています。身長180センチの彼を支えるのはちょっときついかも…… でも気分は良いかも…… でも。
「ちょっと二階堂君、重たいよ!」
「あっ、わりい、わりい」
もう、本当に悪いと思ってるのかな? でも、今度は私が寄り掛かる番だから!
「飛鳥、なに気持ち良さそうにしてるの」
「えっ、玲華なに言ってるの!」
「はい、はい二階堂君は邪魔」
そう言って彼を押し退けて。
「おいおい、なにしてんだよ」
そうして、私は玲華と梨菜に連れられて桜舞う公園内へ…… まったく、私と二階堂君の邪魔をしないでよね! 本当、この人たちはどうなっているのか……
春休みも終わり、私達は一人の脱落者も出さずに二年生になりました。医学科の二年生という事は、そう解剖実習があります。まあ、私は楽しみにしていたんですけどね! 私達は早速解剖学実習室へ行きますが……
「今村、そっちじゃなくて聖堂に集合らしい」
二階堂君がそう言って私の手を握り引っ張って行きます。
「ちょっと二階堂君、痛いよ」
私が聖堂に到着した時にはみんな集合していました。
「もう、飛鳥も二階堂君も朝から何やっているの?」
梨菜です。なんとなく不機嫌そうに声を掛けられました。
「間違って実習室に行ってたから……」
「飛鳥と二階堂君は朝から仲が良いね」
カッキーは私の事を冷やかすくらいだけど、私と二階堂君の事については、梨菜が一番敏感です。いつも顔を顰めてます。さっきだって不機嫌そうだったし…… それでも二階堂君はお構い無しに私の側にいます。私も悪い気はしないし、むしろ心地良いんだけど、男同士なんだよね……
聖堂の前では、解剖実習をする前に集まった十班の生徒がいます。聖堂で慰霊祭があった後実習が始まります。
「でも、こんなところに聖堂があったのね」
玲華です。確かに私もつい最近まで知りませんでした。この大学は講堂の裏にお寺みたいな建物があります。そこで解剖実習前の慰霊祭が行われるのです。
「それより遅かったけど何してたの?」
先に来ていた玲華から訊かれました。
「解剖実習室に行っていたから」
「もう、だから初日は慰霊祭があるっていってたでしょう」
はい、そうでした。
「はい、それでは慰霊祭を行います」
大平准教授のもと慰霊祭は滞りなく行われました。慰霊祭の後、解剖実習室に移動します。
実習室へ入る前にまず白衣に着替えます。その上から不織布の服を着ます。そして、帽子と保護メガネと手術用手袋とサージカルマスクを付けます。ただ実習室は毒性のホルマリンの臭いがきついので最初は活性炭入りのマスクを使う人もいるようです。私はサージカルマスクですけど、だって二階堂君もそうだから……
さて、いよいよ実習室へ入ります。中はやっぱり強いホルマリンの臭いが鼻につきます。その先には白いシートに包まれたご献体が並んでいます。その頭上には祭壇もあります。私達は指示されたご献体の側へ行き黙祷を捧げます。その後、大平准教授の説明を聞いた後いよいよ実習が始まります。
「それでは、シートをはがしてください」
みんなは行動出来ずに躊躇しています。そこで私がシートをはがそうと手を伸ばしたとき二階堂君の手が触れます。
「あっ!」
私が手を引っ込めると二階堂君がシートをめくります。
「!」
ご献体の顔が見え、私は息を呑みました。私は慌ててシートで顔を覆いましたが…… みんなは動けずに顔を蒼くしていました。まあ無理もありません二十歳そこそこの私達が人の死に遭遇した人はそんなに多くないと思います。それなのに今からこの蝋人形みたいに硬くなったご献体を解剖するという猟奇的作業をしていくのですから……
「それでは医療用チョークで切るところをマークしているのでメスを入れてください」
そう指示がありましたけど…… 今度は、最初に誰がメスを入れるかをみんなが顔を見合っています。仕方ない私がやるか…… そして私は印のあるところにメスを入れます。
「ううっ!」
カッキーがタイミングよく声を出したのでちょっとビックリしましたけど……
「えっ、どうかした?」
「あっ、いや、ごめん……」
カッキーは俯いてしまいました。そんな感じで私達の解剖実習は始まりました。
まずは二階堂君と私がご献体を挟んで脂肪除去の作業を行います。私は高木先輩に聞いていた通りピンセットで脂肪を摘みメスで剥がしていきます。二階堂君はというと脂肪をピンセットで摘み上げ、もうひとつのピンセットで器用に剥がしていきます。
「器用だね!」
「器用だな!」
と私と二階堂君はほぼ同時に言ったもんだから可笑しくなりちょっと吹き出してしまいました。
「ねえカッキー、ちょっと変わってもらって良い」
「えっ、私?」
なんだかカッキーは固まった様子です。
「脂肪で手袋がベトベトでちょっと交換するから」
そう言って交代です。
「あっ、二階堂君代わるよ」
そう言って梨菜とカッキーで脂肪を剥がしています。私と二階堂君はちょっとだけ休憩です。美咲は雑用をせっせとこなし、生田君は蒼い顔をしたまま実習室の隅で立ち尽くしています。
「生田、大丈夫か? あんまり無理するなよ」
二階堂君がそう声を掛けています。その横で梨菜とカッキーは脂肪除去に格闘しています。梨菜は私と同じでピンセットとメスを使っていますが、カッキーは脂肪を手で掴みピンセットで剥がしています。何だか人それぞれですね! その後、美咲も脂肪除去をしましたが、生田君はやっぱり無理そうです。
本日の実習が終わり食堂で遅い食事をしながら反省会です。
「ねえ生田君、駄目なのは血だけじゃないの?」
「冬野、悪いけどああいうのは本当に駄目で……」
「でもさ、少しくらいやらないと三年生になれないんじゃないの?」
カッキーはサラッと恐ろしい事を……
「まあ、少しずつ慣れていけば良いんじゃない」
「まあ、今村の言う通りだな!」
「でも、二階堂君、少しはペースアップしないとうちの班が一番出遅れているし遅れた分は夏休みに掛かってくるんじゃない」
確かに梨菜の言う事に一理あるけど、まだ初日な訳だし……
「大体さ、可笑しいよね! うちの班だけ男子が二人っていうのも……」
「確かにそうだよね、二階堂君と生田君の二人だけだもんね、うちの班はちょっとハンデがあるよね」
カッキーと梨菜がそう言ってますけど、私も入れてちゃんと三人いるんですけど…… それに一年の時からID付きの性別の記入された学生証だってみんなと同じように首から下げてるのに…… でも、私の異変に気付いた二階堂君が……
「まあ、仕方ない! やるべき事をやるだけだろう」
二階堂君は私に気を遣っているよね……
「そうだね! とにかく頑張ろう。私も出来る限り頑張るから」
「いや、飛鳥と二階堂君は頑張り過ぎるくらいやってるよ!」
「そうだね、私達がもう少し頑張らないとね……」
まあ、梨菜とカッキーは判っている訳だからいいよ。たぶん美咲も生田君も気持ちは同じなんだから大丈夫…… たぶん……
放課後、私は二階堂君といました。別に話をしてる訳ではないけど、二人でいるとホッとするんですよね。
「そろそろ帰るか!」
えっ、もう帰るの! そう思いながら……
「うん」
そう頷いてしまう私です。
「マンションまで送るよ」
「うん、ありがとう」
という事は二階堂君は車なんだ! どんな車に乗ってるのかな? 助手席はちょっと照れるかな……
「今村、ちょっと大きいかも知れないけど、これ被っとけよ!」
手渡されたのはワインレッドのヘルメットです。
「えっ!」
そう、彼はバイク通学をしてるようです。
「今村、しっかり掴まってろよ」
「うん」
そう返事をして私は彼の腰に手を回し身体を密着して掴まります。というか抱きついている感じですよね! 『ブルン』という音とともにバイクは動きます。ちょっと怖いけど二階堂君にしっかり掴まっているから大丈夫だよね、なんだか幸せな気分です。そう思っている間にマンションに到着です。
「もう着いちゃった」
「怖くなかったか?」
「うん、大丈夫! お茶でも飲んでいかない?」
私が誘いますけど……
「いや、今日はやめとくよ! じゃあな」
そう言って二階堂君は帰って行きました。なんだかカッコ良いんですけど……
実習の時もそうですが…… 飛鳥と二階堂君の仲は更に良い方向へ行っているみたいです。このまま行ってしまうのかな……




