13 夏休みは忙しい
お待たせしました第13話を更新しました!
今回から第二章に入ります。サブタイトルどおり夏休み前から試験に実習に忙しそうですが、なんとなく飛鳥の様子が可笑しいような……
最近、とても暑くなりました。もう夏本番です。キャンパス内の木々には五月蝿いほどの蝉が鳴いています。そう、夏休みがもうすぐそこまで来ています。うちの大学は八月から夏休みになります。と言っても夏休み中もいろいろあるみたいです。サークルは医学科の六年生と看護科と医療技術科四年生はほぼ引退です。なかには後期の途中までやってる人もいるみたいですけど…… ちなみに自転車部には引退の先輩はいませんので現状通りです。
「ねえ、飛鳥は夏休みは家に帰るの?」
「うーん、お盆は帰ろうかな…… 玲華は?」
「私はたぶん帰らないと思う。お父さんもお母さんも仕事だから……」
「みんなはどうするのかな?」
「松坂君は今津市だし近いから帰るでしょう。梨菜とカッキーは橋本市内だよね」
「そうなの? 静香と遥香は県外だったはずよね?」
玲華にそう言われたけど、私は同じ班じゃないから詳しい事は解りません。
「そうなの?」
取り敢えずそう答えておきましょう。
「あと城戸先輩は東京だよね! まえに東京バナナをもらったから」
「そう言えば高木先輩と中山先輩は千葉と神奈川じゃなかった?」
「それじゃ、あの三人は帰るよね」
「たぶんね!」
「でも、その前に定期試験があるわよ」
「そうか、ここに来ての試験か…… 確か七月の終わりから八月の頭にかけてだよね」
「そうね、それが終われば夏休み…… だけど再試験もあるかもね」
「玲華、不吉な事を言わないでよ」
「ふふ、冗談よ」
「はあ、医学部の試験か……」
なんだか夏休み前なのに溜息まじりです。
七月二十八日、今日から定期試験です。試験は八月六日まであります。結果によって八月二十日から再試験です。課題の提出が八月末までなんですけど…… いつから夏休みだっけ!
そう言いつつも、十日間の定期試験も無事終わり、キャサリンの課題も無事提出する事が出来ました。
「はあ、取り敢えず終わった」
私はちょっとひと安心です。
「二階堂君どうだった?」
「うん、七割か八割は出来てると思う。冬野は出来たのか?」
「うん、七割くらいならいけてるかな! 飛鳥は?」
「私もそんなもんだよ」
「うわー、みんな良いな…… 私は六割ギリギリじゃないかな」
そう言うのはカッキーです。
「うちの班にも再試験者がいたか?」
「二階堂君やめてよ」
「ハハハ、冗談だよ! でも、一年の時からそれじゃ先は大変だぞ」
まあ、確かにそうですよね、これから段々専門的になっていきますからね!
「二階堂君は夏休みはどうするの?」
私が訊いたらなんだか俯き加減で頬をポリポリ掻いています。
「うん、再試験がなければ盆前から帰ろうかと思っているけど」
二階堂君って家はどこなんだろう? 今は大学近くのアパートのはずだけど。
「でも、うちの班は夏休みに血液センターでの実習があるぜ」
生田君がそう言ってますけど……
「あっ、そう言えばそうだったな、折角サークルも無いのにな!」
サークルと言えば、私は玲華に誘われて自転車部に入ったけど二階堂君や梨菜達はサークルはどうしたんだろう? ちょっと気になるな……
「ねえ、二階堂君サークルはどこに入ったの?」
「えっ、フットサル部だけど……」
「そうなんだ」
「うちの班は今村を除いてみんなフットサル部だよ」
「えっ、そうなの?」
「だって、飛鳥はさっさと自転車部に入部するんだもん」
梨菜とカッキーはお互いに頷きあっています。なんだか仲間はずれにあった感じですね。でも、二階堂君はなんだか微妙な顔をしています。
「今村も一言言ってくれれば良かったのにな…… 自転車部なら聞いていれば一緒に入っていたかもしれないしな!」
うーん、やっぱり班が一緒だどそうなるよね……
八月八日、私達は赤十字血液センター橋本プラザに来ています。
「おはようございます橋本大学医学部の実習で来ました」
梨菜が代表で受付で訊いています。
「あっ、お待ちしてました。早速ですが、献血バスにお願いします。冬野さんと二階堂さんは一号車に、生田さんと柿本さんは二号車にお願いします。あと、今村さんと黒瀬さんは献血プラザでお願いします」
そう言う事で私と黒瀬さん以外はみんな献血バスに乗って行ってしまいました。
「あっ、みんな行っちゃった」
「今村さんと黒瀬さんはこっちに来てもらって良いですか」
「はい」
二人で返事をして看護師の宮野さんの元へ行きます。
「これに着替えてもらって良いかしら」
看護師の制服です。ピンク色のちょっと可愛らしいいい感じの制服です。
「サイズが合わない時は言ってね!」
「飛鳥が着るとなんだかコスプレみたい」
「美咲だってなんだか今ひとつじゃない」
「ハイハイ、二人とも良く似合ってるわよ」
宮野さんにそう言われ満更でもない私です。
私達は看護師の宮野さんの指示で動きます。といっても医療行為は出来ないので見学と雑用です。看護師さん達は九時からの献血開始のため準備をしています。
「あなた達は先生のところへ行ってもらって良いですか」
「はい」
二人で先生のところへ行くと北山大学の先生が来ています。
「君は、ひょっとして今村飛鳥さん?」
「あっ、はい、そうですけど……」
あれ、誰だっけ? 内科や外科の先生は知らないんだけど……
「やっぱりそうか、上杉先生から良く聞いていたんだよ。前は僕が診てたんだけど、今は橋本の医学部に行っちゃったから診れないんだけど綺麗で可愛くてお洒落な患者さんなんだって」
「はあ、そうですか……」
もう、上杉先生は何を言っているのか……
「あの、小林先生問診を……」
受付の女性と献血者が二人呆然としていました。
「あっ、そうでした」
そして、献血者の問診が始まりました。まずは健康状態に異常がないか訊いています。その後血圧を測っています。
「136と87ですね! それでは隣で採血をしますのでお願いします」
小林先生は淡々と問診を終わらせました。
「採血とかもするんですね」
「まあ、簡単な検査だよ。血液の濃さとか赤血球や白血球、血小板等の数値を見るんだ」
「そうなんですね」
「それじゃ君達はさっきの看護師さんのところへ戻ってね」
私達が宮野さんのところへ戻った時はほとんど準備が終わっていました。他の看護師の方にチェックを受けています。
「今村さん献血者の北島さんを連れて来て、飲み物と御手洗いを確認してね、三番で待ってるからね」
そういう事で私は待合室へ行きます。ここで献血者の方には水分をなるべく取ってもらいます。そうしないと目眩や気分が悪くなりやすいからです。
「北島さん献血ルームへどうぞ!」
私がそう呼び掛けると北島さんは手を挙げて……
「あっ、はいはい」
「水分補給と御手洗いは大丈夫ですか?」
私が訪ねると……
「大丈夫じゃろう!」
また安易な事を……
「あの、スポーツドリンクでもお茶でも良いので飲んでもらって良いですか? 中に入って三番ベッドで待ってますので」
すると北島さんは……
「あっ、そう」
そう言って飲み物を飲むようです。私はその後、献血ルームに戻りました。
「あれ、北島さんは?」
「水分補給をしてから来るそうです」
「そう、それじゃこれだけ説明しとくね」
宮野さんからアラーム音と表示について教えて頂きました。
「ピーッってアラームが鳴った時は献血者の方に寒くないか訊いてね、寒い時はブランケットを追加で掛けてあげてね」
「はい」
なんだかサービス満点なんですね。あれ美咲は? 奥で別の看護師さんから指導を受けているようですけど……
「あ、お待たせしました」
北島さんです。宮野さんは早速献血を始めます。
「えっ!」
献血の注射の針ってかなり大きな針を刺すんですね……
「今村さん、どうかした?」
他の看護師さんから訊かれてしまいました。私の顔がよほど変だったんだと思います。
「結構大きな針を刺すんですね」
「そうね、18G、1.2mmの大きさがあるんだけど、これくらいの大きさがないと針内で血液が固まったりして詰まる事もるの、あと赤血球のような大きな細胞は細い針では細胞が崩れたりするからね」
色々と事情があるみたいです。私は入口から中間くらいまでのベッドを見ています。
「ピーッ」
アラーム音です。
「寒くありませんか!」
私が訊くと……
「あっ、大丈夫ですよ」
という事でした。なんだか順調に進んでいますけど…… 献血に協力してくださる人は結構多いようで忙しそうです。でも、これでも輸血用の血液は不足気味なんですよね!
「今村さん、疲れたでしょう。休憩して来て良いわよ」
「はい」
そう言って私は美咲と一緒に休憩へ行く途中、待合室の人の多さにビックリしました。予約者以外の待ち時間は九十分になっていました。どおりで忙しいはずです。そのあと私達は休憩室へ行きました。
「飛鳥は免許証はもう取得したんでしょう」
「うん、卒検の次の日に行ったよ」
「一回で合格出来た?」
「うん」
「そうか、私は一回落ちちゃったんだよね」
「でも、もう取ったんでしょう」
「うん、まあね」
そうか、美咲は一度落ちたんだ…… 本試験も結構緊張したもんな。
「車は何か欲しいのがあるの?」
私が訊くと……
「まだ、そんなの考えてないよ」
だって! そうだよね、安い買い物じゃないしね。でも、病院の息子、娘が多いから即買いするのかと思っていたけどそうでもないみたいです。
「そうだよね、私は夏休みに車を見に行こうと玲華に誘われているんだけどね」
玲華は免許証をもらったその日からずっと車を見に行こうよ! って言っています。
「そう言えば玲華がそんな事を言ってたかな、飛鳥と行くつもりだから一緒に行かないかって」
誰にでも言ってるんだ! もう嬉しくて仕方がないんだろうな。私も車は欲しいけど大学まで行くのにわざわざというところでもあるし、今はあまり必要ないかな……
「ねえ飛鳥、免許証見せてよ」
「えっ、うん…… 良いけど……」
これって写真がね! 恵美子ちゃんにメールで免許証取ったよって送ったら……
『うわーっ、良いな、私も早く撮りたいな』
そう言ってた割には……
『なんだか写真が変!』って言われたんだよね…… これはちょっとヘコむんだけど……
「飛鳥は可愛く写っているから良いよね、私なんてほら……」
まあ、そんなに悪くはないと思うけど……
「はあ…… この写真で三年間は長いよ……」
まあ、なんとなくその気持ちは解るかな…… そんな話をしながら休憩も終わり献血ルームへ戻ります。その時、七番ベッドの献血者の様子が変です。私は直ぐに声を掛けました。
「大丈夫ですか?」
この女性はちょっと顔色が悪いです。
「すみません、ちょっと気分が悪くて……」
そう言われ私は焦りました。でも、早く何とかしないと…… あっ、宮野さんです。
「ちょっと待ってくださいね」
そう言って宮野さんの元へ行きました。
「宮野さん、七番ベッドの方が気分が悪いそうです」
すると宮野さんの目つきが変わり……
「今村さん、先生を呼んで来て」
「はい」
宮野さんは、私の返事を聞く前にもう次の行動に移っています。私は急いで先生を呼びに行きました。
「先生!」
先生は私を手で制止し、次の献血者の血圧を測っていました。
「異常はありません。次は採血をお願いします」
そう言ったあと私に向き直ります。
「どうかしましたか?」
先生はとても冷静です。医師であるためにはこうあるべきなのかと思いました。
「あっ、七番ベッドの方が気分が悪くて顔色が悪いんですけど……」
「解りました。直ぐに行きます」
やっぱり先生は冷静です。そう伝えた後、私は七番ベッドの前に戻って来ましたが、既に三人の看護師さんが来て処置をしています。献血者の方はリクライニングを倒され頭が身体より低い位置に、足は身体より高い位置になっています。要するに頭を下に斜めになった状態です。
「針はもう外したの?」
「いえ、今血液を返していますので返し終わった時点で中止します」
今ひとつ、私の解らない事が行われています。後で判った事ですが、この方は成分献血をされていて気分が悪くなった時、二セット目の成分を抜いた血液を返していたという事です。私は後ろの方で黙って見守るしか出来ませんでした。
「大丈夫ですか?」
小林先生が来て献血者に声を掛けています。
「はい、少し良くなりました」
献血者の方も少しは顔色が良くなったみたいです。
「先生、VRです」
「うん、スポーツドリンクを持って来てあげてください。それでも駄目なら教えて下さい」
先生から指示が出ています。
「もうしばらくここで休んで下さい。また後で来ますので、気分が悪い時は看護師に遠慮なく言って下さい」
そう言って先生は問診室へ戻られました。
「今村さん、ここは良いから他の方を見ていてね」
そう宮野さんからまた指示が出ました。この献血者はこの後一時間くらいベッドで休んだあと待合室の方へ戻られました。
後から判った事ですが、この献血者は血管迷走神経反応、VVRという献血時の副作用が出ていたみたいです。この副作用は献血者のおよそ1パーセントの人がなるそうです。ただ、ハッキリした原因は判っていませんが、不安や緊張、睡眠不足などが誘引となって起こる事があるそうです。
そして、夕方五時過ぎに二階堂君達を乗せた献血バスは戻って来ました。
「えっ、今村の看護師姿はバエルな! 一緒に写真撮らないか」
二階堂君からそう言われ梨菜に写真を撮ってもらいました。二階堂君は私の肩に手を乗せて私はちょっと恥ずかしくて赤面していたような…… だって二階堂君とツーショットですよ! でも、なんだかいい感じなんですけど……
「飛鳥、顔が赤いけど大丈夫?」
カッキーになんだか怪しまれてしまいました。まあ、良いかな…… これで私達の実習も終了です。しかし、血液センターがこんなに忙しいとは…… でも、とても良い経験が出来ました。
今回は献血センターの事を書きました。VVRは実は実体験です。今考えると睡眠不足だったのかなと原因を自己分析しましたが、詳しい事は判りません。あの時は三人の看護師さんに囲まれて、先生まで来て大変でした。私がするのは成分献血で、成分献血にも血漿と血小板と二種類あります。実際に輸血として使われたり、薬として使われたりしてるようです。




