1 新生活
お待たせしました! 憧れのスカートの続きを始めます。一ヶ月くらいのお休みを頂いてなんとなく手持ち無沙汰でしたけれど少しづつ書き進めました。今後も憧れのスカート同様よろしくお願いします。
なお、この物語はフィクションです。
私、今村飛鳥は橋本大学医学部医学科に入学しました。入学式には母と姉の唯香が出席してくれましたが……
「飛鳥、かなりのセレブが多いんじゃない」
姉はそう言いますが、まあ、確かに駐車場にも結構な高級車が止まっていたもんね…… まあ、玲華ん家の高級車には負けるけど…… ちなみにうちは姉が乗る軽自動車ですけど…… なにか?
「飛鳥、おはよう」
「おはよう玲華」
黒いスーツに身を包んだ玲華ですけど、珍しくスカートです。
「玲華のスカート姿は貴重だね!」
そう言う私も白いブラウスの上に紺色のジャケットにタイトスカート足元には黒いパンプスです。
「仕方ないのよ! お気に入りのジャケットにパンツスーツだとなんだかシックリこなくって」
「そういうものなんだ……」
私がそう言うと……
「そんなものよ…… って高校ではずっとスカートだったでしょう」
「まあ、そうだけど…… あれは制服だったからね」
などと話をしている時、理事長の隣に座っている男性が気になりました。青いケーシーを着ているのでたぶん医師だと思うんですけど……
「ねえ玲華、青いケーシーを着てる人知ってる?」
「あれ、飛鳥もやっぱり気になるの? 優秀な外科の先生で桐生将暉先生だよ」
「桐生先生?」
「うん、結構競争率高いみたい」
「なんの?」
「だから…… 飛鳥には関係ないか!」
「えっ、なに、なに? 気になるじゃん」
「だから、女子学生にかなり人気があるんだって!」
「玲華も興味があるの?」
「まさか、私は…… 真司一途だから」
あっ、そうだったね!
「はい、はい、ご馳走さま」
などと話しているうちに入学式は終了しました。明日からは本格的な講義が始まります。
「飛鳥はこれからどうするの?」
「大学病院に行くけど……」
「あっ、上杉先生に報告ね!」
まあ、それもあるんだけど……
「そうじゃなくて、治療なの」
「あっ、そうなんだ。でも大変だね月二回でしょう?」
「うん、だからその辺の相談もしないとね」
「それじゃ、私も行っちゃおうっと!」
「ちょっと、玲華は関係ないでしょう」
「いいから、いいから」
全くもう……
駅前まで戻ると……
「飛鳥、ちょっといい?」
そう言ってある建物の中へ……
「ちょっと玲華、どこに行くの?」
玲華は手招きをしながら鍵を出してセンサーらしきものにかざします。すると扉が開きその中へ入って、エレベーターで五階まで上がります。
「どこに行くのよ?」
再度私が訊くと……
「私の部屋」
そう言って部屋のドアを開けて……
「どうぞ」
玲華は私を中へ入れてくれました。玄関を過ぎるとドアがありその先にお風呂があって反対側にトイレと洗面所が、その先にはキッチンとダイニングとリビングがあります。
「広い! 凄いね」
リビングの奥には更に二つの扉が……
「飛鳥、コーヒーで良い?」
「うん」
私は物珍しいものでも見るようにキョロキョロと挙動不審です。玲華はコーヒーをテーブルに置くと……
「ちょっと着替えて来るから待っててね」
そう言って玲華は隣の部屋へ……
「玲華、そっちの部屋はどうなっているの?」
そう言って玲華が入った部屋を覗き込みます。
「ちょっと飛鳥! こっちは私の寝室だから……」
その部屋には机がひとつとベッドがあり、押入れが洋服を収納するハンガーラックになっています。
「うわーっ、凄い! 良いなー」
私はつい、部屋を見回してしまいました。
「納得した?」
そこにはブラウス姿でスカートのホックを外した呆れ顔の玲華がいました。
「あっ、ごめん……」
そう言って私はリビングのテーブルに戻りコーヒーを飲みながら玲華の着替えを待ちます。
「お待たせ」
玲華はいつものシャツとジーンズ姿で出て来ました。大学生になってもそこは変わらないんだね。
その後、私達は電車とバスを乗り継いで北山大学病院へ行きました。
「うわーっ、飛鳥君見違えたよ!」
私はちょっと照れくさいです。
「今日は入学式だったんです」
そう玲華が言います。
「玲華ちゃんはまさかその格好で行ったんじゃないよね……」
「そんな訳ないでしょう」
玲華はちょっと怒った振りをしています。
「玲華もスーツを着てスカートとパンプスを履いていましたよ」
「へえー、玲華ちゃんがスカートとはね」
上杉先生はなんだか信じられないみたいですけど……
「別に良いでしょう」
玲華からのツッコミが入った後診察になります。
「飛鳥君気分はどうかな?」
「良好ですよ」
「うん、大丈夫そうだね、恵美子ちゃんの件もあったから大丈夫かなと冷や冷やだったんだけどね! まあ、あの時は美彩がいてくれたから良かったよ、僕じゃ役不足だったからね」
「はい、大丈夫です。恵美子ちゃんも元気で高校二年生をしているそうです」
「高校二年生?」
「はい、アメリカは新学期が夏休み明けですからね!」
「そっか、メールとかしてるの?」
「はい、たまにですけど…… なんたって十六時間の時差がありますからね」
などと話をして診察が終わりました。
「あっ、先生! 今後の治療の事なんですけど……」
「あっ、そうだね、その件は橋本大学病院精神科の本郷先生にお願いしたからね」
「本郷先生ですか?」
「うん、エストロゲンの摂取は婦人科にお願いしてるからね」
「あの、婦人科で良いんでしょうか?」
「今の飛鳥君が泌尿器科に行くよりは良いと思うけどね。それにうちでも婦人科で注射してるでしょう!」
「そうですよね、普段飛鳥と一緒にいても、男性だという事は忘れていますからね」
「確かに玲華は瑞稀と二人して私を清川温泉の大浴場に誘いたかったみたいだけど…… 本気だったの?」
「まあ、半分はね」
玲華も瑞稀も私の事は女子として認識してくれているんだね! 有難いことです。
「飛鳥君は今でも手術をするつもりは無いんだよね」
「はい」
「うん、判った。それじゃ、近いうちに本郷先生に挨拶に行ってね! 精神科の医局で良いそうだから」
「はい、分かりました。有難うございます」
「うん、飛鳥君となかなか会えなくなるのは淋しいけどね」
「たまには来ますよ」
そう言って私は婦人科へエストロゲンの摂取に行きます。玲華は上杉先生とまだ話していますが、お邪魔じゃないのかな?
「あら、飛鳥さん今日は格好良く決まってるわね、ちょっと見違えちゃった」
そう言うのは婦人科看護師の山吹さんです。
「はい、今日は入学式だったので……」
「えっ、北山大学?」
「いえ、橋本大学です」
「あら、そうなのね。それじゃ今後の治療は?」
「はい、橋本大学病院で診てもらえることになりました」
「そう、淋しくなるわね」
「上杉先生にも言いましたけどたまにはこっちにも来ますよ」
などと話しながら治療を!
「いたっ!」
「あら、ごめんなさい。痛かった?」
「……」
普段、山吹さんの注射がこんなに痛い事はないんだけど……
「はい、終わりました」
「有難うございました。それじゃまたね!」
そう言って私は待合室へ戻るとあの二人はまだお喋りしています。
「先生、サボってて良いんですか?」
「飛鳥君、別にサボってる訳じゃ無いよ手厳しいな」
「飛鳥は北山大学に落ちたから根に持ってるんじゃない」
玲華、それは可笑しいでしょう。
「そんな訳無いでしょう! 上杉先生が落とした訳じゃ無いんだから…… それに玲華だって……」
「さて、それじゃ、僕は仕事に戻るかな! 飛鳥君、たまにはクリニックにも来てくれよ、美彩が待ってるからね」
「はい」
その後、私達は北山大学病院を後にしました。
今日から早速、講義が始まります。私の右隣は玲華ですが、左隣には冬野梨菜がいます。この子は橋本高校出身で私と同じ班です。実は、ここの大学は実習を班ごとにするため事前に班分けがされています。ちなみに玲華とは班が違いますけど講義や実習については同じ日程のようです。
「俺、こういう講義は苦手なんだよね」
そう言うのは、松坂貴史です。今津市出身で家は内科の開業医です。
「でも、それじゃ医者は務まらないわね」
こんな事を言えるのももちろん玲華です。
「なんでだよ、外科じゃ無いから必要無いだろう」
まあ、外科じゃないから生理解剖学は多少疎かになっても良いだろうと思っているお嬢様やボンボンは結構いるみたいです。
「それより飛鳥、来週の病院実習どこになると思う」
そう言うのは同じ班の柿本彩香、通称カッキーです。高校でもそう呼ばれていたからって言うけど…… これ何処かで聞いたような?
「たぶん、橋本市とか城南市、もしくは一條市あたりの病院だと思うけど」
私の隣にいる冬野さんはそう言いますけど……
「来週の事なんだから事務局に行けば分かるんじゃない」
まあ、玲華の言う通り事務局の方から連絡はあると思うけど……
「班ごとになるんだろうから、それぞれ別の所に行くんだよな」
そう松坂君が言った時、講義が始まりました。
講義が終わり私は、カッキーと玲華の三人で事務局へ行くと一年生病院実習の連絡事項がありました。班ごとに病院名が記載されていますが……
「私は城南医療センターね」
玲華達はそうなんだ。私達の班は……
「如月総合病院!」
「えっ! うちなの?」
玲華がつい叫んでしまいました。
「えっ、玲華って、如月総合病院のお嬢様なの!」
カッキーがそんな事を……
「それは言わないでちょうだい!」
玲華はちょっと厳しい口調で言いましたが、普段の玲華の服装からはそれは想像出来ません。何故なら今日も玲華はシャツにジーンズとスニーカーですから……
「服装から言うと玲華よりも飛鳥の方がお嬢様だよね」
「カッキー、それもやめてね」
私が恥ずかしそうにしてると玲華と同じ班の竹内遥香が……
「飛鳥は白のブラウスにカーディガンを羽織ってブルーのロングスカートだからそんな感じに見えるよね」
「しかも、足元はミュールだしね」
「うん、そうだよね」
カッキーと遥香はそう言って私をイジって来ます。私はただ女性らしい服装をしたいだけなんだけど、遥香だってミュールは履いてるくせに……
放課後、私は大学病院の精神科に来ました。本郷先生に会うためです。どんな先生だろう? 体がガッチリしてる筋肉隆々の先生かな? それとも髭が似合うダンディな先生かな…… そんな想像をしながら精神科の医局へ入ります。
「失礼します。本郷先生いらっしゃいますか?」
私が声を掛けると……
「はい」
奥から声が聞こえて来ました。
「あの、今村飛鳥です」
そう言うと…… 奥から出て来た先生は白衣にロングスカート、足元は薄いピンクのパンプスを履いていました。
「あっ、あなたが今村さんね! よろしく私は本郷楓です。上杉先生からいろいろ聞いてますよ」
えっ、いろいろってどんな事? 上杉先生何を話したんだろう?
「そこに座って」
「はい」
私はソファに座りました。
「私は性同一性障害の患者さんは初めてだけど研修医の頃、案西先生から詳しく教えてもらっているから大丈夫よ。解らない時は案西先生がフォローしてくれる事になってるから」
「あの、案西先生って?」
「あっ、そうか! 案西先生は優秀な精神科医で、とくに性同一性障害については詳しい先生だよ」
「橋本大学にいらっしゃるんですか?」
「ううん、今津赤十字病院で勤務されています」
私はなんだか翻弄された気分です。男性だと思っていた本郷先生は女性だし、性同一性障害に詳しい案西先生とも知り合えそうなので……
「あっ、どうかした?」
本郷先生は私が話について来ていない事に気付いたみたいです。
「あっ、本郷先生って女医さんなんですね」
私は今頃になって何言ってんだろう……
「そう、よく言われるの苗字が男性みたいだからってね。でも、それって勝手な思い込みなんだけどね」
私はこれから六年間本郷楓先生に診てもらう事になりました。
橋本大学での生活が始まりました。沢山の登場人物が出て来ました。また楽しい作品にしたいと思いますので皆さんよろしくお願いします。