最終話 みんなの笑顔
オレの予感はやっぱり正しかったみたいで、なんやかんやあってこっちの世界に戻ってこれた。
戻ってくるのに想像以上に時間がかかったみたいで、あのあとみんなからめちゃくちゃに怒られた。
ごめんて。
とにもかくにも。
これでちなつとの約束を破らずに済んだ。
神藤さんとの約束はちょっぴり破っちゃったけど……もう二度と破らないからセーフってことで。
さて。
残す約束は、あと一つだ。
「……やあ。久しぶりだね」
闇より暗い漆黒に、彼女はいた。
「迎えに来たぜ、バースト」
*
あの日オレは、『岩戸』に存在したすべての『呪い』と融合した。
その中にはバーストも含まれていたし、バーストの記憶も流れ込んできた。
「オレは、天月悠斗じゃない」
「分かっているさ。悠斗は死んだし、君は想矢だ。ボクが一度でも君を悠斗の代わりにしようとしたことがあったかい?」
「……無かったな」
「ボクはただ、罪の意識から逃れたかっただけだよ。償い方がわからないから、償う相手を用意した。その相手がたまたま君だった」
ただそれだけのことだよと、バーストは言う。
感慨もなく、言葉に感情を乗せるでもなく、ただ事務的に処理するかのごとく淡々と告げる。
「……そうやって、何千年もの間、お前は罪の意識にさいなまれ続けてきたんだな」
語り掛ける。
バーストはどこか遠くを眺めながら「そうだね」とだけ返した。
「じゃあもう、そろそろ許されてもいいころだよな」
「……え?」
バーストの焦点が、オレを中心に結ばれる。
彼女はしばらく、顔をあげたり、かと思ったらうつむいたりした。
「……無理だよ。ボクは自我を持つまでに、多くの人を殺した。もうその人たちのことを覚えていない。覚えていない罪を償うことはできない」
「じゃあどうすんだ。このままずっと、この暗がりで一人うずくまり続けるつもりか? 本当にそれでいいのか!?」
「……ボクは」
「いい加減に気づけよ。お前も、オレが守りたいと思った一人なんだよ」
ずっと、バーストには助けられてきた。
今度はオレが、彼女を救う番だ。
「だから、さ。一緒に、帰ろうぜ」
「……でも、君だっていつかはいなくなるじゃないか。天月悠斗がそうだったように」
「いや、その心配はないぜ」
【時空魔法】で小刀を取り出し、指を切る。
ゆったりと、けれど人にしては早すぎる速度で傷口がふさがれていく。
「お前が『原初の呪い』なら、オレは『原初の呪い』だ。お前を置いてどこかに行ったりなんてしねえよ」
「……」
「さて、もう言い訳は尽きたか? だったら、改めて言うぜ?」
もう一度、バーストに手を差し伸べる。
今度は、彼女の自由意思で選べるように。
「一緒に、帰ろうぜ」
オレはその日、初めて、本当の意味でバーストの笑顔を見た気がした。
「まったく、君たちにはかなわないなぁ」
彼女が見せた表情を、オレはきっと永遠に忘れない。
***おしまい***
この度は『エロゲのモブには荷が重い』をご愛読いただきありがとうございます。
本作はこれにて完結となります。
ブクマを外される前に評価だけでも残していっていただけると幸いです。
またどこかでお会いできる日を心から願って――
一ノ瀬るちあ





