第76話 起死回生
呪い渡しの回廊はすでに狂っていた。
未来から送られてくる『呪い』を、延々と壊れた柩に送り続ける機械と化していた。
世界に『呪い』があふれる。
崩壊を止める術はない。
ただ一つの方法を除いては。
*
――『呪い』と融合する。
それが、想矢の出した答えだった。
「無茶だ。人が『呪い』と融合すればどうなるかは知っているだろう?」
真っ黒の世界で、檻を隔ててバーストと想矢が向かい合う。ここは彼らの精神世界。現実の時空とは切り離された空間。
「死なない可能性もあるんだろ?」
「伝承がいつも正しいわけじゃないって言っただろう。残りの1パーセントは『呪い』と『影』の融合だ。人が『呪い』と融合して生き残った事例は一つとして存在しない」
「そうか。じゃあ、これが最初の一歩だな」
想矢の意思は固かった。
バーストが何と答えようと、この世界を守る方法がそこにあるのならそれを実行するつもりだった。
それくらい、彼にとって大事なものだったのだ。
ちなつがいて、紅映がいて、みんなが笑っているこの世界が、何にも代えがたいくらい大切だったのだ。
だがそれは、想矢の話。
「……それを、ボクが許すと思う?」
現在、肉体の制御権はバーストが握っている。
そして、バーストの守りたいものと想矢の守りたいものは必ずしも一致しない。
もちろん、想矢にとって大事なものは、バーストも守りたいと思う。
だが、それはあくまで二の次。
彼女にとって一番大切で、守り通したいものは楪灰想矢本人だ。
彼が自分をないがしろにしようというのなら、バーストはそれを全力で拒む。
「大丈夫。何とかなるって」
「なんとかって、何の根拠があって」
「根拠? 無いよ、そんなの」
「なおさらじゃないか」
バーストは頭を抱え、想矢はからからと笑った。
「でもな、信じてるんだ。自分勝手に起こした我がままでも、それが誰かの役に立つと思ってのことなら、きっと悪いようにはならないってさ」
「……」
「だから、バースト」
檻に向かって想矢が手を差し伸べる。
「オレを信じて、力を貸してくれ」
「……君は、卑怯だ」
「そうか。そうかもな」
「ああ。とっても、卑怯だ」
手を取れば、想矢の意見に乗ることになり、手を取らなければ想矢を信じれないということになる。
バーストにはどちらも選べない。選びたくない。
それでもあえて、どちらか一つを選ぶというのなら。
「いいよ。好きにしたら」
バーストは、その手を取った。
もう、掴み損ねない。
「君はボクが、必ず守るから」
「頼もしい限りだな」
二人の間を隔てていた檻がかき消える。
黒い空間が崩壊する。
「いくぜ、バースト」
「いくよ、想矢」
決着は、今ここに。





