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第75話 原点にして頂点

『ふ、ふ、ふ。打つ手がある? ただの人間に何ができる』

「ただの人間なら打つ手がなかったさ。だけど、オレにはこいつがいる」


 人の姿に戻れないだとか、バーストに体を譲った後だとかはもうどうでもいい。

 ずっと、今を守るために生きてきた。

 その思いは今も変わらない。


「来いよ、バースト。最強が最強たる証明を、今ここに!!」


 どくん。

 心臓が大きく脈を打ち。

 意識は深い闇へと潜っていく。



「……大丈夫。君はボクが守るから」


 青年が、そこに立っていた。

 少し前も、今も、変わらず。


 だがその変容ぶりに、麒麟はたじろがずにはいられなかった。


 先ほどまでのがむしゃらな熱量はどこへやら。

 そこに立つのは王者のように、幽鬼のように、虚影のように、悠然と立ち尽くす青年。


『主人格を入れ替えましたか。それで何が変わるというのです』

「何が変わる、ね……」


 青年は手を二度三度握ったり開いたりしてから、麒麟向けて手をかざした。


「それは君の目で確かめるべきじゃないかな」

『ぐあっ!?』

「訊けばすべてがわかると思うなよ、劣等種」


 麒麟は、まるで金縛りにあったかのような錯覚を抱いた。バーストがゆっくりと手のひらを締めるにつれて、重圧は増していく。


 大理石の床を、足音が打つ。

 アンダンテのリズムが澄み渡る。


 麒麟は無理にでもその場を抜け出すのに躍起になった。理性ではなく本能でそれの接近を拒んだ。


 その直感は正しい。

 迫りくる影の名は『呪い』ではない。

 それは『死』そのもの。

 出会ったが最期、逃げ場はない。


『うあああぁあぁぁっ!!』

「抗うか。それもまたいいだろうさ。潔く死を受け入れるのが王の器であれば、どれだけみじめでも生に縋るのもまた王の器」

『くそ! くそ!! 死ねぇ!! 吾輩がこんなところで死ぬものか!! 吾輩は、新世界の支配者に――』


 バーストの拘束を力で押しのけ、接近して、拳を放った麒麟。

 バーストは悠然と立ち尽くすばかり。

 避ける動作すら見せない。


 だが、刹那の間に拳がバーストを貫くというときに、バーストの体が虚空に掻き消えた。

 標的を失った拳が虚無だけを穿つ。


「だけど残念。君では器が小さすぎる」

『――ッ!!』


 気づけばバーストは麒麟の背後に立っていた。

 バーストの声で気づいて振り返るも、もう遅い。


「『吹き飛べ(フキトベ)』」

『ぐあああぁぁぁっ!!』


 バーストの一撃が麒麟に襲い掛かる。

 それは想矢が放った穿天燕(せんてんえん)と原理は同じ。

 だが、速度も威力も次元が違った。


「命を刈り取る一撃。ゆえに必殺」

『ぐ、馬鹿な。その肉体の力は吾輩と互角だったはず!』

「知らないのか? スキルシステムを世界にもたらしたのはボクだ。この世にはびこる技という技は、ボクの経験の一部がもたらした副産物にすぎない。同じ技だと思っているとそうなる」


 そう。

 すべてのスキルは原典をたどればバーストの技能にさかのぼる。

 ゆえに『原初の呪い』。

 ゆえに彼女は最強なのだ。


「もはや貴殿に勝ちの目は無い、だっけ? あっはっは。君の目は節穴だったわけだ。ねえねえ、今どんな気持ち?」

『ぐっ』


 バーストが麒麟の頭を踏みつける。

 踏み砕きはしない。

 ただひたすら地面に頭が埋まるように、絶妙な力加減で押さえ続ける。


「見下していた相手になす術もなく組み伏せられて、地に頭を擦り付ける気分はどうだい! あっはっは!」

『ふ、ふふ、ふはははは』


 踏みつけられたまま、麒麟は笑う。


『ふはは。この世界線の勝者は、貴殿だ。それは認めよう。だが、呪い渡しの回廊はすでに『呪い』に下った。あとは分岐した未来から、際限なく『呪い』が迫りくるのみ!』


 麒麟が手にもつ柩の蓋を開ける。

 そしてそこからは、おびただしい量の『呪い』が溢れかえった。

 『呪い』を開放したのだ。


『貴殿らがいつまで戦えるか、地獄の底で見守っててやるぞ』

「そうか。『死ね(シネ)』」


 ぐちゃりと麒麟の頭をバーストが踏み抜き、足からは闇色の影が膨れ上がる。

 回復より速い速度でダメージを受けた麒麟の体が瘴気に変わるたび、バーストの影に飲まれていく。


「さて」


 バーストは目の前の光景にため息をついた。


「この『呪い』はどうしたものかなぁ」


 ――バースト、ちょっといいか?


 その時、彼女の脳裡に声がした。

 声の主は楪灰想矢。

 彼女の宿主である。


「想矢? どうしたんだい?」


 バーストは『呪い』があふれる箱型の装置を漫然と眺めながら、彼の言葉に耳を傾けていた。

 やがて彼の言葉を最後まで聞き終えて、ぽつりとつぶやいた。


「……本気かい?」


 ――ああ。


 聞こえた声は、覚悟の決まったものだった。


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