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第73話 白虎

 呪い渡しの回廊につながる廊下は驚くほど静かだった。


 近代化が進み、照明はLEDに取り換えられているが、古くは大殿油を使用していたからか、通風孔から吹きつける風が耳を打っている。


 しばらく行くと、大きな扉があった。

 呪い渡しの回廊のひとつ前にある部屋だ。

 扉を両手で押し開けると、大理石の床と石英の柱でできた広間が現れる。


 その空間の中央に、たたずむ影が一つ。


「よぉ。初めましてだな。察するに、あんたが白虎か」

『左様』


 それは白い影だった。

 赤と金の刺繍が細部に施された白い着物を、右肩は通さずに着崩していて、腰には白木の鞘に納刀した日本刀と脇差を携えている。


「道を開けろ」

『断ると言ったら?』


 抜刀術『明けの明星』で斬撃を飛ばす。

 真空の刃が白虎に襲い掛かる。


 だが、白虎も同様に抜刀すると、その真空の刃を叩き切ってしまった。


「是が非でも叩き伏せる」

『いきがりが』


 踏み込み、間合いを詰める。

 横なぎを叩き込むが、刀で受けられてしまう。


 嫌な予感がした。


 刀にかかる負荷を逃がすように相手の剣を捌き、間合いを取り、跳躍して空中から斬り付ける。


「せぇぇぇやぁぁぁぁっ!!」


 だが、またも刀身で防がれる。

 相手の柄を足で蹴とばし、競り合いを拒否する。


(ちっ、そういうことかよ!)


 二度の剣戟で分かった。

 こいつの狙いは持久戦だ。


(くそっ、こんなところでもたもたしてられねえっつうのに!)


 オレの勝利条件は次の二つを満たすこと。

 一つ、白虎を倒すこと。

 二つ、麒麟の野望を阻止すること。


 一方で白虎の勝利条件は二通りある。

 一つ、オレに打ち勝つこと。

 二つ、麒麟の工作が完了するまで耐えしのぐこと。


 同じような条件に見えて、決定的に違う部分がある。

 オレが両方の条件を満たさなければいけないのに対し、白虎はどちらか片方を満たせばいいだけという違いだ。


 状況はオレが不利。

 白虎にとって長引く試合こそ有利な展開。


「姑息な戦術を取ってくるじゃねえか」

『どうとでも言え。最後に勝ち残ったものが勝者だ』

「そうかよ。それなら――」


 連続でバックステップを踏み、入口まで下がる。

 初太刀の構えは脇構え。


「その目論見すら叩き伏せて、前に進む!!」

『……む?』

「【剣術】スキル『春蕾(シュンライ)……乱咲(ミダレザキ)』!!」


 切り上げとともに斬撃が空間を超越して迸る。

 先ほど同様に、白虎の一刀に真空の刃は切り捨てられる。

 だが、その斬撃をさっきと同じと思うなよ。


『ぐっ、爆発する斬撃!?』


 一度目の斬撃は空間を引き裂いたもの。

 今回の斬撃は空気を圧縮して押し出したものだ。

 圧縮された空気はわずかな衝撃で元の気圧に戻ろうと急激に膨張し、そこに暴風を生み出す。


「うおおぉぉぉっ!!」


 そして、一度だけでは終わらせない。


 切り上げた状態から横一文字の型『箒星(ほうきぼし)』。

 連結技の十文字の型『雷轟(らいごう)


 切り上げ、薙ぎ払い、打ち下ろし、八つ裂く。

 ゆえに乱咲(ミダレザキ)


『くっ、なめるなぁ!!』


 だが、白虎の守りは鉄壁だった。

 爆風にあおられ、剣を振るうのさえ難しいはずなのに、春蕾をひとつひとつ的確につぶしてくる。


『どうだ! 斬り合いでは負けんぞォ!!』

「いや、お前の負けだよ」

『何!?』


 オレは斬撃を飛ばすたびに射出間隔を狭め、その代わりに斬撃速度を遅くしていた。

 白虎のもとに届く間隔は一定だった。

 だから白虎は対処できていた。

 だが。


『ぐあっ!? 馬鹿な! 全く同時タイミングでの斬撃だと!?』


 先出しした遅い斬撃と、後出しした早い斬撃の二つを飛ばせば、奴はどちらか片方しか対処できなくなる。


 この距離間で、奴のもとに斬撃が届くまでの時間は見切った。

 後は射出間隔と斬撃速度を調整すればいい。


「その道開けてもらうぞ、おっさん」

『ぐっ、うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 奴のもとに全く動じタイミングで届いた八つの斬撃が、衝撃によって爆裂した。

 気圧の爆発にさらされた白虎は見るも無残な姿になっていた。


『……ぐっ、殺せ』


 もがれた四肢や顔の大部分を瘴気の靄で覆いながら、白虎が言う。


『弱者の肉を食らうのは強者の責務。さあ、やれ!』

「……そうだな」


 二つの柩を、同時に開く。


 並纏『フリカムイ/バースト』


「さよならだ」


 神を冠する呪いによって、白虎だった瘴気の塊は、跡形もなく消え去った。

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