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第68話 追憶ノ二

 バーストは、柩使いが『呪い』と戦える理由を知った。


(この柩、『呪い』の力を引き出す装置なのか!)


 バーストの推測は半分正しい。

 正確には柩の力は『封印する力』と『呪いを呼び出す力』に分類でき、バーストが予知したのは後者の能力のみ。


「避けるなよ? 天月悠斗が大事ならな」

「……っ!」

「爆ぜろ、『瑠璃鶲(ルリビタキ)』!!」


 神藤が取り出した札がバーストめがけて飛来して、眼前で連鎖爆発を起こした。

 爆熱がバーストの皮膚を焼き焦がしていく。


「くはは。これで仕舞いだ」


 神藤が柩を取り出す。


「……何を」

「ん? ああ、知らなかったのか。くはっ、いいぜ、教えてやる。超常の柩には『封印する力』と『呪いを呼び出す力』があるんだ。もっとも、封印するには呪いが弱っていないといけないんだがな」

「……なんだと?」


 どうせ死なない。

 死ぬことなんてできない。

 そう思っていた。

 だけど、そうか。


(封印されれば、バーストという生命はある種の終焉を迎える、か)


 バーストは、何の気なく空を見上げた。

 瞬く星が、目に染みた。


(それもいいんじゃないかな)


 もう、十分に生きた。

 もう、疲れたんだ。


(ひたすら命を奪い続けてきたけど、最後に誰かの命を守って終わりを迎えられるなら)


 それは、意味のある一生だったって、言えるんじゃないかな。


「終わりだ」

「……そう、だね」


 柩が形を変える。

 バーストはこの瞬間、捕食者から被食者になり下がったことを悟った。


「……ばいばい。天月悠斗」


 世界が、黒に染まる。



 長く、暗闇の中で過ごしていた。

 暗い、退屈だ。

 天月悠斗の声が聞きたい。


(ああ、そうか。これが、寂しいって感情か)


 柩の中で過ごすうちに、バーストは一つ、感情を覚えた。


(もう、叶うことのない願いだろうけど)


 ただひたすら眠り続けるのみ。

 それがすべて。


「助けに来たよ、バーちゃん」

「……ぇ?」


 そう、思っていた。



「裏切り者だ! 生死は問わん! あの柩を外に持ち出させるな!!」

「っ!! くそっ!!」


 『岩戸』が管理する伊勢の山を駆ける男が一人。

 漆塗りの柩を大事そうに抱きかかえ、月下走り続ける男の名前は何でしょう。

 そう、天月悠斗である。


(バーちゃん、絶対に、助けるから!)


 妾の子と呼ばれ、貴族同士の社交の場にも呼ばれなかった悠斗が、一代貴族である神藤の家から呼び出されたのは7年前。

 それまで悠斗を冷遇していた一族は、手のひらを返したかのように悠斗を丁重に扱った。


 幼いながらに、「私はあなたの味方です」、「だから神藤家にも悪口を言わないでください」と言っているのが態度に透けて見えていて、なんとなく嫌な気持ちになったのを覚えている。


 天月悠斗が唯一心を開いたのは、皮肉なことに人に害なす『呪い』であるバーストただ一人だった。


 だけど、その日から。

 バーストは彼のもとに訪れなくなった。


(約束をすっぽかしたからだ)


 幼かった悠斗はそう思った。


(バーちゃんはきっと、ボクの帰りをずっとずっと待ってたんだ。なのに、ボクは帰らなくって……はは、愛想を尽かれても、当然だね)


 神藤家につながりがあるということで、悠斗は屋敷内に立派な部屋を用意してもらったが、毎夜毎夜抜け出しては、また物置小屋の前で星を眺めて夜が更けるのを待った。


 もしかすると、またひょっこりとバーストが現れるかもしれないと、そう信じて。

 またバーストが来てくれた時、今度は寂しい思いをさせないようにと、心に誓って。


 それからしばらくしてだった。

 バーストが『呪い』と呼ばれる存在で、柩使いによって封印されたと知ったのは。


(バーちゃんは、ボクのせいで封印された!?)


 何が何でも、助け出す。


 『岩戸』への侵入も試みたけれど、警備は堅牢鉄壁で突破できそうにない。

 だから天月悠斗は柩使いを目指した。


 そして、柩を賜るタイミングで、厳重な檻に封印された柩を見つけた。

 直感した。

 あれがバーストの封印された柩だ。


 ……次の瞬間には、体が動いていた。




「そこまでだ天月悠斗! 『岩戸』を裏切ったこと、あの世で後悔するがいい!!」

「裏切ったんじゃない。ボクはただ、大切な友達を助けに来ただけだ」

「その柩を持ち出そうというなら同じこと! 来い! 『火鼠の呪い』!!」


 よりによって、捕まった相手が柩使いとは運がない。天月悠斗は自嘲気に笑う。


「くたばれ!!」


 次の瞬間、柩使いから放たれた業火が、天月悠斗の身を焼いた。


「ぐぅ……っ、せめて、バーちゃんだけは!!」


 抱えた柩のふたを開けた。

 駆動音を、鳴らすことなく。


「き、貴様! なんてことを!」

「は、はは。やったよ、バーちゃん」


 柩を開くたびになっていた、ぎゅるりという駆動音。あれは、柩から『呪い』の性能だけを呼び出し、『呪い本体』は柩から出れないようにするためのギミックだ。

 それを作動させずにふたを開くという行為は。


「バーストを、開放するとどうなるかわかっているのか!?」


 『呪い』の、柩からの解放を意味している。


「……うん。これが、ボクの償いだ」

「おのれ、おのれおのれおのれ!」


 柩使いは今一度炎を飛ばした。

 いっそ超常の柩ごとこの世から葬り去る。

 そういった気概とともに。


「……図に乗るなよ、下等種」

「なっ」


 だが、その煉獄は、かのものの腕の一振りで消え去った。


「げ、『原初の呪い』!」

「君は契約を破棄した。罪には罰を、その覚悟はできているんだろうね」

「ま、待て! そ、そうだ! その男! 『岩戸』が総力を挙げて、醜い火傷痕を消して見せましょう!」

「それで?」

「……い、いくらなんでも、そのような姿のままあの世に行くのは不憫でしょう? あなたにも人の心があるのなら、彼をより綺麗な姿にしてあげたいと思うはずだ」

「……人の心、ね」


 バーストが、手を伸ばす。


「ぐぇっ!?」

「貴様ら人間のあり方を『人の心』と呼ぶのなら、ボクは『醜いバケモノ』のままでいい」

「まっ、たしゅ」

「『原初の呪い』の名のもとに命ず。『死ね』」

「こひゅっ!? う、があぁぁぁッ!!」

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