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第64話 道を開けなさい。斬り伏せられたくなかったらね

 碧羽さんの蹴りが、容赦なくオレに迫る。

 こめかみに向かってせり上がる蹴りを腕で防ぐ。

 鈍い痛みが腕に走った。


「待ってください碧羽さん! 確かにバーストの思惑は神藤さんの予想通り、オレを生贄にさらなる強さを得ることかもしれない! でも、そうならない未来だって一緒に探せば見つかるかもしれない」

「もって7日だ」


 一度引っ込められた足が、今度は真下から正中線を駆け上がってくる。狙いは顎か、みぞおちか。

 一撃が入るより早く動いたオレの右腕が、上半身のばねの力だけで拳を打ち出し、膝蹴りを相殺する。


「君がバーストと融合するまでの残り日数だ」

「……は? 何言って」

「平安時代、まだ『岩戸』も『凱旋門』もできる前にも、バーストは融合を経ている」


 碧羽さんの拳が、オレのこめかみを打ち抜いた。

 視認はできていた。だけど、反応できなかった。

 拳がぶつかるより早く、脳を強くゆすられたような錯覚に陥った。


 衝撃波ではない。

 伝えられた事実に対するショックだ。


「……まさか。『呪いとの融合』を経て、生き残った1パーセントってのは」

「バーストの事例、ただ一つだけさ」


 バーストが他を寄せ付けない圧倒的な呪いである理由が分かった。


「当時の柩使いたちは総力を挙げてバーストに立ち向かい、そしてことごとく散らされた。あまたの柩使いが『呪いとの融合』を駆使し、そうしてようやく封印した、それが君の魂に根付いた呪いの正体だ」


 ……そこから先の流れは、オレも知っている。

 バーストは超常の柩(パンドラ)に封印されたものの、その柩は誰の手に渡ったかもわからないまま時代が流れる。

 そしてゲーム時間内の終盤戦。

 つまり今から約3月後。

 『呪い』を束ねる組織と『岩戸』や『凱旋門』との争奪戦の果てに超常の柩(パンドラ)は『呪い』を束ねる組織の手に渡り、最強の災厄が世界に蘇る。


「当時の資料によると、バーストが主人格を乗っ取るようになって7日と経たずに融合が完了したと記されている」

「……どうして、今頃、そんなこと」

「誰も気づかなかったからさ。君が使っているバーストが、『原初の呪いバステト』と同一だなんて。だけど、それなら君の持つ柩がナンバリングされていなかった理由も納得だ」


 ……『岩戸』ができる前の話だからか。

 バーストの柩と、オレの持っている柩は別物だ。

 いや、それすらも分からないのか。

 【アドミニストレータ】の描く原作と、オレが生きている現代では、天月悠斗の在非が特異点として存在する。


 ゲームでそうだったからと言って、現実がそうだとはもはや言えない。ゲームの柩が別物だとしても、こっちだと同じ柩の可能性だってある。


「7日……」


 たった1週間。

 それも、柩を使わずにいた場合の話。

 バーストの呪いを使えば使うほど、タイムリミットは短くなっていくだろう。

 オレに残された日数は、実際何日だ。


「手に負えないバケモノに変わり果ててしまう前に、ここで人間として死んでくれ。楪灰想矢」


 ……多分。

 碧羽さんの言い分は、きっと正しい。

 生きてちゃいけない害悪というのがあるのなら、それはまさしくオレのことだと思う。


 だけど。


「……決めたんだ」


 初めて現実で呪いと対峙したあの日も。

 青龍と出会う前に神藤さんと言葉の駆け引きをしたあの日にも。


「だれかの涙を、見たくない。笑って過ごせる今を、守るって、誓ったんだ」


 ――ちなつを泣かせるくらいなら、笑顔を守ってみせろよ。

 ――ちなつを泣かせるようなこと、しないでくださいね?


 だから。


「バケモノになり果てるのがオレの運命だというのなら、オレがオレでなくなるその一瞬まで足掻き続ける! それでだめならその時死ぬ! だから死ねない。死ぬわけにはいかない!!」


 ゼロ距離から、震脚。

 碧羽さんの心臓に掌底打ちを放つ。


「うおおおぉぉぉっ!!」


 骨が砕ける音がして、碧羽さんの体が吹き飛ぶ。


「ぐふぁっ。ゼェ……やって、くれたね。肋骨が数本砕けたじゃないか」

「大丈夫ですよ。肋骨って24本あるらしいですし――」

「必要だから24本あるんだよ」

「――それに、それくらいじゃ、大したダメージにもならないでしょう?」


 碧羽さんが、ふっと笑う。


「だって碧羽さんは、『人魚の呪い』を持っているんですから」

「……ふふ、まあね。それで、どうするつもりだい? 僕は君が倒れるまで何度でも立ち上がり、いつか必ず君を殺すだろう。君に勝ち目はないとは思わないかい?」

「……『人魚の呪い』を破る方法の10や20、とっくに用意してるんですよ」

「へぇ」


 虚空から、剣を取り出す。


「それじゃあ、死合おうか、想矢くん」

「……死んでもごめんです」



「くーちゃん! 今の!」

「北の方角からよ!」


 一方コテージの女性組も、想矢と碧羽の戦闘に気づいた。それは同時に、彼らの戦いのし烈さも表している。


 ちなつと紅映は顔を合わせると、階下に降りてコテージの玄関に向かった。

 扉を開くと、夜の世界が広がっていた。


 その暗闇の中に、立ち尽くす黒い影が複数。


「……誰?」


 一体いつの間に囲まれていたのか。

 コテージを包囲するように、無数の人影が立ち並んでいる。


「笹島様。こんな夜更けにどちらに向かうおつもりですか?」

「その呼び方……、神藤の使いね?」

「夜の森は危険です。コテージの中でお待ちください」

「断ると言ったら?」

「腕づくでも阻止するようにと言われております」


 一番近くにいた男が、刀を抜いた。

 白銀の刀身が星明りに照らされて存在を主張している。


「あなた、新参ね」


 だが、ちなつは抜き身の刃を前に、一切臆さない。

 一歩、また一歩と歩み寄る。


「そ、それ以上近づかないでください!」

「近づいたら、どうなるのかしら?」

「う、うああぁぁぁぁ!!」


 男が、ちなつに向かって剣を振りぬいた。

 剣術スキルを使用したのだろうか。

 綺麗な弧を描いた剣閃がちなつに迫る。


 白銀の太刀がちなつの足を引き裂こうかというその瞬間、ちなつの体がぶれる。


 男には何が起きたかわからなかっただろう。

 気が付けば結果だけがそこに残っていた。


 無手の自分と、先ほどまで自分が持っていたはずの刀を構える笹島ちなつという、奇妙な結果だけが。


「【剣術】スキル派生、合気道術『太刀取り』。わたしに剣で立ち向かったこと、後悔するがいいわ」


 太刀の峰で、男の首筋を打つ。

 目にもとまらぬ神速の一太刀に、男の意識が刈り取られる。


「道を開けなさい。斬り伏せられたくなかったらね」


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