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第63話 残りの1パーセント

「ここで死んでくれって……、はは、嫌な冗談ですね」

「……」

「碧羽さん? ねえ、どうして黙ってるんですか」


 不穏な沈黙が場に広がる。


「……オレの中に、バーストがいるからですか?」


 半ば確信めいた疑問。

 否定してくれと願う反面、本能はこれが正解だと叫んでいる。


「そうさ」


 肯定は早かった。


「僕は先日、バーストに意識を乗っ取られた君を見た」

「だけど、あいつは人に害なさなかった。そうでしょう?」

「そうだね。だけどそれは、バーストの目的から外れていたからにすぎない」

「碧羽さんにはわかるんですか? あいつが、何の目的があってオレに接触してきたのか」

「僕がというよりは、神藤さんかな」

「……待ってください。神藤さんにも話したんですか?」


 ――みんなには、秘密ですよ?


 オレは確かに、碧羽さんにそう言った。

 秘密を打ち明けるのは、相手が秘密を洩らさないと信じるからだ。


 だから、余計に。


 裏切られた。


 その衝撃が、胸をぎゅっと締め付ける。


「『呪いとの融合』について、想矢くんはどれだけ知っている?」


 『呪いとの融合』……。

 ずいぶんとまあ、懐かしい単語を。


「それを見たのは、4年前に1度だけです」

「実際に見たことがあるのかい?」

「……ちなつの父親が、神藤さん相手に使っているところを」

「僕が知らない間に、なんてことをしてるんだ……」


 『呪い』はその脅威によって格付けされるが、『呪いとの融合』を行使すれば、この格が1.5段階強制的に引き上げられる。


「それを見たならわかるだろう? その恐ろしさと、そのリスクが」


 オレはうなずく。


「90パーセントは命を落とし、7パーセントは廃人になり、2パーセントは後遺症を残す」


 後遺症は重ければ半身不随なんかになったりすることもあるけれど、軽度の場合は鼻が少し利きづらくなるとかその程度で済む。

 ちなつの父親の場合は、辛味に対する軽度の味覚障害程度だ。


「うん。よく勉強しているね。じゃあ――残りの1パーセントがどうなるかは知っているかい?」

「……それは、後遺症すら残らない?」


 ゲーム内では言及されていなかったはずだ。

 だけど、勝手にこう思っていた。


 どうしてそう思った?

 簡単だ。そういう文脈だったからだ。


 命を落とす。

 廃人になる。

 後遺症を残す。


 割合が下がるにつれて、肉体的ダメージも軽度のものへと移っている。

 だから、てっきり、残りの1パーセントは後遺症すら残らないんだって、ずっと思っていた。


「違う」


 だけど、その考えはあっさりと否定される。


「残りの1パーセントはね」


 碧羽さんの唇が動く。

 嫌な耳鳴りがうるさい。

 声は形になって耳に入ってきているのに、言葉の意味が脳で処理されない。


 停止した脳みそがゆっくりと言葉を咀嚼して、その意味を紐解いていく。

 それから、ようやっと理解したときには、長い時間がかかっていた。


「より強力な『呪い』――格で言えば3段階くらい強化された異形へと変貌を遂げる」


 それはつまり。

 それはつまりだ。


「――バーストは、オレを糧に、さらに強力な『呪い』になろうとしている?」


 ……嫌なイメージが脳裏に浮かぶ、鮮明に。


 バーストは、今でさえ世界最強の『呪い』だ。

 格付けにおいて彼女を上回る『呪い』は存在しない。


 そのバーストが、今よりさらに3段階進化したのなら。

 一体、誰がバーストを止めるって言うんだ。


「だから、すまない」

「……碧羽さん? 冗談、ですよね?」


 碧羽さんが、懐から柩を取り出した。

 ぎゅるりと駆動音が響き、箱が開く。


「すべてが手遅れになる前に、僕が、君を、殺す」



 24:20。

 コテージ。

 女子寝室。


 ツインベッドの一方で、もぞもぞと動く布団があった。できるだけ布の擦れる音がたたないように、慎重に行動する寝巻の少女は誰でしょう。

 そう、ちなつです。


(くーちゃん、寝てる、よね?)


 足音を立てないようにベッドから下りて、隣で横になる少女が寝息を立てていることを確認する。

 クリアリングOK。

 これよりオペレーションYO・BA・Iを開始する。


「どこ行くのよ」

「ひゃっ!?」


 抜き足差し足忍び足でドアまで移動し、ドアノブを回した時だった。ちなつの背後から紅映が声をかける。


「え、えと、お手洗いに」

「へぇ? 笹島のお嬢様はトイレに行く前に人の寝顔を確認するのかしら?」

「うぐ」

「ほら、白状しなさい」


 しょんぼりちなつ。


「……今日、想矢、元気なかったじゃない? だから、元気づけようかなって思って」

「思って?」

「ベッドに潜り込もうと思うの」

「こらこらこら! 待ちなさい! 元気づけるのとベッドにもぐりこむのに何の因果関係があるのよ!」

「男の子はそれだけで元気出るよ!」

「何をする気!?」

「んー? ただ添い寝するだけだよー? あれー? くーちゃんはナニを想像したのかなぁ?」

「ななな! ちがっ! そんなんじゃないわよ!」

「そんなのって何かなぁ? わたし気になるなぁ?」

「くっ、殺しなさい!」


 紅映、秒速の敗北宣言。

 即落ち2コマじゃあるまいし、もっと粘れ。


「ははーん。くーちゃんもお年頃だもんね。一緒にもぐりこみたいんだ」

「誰もそんなこと言ってないでしょう!? ……でも、まあ、それであいつが元気になるってんなら、仕方ないからそうしてやってもいいけど」


 もじもじと人差し指をすり合わせて目線をそらした紅映は、ちなつが野次馬のような笑みを浮かべていたのに気づかなかった。


「あ、あんたたちが不埒なことをしないか見届けるだけなんだからね!」

「はーい。んじゃ、いこっか!」


 そんなこんなで、女子二人によるオペレーションYO・BA・Iが再開される。

 物音ひとつ立てないように動くさまはまさにくノ一。


「くーちゃん! 大変!」

「ちょ、そんな大きい声出したらあいつもお兄ちゃんも起きちゃうじゃない!」

「違うの!」


 だが、彼女たちは知らない。


「二人とも! どこにもいないの!」


 すでにこの家は、彼女たち二人しか残っていないことを。


「……へ?」

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