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第61話 BBQ

 ちなつと碧羽さんがコンロに木組みを作り、そろそろ着火しようかというころ。

 小学生の頃に行った林間学校での飯ごうを使った炊飯は火を育てるのに苦労した覚えがあるけど、バーベキューに使う炭は着火してから1分もあればあっという間に燃え上がるらしい。


「想矢ー! 野菜切ってー!」

「なんで切る前に火をつけちゃったの!?」

「あははー」


 いや笑い事じゃなくて。

 まあいいけど。


「大丈夫? どうしても手が足りないなら? 私が手伝ってあげてもいいけど?」

「サンキュ紅映。でも大丈夫。何を隠そう、オレは包丁さばきの達人!」


 そう。

 実はオレ、【包丁】スキルも持っている。

 なんか調理実習中に覚えた。

 多分【剣術】スキルを持ってるからだと思う。

 刃筋の立て方とか、斬り方とかが経験として積み重なったんじゃない? わからんけど。


 そんなこんなで、包丁を使うたびにめきめきスキルレベルを上げたオレは、包丁さばきだけなら三重県でも有名な料理学校卒業生並み。

 1分もあれば十分だ。


「ふーん」


 と、かっこいいところを見せようとしたものの、紅映の反応は芳しくなかった。

 あれか。

 一緒にやりたかったのか。

 なんかごめん。


 40秒で野菜を切って、紅映に話しかける。


「紅映、車からクーラーボックス運ぶの手伝ってくれるか?」


 クーラーボックスに入っているのはバーベキュー用の肉だ。その量なんと3kg。ぶっちゃけオレ一人でも持てるし、なんなら紅映一人でも多分大丈夫な重さ。


「ふ、ふん。しょうがないわね。いいわ。手伝ってあげる」

「ありがとな」

「♪」


 でもまあ、一緒にするという部分に意味があるみたいで、紅映の機嫌はあっという間にV字回復した。

 なんだかんだ4年の付き合いである。

 扱い方のいろはも心得るというものだ。



 肉の油が火に落ちて、煙となって天に上る。

 金網の上での一瞬の勝負。

 今返すか。いや、まだか。いや、今か。


「想矢、肉食べてる?」

「食べてる食べてる。マジで」

「ならまずそのトングを置いて目を合わせて言いなさい」


 ちなつがもっきゅもっきゅと肉やら野菜やらをほおばっている一方で、肉を焼き続けるオレに紅映が言った。


 ごめんちょっと今忙しい。

 一瞬の判断が未来を変えることだってあるんだぞ。

 後にしてもらえる?


「いや、自分は不詳の身なんで。こういう場ではトングを離さないって決めてるんです」

「え、誰。気持ち悪い」

「えぇ……」


 めっちゃストレートな悪口。

 安心した。いつも通りの紅映で安心した。


「ほら、私が代わってあげるから」

「……紅映こそどうした。そこは『あんたがどうしても変わってほしいっていうなら変わってあげてもいいけど?』って言うところだろ」

「あんた私を何だと思ってるのよ」

「ツン要素3割の5デレ」

「残りの2割どこに消えたの」


 ブラザーコンプレックス。

 と、口にすると怒るのが目に見えているので黙っておく。


「ほら、早くしなさい。こういうのはずるずる引っ張るとどんどん切り出しづらくなるわよ」

「うっ」


 紅映が言わんとしてることはわかる。

 碧羽さんにごめんなさいしてこい。

 そういうことだろう。


「でもなぁ」

「何を悩んでるのよ。らしくないわね」

「いや、正直、碧羽さんが何に怒ってるのか、正直あんま分かってないっていうか、何をどう謝ればいいのかわかんなくって」

「心当たりはあるんでしょ?」

「あるにはあるけど」


 どうにもしっくりこないんだよな。


 オレの知る碧羽さんだったら、こんなまどろっこしい態度で怒りを表現なんてしない。

 話せばわかりあえる。それがオレの知る碧羽さんだ。


 多分、『蝗害(こうがい)の呪い』の件が尾を引いているんだと思う。

 あの時、碧羽さんは話し合いをする前に力に訴えて、結果として失敗した。

 それ以降、(なぎ)の一件の時もそうだけど、碧羽さんは言葉にしなければわからないことは言葉で表現しようとしていた。


「どうにもわからないんだよな」


 しいて言うなら、怒りのベクトルがオレにではなく、碧羽さん自身に向かっているように見える。

 振り上げたこぶしをどこに振り下ろせばいいかわからなくなって、鬱屈をため込んでいるような、そんな印象を受ける。


 オレは、どう声を掛けたらいい?


「わからないなら、聞いてくればいいじゃない」


 悩めるオレに、紅映はあっけらかんと言った。

 無邪気で無垢な顔をして。


「……そうだな」


 紅映の言うとおりだ。


「言葉にしてくれないとわからないなら、言葉にしてもらうしかないよな」


 悩んだって、しょうがないじゃないか。


「サンキュ、紅映」

「も、もう。いいから、わかったならさっさと行きなさい。私の気が変わらないうちにね」

「ラスボスみたいなセリフ使うじゃん」

「何か言ったかしら?」

「ごめんなさい」


 そういうところだぞ。

 じゃあ、そうさせてもらうか。


「あ、そうだ紅映」

「何? まだ何かあるの?」

「うん。大事な話なんだけどさ」


 オレはコンロから取り皿に肉を移した。

 返すタイミングを失って熱源にさらされ続けたそのタンパク質は、完全に炭化していた。


「その炭化肉あげる」

「いらない」


 結局、炭化した肉はオレの胃におさめられた。

 なんでぇ?


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