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第59話 それぞれの思惑

「報告を聞きましょうか。碧羽」


 『岩戸』の深部。

 重大な会議を想定して作られた広大な空間に、二人の男女だけが相対していた。


 女の方は神藤(しんどう)家当主。

 笹島ちなつの従姉であり、『岩戸』の最重要権力者でもある。


 もう一人は東雲(しののめ)碧羽(あおば)

 かつて強大な『呪い』を単騎で打ち破り、『岩戸』最強と謳われる柩使いだ。


「はい。渡鹿野(わたかの)島にてアスモデウスと接敵。討伐には成功したもの、僕も想矢くんも封印はできませんでした」

「あなたたち二人でも討伐が限界の呪い。厄介ね、どうやって封印したものかしら」

「いえ、すでに封印は成し遂げられています」

「……どういうことかしら?」


 碧羽は、これを言うべきかどうか悩んだ。

 もちろん、彼には『岩戸』のメンバーとして報告義務がある。だが、今になってなお、それを真実として受け入れずにいる自分がいた。


「……柩を使う、『呪い』が現れて横取りしていきました」

「なんですって?」


 超常の柩(パンドラ)は人が『呪い』に対抗する最終兵器だ。それを相手も使ってくるというのは、言葉にするなら悪夢である。

 碧羽が受け入れがたかったように、神藤もまた報告の信ぴょう性を疑っている。


「さらに、楪灰想矢による証言ですが、柩を使う『呪い』は過去にも出現していたそうです」


 それは、柩を所有する呪いが一体だけではない証左。神藤は頭痛に頭を悩ませる。


「わかったわ。他に報告することはあるかしら?」

「……それは」

「歯切れが悪いわね。剛毅果断が人の形をしているとからかわれたこともあるあなたですら悩むようなことがあるの?」

「ええ」

「……はぁ。まあいいわ。次の会議までに、報告すべきかあなたの胸の内にしまっておくべきか考えておいて」


 その一言が、きっかけだった。


「楪灰さんとは連絡を取れる? できるだけ早く――」

「神藤様」

「――なに?」


 ――みんなには、秘密ですよ?


 想矢と交わした約束。

 できるなら、破りたくなかった。

 だけど、これは黙認できない。

 彼が判断を下せるほど、事態は小さくない。


「楪灰想矢は、『呪い』と同化し始めています」

「……ぇ?」



「想矢ー!! 山に行こう!! 山!!」

「テンションたけぇ」


 麒麟と対峙してから数日たったころだった。

 そろそろ4月も終わり、世間一般にGWが始まるころ。

 ちなつが旅行計画を立てているのを知った。


「だー、もう。だから毎年言ってるだろ。柩使いに盆も正月も無いって。GWだって例外じゃねえよ」

「うんー!! でもねでもね? 今年はお従姉(ねえ)ちゃんが許可をくれたんだぁ」

「は? 神藤さんが? 嘘はもっと上手につけよ」

「むー! 嘘じゃないもん!! だったらお従姉(ねえ)ちゃんに直接聞いてみてよっ」


 ちなつが地団駄を踏んで駄々をこねるものだから、メッセージアプリで神藤さんに確認する。

 秒で既読がついて、業務に関係ないことで連絡してしまったことにいまさらながら若干の罪悪感が走る。


 少しして、堅苦しい文章が送られてくる。

 別に長くもない文章だったけど、それでもあえて要約するのならこんなものだった。


『GWはちなつの相手をしてあげてください』


「マジじゃん」

「ねー? 言ったでしょ!?」


 マジでか。

 あの1に人類存続、2に平和、3,4が『岩戸』で、5に職員みたいなあの人が、『岩戸』としての活動よりちなつのわがままを優先したのか。

 神藤さんってもしかして相当のシスコン?

 いや、従妹だからカズコン?


(……! なんだ、このプレッシャー)


 背後から重圧がかかる。

 まるで麒麟と対峙した時みたいな感覚だ。

 まさか、学校にまで!?


「……ふーん。男女が二人で旅行ね。せいぜい楽しんできたら?」

「……あの、紅映、さん?」


 違った。

 紅映だった。


「なに?」

「怒ってます、よね?」

「は? どうして私が怒らないといけないわけ。別にあんたの彼女ってわけでもないのに。私なんてほっておいて二人でイチャコラしてきたらいいでしょ?」


 あかん。

 これやばいやつや。

 紅映一人で『呪い』を生み出しかねないぞ、これ。

 手遅れになる前に手を打たないと……。


「えー! くーちゃんも一緒に行こうよー!」


 ちなつが言った。

 空気が一瞬で和らいだ。


「えっ! いいの!?」

「うんっ! だって、みんなで行った方が楽しいもんね!」


 すげぇ。

 さすが、世が世なら『岩戸』を統べる者になっていただけのことがある。

 『呪い』が生まれる前にはらうなんて、ちなつさん、まじ尊敬っす。


「しょ、しょうがないわね。私も暇じゃないんだけど、しょうがなくついていってあげるわ」

「ほんとう!? ありがとうくーちゃん!」


 紅映はバツが悪そうにうつむいた。


 今回の勝負、ちなつの勝利。


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