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第55話 天月悠斗って誰?

 渡鹿野(わたかの)島は三重県の東にある人口300人にも満たない小さな島だ。

 外形はハートマークを崩したような形をしていて、大部分は自然が占めているが南東に小さな町がある。


 ここが、天月(あまつき)悠斗(ゆうと)が生まれ育った町、か。


 足を踏み入れて抱いたのは、まあ三重県ってこんなものだよなっていうありふれた感想。

 よく都会から来た人が四日市の人だかりを見て三重県って廃れてるねって言うけれど、四日市は栄えてる方なんだ。それ以外の町を知らないからそんなことが言えるんだ。

 一般的な三重県を知っている俺から言わせてもらえば、その島はやっぱりよく見知った三重県でしかなかった。


「さて、そろそろ聞いてもいいかな」

「なんです?」

「この島に来た理由だよ」

「だからそれは計算から導き出して……」

「まさか、あの一瞬で紐解いたわけじゃないだろう?」


 横目に、碧羽さんと目が合った。

 怒っているわけではなさそうだ。

 ただ純粋に気になっているといったところだろうか。


 平方根の階差数列がパッと浮かぶようならそいつはただの変人だ。

 いったいどれだけ数字漬けの生活を送ればその境地にたどり着けるのやら、オレには想像もできない。


「ずっと昔に遊んだゲームに、同じ手口が使われていたんですよ。当時は階差数列が何かよくわかってませんでしたけど」

「へぇ、興味深い話だね。ちなみに、なんていうタイトルだい?」

「ぱん……、黙秘します」


 あぶねぇ。

 タイトルを口走ってそのゲームが存在しなければ確実に怪しむだろうし、もし仮に実在していたらアダルトゲームをずっと昔に遊んでいたことがばれてしまう。

 とりあえず成人するまでは黙っておこう。


「えぇ……教えてくれてもいいじゃないか」

「ダメです! 世の中には知らない方がいいことがあるんです!!」

「そうやって言われると、余計に気になるなぁ」

「絶対に言いませんから! それよりほら! 先を急ぎますよ!!」


 碧羽さんから逃げるように、その場を走り出した。

 だけど、数歩進んだところで足を止めた。

 それは碧羽さんも同じらしい。


「……碧羽さん、今、変な感じしませんでした」

「したね。異世界に足を踏み入れた時とよく似た感覚だ」


 オレはうなずいた。

 ちなみに言っておくけれど、異世界っていうのはナーロッパとかの話じゃなくて例えば黄泉比良坂(よもつひらさか)とか、きさらぎ駅とかそういうタイプの異世界ね?


「ビンゴみたいだね。アスモデウスがここにいるのは間違いないだろう」


 アスモデウスの犯行時間は日没から夜明けまで。

 つまり夜の間だけ。


「手分けして探しますか?」

「そうだね。アスモデウスが活動を始める日没までは別行動にしよう。日没には当初の目標地点に集合。いいかい?」


 スマホに表示された時間を確認する。

 15:00を示す文字盤。

 あと3時間くらいは猶予がある。


「分かりました」


 そういって、碧羽さんとは分かれる。

 さて、どうしたものか。


 人を殺しに来る以上、夜には町にいるはずだけど、果たして今も人里で身を潜めているのか、それとも山奥で息をひそめているのか。

 ゲームだと日が暮れてからが始まりだから、その辺までは言及されていない。


(せっかくだから、天月悠斗を探してみるか)


 ゲーム通りに進むとしたら、アスモデウスは彼のもとにやってくる。アスモデウスを探すのも天月悠斗を探すのも同じことなら、人里に住んでいるはずの天月悠斗を探す方が手っ取り早い。



 これまで、ゲームの登場人物とは割とあっさり出会えて来た。

 だから今回も、割とあっさり見つかってしまうんじゃないかって、根拠もなく、なんとなくそんな風に思っていた。


「……いない?」


 たまたま歩いていた老人に「天月さんのおうちはどちらでしょう」と聞いた結果、返ってきたのはそんな言葉だった。

 いわく、長く町内会に携わってきたけれど、渡鹿野島に天月姓の人は住んでいないというのだ。


「そんなはずは」


 しばらくその老人に食い下がると、老人はついて来いとその人の家まで案内してくれて、戸棚から島民の苗字が記載された渡鹿野島の地図を見せてくれた。

 隅から隅まで探したが、たしかに天月という文字はどこにもない。


(……どこまでがゲームで、どこからが現実なんだ)


 結局、その老人には謝罪と感謝の言葉を残し、再び町に出た。港に出れば、真っ赤に燃える空が海を赤く染めている。


「天月悠斗って、何者なんだ」


 どうしてオレは、彼が存在する前提でいたんだろう。分かっている。『ぱんどら☆ばーすと』の主人公だからだ。


 他のヒロインがいるんだから、主人公もいるもんだって、オレはそう、そう、思って。


(そういえば、男キャラに目が描かれていると萎える人って結構多いんだっけか)


 気持ちはわかる。

 そしてその理論で行くと。


(天月悠斗は、プレイヤーの分身で、実在しない、そういうことなのか)


 天月悠斗がいないなら、だれがアスモデウスを封伐するんだろう。


 いや、例えば碧羽さんが封伐するのかもしれないけれど、それはこの周回でたまたま彼が生存していたからで、じゃあ碧羽さんも神藤さんも生き残っていない世界だったらどうなってたのって話。


 原作だとちなつが戦っていたけど、一人では倒せずにいた。

 もしかして、何もせずにいたらアスモデウスがやってきた時点でゲームオーバー?

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