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第51話 神を冠する呪い

 青龍が異変に気付いたのは、スキルをレジストされたタイミングだった。


 青龍のスキル【フォールン・ナイトメア・アリス】を彼女は「夢」と表現したが、実際に体感する幻想は対象の神経系に直接作用するために現実と妄想の境界が存在しない。

 彼女がスキルを行使したが最後、彼女が解除する以外に夢から覚める術はない、はずだった。


 抜かりはなかった。

 彼の記憶に鍵をかけ、心に傷を負わせ、依存するように仕向けた。

 手駒に堕とすまであと少しだった。

 もはや抗えない、確定した未来のはずだった。


 だが、すべてが瓦解した。


「――――」


 そこに、幽鬼がたっていた。

 闇より黒い漆黒の瘴気をまとう、鬼がいた。

 星空を黒のペンキでぐちゃぐちゃに塗りつぶしたような黒い瞳、水浴びをしたカラスのように妖艶な黒い体毛、ゴムと発泡スチロールを灯油で不完全燃焼させたように黒い影。


「あはぁ」


 少年だった何かが、笑みを浮かべた。

 人から畏怖されるべくして生まれた青龍でさえ、恐怖を覚えるようなおぞましい笑みだ。


(【フォールン・ナイトメア・アリス】で堕天した? 完全に堕とす前に術が切れたように思えましたが)


 あまりの豹変ぶりに警戒レベルを吊り上げる。

 次の瞬間、青龍の右肩から先が消滅していた。


「……は?」

「くっふふ、くはは、くはははは!! ようやく、出てこれた」

「……もし、そこのおかた、あなたはいったいどちら様ですか」


 とはいえ、元が負のエネルギーの塊である青龍にとって肉体の損傷などかすり傷にすぎない。あらかじめ蓄積しておいた呪力を消費して、欠損した腕を復元する。


「ボクかい? くはは、これから消えゆく命がそれを知ってどうするんだい?」


 青龍の本能が叫び声をあげた。

 コレは危険だ。

 手を出すべきではなかった。

 今すぐこの場から離れろ。

 そんな警鐘がガンガンと頭を揺らしている。


 だが、そんな思考とは裏腹に、彼女の体は指一本動かなかった。蛇に睨まれた蛙のように、金縛りにあったかのように、影が地面に縫い付けられたかのように、彫刻と化してしまったかのように、体の動かし方を忘れてしまったかのように、一切の動きを封じられた。


「そうだねぇ、まず、手始めに。『跪け(ヒザマズケ)』」

「っ!? ぐあっ!?」


 代わりに、目の前の異形の言葉に体が勝手に従った。膝を折って、地にひれ伏し、こうべを垂れる。


「ボクの宿主をもてあそんだ罪は重いぞ。下等種」

「うぐ、あ、ああぁぁぁっ!!」

「お? (ボク)の言葉に抗えるのかい? くはは、おもちゃにしては優秀じゃないか」


 無理に体を動かした。

 関節からゴキリと嫌な音がして、曲がってはいけない方に四肢が曲がる。損傷を復元して、青龍は、少年だった異形に食らいついた。


「がぁ……ぜぇ……はぁ」


 懐から青龍刀を抜き身にして、黒い影に突き立てる。

 黒い影はただ漫然と右手を青龍刀の描く軌跡上に翳すと、素手でそれを受け止めた。

 ぬぷりと、切っ先数センチメートルだけが、彼の手のひらをつき貫く感触が伝わってくる。


「……ん?」


 影は不思議そうに呟いた。


「へぇ、ボクに傷をつけられるなんて。くはは、さすがは、『次回作のキャラクター』といったところかな?」

「『次回作』? 何の話ですか」

「くっはは、いや。君が知る必要はない。ただ」


 黒い影が、何かを取り出した。

 一見してその正体に気づく。

 漆塗りの柩だ。


「『初代ラスボス』として、ボクは君の前に立ちはだかるだけだ」


 バーストがおもむろに柩を開く。

 内包されていた闇色の瘴気があふれだし、かの『呪い』に文字通りの翼を授ける。

 片翼だけでも、どこまでも続く大きな翼。

 フリカムイの『呪い』だ。


 神を冠する『呪い』が、神を冠する『呪い』をまとったのだ。


「遊んであげるよ。10秒間だけね」


 勝てない。

 青龍は先ほどから脳内に響き渡る予感が真実だったと確信する。ここにきて逃亡を試みる。

 だが、魔王からは逃げられない。


「きゃあぁあぁあぁっ!!」

「あっはは! ほら、早く復元しなよ! 文字通り消滅しちゃうよ?」

「やめ、たす、いたい、やだ、どうして」

「どうして……? くっはは、そんなの、わかり切っているだろう?」


 ぐしゃり。

 バーストが青龍の頭を踏み抜いた。

 飛散した瘴気が再び収束し、頭部を再構成する。

 それをまた、バーストは踏みつぶす。


楪灰(ゆずりは)想矢(そうや)に先に目を付けたのはボクだ。人として彼の一番になれなくても、『呪い』としての一番は譲らない。お前が泥棒猫だったから排除した。それ以上の意味もそれ以下の理由もない」

「やだ、消えたくない、お願い、たすけて」

「くっはは。『呪い』が命乞いかい? それはまあ滑稽でなかなか愉快ではあるね。ボク好みの展開ではある」

「で、でしたらっ!!」

「でもダメ」


 縋るように伸ばした青龍の手を、バーストは煩わし気に払いのける。

 そんな所作でさえ、青龍の半身が吹き飛ぶには十分な殺傷力を内包していた。


「ボクが消すと言った以上、お前の死は絶対だ」

「あ、ああっ、あああぁぁぁぁあぁっ!!」

「死ね」


 バーストから黒い光があふれたかと思うと、次の瞬間には訪れるべき結末が訪れていた。

 青龍の消滅という、結末が。

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