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第50話 悪魔と相乗り

 気が付けば、真っ暗な空間にいた。

 光の届かない深海のように暗く、静寂が重くのしかかるようだ。


 いや、よくよく見れば、目の前に紫黒の格子が見える。近寄って覗いてみると、そこに黒い影があるのがわかる。


「……バースト」


 顔を猫に挿げ替えたような、人型の呪いがとらわれていた。囚われの身でありながら、まるで王のようにどっしりと腰をおろしていて頬杖をついた顔で三日月のような笑みを浮かべている。


「やぁ。はじめまして、だね。楪灰(ゆずりは)想矢(そうや)

「ここはいったい。オレは、柩に封印されたのか?」

「いいやぁ? 君の体は現実世界で眠っているよ。ここはそうだね、精神世界とでも呼んでおこうか」

「……どうして急にオレの夢に現れたんですかねぇ」


 純粋な疑問を投げかける。

 バーストはただでさえ笑みを浮かべていた口角をさらに歪に吊り上げると、高らかに笑った。


「くはは、違うよ。ようやく準備が整ったと言えばいいのかな?」


 ひとしきり笑うと、バーストは口端をキュッと結びなおし、真剣なまなざしでオレを見据えた。


「おかしいとは思わなかったのかい? ボクという呪いを使い、神の領域に半歩踏み込んでおきながら、その反動がただの身体疲労だけ? 都合がよすぎるとは思わなかったのかい?」

「……それは」


 たしかにそうだ。

 本来なら、もっと強力な反動で、オレの体はすでにぼろぼろになっていても不思議じゃない。

 だけど、今日に至るまで、オレの体に異変という異変は起こっていない。


 あり得るとすれば、それは。


「そう、ボクが反動を軽減してあげていた」


 呪い自身が、術者をかばっている場合だけだ。


「くはは、どうしてそんなことをって顔だね。簡単なことさ。退屈だったからだよ。見てみなよ、何もない部屋。こんな空間に、独りぼっち」


 自嘲気に、バーストが息をこぼす。


「それじゃあ、つまらないだろう?」

「バーストの言い分はわかった。でも、それとオレを生かすことがどうつながる」

「そこが大事な点だよ」


 バーストは手のひらを顔の横に持ってくると、指を外側から一本一本折って握りこぶしを作った。


「本来、柩に封印された呪いは外界に干渉する術を失う。これは君もよく知っているだろう? だから、端末を作る必要があった」

「……待て、それはつまり」

「くはは、気づいたかい? そう。君がボクを呼び出すたびに、君の魂に少しずつパスを繋げていったんだ。それが結実し、ようやく君に語り掛けられるようになったわけ」


 術者に死なれちゃ、そんなこともできないだろう?

 バーストはそう言うが、そもそもそんなことができる『呪い』なんて、バーストを除いてほかにいない。


「さて、ここからが提案だ。楪灰(ゆずりは)想矢(そうや)、取引をしよう」

「そんな見え透いた罠、誰がかかるかよ」

「くっはは、取引だと言っているだろう? 君にも利がある話さ。聞くだけ聞くのが吉じゃないかい?」


 ……そうだな。

 バーストの意図が読めない今、状況を判断する情報は一つでも多く知っておきたい。

 あくまで取引の形を主張するのなら、駆け引きの余地も残っているはずだ。


 オレは黙ってうなずき、先を促した。


「とはいえ、どこから話したものか。……そうだね、君の状況について説明しておこうか。まず、ここが君の精神世界。現実の君は、幻術の悪夢にうなされている」

「……そうだ、青龍!」


 欠けていた記憶のピースが、かちりとハマる感覚。


「思い出したかい? くはは。まあ。おかげで君の精神が弱ってこうして干渉できるようになったわけだけど、それはそれとして――」


 バーストが一つ息を吸って、驚くほど固い声を出した。


「――面白くないんだよね」


 バーストが、重い腰を上げるように立ち上がる。

 のしのしと、格子に向かって歩み寄る。


「最強はボクだ。野良『呪い』ごときが、身の程を思い知れ」

「……ああ、そういうことか。つまりバースト、お前の望みは」

「そう。君の肉体だ」


 また難しい要求を。

 そんな、世界を危険にさらす責任を、オレに取れるのか?


「別に、何も恒久的な支配権を要求するわけじゃない。そうだね、ひとまず、君の体感時間で3分。今回はそれで十分だ」

「そんなの、お前に何のメリットがある」

「久々に外の世界に出られるんだよ? 理由なんてそれだけで十分じゃないかい?」


 ……嘘の匂いがした。

 そんな予感があった。


(バーストに体を貸すということは、一時的にとはいえ現実世界に災厄を降臨させることだ)


 体内時間で3分という表現は、【アドミニストレータ】の時間停止を考慮してのことだろう。

 体の支配権を譲ってる間に世界の時間を止められたら一生肉体が返ってこないことになる。

 それを防ぐための言い回しだろう。


「一つ、条件がある」

「なんだい?」

「現実世界で相手にしていいのは、『呪い』だけだ。人を襲うのは許さねぇ」


 これだけは、譲れない。


「くっはは。『呪い』にそれを言う?」


 バーストはくつくつと笑ったかと思うと、少しずつ、笑い声を大きくしていった。

 たいそう楽しそうに笑うと、続けてこう言った。


「ははっ、いいよ! それで!」

「……約束は、守れよ?」

「くはは、もちろんさ。悪魔は契約を重んじる生き物なんだぜ?」


 オレと、バーストを隔てていた格子が、音を立てて崩れていく。

 黒い世界が、不安定に崩れていく。

 現実世界に意識が戻り始めているんだろう。

 長くこの場には居合わせられない。


「……ああ、そうだ。バースト、ひとつ、言い忘れていた」

「ん? なんだい?」


 オレは右手に握りこぶしを作ると、バーストに向けてかざした。

 バーストが、きょとんとした顔をする。


「力を貸せよ、バースト」

「……ははっ、そういえば、そんな言葉から始まったんだったっけね」


 バーストが、鏡合わせのように拳を突き合わせる。


「いいよ。世界最強の証明を、刮目するがいい」


 世界が、音を立てて、弾けた。

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