第46話 柩使いの『呪い』
結局オレは、青龍というやつに続いてその場を後にした。
下手に刺激しない方がいいと思ったからだ。
今は友好的に見えるけれど、オレの本能的な部分は警戒を強めろとオレに指示を出している。
(物々しい雰囲気。
だけど、呪いじゃない、のか?)
相手の正体がつかめない。
直感は呪いだと告げているが、理性的な部分が否定している。
なぜか?
答えは簡単だ。
(呪いは下級のものからうえはバーストまで、共通して黒い)
もちろん、上位になればなるほど彩も増えたりするが、黒を基調にしたデザインであることに変わりはない。
(だけど、こいつは青い。風格こそ呪いのそれと似通ってるけど、風貌は)
計り知れない。
だから今は虎視眈々と様子をうかがうのみだ。
おかげ横丁にいたら、そこにいる人たちまで危険に晒しかねない。その点、オレ一人ならやりようはいかようにもある。
「なあ、どこまで行くつもりだ?」
「……そうだね。そろそろいいかな」
周囲に人の気配はない。
気づけば無人の場所についていた。
「単刀直入に申しましょう。楪灰想矢様」
そういえば、結局、こいつがどうして俺の名前をしてるのか聞いてない。
「わたくしたちの、仲間になりませんか?」
「……は?」
仲間? 仲間、だと?
「くす、そう警戒なさらないでくださいませ。せっかくの整った顔立ちが台無しですわ」
「……ほっておけ」
「くす、つれないお方ですね」
青龍はからからと笑った。
いや、笑みを張り付けたというべきか。
笑ってはいるけれど、そこに喜びや楽しみの感情は読み取れない。
上っ面の笑顔。
「そもそも、あんた何者だよ」
「くす、わたくしのことはどうぞ青龍とお呼びくださいませ」
「……青龍さんは何者?」
彼女には、有無を言わせぬ気迫があった。
一つ歯噛みして、改めて問いかける。
「何者か。それは難しい問いでございます。楪灰想矢様は、ご自身が何者かを言葉にできますか?」
「ザ・モブキャラ」
「御冗談を」
……ふむ。
オレの同類というわけではなさそうだ。
「そうですね、わたくしを言葉にするのなら」
言葉を吟味するように間をおいて、青龍は口を開いた。
「呪いを超越した存在、とでも申しましょうか」
その言葉に、ピンとくるものがあった。
半面、論理的な思考はあり得ないとそれを否定している。
「……まさか、『凱旋門』の人間か?」
あり得ない。
あり得るはずがない。
『凱旋門』の「『呪い』に適合する」という指針は、土蜘蛛に操られたメアリが画策した故のものだ。
だが、この時間軸において、牌羽メアリは土蜘蛛の呪縛から解き放たれたいる。
『凱旋門』が、『呪い』を超越しようとする理由がないのだ。
「くす、そんなちんけな組織ではございませんわ」
「なんだと」
『凱旋門』は、呪いに関係する組織の中でもっとも規模の大きな組織だ。それをちんけと称する?
(……オレの知らない、組織?)
オレもまだ『ぱんどら☆ばーすと』をやりこみつくしたわけじゃない。
だからそういう組織があってもおかしくはない。
だけど、少なくともこれまではそんなの出てこなかった。
「少し、話をしましょうか。『呪い』や超常の柩についてはご存じですね?」
「ああ」
『呪い』は生物の悪感情から生まれる害意で、超常の柩は人が『呪い』と戦うためのツールだ。
そう答えれば、青龍は満足そうにうなずいた。
「では、こう考えたことはございますか?
――もし『呪い』が、超常の柩をつかったら?」
「……は?」
背筋に、嫌な寒気が走った。
待て、なんだそれは。
「まさか、お前」
冗談だろう?
そんな、そんなことがあり得るっていうのか?
「くす、ご想像の通りでございますわ。わたくしは『呪い』であり、同時に柩使いでもあるのです。ゆえに、『呪い』を超越したものなのです」
……超常の柩は、人類が『呪い』と戦うための唯一の手段だ。
理由は人が『呪い』に対してあまりにも脆弱すぎるから。
だとするならば。
「改めて伺いましょう」
青龍が言う。青龍が言う。
「楪灰想矢様。わたくしたちの仲間になりませんか?」
超常の柩を手にした『呪い』を相手に、人はどう立ち向かえばいい。





