第41話 天草椛の未来を知る
「いや、さすがに『岩戸』はまずくないですか?」
「大丈夫。『岩戸』には呪いに両親を殺されたみなしごを擁護する施設があるから。ほら、想矢くんを呼びに行った女の子がいただろう?」
「あー」
あの狐のお面をかぶった大人びた子か。
なるほど。
どういう理由であんな幼い子が呪いに関連する組織に所属しているのかと思ったらそういうことか。
てっきり神藤にまつわる家の子供かと思った。
「いや、それでも、仮に受け入れられたとして『岩戸』はいやでも警戒せざるを得ません」
「大丈夫さ。この呪いは理性がある方みたいだし、少しすれば警戒も緩むだろうさ」
「碧羽さんは楽観的過ぎます」
こっちとやりあってもらちが明かない。
「呪いさんの方はどうなんですか。『岩戸』に――柩使いが集まる組織にやってきて、何もせず、おとなしくできますか?」
「……それで、この子が自由に生きられるなら」
「一つ、断言します。生きていて、楽しいことばかりなんてことはあり得ない。友達と喧嘩をしたり、大事な試合に勝てなかったり、辛いことや苦しいことっていうのは、生きている限り、必ず付きまといます」
幸せを願うことは、不幸を呪うことだ。
この世はどうしようもない理不尽や不条理であふれかえっている。
不合理だらけの世界で戦わなければ、その先の未来はつかめないんだ。
「その時、誰も恨まずに、椛ちゃんが自力で立ち上がれるまで見守ってあげられますか?」
「それは、……無理ね。この子がつらい目にあうのなんて、見ていられない」
これがただのモンスターペアレントなら、いかようにもやりようはあったのかもしれないけれど、相手は文字通りのモンスターペアレント。
人死が出るリスクを無視なんてできない。
「と、いうことです。オレは反対しますよ」
あそこにはちなつの従妹さんもいるし、碧羽さんもいるし、オレにとっては守るべき場所だ。
そんなリスク、背負えない。
「じゃあどうするんだい」
「考え中」
なんか、どうにかできないもんかな。
というかなんだ、その二次元から飛び出してきましたみたいな設定。
人を殺す存在を生み出して育ててもらいましたとかキャラ濃すぎるだろ。
なんで『ぱんどら☆ばーすと』に出てこないんだ。
(ん……? 本当に、出てこないのか?)
オレはかれこれ何周も『ぱんどら☆ばーすと』をクリアしているけれど、いまだにストーリーの全貌は見えてこない。
(未だにオレが原作内で出会えていないだけのキャラの可能性は?)
最近のゲームには、隠しキャラというのが存在する。
2周目でなければ会えないキャラ。
低確率でしか出会えないキャラ。
特定のイベントでしか手に入らないキャラ。
もし、彼女もその手の類なのだとしたら?
(試してみるか。【アドミニストレータ】)
*
と、いうわけで。
ニューゲームをしてみた。
結論から言おう。
「いたわ。思いっきりいたわ」
攻略対象に天草椛は存在した。
「いや、だって熊野でイベントなんて起きないし、わざわざ行かないじゃん、こんなとこ」
わざわざ何もない場所に行かないと出会うことすらかなわないんだ、このキャラ。
「そしてこのルート進むとだいぶ重い話になるなぁ」
人型の呪いは少ない。
きわめて貴重で希少な戦力。
これを『凱旋門』は呪いの繁栄のために自軍に引き込もうと日本に襲来し、『岩戸』と『凱旋門』の対立は深刻化。
柩使い同士による未曽有の戦争が勃発することになる。
「まぁ、原作時空の『凱旋門』が土蜘蛛に乗っ取られた世界の話で、メアリを土蜘蛛から解放した現実だとこんな悲劇は起こらないと思うけど」
椛は訳も分からないまま闘争に巻き込まれ、心を許しかけた人を失ったり、信じた人に裏切られたりして心をすり減らし、呪いの器として完成させられてしまう。
そして、顔のない母親の呪いとともに、世界の支配者として祭り上げられる。
バッドエンドだとこのまま彼女が世界を統べる女王となり物語は幕を下ろす。
ハッピーエンド、かどうかはわからないけれど、もう一つのエンディングでは争いを終結に導くことになる。
その結果、愛する母親の呪いとは決別しなければいけなくなり、罪の意識からか、心の傷が癒えるのを待っているのか、彼女は覚めない夢を見続けることになる。
そりゃ、世界から見ればハッピーエンドかもしれないけれど、そこに彼女は含まれていないじゃないか。





