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第39話 呪い封伐戦

 呪いが薙刀を振り上げ、振り下ろした。

 ただそれだけ。

 それだけで、空間に亀裂が走り、かまいたちが迸った。


(くっ、させるか。【時空魔法】≪捻転≫!!)


 碧羽さんと呪いを結ぶ一直線上に、空間のひずみをつくる。

 ひずみに沿って進行方向が書き換えられたかまいたちは明後日の方向へと伸び、碧羽さんに一切の傷を負わせることはなかった。


「くす、出てこないからもう一人の坊やは戦う力のない重荷かと思ったのに、存外やるのね」


 呪いがケタケタと笑う。

 坊やって、そこまで知られてんのかよ。


「……ちっ、やっぱりバレてんのか」


 隠れていたってしょうがない。

 オレも身を乗り出し、碧羽さんと肩を並べて呪いと対峙する。


「想矢くん。あの呪いを封伐できるかい?」

「なんとも。ただ、ものすごく難しいでしょうね」


 相手はここを自分の庭と称したけれど、あれはただの比喩ではないんだろう。

 おそらく、この一帯には呪いが敷いた結界が張り巡らされている。

 おそらく、感知タイプの結界。

 視覚や聴覚とは異なる、呪力による相手を知覚する第六感が相手には備わっていると考えればおおよそ正しい認識だ。


「……【時空魔法】≪捻転≫」


 オレと呪いの間の距離を歪ませて、おおよそゼロ距離に書き換える。虚空から剣を取り出し抜刀する。

 空間が歪んでいると知らなければ、刃が目の前に迫っていると気づいた時には首がはねられているような反応不可避の一撃。


「くす、あぶないわね」


 だが、呪いはその一刀をあっさりと回避して見せた。

 刃が届くと思ったその瞬間、影のように夜の闇に姿が掻き消えたのだ。


(それなら、【アドミニストレータ】!)


 時間を止めて、再び刀を振るう。


(なっ)


 確かに、時間を止めたはずだった。

 現に、目の前の呪いは指一本動かさずに呆然と立ち尽くしているだけだ。

 だが、手ごたえが全くの皆無だった。


(なんだこの、霧でも斬り付けたような感触)


 刃が通ったところだけが裁断された布のように虚空に消えている。

 静止した時間の中でも、攻撃を通せない相手。


「あら? よけたつもりだったのだけど」


 【アドミニストレータ】を解除すると、切り裂いた部分に靄があふれ、呪いは何事もなかったかのように再びその場に悠然と立った。


「……不意打ちは不可能。攻撃は回復能力によって無効化される。まず、攻撃を通す手段から模索しなければいけません」

「そうみたいだね。僕が援護に回るよ。想矢くんは、ただ刃を通すことに専念してくれるかい?」

「はいっ!」


 相手の能力は不透明だ。

 だが、すべての攻撃が通らないと決まったわけじゃない。

 そう、例えば――。


(相手が攻撃するタイミングだったら?)


 オレは一度納刀すると抜刀術の構えに移った。


 先の一撃、やつは間違いなく薙刀で空間に干渉した。

 少なくとも、実体を持っている時間が少なからず存在するわけだ。

 そのタイミングならどうだ?


「くす、あなた一人でわたしの攻撃を捌き切るつもり?」

「ああ。なにせ、肩書は英雄だからね。大事なものは、すべて守り切ってみせる」

「はっ、いきがりが」


 呪いが再び薙刀を振るう。

 空間が裂け、真空波が碧羽さんに襲い掛かる。


超常の柩(パンドラ)、いくぞ!」


 ずどんと山鳴りがして、碧羽さんの姿がかき消える。

 先ほどまで碧羽さんがいたところには小さな陥没後だけが残っていて、呪いが放った斬撃は虚空をただ引き裂く結果に終わった。


「っ、上ね!!」

「セイヤァァァァ!!」


 次の瞬間、闇色の夜空を背中に背負った碧羽さんが空から飛来した。片足を呪いに向けて突き出した、ドロップキック。


 音さえ置き去りにするような速度で叩き込まれた一撃は、山の斜面を抉り、落ち葉を宙に巻き上げた。


「今のは驚いたわ」


 だが、呪いは全くの無傷で立っていた。

 ダメージが通らなかったのではない。

 そもそも、攻撃が当たらなかったのだ。


 碧羽さんの一撃が入ると思われた、その瞬間。

 まるで陽炎のように呪いの姿が描き消えて、碧羽さんが通り過ぎてから何事もなかったかのようにそこに現れたのだ。


「……驚いたのは僕も同じだね。まさか『蝗害(こうがい)』を使っているのに、攻撃が届きもしないなんて」


 碧羽さんがバックステップを踏み、オレのそばに来た。


「くす、子を思う母の強さ」


 そして、瞬きの間に、呪いが碧羽さんの目の前に迫っていた。

 薙刀はすでに振り上げられていて、自重による一撃が、いままさに碧羽さんに襲い掛かっている。


「しかとその目に焼き付けるといいわ」


 ごり、と。

 嫌な音がした。


 何の音?

 骨が断たれる音だ。

 碧羽さんの肩口から、鮮血が吹き上げる。


「……つかまえた」


 碧羽さんが、にぃと笑った。

 呪いの、骸の顔に驚愕の色が見えた気がした。


 そして、オレの一刀が届いた。


「ナイス想矢くん。助かったよ」

「あんまり無茶しないでくださいよ!! 死んだらどうするんですか!!」

「死ぬ? ふふっ、この程度じゃ死なないよ」


 碧羽さんの傷口が、もこもこと修復していく。


「僕には、君から預かった人魚の呪いがあるからね」


 碧羽さんの作戦は、彼の再生力を前提にしたものだった。


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