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第26話 牌羽メアリ

 牌羽(はいはね)メアリの話をしよう。

 『ぱんどら☆ばーすと』における西洋陣営『凱旋門』の主要人物の話だ。


 彼女を一言で表すならば傀儡使い。

 肉眼では見えないほど細く、チェーンソーでも引き裂けないほど頑強な鋼線を用いて、人形を操り戦場に身を乗り出す。


 銀糸でできた艶やかな髪。

 海を飲み込んだような蒼玉の瞳。

 現実離れをした彼女の容姿は、街ゆく人々の視線を吸い寄せる。


「……」

「想矢? どうかした?」


 いつもと同じ通学路。

 隣を歩くちなつが、不思議そうにオレを呼ぶ。


「いや、なんでもないよ」


 オレは小さく首を振る。


(気のせいだよな。牌羽メアリがいたなんて)


 視界の端に移った気がした、銀色を気のせいだと結論付けて、オレたちは学校に向かった。



「転入生を紹介する。入ってきてくれ」


 ガラガラと扉がひかれる。

 まず、目に入ってきたのは銀の髪。

 切れ長で藍色の瞳。

 そして、年齢離れしたおっぱい。


「わたくしは牌羽(はいはね)メアリと申します。以後、お見知りおきを」


 オレは思わず、手に持っていたペンを落とした。


「うおおおおお!! メアリさん!! 好きな食べ物は何ですか!?」

「どういうジャンルの曲を聴くんですか!?」

「すごい名前だけどハーフなの!?」

「ののしってください」

「転校前はどこにいたの!?」


 クラスのみんなが、やいのやいのと彼女に押し掛ける。盛りのついたサルのような男たちを前に、牌羽メアリはそっと微笑んだ。

 その可憐さを前に、煩悩にまみれた男は死んだ。


「牌羽の席は楪灰(ゆずりは)、あの男子の隣だ」

「ええ、ありがとうございます」


 牌羽メアリがゆったりと歩く。

 オレを除いた男子の誰もが、時間を忘れたかのように彼女の一挙手一投足に魅入られている。

 オレはほら、ゲームでムービーを見てたから。


「よろしくお願いしますね。楪灰想矢さん」

「ああ、よろしく……あ?」


 何気なく、あいさつを返して、気づいた。


「なんで、オレの名前」


 教師はオレを、楪灰としか呼ばなかった。

 彼女がここにきてから、オレを想矢と呼んだやつはいない。

 どうして。


「ふふっ、秘密です」


 メアリは人差し指を口に当てて、いたずらな笑みを浮かべた。



「いや待てーい!! さすがに牌羽メアリと出くわすのはおかしいだろ!!」


 【アドミニストレータ】を無言で発動し、停止した時間の中で叫んだ。

 なんで牌羽メアリがおるねん。


「まさかとは思ったけど、このゲームで選択したヒロインとは現実で遭遇するようにできているのか?」


 確証はない。

 だが、オレは1周目に神藤ちなつルートを、2周目に東雲紅映ルートをクリアし、その順番通りにヒロインたちと巡り合うことになった。

 そして今現在、3周目を『凱旋門』の牌羽メアリルートで進めている。


 『凱旋門』はフランスに本部を置く西洋を中心とした組織。さすがにここのヒロインたちと遭遇することはないだろうと思ってのことだったんだが、どうして牌羽メアリがやってくるかな!?


「そしてなんでオレの名前知ってんだよ! 『凱旋門』に目をつけられてるの!? 怖すぎるんだが!?」


 がくぶる。

 オレ、悪いモブじゃないよ。


 いや、ふざけてる場合じゃなくて。


(『凱旋門』の奴らは『岩戸』と比べて過激だからできるだけかかわりあいたくないんだって)


 『岩戸』も『凱旋門』も、洋の東西が違うだけで「人類の存続」という点について同じ目的を有している。

 だが、そのための手段は大きく異なる。


 『岩戸』が「呪いを殲滅する」組織と形容するならば、『凱旋門』は「呪いによる人類進化」を目指す組織だ。


 人類の進化のためなら人体実験すらいとわない。

 あえて狂うことすら受け入れて前に進もうとする組織。

 それが『凱旋門』だ。


(モルモットは嫌だモルモットは嫌だモルモットは嫌だ)


 牌羽メアリの冷艶清美な笑みを思い出す。

 背筋が凍り付きそうだ。


「と、とりあえず、情報アドを優先しよう」


 停止した時間で、オレはゲームを再開した。

 目指すは牌羽メアリルートの攻略。

 そして、『凱旋門』からの自衛手段の確立だ。


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