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第25話 メリーさん

「ある少女が引っ越しの際、古くなったフランス人形を捨てていくんだ。人形の名前は『メリー』」


 誰にも内緒だよ。

 人差し指を口に当て、そんな決まり文句を頭において、オレは物語を紡いだ。


 オレがちなつにこの話をすることになった理由。

 それはおよそ15分前のことになる。



「想矢ー? いるー?」

「ちなつ? どうしたの?」

「あー! 昨日どこ行ってたの⁉ せっかく会いに来たのにいないんだもん!!」

「そういうことってあるよね」

「むー!! そういう時はごめんなさいでしょ!!」

「ごめんなさい」


 別に悪いことは何もしてない気がするけれど。

 昨日はちなつと会う約束なんてなかったし、今日も別に約束していたわけじゃない。


「で、何か用?」

「うん! 一緒にあそぼー!!」

「いいよ。ひとりかくれんぼにする? ひとりこっくりさんにする?」

「なんで一人遊びばっかり例に挙げたの⁉」


 おっといかん。


「あはは、ごめん。最近怖い話ばっかり読んでたから、オカルトチックな遊びばっかり出てきちゃった」

「え、怖い話なの? 想矢、怖い話いけるクチ?」

「ははーん。ちなつは怖い話が苦手なんだな?」

「そ、そんなことないもん!!」


 嘘つけ。

 『ぱんどら☆ばーすと』内でもちなつの怪談耐性の低さは言及されてたぞ。


「な、何よその顔! 怖くないって言ってるでしょ!」

「えー? 本当にー?」

「ほ、本当よ!!」



 そんな感じで怖い話をすることになった。

 ただし、かわいい話だけって条件で。


 かわいい女の子が出てくる怪談話ってむしろ怖くない? さては怪談話を知らないな?


 そんなこんなで、オレが選んだのは『メリーさん』。


「その日の夜、少女のもとに1本の電話がかかってくるんだ。『あたし、メリーさん。今、ゴミ捨て場にいるの』ってね」

「ひっ」


 ちなつの瞳が揺れる。

 声が震える。


「少女は怖くなって電話を切った」

「よ、よかった。無事だったんだね」


 ほっと息をつくちなつ。

 オレは頷き、言葉を続ける。


「うん。――その日のうちはね」

「えっ⁉」

「次の日、また電話がかかってくるんだ。『私、メリーさん。今あなたの最寄り駅にいるの』ってね」


 ちなつが奥歯をカタカタと震わせる。


「少女はまた電話を切った。だけど電話は毎日かかってきた。『あなたのマンションの前にいるの』。『あなたのマンションの2階にいるの』。『あなたのマンションの3階にいるの』。少女たちが引っ越したのは401号室だった。そして次の日、また電話がかかってきたんだ」


 オレは指をあてた口の端を吊り上げて、瞳は遠くを見つめる感じでちなつに告げる。


「『私、メリーさん。今あなたの部屋の前にいるの』」

「やだ! やだぁ!!」

「少女はいよいよ耐え切れなくなって、扉を開けたんだ。『いい加減イタズラはやめてくれ』って言うためにね」

「お、おお!! そ、それで⁉」

「そこに、メリーさんの姿はなかった」


 ちなつがほっと息をつく。


「少女もちなつみたいに、ほっと息をついたんだ。そのとき、また電話がかかってきた」

「で、でも! もうイタズラってわかってるんだよね!」

「うん。だから少女は電話に出たんだ。そしたら、またいつもの声でメリーさんが言うんだ。

『今、あなたの後ろにいるの』

振り返るとそこには! 少女が捨ててきた人形が!!」


 ちなつが大きな口を開けた。

 叫んでいるっぽいけど、声になっていない。

 人間、本当に怖いと声なんて出ないもんなんだな。


「こ、怖くなんて、ないんだからね!!」


 ちなつさんや。

 オレにぎゅっと抱き着いておりますがな。

 その強がりはちょっと無理がありますがな。


 涙目になりながらも、力強く目じりを上げて訴えかけてくる。まあ、ちょっとからかいすぎた自覚はある。いい加減引き際か。


「大丈夫だよ。ちなつには、オレがついてるだろ?」

「でも、昨日は、一緒にいてくれなかった……」

「まぁ、それを言われると弱いんだけどさ」


 神藤ではなく笹島として生きるちなつは、呪いと深くかかわらずに生きていくだろう。

 『ぱんどら☆ばーすと』内でも、一般人は呪いの存在を知らないって書いていたし、ちなつも最初オレに説明するとき、オレが呪いを信じない前提で話しかけてきた。

 それくらい、一般人にとって呪いは縁遠い。


 だから、ちなつがそこまで怖がる必要はないんだけど……。


「ちなつが危ないときはいつだって、どこにいたって、必ず駆けつけるよ。メリーさんだろうと渦人形だろうと、守ってみせるさ」

「本当?」

「本当さ」

「約束できる?」

「約束する」


 ちなつは口をきゅっと結んだ。

 それから、小指をたててオレ側に突き出した。


「じゃあ、指きりね。もし想矢が嘘をついたら、指を斬り落とすんだから」

「呪術的な指きり⁉」


 そういうのは平気なの?


「できないの?」

「やります」


 いいさ。

 何があっても守りぬくんだ。

 指を斬り落とすことになんて、なりやしないよ。


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