第1話 外れスキルはチートだった
短編(N6920GV)の連載版です。
よろしくおねがいします。
もっとも印象に残っているゲームは何ですか。
現代に生きるオレたちは、多かれ少なかれゲームに人生を左右されがちだ。ゲーム配信で収益化を目指すために学校をやめる生徒もいると聞く。
誰しも、印象に残っているゲームがあるんじゃないかな。もしかしたらそれは複数あって、どれも甲乙つけがたいものかもしれないけれど、思いつかなくて返答できない人は少数派なんじゃないかと思う。
『ぱんどら★ばーすと』
それがオレのやりこんだゲームの名前だった。
この作品に関して、オレは語るに語りつくせぬ悲喜こもごもの思いがあるのだけれど、この余白にそれを書くにはあまりに狭すぎる。
だからあえて、一言で済まそう。
オレ、このゲームの住人なんだ。
*
三重県伊勢市生まれの楪灰想矢。
12歳の時、オレはこの世界がゲームだと気づいた。
ある日、突然、ふいに。
天恵のように一つのスキルが覚醒したのだ。
『【アドミニストレータ】を習得しました』
「アドミニストレータ……?」
アドミニストレータという単語に聞き覚えの無かったオレは、周りの大人にどんなスキルかを聞いて回ったんだ。
だけど、誰もこのスキルのことを知らなかった。
学校の図書室で調べてみても、インターネットで調べてみてもそれは同じ。分かったのはアドミニストレータが管理者を意味する言葉ってだけ。
正直言って、オレはワクワクしていた。
胸が奥の方から熱くなったのを覚えている。
誰も知らないオンリーワンのユニークスキルが発現したんだ。自分は特別なのかもって思うのも、仕方のないことだろう?
「【アドミニストレータ】、発動!」
刹那、広がる視界に変化が起きた。
世界が色を失い、すべてが灰色に染まる。
粘性を帯びたように、時の流れがドロリと淀む。
プラズマが背後からオレを追い越した。
迸る燐光が折り重なり、オレの眼前で収束する。
一枚のプレートウィンドウが目の前に現れた。
「『ぱんどら★ばーすと』? はじめから? CGモード? MUSICモード? エンディングコレクション? え、オレのスキルってゲームをプレイするためだけの物ってこと⁉」
すうっと、胸の奥にあったドロリとした熱量が覚めていくのを感じた。
外れだ。大外れスキルだ。
こんなスキルがあって何の役に立つ。
むしろみんなにバレたら「遊び人」ってからかわれるだけのマイナススキルじゃないか。
冗談じゃない。
この世界の創造主はオレが嫌いなのか?
いや、いやいや。
まだ決めつけるには早い。
見た目はゲームでも、中身は別物かもしれない。
まだ希望を捨てるな。
結論から言おう。
ゲームだったわ。
主人公の天月悠斗はある日、呪いと遭遇する。
呪いとは生き物が生み出した、未練や妄執といった負の感情の総称だ。それは最初、形のない概念に過ぎない曖昧な存在だ。
だが一度人に取り付くと、記憶から実体を創造し、やがて人間を襲い始める。
呪いに対抗する唯一の手段、超常の柩を手にした主人公は、平凡な日々から戦いの日常に巻き込まれていくのだった。
ぶっちゃけ言おう。
「めっちゃおもしろい」
このゲームのキーアイテムとなる超常の柩で封印した呪いは、箱を開けることでその力を自分に宿せるのだ。これを利用し、主人公はより強力な呪いと戦っていくことになる。
強力な呪いには強力な反動があり、使うタイミングを見極めなければいけない。戦略的要素もある。
ゲームシステムもストーリーも面白いんだ。
ただ、ただね?
『ひゃ……あっ……ダメぇ……、んぁ、やぁ……』
ヒロインが徒手空拳の鍛錬を積んでいるだけの健全なシーンだ。やましいことは何もない。だが一つだけ気になることがある。
「この神藤ちなつってキャラ、同級生の笹島ちなつに似てるな」
順当に成長すればこうなるだろうなって未来図がそこにあった。苗字こそ違うが妙な縁みたいなものを感じる。
オレはちなつルートを進めることにした。
他にも攻略対象のヒロインが大勢いて、おそらく複数人攻略ルートとかもありそうな雰囲気だ。だけどそれは2周目以降でいいや。今回はちなつ一筋で行く。
気づけば夢中になって遊んでいた。
どうせ現実の時間は停止したままだ。
誰はばかることなく好きに遊ばせてもらおう。
「ぐあっ、ゲームオーバー!!」
意外とこのゲーム難しい。
結構まじめに取り組んだのに割とあっさり敗北してしまった。
あ、エンディング流れるんだ。
ゲームオーバーでバッドエンドが流れるタイプのゲームなのね。
「ん? なんだこれ。実績解除、エンディングを1パターン解放。タイトルに【エディットモード】が解放されました?」
エディットモード?
何かを編集する機能かな?
一度タイトルに戻る。
見れば選択肢に、エディットモードが追加されていた。オレはなんとなくエディットモードを起動する。
「……は? オレ?」
ディスプレイに映し出されたのは、オレの姿だった。年齢、住所、それから、オレすら知らないステータス。それらが画面に表示されていた。
「所持金2500円て、なんでそんなことが分かって……いや、これオレのスキルだったか。だったらそれがわかっても当然。でも、その隣の倉庫14213円ってなんだ?」
倉庫の欄はタップすると、数値を入力できるようになっていた。『いくら引き出しますか?』と聞かれたのでキリよく1万円を指定してみる。
「……え?」
貯金箱を確認すると、1万円札が追加されていた。
代わりに倉庫が4213円になっている。
「もしかして、もしかして!」
持ち物欄をタップする。
持ち物は何も表示されない。
だがその横にある倉庫欄には、オレがゲーム内で獲得したアイテムがリストになって並んでいた。
当然、その中にはあのアイテムも存在する。
喉を唾液が下る。
震える手で、オレはそれを選択した。
いや、いやいやいや。
夢だ。こんなの夢に決まっている。
だから、これを追加したところで現実に変化なんて起こるはずがない。
そんな予想は、あっけなく崩れた。
つい半秒前まで何もなかったオレの手には、光をすべて飲み込むように真っ黒な立方体が握られていた。
「超常の柩……!」
まさか、【アドミニストレータ】はゲームの世界を現実に反映するスキルなのか? いや、それとも、この世界自体がゲームそのものなのか?
「スキル一覧って、もしかして」
わくわくしながら選択する。
そこには予想通りの文字が並んでいた。
まず、左側にオレのスキル。
これは現状【アドミニストレータ】の一つだ。
そして、右側には主人公の天月悠斗が獲得したスキル一覧が並んでいる。その中の一つ、【剣術Lv2】をドラッグしてオレのスキルに移す。
「は、はは。まじか? これ、ゲーム内で取得したお金、アイテム、スキルを現実に持ってこれるのか?」
先日新作を投稿いたしましたので、よければそちらも応援いただければ幸いです。
↓にリンクがありますので、そちらからお気軽にお越しください!
心よりお待ちしております!!