3-1
王様との謁見後、今後の話を聞くために別室へとやってきた。向かい合って座る王様の後ろには騎士団総長のシュタルクさんと、デッキス宰相と呼ばれていた細身で丸眼鏡をかけた男性が控え、私の後ろには、実は謁見の時から傍にいてくれたクェルツさんが控えていた。
(このお城で地位が高そうな人たちを差し置いて座っていていいのかな・・・。居づらい)
そう思いながら出されたティーカップに手を伸ばす。ほんのり湯気の立つ琥珀色のお茶を一口飲むと、少し甘味を含んだその温かさがすぅっと体に染み渡る。体から余分な力が抜けていく感覚にほぅと息をつく。衝撃的なことが多過ぎて気付かなかったが、私は結構緊張していたようだ。
「ごめんなさい。大人にばかり囲まれた空間で話をしてしまったから、疲れさせてしまったわね」
その様子を見ていた王様が申し訳なさそうに話しかけてきた。
ちなみに、御遣い呼びもそうだが、様付けと敬語もやめてほしいと切に願ったら、周囲に示しがつかないから公の場以外で、このメンバーのみならということで承諾してもらえた。
「いえ、そんな・・・。傍にクェルツさんがいてくれたので、心強かったです」
療養中、忙しいだろうにいつも穏やかな笑顔で私の話し相手になってくれたクェルツさんに、私はだいぶ心を開いていた。だから、大勢の見知らぬ大人たちに囲まれても立っていられたのは、クェルツさんの存在が大きかった。
「そう言ってもらえるのは光栄だ」
クェルツさんが柔らかく笑うのを見て、つられて私も微笑み返す。それを見た王様が少し驚いたような表情になった。
「まぁ、クェルツとだいぶ親しくなったのね。クェルツは少し気難しいところがあるから、打ち解けるか少し心配していたのに」
「気難しい?クェルツさんがですか?」
初めて会ってから数日しか経っていないが、クェルツさんから気難しいところなど全く感じなかった。キョトンとする私の後ろでクェルツさんがコホンと咳払いをする。
「確かに昔の私にはその様なところがありましたが、人は変わるものですから。それと、王は人のことが言える立場ですかな?」
その一言にデッキスさんとシュタルクさんが「あぁ」と何かを思い出したように苦笑いをした。
「王がまだ王女であった頃、クェルツが担当する授業のときはいつも逃げていましたね。『クェルツが厳しすぎる!』と言って」
「それで城下まで逃げた王を、幼馴染みだからという理由で毎回私が探して連れ戻していましたね、懐かしいです」
3人が昔のことを懐かしんでいる傍で、王様はさっきまでの威厳ある姿が嘘のように、顔を赤くしてあたふたしている。その姿にポカンとしてしまったが、同時に安心もした。綺麗で威厳もある王様に人間離れしたものを感じて少し怖くもあったのだが、そんな王様も1人の人間なんだと思えたからだ。
王様が少し恥ずかしそうに咳払いをする。
「昔の話はもうよいでしょう。恥ずかしいところを見せてしまったわね」
「いえ、とんでもないです。皆さん仲が良いんですね」
「そうね、クェルツとデッキスは私が幼い頃から城に勤めていたから付き合いが長くてもう家族のようなものだし、シュタルクは幼馴染みで今では私の夫だから」
(王様とシュタルクさんは夫婦なんだ!美男美女ですごいお似合いだし、2人の様子を見ているとお互い信頼しあっているのが分かる)
そう思いながら2人をじーっと見ていると、シュタルクさんが神妙な面持ちになったように見えた。けれどそれは一瞬のことで、今はそれまでと何ら変わりなく王様と話をしている。
(見間違いかな?)
コンコン
「入りなさい」
「失礼致します。お2人をお連れ致しました」
ドアがノックされ王様が許可を出すと、執事服の男性が入室してきた。男性の後ろから現れた人物を見て、私は驚きを隠せなかった。
「フィアラ!?」
「ご機嫌麗しゅう、御遣い様」
そう言って着ているドレスの裾を軽く広げ優雅に挨拶をする彼女は、普段と雰囲気が全く異なるものの、優しく微笑むところは変わらない、私のもう1人の大切な話し相手その人だった。