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「異界の方、どうかそのお力で闇の力を封印し、この世界を救っては頂けないでしょうか」
これが私を喚んだ理由。あのフードを被った人も同じ事を言っていた。でも、何で私なの?だって、私には・・・。
「・・・確かに私の家系には特殊な力を持った人がいたそうですが、私自身は何の力も持たないただの人間です。世界を救う力なんて、持っているはずがありません。私が召喚されたのは何かの間違いではないですか?」
何の力もないことを隠したところで、きっとこの人にはすぐにばれる。それならいっそ白状してしまおう、そう思って告げたのに、王様の表情は変わらない。むしろその瞳には何か確信めいたものがある。
「騎士団総長」
「はっ!」
王様に呼ばれて私たちの前に現れたのは、銀色の鎧を身に付けた長身の男性。紫色の瞳は眼光が鋭く、睨まれたら体が萎縮してしまいそうなほどの力がある。
「初めまして、異界の方。私はリュセイン王国騎士団総長、シュタルクと申します。不出の森に落下されたあなた様を救出すべく、私と数名の騎士で救助隊を編成し森に向かいました。途中魔物の群れとの戦闘になり足止めをされていたのですが、森の奥から白い光が放たれ、その光に包まれた魔物は瞬く間に聖獣へと戻ったのです。光の元を探すと、そこには光を纏ったあなた様が倒れていました」
「白い光が不出の森から溢れ出す様子は私も城から見ていました。他にも目撃した者は多いでしょう。同時刻に、神殿を襲った闇の力が消え去ったと騎士団からの報告もあり、これらのことからあなた様が『御遣い』であるということは疑いようがありません」
御遣い・・・。闇の力に対抗できる人のことを指しているのか。
それにしても、2人が言う白い光については、私もずっと考えていた。弓と矢を踏み潰されそうになったあの瞬間、私ではなくペンダントが光って・・・。総長さんの話から考えると、気を失う直前に見たあの黒い靄が闇の力だったのだろう。そして私の目の前に現れた大きな獣と取り囲んでいた獣たちも魔獣に変えられていた。あの後の事は覚えていないけれど、光を浴びていたからきっと元に戻ったはず。信じがたいが、このペンダントには闇の力を祓う力がある。
それなら、このペンダントさえあればいい?
これまでの好待遇は私が御遣いだと思われていたから。
私自身は必要ではないと、知られてしまったら?
「・・・分かりました。やります」
その一言に周りからわっと歓声が上がる。目を向ければ喜ぶ顔、安堵する顔、やる気に満ちる顔、様々だ。それを私は、どこか冷めた気持ちで見ていた。
「陛下に恐れながら申上げます」
「なんでしょう、デッキス宰相」
「御遣い様のお力添えを頂けるのならば、現在城に集めている兵士たちを元いた領地へ戻すのはいかがでしょう。闇の力により一時この国の守りが弱くなった影響が出ているやもしれません」
「確かに、神殿から離れているほど影響は強く出ているかもしれません。騎士団総長、すぐに各団に指示を出しなさい。領主たちはすぐ指揮にあたるように」
「「「はっ!!」」」
王様の一声で先程まで少し和らいでいた空気が一瞬で張り詰めたものに変わり、皆忙しなく動き始めた。私はどうすればいいのかと考えていると、王様が傍に立ち優しく微笑みかけてきた。
「御遣い様、ご決断を頂き感謝致します。この後別室で今後のことについてお話ししましょう」
「分かりました。・・・あの、元いた世界では私は普通の学生だったので、その『御遣い様』と呼ばれるのはちょっと・・・」
「御遣い様がそう仰るなら。では、何とお呼びすればよいでしょうか」
「私の名前は森原灯です。灯と呼んでください」