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リュセイン王国の王城の一室で目が覚めてからしばらくは、すぐに疲れてしまったり体が思うように動かなかったりでベッドから出ることもできなかった。それから5日、私はやっと何の問題もなく動けるようになった。実は森で気を失ってから最初に目覚めるまでにも3日経っていたらしく、聞いたときはそんなに経っていたのかと驚いたし、それほどのダメージを受けていたことにゾッとした。
休んでいる間私の話し相手になってくれたのは、フィアラとクェルツさんだった。メイドさん達にも話し掛けたのだが、畏れ多いと言ってそれ以上話をしてくれないのだ。少し残念な気もするが、彼女達の気持ちも分かるので必要以上に話し掛けないようにしている。
(別の世界から来た人間とか、得体の知れない人がいたら恐いよね)
2人は私の質問責めにも嫌な顔ひとつせず答えてくれた。魔力のこと、この世界のこと。そしてそれらを知れば知るほど、地球とは全く異なる世界に来てしまったのだと、実感せざるを得なかった。
まず魔力について。魔力は火、水、土、風、聖の5属性に分類され、人によって適性やその数は異なる。小さな火が起こせたり少しの水を出せたりするぐらいの魔力保有量を持つ人は生活魔法レベル。攻撃魔法も使える人は上級魔法レベル。魔法の放出力が高い人は特級レベル。そして、魔力保有量が多く、且つ放出力が高い人を極レベルという。
5属性の中で聖属性だけは少し特殊で、まず聖属性をもつ人自体が少ない。それに加え、聖魔法は結界魔法と治癒魔法に分けられ、どちらかしか使えないらしい。極稀に両方使える人が現れるらしいが、100年に1人いるかいないかぐらい稀のようだ。
クェルツさんは極レベルの治癒魔法の使い手で、王城で筆頭治癒魔法使いとして活躍されているんだ、とフィアラはすごく興奮した様子で教えてくれた。自分も治癒魔法が使え、いつかクェルツさんのようになりたいから師事してもらっているとも。
ちなみに、あの森で受けた動けないほどの激痛は、怪我だけでなくこの世界の力に一気に浸かってしまった影響もあったそうだ。それでも王城で最初に目が覚めたときに体を動かせたのは、クェルツさんの治癒魔法とフィアラのおかげだった。
フィアラが手を握ってくれたとき伝わってきた温かいものこそ、魔力だったらしい 。その魔力を少しずつ私の中に流し込むことで耐性をつけていき、そのおかげで治癒魔法も使えたんだそうだ。
魔力を他人に少しずつ流し込む行為は繊細さを求める難しいものだが、フィアラはそれが上手いのだとクェルツさんが言うと、フィアラはとても照れくさそうに俯いていた。
次にこの世界について。この世界には大きく4つの王国がある。商業の国、シュバーニエ王国。知の国、キュイレイス王国。武の国、ゼガルディン王国。そして祈りの国、リュセイン王国。大陸の中心には広大な森が広がっていて、森の奥深くは常に濃い霧に包まれている。一度踏み込んだら二度と出てこれないと言われていることから、不出の森とも言うらしい。私が倒れていたのは森に入って間もないところだったようで、まさに不幸中の幸いだった。
リュセイン王国は大陸の南に位置し、広大な草原の中にある国だ。聖属性をもつ人が修行するための神殿があることから、世界の中で最も聖魔法使いが多い国でもある。神殿では花や果樹などの植物を栽培していて、聖魔法を込めて育てられた植物は魔物除けや回復薬の材料として、聖魔法使いがいない町や村、冒険者パーティーなどにとても重宝されているらしい。
王城は小高い丘の上に建っていて、窓からは城下が一望できる。窓を開ければ人々の楽しそうな声が耳に届き、聞いているとなぜだか穏やかな気持ちになるので不思議だ。治療中で部屋から出られない私は、窓枠に凭れ風に乗って届く人々の声を聞くのが日課となった。
今日もまた穏やかな気持ちで聞いていると、クェルツさんがやって来て開口一番にこう言った。
「国王陛下が、お会いしたいとのことです」
「・・・へ?」