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ふっと目が覚めると、見知らぬ天井が視界に入ってきた。妙に重たい体をゆっくり起こし辺りを見渡す。
大きな窓に掛けられたカーテンから光が僅かに漏れ、部屋の中は薄明るい。教室が余裕で2つは入りそうな広い空間。床は一面絨毯で、部屋の中央には小さなテーブルと2人掛けのソファーが1脚。私はというと、1人で寝るには余りすぎるくらい大きなベッドの中にいる。
(わぁ・・・。広いベッド・・・それにフカフカ)
まだボーッとする頭を再び枕に沈める。ベッドのフカフカ具合を堪能しつつ、もう1回寝てしまおうと目蓋を閉じようとしたところでガバッと勢いよく飛び起きる。
(体が・・・痛くない。なんで?それにここはどこ?確か私は森の中にいたはず・・・)
目が覚める前の出来事を思い出そうとして、ふと左手が固定されていることに気付く。そちらを見ると、金色でふわふわな髪の少女が私の左手を握ったまま、ベッドに伏してすやすやと寝ていた。
「痛いところや違和感があるところはありますか?」
「・・・いえ・・・ないです」
あの後目が覚めた少女は私が起きたことに気付くと、傍らに置いていたベルを急いで鳴らした。するとすぐにドアがノックされ、メガネを掛けた男性と、メイド服の女性が数名入室してきた。男性はベッドに近付き私をじっと数秒見つめると、柔らかい笑顔で声を掛けてきたのだ。
私はその問いに対して呆然としたまま答える。なぜなら今部屋にいる全員(もちろん私以外)が皆美形すぎるからだ。特に傍にいる少女は可愛すぎて直視ができない。ここは海外のどこかなのか?それにしては会話が普通に成り立っているような・・・。
「良かったです、酷いお怪我をされていたので・・・」
私の否定の言葉に少女がほっと胸を撫で下ろす。
「ここはリュセイン王国の王城の一室です。森で倒れていたあなた様を保護し治癒魔法をかけさせて頂きました。怪我は完治しましたが、影響がまだ残っているかと思いますので、しばらくは安静にしていてください」
リュセイン王国?治癒魔法?聞いたことのない単語がいくつもあって頭が混乱してきたが、私の怪我を治してくれたことだけは分かった。
「・・・あの、治して頂いてありがとうございます」
「いえ、それが私の責務ですので」
男性はそう言って右手を胸にあてお辞儀をする。
医者というと白衣を身に付けているイメージだが、男性が着ているのは白色でも軍服の様な服だ。しかも胸のところにはいくつも綺麗なバッチが付いている。これって、確か数が多ければ多いほど偉いんじゃなかったかな?
「えっと、あなた方は一体・・・?」
「失礼致しました、私は聖魔法使いのクェルツと申します。こちらは私の弟子のフィアラです」
フィアラという少女もクェルツさんと同じ服を着ている。弟子と言っていたし、きっとこの子も私の怪我を治すのに助力してくれたのだろう。
少女にもお礼を言おうとして、ふとベッドの脇に弓と矢が立て掛けられていることに気付く。破損していない様子に安堵した直後、目が覚める前にあったことがフラッシュバックする。体はガタガタと震え始め、呼吸もうまくできない。
「大丈夫です!ここにはあなた様に危害を加えるものはおりません!」
そんな私の様子に気付き、少女が両手で私の手を包み込む。少女の手からじんわりと温かい何かが伝わってきて、徐々に落ち着きを取り戻していく。
ちらりと少女を見ると、ぱっちりとした青い瞳をふわりと細め、私を安心させるかのように柔らかく微笑んだ。
「しばらく心身ともに休息が必要でしょう。お知りになりたいことはたくさんあるかと思いますが、まずは心身の回復を優先させましょう」
クェルツさんの言葉にゆっくり頷き、再び横になる。確かに知りたいことはたくさんある。しかし、フラッシュバックして急激に緊張したためか、ずしりとした疲労感があり早く休みたいという気持ちで一杯だった。
けれど、せめてこれだけは知っておきたい。
「・・・ここは、私がいた世界、地球ではないんですね?」
私の言葉に部屋の中がしんと静まり返る。少し間を空けて問いに答えたのはフィアラだった。その声は、なぜか申し訳なさそうだった。
「・・・はい、ここはあなた様がいらっしゃった世界とは別の世界です」
「・・・そう」
それだけを聞いて、私はまた眠りについた。