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縁は異世界から  作者: 二夏
2/12

プロローグ2

「はじめ!」


個人戦が始まっても、先程の動揺は灯から消えていない。それでも弓を構えれば自然と体から余分な力は抜けていき、目蓋を閉じて深く呼吸をしていれば、周りから徐々に音はなくなっていく。

そうして音が完全になくなった頃目蓋を開けば、ただただ白く、自分と的だけがある空間に灯はいた。


この白い空間は、ある時から弓を引くときに必ず現れるようになった。最初は戸惑っていた灯も、この空間にいる間は心がとても穏やかになることに気付いてからは、ここにいるために弓を引くようになった。


1本、また1本と的に向けて矢を放つ。的に矢が中る音が白い空間に静かに響き渡る。その響きは灯自身にも温かく染み渡り、動揺していた心は落ち着きを取り戻していった。



最後の1本を引こうとして、ふといつもと違う空気を感じ的へと視線を移す。


「っ!?」


先程までそこにあった的は消え、代わりに淡く光るローブを身に纏う人物が立っていた。フードを深く被っているため、その表情は窺えない。


これまで自分以外の人間がこの空間にいたことはなかったため、灯は驚きを隠せなかったが、悪いものではないと自分の直感が告げたため、じっと視線の先の人物を見つめた。


ローブの人物は静かに灯に近づき、祈るように両手を胸の前で組んだ。そして、まだ幼い少女の様な凛とした声で告げる。


『どうか、そのお力で世界を救ってください』


「世界を・・・救う?」


『このままでは世界は闇の力で滅ぼされてしまうでしょう。それはなんとしても阻止せねばなりません』


「・・・闇っていうのはよく分からないけど、それは私個人に頼むのではなく、国とか軍とかに頼むものじゃないの?」


『救って頂きたいのはこちらとは別の世界です。その世界では闇に対抗できる力を持つ者はいません。その身に祓う力をもつあなただけが、唯一対抗する力を持っています』


祓う力、と聞いて灯は一気に警戒心を強くする。祓う、という単語に灯は覚えがあるが、それはもはやタブーになっていたのだ。


灯が警戒していることに気付いているのかいないのか、ローブの人物は話を続ける。


『闇の力はこれまでになく強力で、既に世界に影響が出ています。あなたの持つ祓う力は、あちらの世界でこそ活かされるでしょう。それに、あなたの力は祓うだけでなく・・・』


その時、突如黒く激しい風が巻き起こる。それはすごい勢いで白い空間を染めていき、それを目にした灯は無意識に自分の体を抱き締めた。頭の中は危険という言葉で溢れ、けたたましくブザー音が鳴り響いているようだった。


『これは・・・!この空間にまで影響を及ぼせるほどになっているというの・・・!?』


ローブの人物の表情は相変わらず窺えないが、その声には驚きと焦りが混じっていた。

これは一体何なのか問おうとしたその時、黒い風は灯の足下にも現れ、灯を捕らえんとするかのように激しく吹き荒れる。灯は咄嗟に手に持っていた弓と矢を抱き締め、なんとか耐えようとするが息をすることすら困難なほどの激しさに、自分の意識が徐々に薄れていくのがわかった。


ローブの人物が自分に向けて白い光を放ち、何かを叫んでいるようだったが、灯の耳には激しい風の音の隙間から届いた声しか聞こえず、遂に灯の意識は深い闇へと引きずり込まれていった。


『・・・世界を、・・・あの子を・・・』


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