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第94話 不文律

如月に連れられて中に戻ると、3人は元の服装に戻っていた。

それぞれカジュアルな感じの子供服に身を包んでいる。


一樹「一応聞いておこうか。なんで俺の『領域』を攻撃した?」

みどり「仕方ないじゃない!この世界の人間はひっきりなしに襲い掛かってくるし、その度にガーディアンは召喚しなおさないといけないし!『領域』を広げて魔力収入を増やさなきゃどうしようもないじゃない」

一樹「それで自分も襲う側に回ったわけか」

みどり「・・・保護してあげようと思ったのよ」

一樹「保護?」

みどり「だって、『領域』がぶつかってるのに守ろうともしないんだもの。よっぽど弱いダンジョンマスターなのかと思って。私が取り込んで守ってあげれば、私も強くなれるし、相手も安心だし、WIN-WINじゃない?」


状況的には唯の言い訳とも取れるが、嘘をついてるようにも見えないな。

だが、俺の感だけで判断するのも問題か?


マスコット「安心したよ。立場が逆になったけどWIN-WINなら問題ないね。一樹にダンジョンコアの管理権限を移譲しよう」

みどり「どういうこと?」

マスコット「言葉通りだよ。一樹が管理権限を握ってこのダンジョンのマスターになるんだ。ここはサブダンジョンって扱いになるね」

みどり「もう勝負はついたでしょ?なにもダンジョンコアまで取り上げなくなっていいじゃない!」

一樹「さっきも少し触れたが、先制攻撃が無ければ同盟か不戦協定を提案するつもりだった。だが、攻撃を受けた以上野放しにはできない」


せめて降伏勧告に応じてくれていたら、不戦協定は有り得たのかな?

だが、『領域』を大きく削った上にガーディアンも罠も壊滅させた。

自分でやっておいて言うのもなんだが、保護する必要があるだろう。


みどり「ちょっと待って!それだと戦闘終りょ・・・」


みどりは一旦自分の服を見下ろして確認する。


みどり「戦闘終了の度に裸を見られちゃうことになるじゃない!」

マスコット「そうだけど、なにか問題があるのかい?」

みどり「あるに決まってるでしょ!」


「戦闘終了」という発声が戦闘服解除のキーワードなのかな?


一樹「戦闘のたびに全裸になってるのか?」

みどり「別にいいでしょ。戦闘が終わったときはもう敵は居ないんだし」


戦闘前にも全裸になってたが、肌色が見えないからノーカウントなのか?


一樹「そりゃそうだが、戦闘服みたいに勝手に身に着けられないのか?」

みどり「無茶言わないでよ!魔女っ子衣装は魔法の服だから自動で着れるの。でも普段着は普通の服でしょ」

一樹「なるほど・・・」


普段着も普段着風の魔法の服じゃ駄目なのかな?

まあ、その辺はよく分からないが彼女なりの拘りがあるのだろう。

それに、魔法は『想像』に魔力を注ぐことで発動する。

彼女にとってそれが「普通の服」である限りは無理なのだろう。

あれ?四散した服がきれいに畳まれて足元に現れるのは普通なのか?


みどり「とにかく!戦闘終了後のお着替えは覗いちゃ駄目だからね!」

一樹「それは善処するが、守ると言った以上は戦闘はモニターする必要があるだろう。状況次第で援軍を送ったり編成を見直したりしないとな」

みどり「なら戦闘中だけ見てればいいでしょ」

一樹「伏兵が居て変身解除後の隙を突かれるとか、戦闘中に遅効性の毒を食らう可能性もあるだろう」

みどり「それでも駄目!」

マスコット「みどり、何をそんなに怒ってるんだい?」

みどり「なぞ生物にはわかんないことよ!みずきともえかだって嫌でしょ!?」

もえか「私は別に平気だけど?」

みずき「私も平気。一樹さんの言うことは理に適ってると思うし」


人と魔道人形の認識の違いはここでも同じようだ。

違和感はあったかもしれないが、「女の子どうしだから」で納得していたのだろう。


みどりが俺に裸を見られることに抵抗があるのは当然理解できる。

しかし、ここのダンジョンコアの所有権を得れば内部の閲覧権限もついてくる。

それに、防衛のために戦闘状況を確認する必要があるのも事実だ。


一樹「では俺が見るのは原則戦闘中のみで、あとの見守りは女性スタッフに代わると言う事でどうだ?」

みどり「だから見るなって!どうせなんか理由を付けて最後まで見る気でしょー!」

一樹「状況次第では見ることになるがそれは仕方ないだろう」

みどり「なんでよ!見る必要なんてないでしょ!」

一樹「だから、ここの防衛のためだとさっき説明しただろう!」

みどり「嘘よ!どうせあたしのおっぱいが見たいだけでしょ!」

一樹「やかましい!無い物をどうやって見ろと言うんだ!」


やば。いい加減いらついてきたが、これはまずかったか?


みどり「失礼ね!ちょっとは膨らんでるわよ!ねえ、みずき?」

みずき「そうね、ちょっとだけだけど」


そういって左手でシャツをめくり上げると、ブラジャーの裾に右手をかける。


みどり「待って!なにやってるの!?見せちゃだめよ!」

みずき「そうなの?」

みどり「そうよ!ほら、しまって」


みずきはいわれるままシャツを下ろす。

この辺の感覚の違いはうちのガーディアンたちと同じようだ。

みずきは今度は俺の手を取って自分の胸にあてがった。


みずき「どう?分かる?」

一樹「えっと・・・?」

みずき「やっぱり服の上からじゃ分からないよね。じゃあ直接触って」


みずきは俺の手首を握ったままもう片方の手でシャツをめくり上げる。


みどり「ちょっとまったー!みずき、何やってるの!?」

みずき「直接触ってもらおうと思って」

みどり「だめ!絶対だめー!」

マスコット「どうしたんだい、みどり。さっきからちょっとおかしいよ?」

みどり「何いってるのよ?おかしいのはみずきでしょ?」

マスコット「そうかな?理由は分からないけど、みどりは自分達の胸が膨らんでいることを証明したいんだろ?それなら見せるのが一番だよね」

みどり「だから駄目だって!」

マスコット「それも理由が分からないんだけど、それなら触らせるしかないんじゃない?」

みどり「だから駄目だってば!」

マスコット「じゃあどうしたいのさ?」

みどり「だから・・・!」


仲間と話がかみ合わず、みどりがこちらに視線を投げる。


ウィセル「失礼だが、そのもこもこの言うとおりだな」

みどり「ええー?」

ウィセル「貴殿の部下達は貴殿の意に沿うよう努力しているだけだ。貴殿は自分達の胸が膨らんでいることを我が主に認識させたいとの意思表示をした」

みどり「してない!」

マスコット「いや、したじゃないか」

みどり「そうだっけ?」

ウィセル「失礼だが忠誠ある部下の尽力に対し、代案も示さずにアレも駄目コレも駄目というのは上に立つ者の態度として如何なものだろうか」

みどり「は、はい」

ウィセル「胸の隆起を認識させたい場合、嗅覚・味覚・聴覚は目的にそぐわないから残るは視覚と触覚だ。貴殿らの胸が隆起しているかは分からないが・・・」

みどり「してるってば!」

ウィセル「では隆起していると仮定して、衣服の上から確認できるほど大きなものではない。ならば直接見せるか触らせるかの2択になるように思うが、他に手はあるだろうか?」

みどり「えっと、それはそうなんだけど」

マスコット「僕もこの人の言うとおりだと思うな」

みどり「えっと、そうなの?あたしがおかしいの?」


俺となるみのやり取りも傍から見るとこんな感じなのだろうか?

同じ地球人として、そろそろ助け舟を出すかな。


もえか「待って!ちょっと誤解があるような気がするの」

みどり「もえか!」

もえか「みどりが話してたのはみどりの胸のことよね?」

みどり「え?う、うん・・・」

もえか「みずきには同意を求めただけだわ」

みどり「そ、そうね」

もえか「ならみずきの胸を見せても意味がないと思うの」

マスコット「そっか、言われてみればそうだったかもしれない」

ウィセル「なるほど、それは失礼した」

みずき「ごめんなさい、あたし勘違いしちゃって」

みどり「い、いいのよ?」

マスコット「じゃあ、みどり!しっかり見せ付けてやろう!」

みどり「う、うん?」

ウィセル「うむ、仔細は分からぬが貴殿の名誉に関わる事柄の様子。しかと拝見しよう!」

もえか「みどり、がんばって!」


みどりの顔が真っ赤になる。


みどり「だめーーーっ!!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


みどりが落ち着くのを待って、俺達はコアルームに入る。

中央の台座は俺の所と変わらないが、ピンクを基調としたファンシーな部屋。

俺の変態的な部屋とは大違いだな。逆の立場ならWIN-WINにはならないよ。


マスコット「じゃあ、一樹。ダンジョンコアに触って」

一樹「こうか?」

マスコット「うん。じゃあ、みどり。一樹にダンジョンコアの管理権限を移譲するよ。いいね?」

みどり「・・・・いいわ」

マスコット「よし、じゃあ手続き完了だよ、マスター」

みどり「そうなの?随分とあっさりしてるのね」

マスコット「内部での登録変更だけだからね。マスターが希望するなら何か演出をつけてもいいけど?」

みどり「別にいいわ」

マスコット「僕はマスターにきいてるんだよ」

みどり「だから要らないってば」

一樹「そうだな、必要ないだろう」

マスコット「わかった」

一樹「まずは『領域』を確認させてもらおう」


水晶球から光が放たれ、壁面のスクリーンに周辺地図が表示される。

どうやら基本的な表示の仕方はうちの『領域』管理アプリと同じらしい、


一樹「ひどいな。他所の『領域』とぶつかりまくってるじゃないか」

みどり「だって、勿体無いじゃない。『領域』は私たちの力の源なのに、間を空けておくなんて」


ルシファーは『領域』をぶつけるのは宣戦布告と同義と言っていたか。

だが、そういう不文律は時間をかけて自然と形成されるものだろう。

それに転生者の横の繋がりは薄く、そういう情報共有はされ難い。


この山脈のダンジョンマスターは新人ばかりのはずだ。

俺たちの世代ではまた独自のルールが形成されるのかもしれない。

世代と言ってもルシファーもシュバルツも年齢的には同世代だけどな。

ダンジョンマスターとしては1年か2年程度は先輩なのだろう。


一樹「相手から『領域』をぶつけられたことはあるか?」

みどり「えっと・・・ないわね」

一樹「耳鳴りでひどい不快感だぞ。『領域』をぶつけるのは宣戦布告を意味するらしい」

みどり「そうなの?それは・・・ごめんなさい」

一樹「周りに好戦的な奴が居なくて幸運だったな。俺はいいが、今後はやめておけ」

みどり「分かったわ」


お互いに新人同士という状況が幸いしたのかもな。

俺は状況的に強気になれたが、他はそうもいかないだろう。


もえか「あ、今日のお風呂当番って私だったわね。マスター、行って来ていいですか?」

みどり「いいわ。ってか、みどりって呼んでよ」

もえか「マスター、前マスターが設定した入浴準備の時間になりました。そのまま実行してよろしいですか?」

みどり「もえか?」


あ、マスターって俺の事か。


一樹「OKだ。特に指示しない限りは今まで通りみどりの指示に従ってくれ」

もえか「了解しました。じゃあ、みどり、行って来るね」

みどり「あ、うん。よろしくね」


軽い足取りで駆けていくもえかをみどりは呆然と見守る。


一樹「あー、『ドール』の件は悪かったな。代わりのゴーレムが準備できるまでは俺達がここを守っとくよ」

みどり「そうね、頼んだわ」

一樹「ああ。安心して風呂に入ってくるといい」

みどり「ええ、そうするわ。ってか、覗かないでよね!覗いたら殺すから!」

一樹「へいへい」


まーたその話を蒸し返すのかよ。


みどり「あと、今度またみずきのおっぱいに触ったら殺すからね!」

一樹「はいはい。というか、そんなものどこにあるんだよ?」


さすがにイラついてきたのでちょっと意地悪を言ってみる。

だいたい「また」ってなんだよ。

俺が手を伸ばして触ったわけでもないってのに。


みずき「ここです」


見ると、みずきがシャツをたくし上げて胸部を露出させている。


みずき「はっきりした範囲は私もわかりませんが、この乳首の周辺が一般に『おっぱい』と呼ばれる部位になります」

一樹「えーと・・・」

みどり「みずき、なにやってるの!?見せちゃ駄目じゃない!早く隠して!」

みずき「みどり、それはできないよ」

みどり「何いってるの?」

みずき「上位の命令権者からの参照要求がありました。確認が済むまで待ってください」

みどり「みずき・・・・?」


一瞬呆然としたあと、みどりが俺を睨み付ける。

あ、「上位の命令権者」って俺の事だったな。


一樹「あー、うん。よく分かった、ありがとう。もう隠してくれ」

みずき「はい」

みどり「もう確認終わったからね!もう絶対見せちゃ駄目よ!」

みずき「わかった。マスターの指示がない限りは見せないようにするね」

みどり「こいつに言われても駄目!」

みずき「みどり、それはできないってば」

みどり「一樹!」

一樹「あー、みずき。おっぱいは、・・・あとお尻もかな。男には基本見せたり触らせたりしないようにな」

みずき「わかりました。おっぱいとお尻はマスター以外の男性には見せたり触らせたりしません」

一樹「俺にもだ」

みずき「それは困ります」

一樹「困る?」

みずき「今後コマンドの衝突が発生する可能性があります。またマスターにはダンジョン内部の閲覧権限がありますので、ダンジョン内で戦闘モードの解除や入浴ができなくなります」

一樹「そうか、わかった。ならそっちは気にしなくていい」

みずき「はい。みどりの設定したお風呂の時間が過ぎていますが行ってよろしいですか?」

一樹「わかった。時間を取らせて済まない」

みずき「マスターも一緒に入りますか?」

みどり「入るわよ!いつも一緒に入ってるじゃない!」

みずき「そうなの?・・・なるみちゃんからの回答を確認しました。ではマスター、いきましょう」

みどり「だれよ、なるみって?あとみどりって呼んでって・・・みずき?」


みずきが握っている手は俺のほうだ。


一樹「あー、俺はいいよ。いつも通り3人で入ってくるといい」

みずき「了解しました。みどり、お風呂の時間だよ。いこ?」

みどり「わかった。先に行ってて」

みずき「そう?わかった」


呆然としているみどりを置いてみずきがダンジョンの奥へと消える。


みどり「なんなの、これ?友達だと思ってたのに、みずきがまるでロボットみたい」

一樹「みずきも状況が変わって戸惑ってるんだろう。じきに慣れるさ」

みどり「そうかな?そうよね」

一樹「風呂の時間なんだろ?応援が揃うまで俺がここを守っとくから行ってきなよ」

みどり「ええ、そうするわ。お願いね」


いつも一緒にお風呂に入ってるのか。

ガーディアンは風呂も睡眠も必要ないはずだがな。

俺も人の事は言えないけどね。


マスコット「ほんとうにいいのかい?僕を消して管理を一元化したほうが楽だと思うよ?」

一樹「止めておくよ。そんな事をすればみどりに殺されそうだからな」

マスコット「そんなわけないじゃないか。みどりへの魔力供給はいつでも止められるんだ。そうすれば小石をぶつけるだけで殺せるよ?」

一樹「そういうことじゃないんだよ」


なぞ生物は不思議そうな顔をする。


一樹「なぞ生物には分からないことさ。ところで、みずきともえかは魔道人形なんだろう?教えてないのか?」

マスコット「ちゃんと教えたんだけどね。忘れちゃったのかな?」

一樹「さあな?二人のしゃべり方を今までと違和感の無いように調整しろ。俺に対しても、もっと子供っぽくくだけた感じでいい」

マスコット「わかった。やっておくよ」

一樹「あと俺のことはマスターじゃなくて・・・・『かずきおにぃちゃん』とでも呼ばせてくれ」

マスコット「わかったよ、かずきおにぃちゃん」

一樹「・・・・お前はマスターのままでいいや」

マスコット「了解、マスター」


みどりがこっちに来たのが俺と同時期だとしたらすでに1年以上か。

俺は運よく仲間にめぐり合い、『翻訳の腕輪』で人間族とも交流できた。

だが、もしもその間に話せる相手がなるみとガーディアンだけだったら?

ローズ辺りと恋人ごっこでもしていたのかもしれないな。


いや、鬼族との交流が無ければローズは召喚してなかったか?

だとすると、孤独を紛らわす恋人ごっこの相手は睦月??

そうだとしたら、俺の部屋は今以上にやばい様相になってたかもな。


一樹「なるみ、こっち来れるか?」

なるみ「呼ばれて飛び出てしゃららーん」


なるみはキラキラのティアラとラメ入りの白いドレスで現れた。

今日はお姫様の気分か?


一樹「みどりとみずきともえか、3名への魔力供給を俺の『領域』全域で適用できますか、姫殿下?」

なるみ「できますわよ。他のダンジョンの防衛をしてもらうのかしら?」

一樹「いいえ、俺の街で遊んで欲しいだけですよ」

なるみ「あら、おやさしいのですね。ほっほっほ」

一樹「いえいえ、姫殿下ほどでは。くっくっく」

マスコット「えーと、僕はどういう立ち位置で話せばいいのかな?」

一樹「気にするな」

マスコット「そう?」

一樹「というわけで、あの3人が俺の『領域』全域で戦えるようにしといてくれ。ここ以外で戦ってもらうつもりは無いが、身を守る力が無いと不安だろうからな」

なるみ「おっけー」

一樹「俺が今回壊した設備とガーディアンの修復にどれくらい必要だ?」

マスコット「えっと・・・詳細確認がまだ終わってないけど、概算で27億2000万くらいかな」

一樹「なるみ、こっちのコアに30億回してみどりの裁量で使えるようにしといてくれ」

なるみ「はいなー」

一樹「あとはこっちの森にも忍者とゴブリンを配置しとくか。こっちのインターフェースはどうなってる?」

マスコット「スマフォ型だね。今は脱衣所にあると思う」

一樹「スマフォか。俺用のインターフェース一式も置いときたいな。けど、この部屋の雰囲気には合わないか」

マスコット「模様替えする?」

一樹「いや、どっかに俺の隠し部屋を造ろう。詳細は後で向こうの拠点から操作する」

マスコット「了解」

みどり「一樹ーっ!!覗いてないでしょうね!?」


パジャマに着替えたみどりが駆け込んできた。

いつもどおりの一緒のお風呂で調子を取り戻したか。


一樹「・・・覗いてないよ」

みどり「ほんと?もこもこ?」

もこもこ「ほんとだよ」


こいつ、本当にもこもこって名前だったのか?

偶然にもウィセルもそう呼んでたが。


みどり「いい?こいつがお風呂を覗こうとしたらすぐに私に教えるのよ?」

もこもこ「それはできないよ」

みどり「なんで?」

もこもこ「覗くというのは密かに盗み見る事だろう?マスターがそれを望んだならその事を人に教えることは出来ないよ」

みどり「じゃあ、覗いてたかどうかも秘密ってこと?」

もこもこ「もちろんそうさ」

みどり「ほんとに覗いてないのね?」

もこもこ「ほんとに覗いてないよ」


それじゃまるで「覗いてたけど秘密です」と言ってるみたいなものだろう。


一樹「ダンジョンとガーディアンの修復に必要な魔力は回しておいた。これで当面の防衛の心配はないな?」

みどり「話を逸らしたわね?」

一樹「教えないと言っている者と問答を続けても仕方がないだろう」

みどり「あやしい・・・」

一樹「確認のしようの無い事を気にしてどうする?実際覗いてないし」

みどり「むぅ・・・・あれ?だれ?」

なるみ「なるみちゃんです。よろしくー」

みどり「みどりよ。よろしくね。どういう関係なの?」

一樹「俺のダンジョンコアだ」

みどり「え?じゃあ、なるみちゃんが一樹のパートナーなの?」

一樹「ここでは『パートナー』と呼んでいるのか」


スズネさんは『ナビゲーターアンドロイド』だったか。

その辺の呼称は統一されていないようだ。


みどり「なんでパートナーが幼女なの?一樹ってロリコン?」

一樹「その理屈でいくとお前はケモナーか?」

みどり「んな訳ないでしょ!やーね、男ってすーぐに性欲に結び付けるんだから」


お前が言い出したことだろう!


だが、そこは俺もちょっと気になっていた所ではある。

ダンジョンコアはマスターの『魅力的な異性』の姿を取るのではないか?

だとしたら、ひょっとして俺は真性のロリコンという事なのだろうか、と。

だが、みどりともこもこの例を見る限り、そうとも限らないようだ。


みずき「かずきおにぃちゃん、お風呂空いたよー」

もえか「あ、なるみちゃんも来てたんだ?」

一樹「ああ、おかえり」


みずきともえかもパジャマ姿で戻ってきた。


みどり「なに?『かずきおにぃちゃん』って?なんでなるみちゃん知ってるの?」

みずき「え?かずきおにぃちゃんはかずきおにぃちゃんだよ」

もえか「そう呼ぶ事に決めたの。みどりはどうするの?」

みどり「いつ決めたのよ!こんなやつ、一樹で十分よ」

もえか「そう?」

みずき「なるみちゃんのドレスかわいいねー」

もえか「ほんと、お姫様みたい」

なるみ「ふふーん、今日からなるみがここのお姫様なの」


なるみがくるりと回ってみせる。


みどり「駄目よ!ここのお姫様は私なんだから」

なるみ「じゃあ、なるみは女王様!」

みどり「じゃあ、私は女帝にするわ」

なるみ「だったら、なるみは女教皇!」

みどり「それなら私は女神様ね!」

なるみ「むぅ・・・」


よく分からんゲームの勝負はついたらしい。


一樹「そういえば、みどりって向こうじゃ何歳だったんだ?」

みどり「えっと・・・、失礼ね!レディに歳をきくもんじゃないわよ!」

一樹「そりゃ失礼」


この反応はアラサーかアラフォー辺りか?

さっきのやり取りからするとけっこう若いのかとも思ったんだけどね。

子供時代に帰りたいとかの願望が強くて今の姿になったのかな?


一樹「3人は俺の『領域』全域で魔力供給を受けられるようにしておいた。俺の『領域』には人間族の街もあるから、今度3人でショッピングでも楽しむといい」

みどり「え?私たちが行ったら襲われるんじゃないの?」

一樹「一応俺が領主って事になってるし、奴らのいうところの『魔族』にもそこまで抵抗はないはずだ」

みどり「そう・・・なんだ?」

一樹「俺の部下たちが街の中も周辺も常に巡回して見守ってる。必要なら護衛もつけるよ」

みどり「そう、ありがとう」


やはりまだ不安そうな顔で応える。

殺し合い奪い合うのが『魔族』と人間族の常らしい。

彼女自身、ここに来てからずっとそれを体験し続けてきたのだ。

それに、彼女らの戦闘スタイルでは槍衾の前衛が居ないと戦い難い。

戦闘後に全裸になるから、外で戦うことになれば抵抗も強いだろう。


一樹「何かあっても逃げるくらいはできるだろう。魔女っ子衣装じゃなくても身体強化は使えるみたいだしな」

みどり「そうなの?」

一樹「ああ、戦闘終了後に俺に物を投げつける力は尋常じゃなかったぞ」


なにしろ10m以上も離れた俺にパンツを投げつけられる強肩だ。

あんな薄布は、常人なら5mも飛ばせればいいほうだろう。


みどり「それは忘れて!それはいいとして、私たちここの言葉全然わかんないよ?」

一樹「素材を集めれば『翻訳の腕輪』ってのが造れるんだよ」

みどり「すっごーい!それ頂戴!3人分ね!」

一樹「そうだな、素材を調達できるか確認してみるよ。なるみ、もえかとみずきに人間族語を教えられるか?」

なるみ「おっけー、やっとくね」

みどり「え?私は?一樹、ひょっとして私のこと馬鹿だと思ってる?」

一樹「いや、もえかとみずきが特別賢いのさ。俺も自力じゃ人間族語は話せないしな」


俺は腕に着けた『翻訳の腕輪』を見せた。


みどり「へー、もえかとみずきってすごかったんだ?」

みずき「そんなことないよ」

一樹「うちはハーブティーが自慢なんだ。カフェでお茶でもしにくるといい」

もえか「楽しみー!かずきおにぃちゃん、ありがとう!」

みずき「ありがとう!」


もえかとみずきが俺に抱き着いてくる。


みどり「ちょっと!いつの間にそんなに仲良くなってんのよ?」

一樹「みどりも行きたいだろう?他の転生者が作ったおいしいクッキーもあるよ」

みどり「え?転生者同士って交流できるもんなの?」

一樹「現にみどりと俺も交流が始まろうとしているだろう?」

みどり「そ、そうね。でも、ダンジョンの防衛は?もこもこを守ってあげないと」

一樹「魔力を30億ポイント渡しておいたから防備を固めてくれ。俺のガーディアンも周辺に配置しておくし、必要なら中にも追加しよう。冒険者が近づいたらすぐに教えるよ」

みどり「そう、ありがとう」


ようやく少しみどりの表情が綻んだ様だ。やっと安心してくれたかな?

これで俺の方も『聖騎士』の対応に専念できる。

約束どおり帰ってくれよ?俺だって殺したくはないからな。

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