第89話 誘拐
『経済特区』に設けた百貨店の品揃えもだいぶ増えてきた。
最近になって特に大きく増えたのはやはり農産物関連か。
兎人族は農耕が盛んと言うだけあって保存食への加工も手馴れている。
生鮮野菜に加えて日干し、塩漬け、酢漬け、蜂蜜漬けやジャムも並ぶ。
そこにうちのガーディアン達が香りや旨みを加えた製品も販売中だ。
石鹸の改良も随時進められている。
透明石鹸をベースに色や香りを付け、花や宝石風に整形した石鹸だ。
それらを透明石鹸に埋め込んだプリザーブドフラワー風の石鹸もある。
食器用、衣類用、毛髪用などに最適化した石鹸も開発中だ。
マリョクタケに薬草を加えて加工した各種ポーションの販売も始まった。
ポーションの製造は元々コバルト、アルミ、ネオンたちの得意分野。
さらにハーバリスト、採集人、栽培人、狩猟人たちが素材を収集している。
そのおかげでバリエーションも豊富、供給も安定している。
シュバルツから提供される焼き菓子と、マーガレットのハーブティーも好評。
スカーフスライムを使った『ドクタースラム』のエステサロンもある。
アウラエルと天使型ガーディアンたちが提供するおっぱい整形も密かに人気だ。
領民達が提供するレストランや雑貨店なども増えつつある。
外部の者たちにはなるが、鬼族と王国の人間族のテナントも増えている。
お金が他国に流れるのは少し不安だが、家賃と税収はあるのでよしとしよう。
鬼族の出す商品もちょっと雰囲気のある工芸品風のものにグレードアップした。
地球のデパートと大きく違うのは武具や農具が並ぶ店舗もあるところか。
剣やら斧やらがデパートに並んでいるのは日本生まれの俺には違和感がある。
その辺は異世界ならではの光景と言うことなのだろう。
リリー「よう旦那、こんな所で何してるんだい?」
一樹「領内の見回りだよ。報告書には目を通しているが、どうせ狭い街だ。時々は自分の目で見ないとね」
リリー「なるほど。仕事熱心な事だ」
一樹「そういうお前こそどうしたんだ?」
リリー「見ての通り、警備員の穴埋め要員さ」
そう言ってリリーは腕章を見せる。
リリー「そっちは温泉旅行はどうしたのさ?」
一樹「ああ、予定通りマリーにお願いしたよ」
リリー「なんだ、一緒じゃないのかい?」
一樹「ああ。今回は女性目線での意見が欲しいって話だからな。それに毒草や毒虫だって、魔族や鬼族基準なら無害でも、人間族には危険って事もあるだろう?」
リリー「そうかもしれねえが、それにしたって一緒に周った方が相手の反応も見やすいだろう?」
一樹「いや、クライアントがずっと張り付いてたんじゃ仕事しにくいだろ?マリーには細かい事でも書き止めてもらうようお願いしてるし、ヒアリング担当の職人と仲居さんも用意してる」
リリー「おいおい、何の為に俺たちがこんな安い仕事で時間潰してると・・・・」
なるみ「かずきおにぃちゃん、たいへん!温泉宿にモンスターが出たよ」
なるみが俺の耳元に声だけ飛ばしてくる。
一樹「なんだって?マリーは無事なのか?」
なるみ「今雪風さんたちが応戦してるけど、相手が硬過ぎて攻撃が通らないんだよ」
リリー「おい、いきなり何の話だ?マリーがどうしたって?」
一樹「温泉にモンスターが出たらしい。状況を確認してくる」
リリー「待て!俺も行く!おっちゃん、悪いが仲間に何かあったらしい。違約金なら払うからここは行かせてくれないか?」
男「分かった。まあ、支配人にはうまく言っとくよ」
リリー「ありがとよ。今度酒でも奢るぜ。アーニャ!!来い!!」
リリーが百貨店中に響きそうな声で叫ぶ。
何かを察したアーニャが応じる。
俺は人混みを縫って拠点へ急ぐ。
くそっ!いっそこいつらが敵なら蹴散らして通れるのに!
一樹「なるみ!今どんな状態だ?」
なるみ「オーガロードが宿に向かってる。雪風さんたちが足止めしてるけど、あんまり効果は無さそうだね」
雪風達は忍者だ。
状況次第では高い攻撃力も有るが、真っ向からぶつかるタイプじゃない。
オーガロードか、初めて見る魔物だがそんなに強いのか?
一樹「マリーは無事か?」
なるみ「無事だよ。さっき急いで露天の大浴場から上がった所。でも、みんなが避難する時間を稼ぐ為に残ると決めたみたい」
一樹「すぐにマリーも避難させろ!」
なるみ「鬼族のみんなも説得してるんだけど意思は固いみたいだね」
そうだな、マリーならきっとそうするだろう。
一樹「全力で足止めしろ!鬼族の避難が終わればマリーも避難指示に応じるだろう」
なるみ「りょーかい!」
アーニャ「話は聞こえたわ。マリーならそうするでしょうね」
一樹「すまん、恨み言は後で聞く」
アーニャ「ええ。それでどうするの?」
一樹「俺の兵では足止めにならんらしい。俺が直接行くしかない」
言うなり俺はメインダンジョンのコアルームにテレポートする。
人間族に手の内を明かすのはまずいが今はそれどころでは無い。
俺はすぐさまエレベーターに飛び乗り、山頂から温泉宿に向かう。
なるみ「たいへん!マリーちゃん連れてかれちゃった!」
一樹「なんだって!?」
何をするつもりだ?
いや、考えるまでもないな。
ゴブリンと同じく繁殖の為。一刻の猶予も無い。
一樹「奴はどっちに行った?」
なるみ「分かんない。ガーディアンは全員足止めにぶつけたから、追跡出来る人が残ってないよ」
一樹「何で残して置かない!」
俺がそう指示したからだ。
忍者は足止めに適した兵種では無い。
なるみ「え、だって」
一樹「すまん、俺の判断ミスだ。何か手がかりは無いか?」
アーニャ「落ち着いて、一樹!連れ去ったならまだ時間はある筈よ」
アーニャも執務室のインターフェース一式の前に居るのか?
まあ、あの状況では止めようも無いな。
一樹「だが繁殖行為ならどこでだって出来るだろう」
言葉にする事で更に焦りが募る。
こんな事なら百貨店から直にテレポートすべきだった。
たとえ手の内を多くの人間族の前で晒す事になろうとも。
待て、それを考えるのは今じゃない。
アーニャ「オーガが人間族の女を犯してもオーガの子供は生まれないわ。食べるにしたって、わざわざ人間族や鬼族なんて面倒な獲物は狙わない筈よ」
一樹「じゃあ何の為だ?」
避難する鬼族の向こうに、半壊した宿が見えてくる。
人型の魔物なら全部異種族の女を犯すというわけでもないのか。
アーニャ「おそらく配下への手土産ね。上位のオーガ種はゴブリンやオークを従える事が有るわ。配下が自力で獲得出来ない様な獲物を与える事で自分の力を示すのよ」
一樹「どの道時間は無いな」
アーニャ「ええ、でも行き先の見当はつけられるわ。ゴブリンの群れが住み着いてそうな場所に心当たりは無い?」
ゴブリンの巣窟なら1つ知っているが、オーガは居なかった筈だ。
一樹「なるみ、周辺地図から該当しそうな場所を探してくれ」
なるみ「あいさー!」
現場に居る俺に出来る事は無いか?
マリーは温泉から上がったばかりと言っていたか。
女湯の脱衣所跡を覗くと、荷物や衣服が散乱している。
状況が状況だけに回収する時間もなかったのだろう。
その中に、どこか見覚えのある横縞模様のパンツが目に留まる。
マリーのパンツか?火事騒動の時も同じようなパンツがあった。
なるみ「とりあえず周辺500メートルで該当しそうな場所は68箇所有るね」
半径500メートルだけで68箇所だと?
多すぎる!あまりに時間がかかりすぎる!
なるみ「全部に人を送ってる。場所が特定出来次第、剣士隊も天使隊も出撃できるよ」
一樹「アーニャ、マリーの今日のパンツの柄は分かるか?」
アーニャ「パンツ?悪いけどそこまで把握してないわ」
一樹「ではマリーはこんなパンツは持っていたか?」
アーニャ「・・・そうね、持っていたと思うわ」
ここに残っていると言うことは入浴直前まで履いていたパンツだろう。
ならば体臭から追跡できるかもしれない。
一樹「なるみ、ジュリエッタをここへ呼べ!大至急だ!」
なるみ「わかった!でもちょっと時間かかるかも」
一樹「どれくらいかかる?」
なるみ「もうそっちに向かってる。到着まで15分くらい」
くそっ!時間がかかりすぎる。
それに15分の全力疾走の直後に捜索なんてできるのか?
ここに匂いの分かるやつが居れば!
俺に犬のような嗅覚が有れば!
そういえば魔力を使った視覚の強化ならいつもやっているな。
嗅覚も同じ要領で強化できるんじゃないのか?
迷っている暇はないな。
俺はマリーのパンツを拾い上げると、鼻先に近づけた。
アーニャ「・・一樹?」
一樹「集中したい。静かにしてくれ」
魔力で強化された俺の嗅覚が嗅ぎ慣れた匂いを捉える。
これはたぶん「人間族の匂い」、もっと絞り込まなければ。
さらに嗅覚に魔力と意識を集中させる。
これは「人間族の女の匂い」。
俺の領を除けば魔界に人間族の女は少ない。
ここまで分かれば捜索には十分か?
いや、他にもさらわれているかも知れないし、女の冒険者もいる。
今は寄り道をしている余裕はない。
もっとだ、もっと集中しろ!
もっと嗅ぎ分けろ!
人間は直立歩行と引き換えに嗅覚の大部分を失った。
単に鼻が弱くなっただけでなく、嗅覚情報の処理能力も落ちているはず。
ただ鼻の感覚を増幅するだけじゃ駄目だ。
脳を!匂いの内訳とバランスを把握し、その特徴を捉える感覚を研ぎ澄ませ。
さらに鋭敏になった俺の嗅覚が特徴のある匂いを捉えた。
刹那、脳裏にマリーの姿が浮かび上がる。
これか?これが「マリーの匂い」なのか?
だが、今まで意識してマリーの匂いをかいだことは無かった。
無意識のうちに彼女の匂いを記憶していたのだろうか?
本当にこの匂いで合っているのか?
まずい、分からなくなる。
捉えたはずの「マリーの匂い」がゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。
まずい、これ以上考えるな。
ゲシュタルト崩壊を起こせば視覚情報ですら怪しくなってしまう。
それで無くとも嗅覚での人物同定なんていう慣れない事をしているんだ。
ここで見失えば間に合わなくなってしまう。
改めてマリーの残り香を嗅ぐ。
この匂いで合っているはずだ。
今はそう信じるしかない。
アーニャ「何か分かったの?」
一樹「ああ、掴んだ。・・と思う」
たった今覚えた「マリーの匂い」を探る。
当然ながら手元のパンツが一番強く反応する。
匂いがもれないようにしっかりと握りこむ。
改めて嗅覚に意識を集中させる。
ぼやけがちな匂いの標が森へと続いているのを感じ取る。
一樹「こっちだ!」
言うが早いか俺は走り出していた。
手元から微かに漏れる匂いも、走り続ける限りは置き去りにできる。
マリーのパンツに俺の臭いが移ってしまっただろうか?
これではもう手がかりとしては使えないかも知れない。
というか、俺が持ってくる必要はなかったのでは?
ジュリエッタのためにあの場に残してくるべきだった。
俺が「マリーの匂い」を誤認している可能性、これから見失う可能性もある。
ジュリエッタなら俺より正確にマリーの匂いを追ってくれるはずだ。
このパンツを誰かに預けてから走り出してもタイムロスは5秒も無かったはず。
しくじった!絶対に、俺が必ずマリーを見つけなければ!
「マリーの匂い」が近づいてくる。近い!
同時にゴブリンたちの体臭が強く鼻を刺激し始める。
やはり一刻の猶予も無い!
藪の中を突き進むと、急に開けた場所に出る。
正面にはオーガと思しき大柄な魔物、周囲には数十匹のゴブリンやオークたち。
しまった!無策に敵の直中に飛び込んでしまったか。
マリーは手足を縛られ、配下のゴブリンたちに見せ付けるように飾られている。
その横で誇らしげに仁王立ちしているデカブツがオーガロードとやらか?
どうする?状況的に俺が彼女を奪い返しに来たことは明白だ。
一樹「があぁぁーーー!!」
雄たけびと共に魔力を込めた威圧を放つ。
アーニャによれば、マリーは配下に力を見せ付けるための手土産。
自分の力を見せつけ、従うメリットを印象付ける為に勿体つけているのだろう。
そこそこの知能があるのであれば、人質を取ると言う行動もありうる。
まずはマリーを取り巻く魔物を遠ざけるのが先決。
マリーに群がり、せがんでいたゴブリンやオークたちが怯み、一部は逃げ出した。
デカブツは怯む様子を見せず、おもむろに俺の方へと距離を詰めてくる。
状況的に俺がマリーを助けに来た事は明白だが、人質を取る様子はないか。
周囲のゴブリンたちを俺にけしかける様子も見えない。
今は己の力を見せ付ける場面、襲撃者は自身の手で倒すのが得策と見たか?
それに『獲物』の奪い合いという認識なら人質と言う発想がないのかも知れない。
いいね、人間族の盗賊共よりは余程好感が持てる。
身の丈4m程もありそうなデカブツが丸太のような棍棒を俺に振り下ろす。
この程度はサイドステップで簡単に避けられる。
一樹「ストーンバレッ・・・くっ」
オーガロードは俺をマリーに近づけまいと間に入ってくる。
『獲物』を横取りされまいと守っているのか?
これでは攻撃魔法で型をつけることが出来ない。
上半身を狙えばマリーに当たることはないか?
いや、それでも奴が後ろに倒れれば下敷きになってしまう。
やはり近づいて棍棒で仕留めるしかないか。
デカブツは地面を浚うように横薙ぎの攻撃を放つ。
攻撃範囲が広い!上に避けるしか無い!
放物線の頂点を狙い、デカブツが逆袈裟に棍棒を振り下ろす。
くそっ!賢しい真似を!
俺の身体は派手に吹っ飛ばされた、
茂みを突き破り、樹の幹に当たって止まる。
咄嗟に展開したマジックシールドでダメージは低いはず。
さすがに痛みはあるが身体は動く。
すぐに立ち上がって再びオーガロードに突進する。
再び地面すれすれの横薙ぎの攻撃。
今度は真っ向から俺の棍棒で迎え撃つ!
俺の棍棒が奴の棍棒にめり込む。
しかし、俺の身体は再び茂みの中に弾き飛ばされた。
丸太のような奴の棍棒と比べれば、直径5cm程の俺の棍棒は小枝のようだ。
だが、俺の魔力で強化したそれは奴と正面から打ち合っても歪みもひびも無い。
とはいえ、この体重差では真っ向からぶつかり合うのは無理か?
いつもの攻撃を弾き返す戦術が通用しそうにない。
今度も大したダメージではない。
再び奴に向かって突進する。
早くしなければ正気に戻ったゴブリン共がマリーに手を出すかもしれない。
一樹「マリー!目を閉じていろ!」
再び地面すれすれの横薙ぎの攻撃。
単純だが、確かにこれでは距離を取るか上に逃げるしかない。
丸太のような棍棒を避けて俺は再び高く跳躍する。
その放物線の頂点を狙って振り下ろされる棍棒。
しかし、必中の技であったはずのその攻撃は空をきる。
俺は練習中の飛行魔法でオーガロードの真上に飛翔した。
一樹「ファイエル!」
光の束に焼かれたオーガロードが雄叫びを上げる。
その隙に背後のマリーの傍に降り立ち、周囲の魔物を蹴散らす。
マリーが縛られた棒を砕き折ってマリーを抱えあげる。
マリー「一樹さん、危ない!」
オーガロードに背を向けたままマリーを抱えて前に跳躍する。
俺たちが居た辺りの地面が深く抉られている。
一樹「ストーンバレット!」
空中で身体を捻って打ち出した石弾が敵を掠める。
背後にマリーが居ない以上、もう攻撃魔法を遠慮する必要は無い。
一樹「ストーンバレット!」
今度は奴の胸板に命中する。
敵は上体を仰け反らせ、痛みに声を上げる。
一応はきいているようだが、致命打にはなってない。
オーガロードは俺の攻撃を受けつつも距離を詰めてくる。
くそっ、精度が上がらない!威力が上がらない!
『想像』に魔力を注いで具現化した物が魔法だ。
標的に手の平や指先を向ける動作は必須では無い筈。
迫り来るオーガロードの攻撃を俺はなんとか避け続ける。
しかし、マリーを抱えたままではどうにも動きが取り難い。
間近に迫ったオーガロードの一撃が遂に俺たちを捉えた。
宙空でなんとか身体を捻り、背中で受ける。
魔導防壁と防御力強化でなんとか威力は殺すが、軽い体は地面に叩きつけられる。
なんとかマリーは守ろうと、前腕を前に出して樹との直撃を避ける。
痛い。防御用の魔力をほとんど背面に回したせいで骨にヒビくらい入ったか?
マリー「一樹さん、予備の『発動体』はありませんか?援護します」
一樹「無い。それよりしっかり捕まって頭と足を引っ込めてろ」
マリー「はい」
直ぐに意図を察したマリーが俺の胸の中で丸くなる。
かわいい。今ちょっと唇が俺の頬を掠めた気がする。
だが、余韻に浸る間も無く続く一撃を避ける。
森の中の疾走なら慣れたものだ。
さっきまではマリーの頭や脚をぶつけない様に樹上を跳んでいた。
俺は樹々の合間を縫う様に走って距離を稼ぐ。
オーガロードが何事か叫んでいる。
呼応する様にゴブリンどもが俺たちを包囲する様に動く気配を感じる。
奴らにも言葉の様な物が有るのか?
一樹「どけ!」
立ち塞がるオークに魔力を込めて威嚇する。
固まったオークの顔面を踏み越えて更に走る。
最優先目標で有るマリーの身柄の確保はとりあえず達成した。
オーガロードの討伐は彼女を安全な場所に届けてからでいい。
っつか、この状況をちょっと嬉しく思ってたりもする。
マリー「一樹さん、来ます」
攻撃の気配を察知して横に跳ぶ。右腕痛ぇ!
人の頭よりも大きそうな岩がゴブリンもろとも樹を薙ぎ倒す。
おいおい、遠距離攻撃も出来るのかよ。
とはいえ、命中精度は高く無いらしい。
軽くかわしながら此方もたまに応撃してみる。
だが、マリーを抱えた状態では此方の攻撃も効果が薄い。
『想像』がより具体的で鮮明である程、魔法は威力や精度が上がる。
標的に何かを向ける動作がそれを補助してくれていたのだろう。
だが、この状況でマリーを下ろす事は出来ない。
こんな事なら目からビームを出す練習でもしておくんだった。
刹那、銀色の光がオーガロードの頭部を撃ち抜いた。
側頭部に見覚えのある剣が突き刺さっている。
銀色の光はウィセルの翼の光だったか。
なるみ「剣士隊、弓兵隊げんちゃくー!でももう終わったっぽいね」
一樹「いや、温泉宿の付近にこいつらがいるのは危険だ。そのまま掃討してくれ」
なるみ「あーい」
オーガロードが地響きを立てて倒れる。
俺はちょっと惜しい気持ちを抑えてマリーを下ろす。
周囲のゴブリンを適当に殴り伏せる。
一樹「マリー、もう大丈夫だ」
マリー「はい、ありがとうございます。怪我、大丈夫ですか?」
一樹「ああ、大した事は無いよ。マリーの方こそ大丈夫?」
心配させないよう努めて平静を装う。
多分右の前腕部にヒビとか入ってるだろうけどね。
痛いけど、この場で治癒魔法を使う訳にもいかない。
俺の治癒魔法は自己治癒能力を強化・加速するものだ。
骨がずれた状態で使うと、たぶん後が面倒になる。
あとでちゃんとアウラエルに見てもらおう。
あ、ウィセルでもいいのかな?
マリー「私も大した事はありません。縛られた所がちょっと痛むくらいです」
一樹「見せて。簡単な治癒魔法なら使えるから」
マリー「いえ、治癒魔法を使ってもらうほどでは・・・」
俺は周囲に敵が居ない事を確認して棍棒を納める。
今更ながら右手に違和感を覚える。
マリー「一樹さん・・・それ、私のパンツ、ですか?」
一樹「ん?あ・・・・」
通りで棍棒のグリップがいつもと違う感じがしたわけだ。
いや、今はそれどころの話じゃないな。
マリー「あの・・・なんで一樹さんが私のパンツを握り締めて・・・」
一樹「いや、その・・これは手がかりだったんだ!」
マリー「手がかり?パンツが?どうして?」
一樹「匂いを追跡した」
マリー「臭い・・・嗅いだんですか、それ?」
一樹「そうなんだ!」
あ、まずい・・・。
紅潮したマリーの手が俺の頬を打つ音が高く響いた。




