第82話 植物採集
マリーが台所に立って味噌汁を作っている。
身に着けているのは横縞模様のパンツとエプロンだけだ。
俺はキッチンのテーブルに腰掛けてそれを眺めている。
不意に眠くなってそのまま後ろに身体を倒す。
寝返りを打つと俺の手が柔らかいものを掴む。
隣ではマリーがうつぶせになっている。
俺の手が掴んだのはマリーのお尻だったようだ。
やわらかいコットンの手触りと心地よいお尻の弾力。
やけにはっきりした感触にふと我に返る。
ああ、どうやら俺は夢の中にいるらしい。
覚醒が近いのだろう。
俺は確か拠点のベッドで寝ていたはず。
コットンの手触りは分かるが、この弾力はなんだ?
ここはなるみとガーディアン以外の立ち入りは許していない。
女性型ガーディアンが勝手にベッドに入ってきたのか?
だが、睦月や秋風のお尻にしてはちょっと大きいか。
未だはっきりしない頭のまま目を開ける。
転がっていたのは下着コーナーで見かける腰だけのマネキン・・のぬいぐるみ?
着せられているのは夢に出てきたのと同じ横縞模様の女の子用のパンツだ。
胴の切断面に当たる部分には子供っぽい字で「まりぃ」と書かれている。
俺が目覚めたのは大量の女物のパンツの中。
ちょっと前に俺のシングルベッドは「ぱんつ風呂」仕様に変更された。
元に戻せと言ってもなるみが聞いてくれないので仕方がない。
その辺の経緯は話すと長くなるのでまた別の機会にしよう。
ともあれ、パンツの形はしていても要は柔らかなコットンの布切れだ。
入るのはちょっと度胸がいるが、目を閉じてしまえば問題はない。
なるみ「かずきおにぃちゃん、おっはよー!」
一樹「おはよう。・・・なんだ、これ?」
なるみ「おしりのぬいぐるみ、名付けて『おしりぐるみ』!」
一樹「・・・・なんだ、それ?」
なるみ「かずきおにぃちゃんに言われたとおり、だれのぱんつか分かるようにしといたの」
一樹「そうか、ありがとう」
あれ?そんなこと頼んだっけ?
改めてベッドの脇を見ると、秋風と春風の分もあるようだ。
あれ?アーニャの分まであるぞ?
なるみ「ふふ、よくできてるでしょ?ちゃーんと本人の形と大きさを忠実に再現してあるんだよ。誤差は1ミリもないと思うね」
得意げに胸を反らすなるみ。
変なところで凝っているようだ。
確かにこのぬいぐるみ(?)は実際のマリーのお尻と寸分変わらない。
なぜかそんな確信めいた感想が浮かぶ。
マリーのお尻なんて、直接見たことすらないのに。
いや、初めて会ったときは川で水浴びの最中だったか。
だが、あの時はそんなにしっかりと見れるような状況じゃなかった。
それにあの時と比べればほんの僅かだが大きくなっている。
・・・・あれ?
なるみ「ねね、ちょっとぱんつ脱がしてみて」
パンツを脱がす?マリーのパンツを?俺が?
いや待て。これはただの人形・・・いや、人形ですらない。
何を見せたいのか知らないが、別に躊躇するような事でもないだろう。
なるみ「中のほうもちょっと造り込んでみたんだよね」
半ばまで下ろしたパンツを慌てて引き上げる。
なるみ「あれ?見ないの?」
一樹「そうだな、止めておこう」
なるみ「なんで?さすがにヒップラインほど正確には作れなかったけど、けっこう本物っぽくできたと思うんだけどなー」
だからだよ!
なるみ「むー、がんばったのに」
一樹「秋風と春風のパンツを除けておいてくれと頼んだはずなんだが、なんでマリーとアーニャのパンツまで引っ張り出してるんだ?」
いろいろあって俺の手元に残ってしまったパンツだ。
当の本人は知らないはずなので、どうにも返すきっかけが掴めない。
なるみ「倉庫に仕舞いっ放しにしとくのもどうかと思って」
一樹「俺の枕元にある方が問題だよ!」
なるみ「そうかな?せっかくかわいく作ってあるんだし、使ってあげようよ」
物を大切に、か。
確かに倉庫におきっ放しでは物も収納スペースももったいないな。
だが、返そうにもなんと言って返せばいいのやら。
かと言ってこの使い方はどうなんだ?
なるみ「りありてぃを追求して骨盤も入れるか迷ったんだけどね、そこは実用性重視で止めておいたよ。柔らか素材なので安心して枕やクッションとしてご利用いただけます」
一樹「何の販売員だ。クッションはともかく、本物のパンツはまずいだろう」
なるみ「そう?んー、そこまで言うならぱんつは倉庫に戻しとくよ。クッションだけ置いとくね」
一樹「いや、待て」
『おしりぐるみ』からパンツを剥ぎ取ろうとするなるみを止める。
そういえば、パンツの下も本人そっくりに作ってあるんだっけ?
一樹「やっぱ、そのままでいいや」
なるみ「そう?そうだよね!ぱんつはやっぱりお尻を包んでる状態が一番かわいく見えるもんね」
一樹「そう、だな」
どうしよう?パンツ以上に厄介なものを抱えてしまったかもしれない。
本人そっくりに作られたパンツの中身・・・・これではパンツを動かせない。
誰かに見られる可能性を考えれば、迂闊に捨てるわけにもいかないな。
というか、どこまで精密に再現されているんだ?
ぬいぐるみじゃあんまり細かい造形は無理だろうし、ある程度デフォルメされているだろう。
あれ?それならそんなに意識する必要もないのか?
そういえば地球には「おっぱいマウスパッド」なんてものがあったな。
それを思えば、おしり型クッションも同系統のジョークグッズの範疇だろう。
何食わぬ顔でパンツを下ろしてしまえば良かった。
だが、今になってこのパンツを脱がすのはなんかやらしい感じになりそうだ。
なるみ「ガーディアンのぱんつ、全部ボーダー柄にしちゃう?」
一樹「へ?」
なるみ「春風ちゃんのねこさんぱんつとかもけっこうかわいいと思うんだけどなー」
一樹「何の話だ?」
なるみ「かずきおにぃちゃん、さっきからマリーちゃんのしまぱんばっかり見てる」
一樹「あ、、いや、これは・・・」
しまった、俺はマリーのパンツを凝視していたのか?
一樹「そうだな、春風のそれもかわいいと思う。デザインの方は今後もなるみに任せるよ」
なるみ「やっぱり?」
一樹「ああ」
なるみ「じゃあ、かずきおにぃちゃんの喜びそうなぱんつ、またいろいろ考えとくね」
なるみが春風の『おしりぐるみ』を俺に押し付けて笑う。
春風のそれはマリーのやつより一回り小さい。
それを包んでいるのは昨日まで春風が履いていたパンツだ。
俺の寝室が更に変態的な光景になってしまったな。
俺のベッドにはパンツの形をした布切れが敷き詰められている。
それら「パンツの様な物」から、本物のパンツを除けたかっただけなのだが・・・。
いや、敷き詰められているのが「パンツの様な物」で、『おしりぐるみ』を包んでいるのがパンツだ。
両者を区別するという意味ではきちんと機能している。
こちらの要望を満たした上でプラスαの仕事をしてくれたのだから文句を言う道理は無いな。
いや、どうなんだ?これってプラスなのか?
まあ、機能的には何も問題はない。
ここに入れるのは俺となるみとガーディアン達だけだ。
俺が気にしなければいいだけの話か。
そう、誰もここに立ち入らせなければいいだけの話だよな。
負けられない理由がまた増えてしまったか。
なるみ「ところでかずきおにぃちゃん、採集人のパンジーさんとデイジーさんが最近ちょっと忙しすぎるかもしれない。兎人族が増えてきて伐採のペースも上がってきてるしね」
一樹「そうか」
今俺達は開拓村と『経済特区』、さらに大農園の伐採を進めている。
森を切り開くのは気が進まないが、人間族などとの共存のためだ。
だが、せめて今ある草木は無駄にしないように最大限活用したい。
その為、2人には伐採予定地の山菜や薬草の採集をお願いしているのだ。
一樹「増員するべきかな。しかし、農園が本格的に稼動し始めたら出番は無くなるだろう?伐採ペースの方を落としたほうがいいかもな」
なるみ「それでもいいけど、採集人は野菜やキノコの保存食も作れるから、居ても無駄にはならないと思うよ?」
一樹「そんな事もできるのか?そういえば干しキノコとか作ってもらったな」
なるみ「そうそう。それに、流通の少ない薬草の採集とかも必要になるかもしれないよ。ものによっては採取した種や苗から栽培したりもできるかもね」
そういえばローズがキノコ部屋を作るときにデイジーたちに相談していたな。
希少な薬草の種の採取と育成環境の情報提供もしてもらえるわけか。
マリョクタケのように『魔界』ならではの作物を売りに出来るかもしれない。
それに保存食の製造と開発は食料の安定供給には欠かせない要素だ。
大農場の倉庫の地下2層を丸ごと全部研究室にした。
この2ヘクタールの研究室で研究するのは食料の保存方法だ。
食物自給率200%超を達成し、保存食の備蓄を進めたい。
飢饉や自然災害、戦争などによる食料難に備えよう。
野菜やキノコなどの保存についてはローズやデイジー達が詳しい。
肉など動物系については狩猟人のアネモネが得意な分野だ。
肉については牧畜人も居た方がもっと良いのだろうが、とりあえず保留だ。
この面子にアルケミスト組を加えて食料の常温長期保存を目指してもらう。
ハーバリストのマーガレットの知見も役に立つかも知れないな。
保存食が完成したら、ダンジョン内でローリングストックしよう。
まず採集人の開拓村側代表者としてパンジー’とデイジー’を召喚する。
採集人の代表者として俺への報告などを担当してもらおう。
次にローズ、デイジー、パンジー、アネモネを各100人召喚する。
更にコバルト、ネオン、アルミ、マーガレットもそれぞれ100人。
服装はいつも通り、全員下着の上から白衣を羽織るのみだ。
何でか知らないがこれがうちの研究室のユニフォームらしいから仕方ない。
顔はやはり機能不明の謎ゴーグルでほとんど見えない。
石鹸と避妊ジェルの製造も基本的にここでやってもらおう。
メインダンジョンの研究室から『経済特区』に運ぶのは面倒だしね。
メインダンジョン側の研究室は、石鹸その他の研究と開発を中心にしていく。
こちらも先日拡張したので、アルケミストを60人追加で召喚した。
農園側と合わせて遠心分離機も15台増設してある。
更に屋外活動用にパンジーとデイジーを各20人、ローズとアネモネを各40人。
採集人の2人はホットパンツとクロップドタンクトップにして露出度アップ。
ローズは昭和から平成にかけて使われていたという紺のブルマの体操服にした。
アネモネは最初になるみから提案のあったレザービキニ姿だ。
それぞれ帽子とサングラスを着け、顔はほぼ隠している。
屋外の採集人、栽培人、狩猟人は20人ずつを山脈の東側と西側に配置した。
それぞれ鬼族の村、人間族と兎人族の村を手伝ってもらうことにする。
鬼族側は伐採ペースは緩やかで、採集人の仕事はそれほど多くはない。
それでも西側と同じく合計22人を配置したのには別の思惑があった。
『魔界』側の草木の保護と収集、そして植物園の設立だ。
俺は鬼族との同盟のお陰で山脈を横断する『領域』を獲得できた。
これを使って『魔界』と『人間界』を結ぶ山脈横断トンネルを作りたい。
だが、それに当たって主に2つの懸念事項があった。
1つ目は集客力だ。
トンネルを作ったところで、『魔界』側にこれといった産業がない。
今のままでは冒険者の侵入をただ容易にしてしまうだけだろう。
スカーフスライムのように、『魔界』ならでは産物を考えたい。
また、メインダンジョン周辺は観光地として整備したいと考えている。
だが、現状では危険な魔物が跋扈する原生林が広がっているばかりだ。
庭園を兼ねた『魔界』ならではの植物園と、温泉宿を作りたい。
温泉については鬼族に周辺の調査を依頼している。
2つ目は環境保全、特に生物多様性の維持だ。
『人間界』からの移動が容易になれば、外来種も当然入ってくるだろう。
『魔界』の動植物の近縁種であれば遺伝子汚染を受ける可能性もある。
そうなる前に、『魔界』の動植物の現状を把握し、保護したいのだ。
一樹「パンジーとデイジーはこの辺りに自生するあらゆる植物の確認と採取を頼む。草木はもちろん、コケやキノコ、カビに至るまで全てだ」
パンジー「承知しました、ご主人様」
一樹「成育環境についても確認し、ローズに詳細を伝えてくれ」
デイジー「はい、分かりました」
一樹「ローズは採取した種や胞子、苗などの保管と育成を頼む」
ローズ「分かりました、ご主人様」
一樹「この山の南側斜面から川を挟んで反対の北側斜面にかけてを植物園にしようと思っている。一般公開用の庭園風にする予定だが、必要に応じて一部は原生種の保護研究区画にしよう。場所の選定と整備もお願いしたい」
ローズ「はい、承知しました」
一樹「それと、種や胞子を発芽可能な状態で長期保存する方法も模索して欲しい。ネオンたちと一緒に地下2層の研究室を使ってくれ」
ネオン「了解にゃー」
2000メートル級の山脈を1つ超えただけで神経質過ぎるだろうか?
いや、観光地化するならもっと遠くから人や物が入ってくる可能性もある。
寒さに弱くて今まで山を超えられなかった動植物も入ってくるかもしれない。
それに外来種の侵略や遺伝子汚染が広まってからでは遅い。
ちょっと神経質なくらいでちょうどいいだろう。
一樹「アネモネはこの辺りの動物や虫、魚などの分布や数の確認をしてくれ。必要に応じて狩猟制限や保護飼育を頼む」
アネモネ「はい、ご主人様」
一樹「それと、博物館用に標本が欲しい。剥製と骨格標本だ。綺麗な状態で捕獲する方法の検討も頼む」
アネモネ「はい、お任せください」
一樹「それと、動植物全般について、外来種の侵入を防ぐためのガイドラインの策定を頼む。アルケミスト組は消毒薬や防虫剤の開発をしてくれ」
コバルト「うむ、承知した」
一樹「頼んだぞ」
なにしろゴブリンと人間の間で子供が出来るような世界だ。
違う魔獣を掛け合わせて新たな魔獣が生まれるなんて事もあるのかもしれない。
それはそれで面白そうだが、混ざってしまってから元に戻すことは難しい。
原種の保存はしっかりやっとかないとな。




