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第75話 オカシラ

ブロマイドの製作に備えて、倉庫の地下に製紙工場と印刷所を整備する。

床を平坦な石造りにして製紙用と印刷用のゴーレムを召喚した。

ここなら製紙用の木材の端切れなども持ち込みやすいだろう。


後はカメラをどうするかな?

ダンジョン内部ならなるみがけっこう自由に撮影できるっぽい。

しかし、その事実は外部、特に人間族には知らせたくない。


一樹「なるみ、カメラって作れるか?」

なるみ「ガーディアンの視覚情報ならこっちで受け取れるけど、高精細にしたいなら専用のゴーレムを作ろうか?」

一樹「地球のカメラみたいに持ち歩ける魔道具にするのは難しいかな?」


ダンジョン内部ならそれっぽい物を構えて写す振りをすればいい。

だが、それはダンジョン外部に持ち出しても機能しない。

それでは撮影機能を持った魔道具でないことがばれてしまう。

屋外での撮影ができないという、自由度の低さも問題だ。


なるみ「携帯サイズに収めるとなると、ミスリルがいっぱい要るね。50グラムは要るかな?ガラスはいいとして、後はルビーとラブラドライトも有った方がいいな。それぞれ2.5カラット以上は欲しいかなー」


ミスリルは『聖騎士』や貴族子弟から剥ぎ取った分が多少はある。

しかし、ルビーとラブラドライトは今の財政状況では厳しいか?

個人で持てるものにはなりそうにないし、盗難予防も大変そうだ。


一樹「そうか。今ある素材で作るとなると、どのくらいのサイズになる?」

なるみ「ミスリルの在庫をどこまで使っていいかにも因るけど、A1サイズに印刷するとなると・・・直径50cm、長さ1.2メートルの円柱くらいだね。4足の自力歩行をつけると高さは1.5mくらいかな」

一樹「でかいな。まあ、その位の方が特別感があっていいか。あれ?マリーたちの水浴び写真はどうやったんだ?」

なるみ「あれはカラス型使い魔から取り込んだ動画からの合成だね。時間をかけて観察できるなら普通のガーディアンの視覚情報からでも高精細っぽい画像は作れるよ」


それだとモデルさんの負担が大きくなるか。

それに一瞬のポーズや表情を捉えることはできなくなる。

ガーディアンの視覚情報を取り込める事も伏せておきたい。


一樹「わかった。後で補正を頼むことはあるかもしれないが、基本はカメラ型ゴーレムで行こう」

なるみ「んじゃデザインしとくね」

一樹「女の子じゃなくてロボットっぽい感じで頼むぞ」

なるみ「あいさー」


色街を一部拡張して撮影スタジオにすることにした。

『撮影会』と称して色街の外でヌードショーとかされても困るしね。

ただ、自然の風景とヌードの組み合わせも魅力的ではある。

現状でカメラを持つ者は限られてるし別にいいのかな?

まあ、その辺はおいおい考えていくとしよう。


さて、俺は今日も今日とて抜根作業に精を出すとしよう。

一部は雇用創出の為に冒険者ギルドに依頼してもいる。

しかし、伐採予定地をすべて任せられるほどの予算はない。

ミカエル、ガブリエルと3人でせっせと開墾を進めていく。


開拓村の村人たちも、農作業の合間に伐採を手伝ってくれる。

アウラエルに拠ればこの世界では労役があるのが一般的らしい。

俺が何も命じないせいで領民たちを不安にさせてしまったようだ。

農園予定地について説明し、開拓を手伝ってもらう事にした。


さて、日が沈んだらお楽しみの入浴タイムだ。

今日は初めて雪風が入ってきてくれた。

戦闘系ガーディアンが入ってくるのは初めてか?

彼女らにはそれぞれ担当する防衛地点があるしね。


雪風「失礼します」


雪風は黒髪黒目のねこ耳忍者だ。

しなやかに細く引き締まった肢体が美しい。

他の女性型ガーディアンと同様に身体を密着させて俺の身体を洗う。

一通り洗い終えると、今度は全裸を晒したまま報告会に移る。

そういえば山賊の情報収集を頼んでいたんだったな。


雪風「天然の洞窟を改造した巣穴のようです。現在確認できた限りでは出入り口は正面の1つのみで、常時見張りも居るため潜入は難しく中の構造は不明です」


出入り口は1つか。

取り逃がす心配はないが、ダイナミックエントリーは使えないな。

中の状況が分からない状態で真正面からごり押しするしかないのか。


雪風「賊の人数は30人ほどと思われます」

一樹「そこそこ多いな。やはり盗賊なのか?」

雪風「ここ数日観察した限りでは、街道を襲う様子はみられませんでした。しかし、物資が不足している様子は見られません」

一樹「奇妙だな」

雪風「はい。仕草や風体からするとごろつきのようですが、装備は王国の正規軍並に充実しています」


街道を襲うでもなく、物資も装備も充実しているか。

王国軍の秘密基地と言うことだろうか?

目障りであるが、害がないなら刺激するのはやめたほうがいいのか?


一樹「周辺から金品を奪う様子は無いのだな?」

雪風「はい。麓の村から若い娘を拐かしてはおりましたが、金品を奪う様子はありませんでした」

一樹「なんだと!?それはいつのことだ?」

雪風「山賊の観察を命じられてから本日までの1週間ほどの間です」

一樹「そうじゃない!娘が連れ込まれたのはいつだ?」

雪風「昨日の夕刻、日没前になります」


すでに24時間以上が経過しているのか。

地球で見た刑事ドラマでは何と言っていた?

“そういう目的”での誘拐の場合、生存が期待できるのは24時間?

いや、48時間だったかもしれない。そうであってくれ!


一樹「すぐに突入するぞ!準備しろ!」

雪風「お待ちください。ジェシカとエイミーは夜目が利きません。ご命令とあらば突入しますが、夜目のきく雪風、シャルロット、フローレンだけでは戦力不足かと存じます」


忍者、忍者、アーチャーか。前衛が足りない。

かといって松明を掲げて行軍できるような状況でもない。

そもそも忍者は召喚アプリでは戦闘タブじゃなくて情報タブだったか?

状況次第では攻撃力も高いが、真っ向から戦うタイプではない。


俺が一人で突っ込むか?

『領域』内だし、『聖騎士』の類が居ないなら戦闘能力では俺だけでも十分だろう。

しかし、要救助者がいる以上、派手な攻撃魔法は使えない。

相手が30人もいるなら、一人一人殴り倒している間に人質を取られて終了か?


一樹「世が明け次第作戦を開始する。雪風とシャルロットは進軍ルートの確認と山賊どもの監視を頼む」

雪風「承知しました」


くそっ!雪風がダンジョンを守るための魔道人形であることを失念していた。

彼女の行動原理はなるみと俺の防護、村娘の安否は思案の外にある。

近隣住民の安否を脅かすような事態は即座に報告するよう言って置くべきだった。


すぐにでも突入したい。

だが、中途半端に突いては相手の警戒心を煽り明日の作戦に支障をきたす。

今はじっと待つしかない。

己の浅慮を恨みながらぶつけ様のない怒りを持て余す。


太陽はほんの数時間前に沈んだばかりだ。

何が超人的な力だ?太陽が相手じゃ1ミリだって動かせやしない。

暴れたい。叫びたい。

だが奴らがこの村の様子を見張っている可能性は高い。

村人の中にスパイが潜入している可能性だってある。

奴らを警戒させるような大きな音は立てられない。

今は待つしかない。今はじっと待つしかない。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


洞窟の前には見張りの男が2人。

服装も姿勢もだらしないが、揃いの剣だけはやけに立派に見える。

雪風の報告どおり、装備だけは充実しているようだ。


できるなら複数の入り口から一気に雪崩れ込んで内部を制圧したい。

だが、確認できる入り口は今見えている1箇所だけだ。


一樹「情報を聞き出す為に出来れば盗賊どもは生け捕りにしたい。だが、優先順位は第一にお前たちの命、第二に要救助者の安全、盗賊どもの命は最後だ。お前たちがダメージを受けそうだったり、奴等が捕まっている人たちを傷つけるようなら躊躇なく殺せ」

エイミー’「了解しました」

一樹「それと、手強そうな奴が居たら無理に倒そうとしなくていい。防御に専念しつつ俺に報告しろ。すぐに俺か手の空いているものが応援に向かう」

エイミー’「はっ!」


突入の直前までこちらの存在を気取られたくない。

あまり多くの人数を動かすわけにはいかなかった。

ジェシカを門衛をして残し、エイミーを剣士隊の隊長とする。

剣士を30人、アーチャーを10人、忍者60人。


山賊どもの死角を縫うようにひっそりと行軍してきた。

昨夜のうちに雪風たちが確認した行軍ルートだ。

いや、雪風たちが確保した行軍ルートと言うべきか?

場所的に孤立していた見張りを密かに殺し、死角を増やしている。


一樹「魔弾よ、あらゆる障害を越えて彼の敵を穿て。スナイプ!」


俺の魔法が見張りの一人の眉間を打ち抜く。

ほぼ同時にもう一人の顔面と鎖骨の辺りに矢が生えた。

左右の茂みから飛んできた縄が首に巻き付いて身体を支える。

見張りの剣が地面に触れる頃、剣士隊は洞窟の入り口に殺到した。


俺も先頭に立って戦いたいのをこらえてエイミーと共に剣士隊を追う。

洞窟内が1本道と確認できていたなら俺が先頭に立って突入した。

だが、中の状態は不明で、途中で枝分かれしている可能性もある。


剣士たちは新兵程度なら2人相手でも秒殺できる程度の強さはある。

それでも手に負えないレベルの敵がどこかにいるかもしれない。

だが、そいつがどこにいるかは現時点では分からない。

雑魚はエイミー達に任せ、強敵出現の報を待つ。


エイミー’「一樹様、この先左側通路の剣士に梃子摺っています」

一樹「分かった。案内しろ」

エイミー’「はっ!」


この先の分岐が1つだけとは限らない。

確実に現場に駆け付ける為にエイミーに先導してもらう。

3人のビキニアーマーの後姿と、その奥に剣士らしき影が見える。

こちらは剣士が2人、アーチャーが1人か。

しかし、アーチャーは射るタイミングを計りかねているようだ。

相手の男の位置取りがうまいのだろう。

俺もこの位置からでは魔法は撃てない。


一樹「避けろ!」


2人の剣士がそれぞれ斜め後ろにバックステップする。

男は即座に距離を詰めて左側の剣士に張り付く。

男の身体は奴の盾とビキニアーマーの背中で隠れて見えない。

男は剣士の着地の瞬間を狙って剣を振り下ろした。


一樹「ストーンバレット!」


男は斜めに構えた盾で受け流しながら後ろに転がる。

俺は倒れている剣士に駆け寄り、男との間に入った。


一樹「無事か?」

ジェシカ053「盾をやられました」

一樹「それはいい。体は大丈夫か?」

ジェシカ053「左肘の関節を少し傷めました。修復に42秒かかります」

一樹「分かった。休め」

ジェシカ053「はい」

盗賊「妙な連中だと思ったら魔族の軍勢かよ。なんでこんな所にいるんだ?」


転がった男がゆらりと立ち上がる。

血痕を思わせるような赤黒い斑模様の盾と鎧。

盗賊というより騎士を思わせる鍛え上げられた体格。

よく見れば、色はともかく盾の形は騎兵用のそれか?


一樹「そういうお前は騎士崩れか?」

盗賊「さあな。今の俺はただの盗賊のオカシラさ」


おや?会話に応じてくるとは思わなかったな。

時間をかければこちらがより優位になるはずだが?


一樹「今は名無しというわけか」

盗賊「だからオカシラだよ。鬼族の言葉で祝いの席で食う魚のことらしい」

一樹「なるほど、盗賊には過ぎた名だな」

オカシラ「そうでもないさ。オカシラってのは尾っぽと頭の事でな、ありがたがっちゃいるが、所詮捨てられるのよ!」


オカシラが一気に距離を詰めて切りかかる。

鋭い連続攻撃をなんとかかわし、棍棒で払う。

カシやケヤキとの訓練のおかげか、一応対応はできる。

なんとか隙を見つけて棍棒を振るう。

小さなバックステップでかわされ、すぐにまた間合いを詰められる。


援護射撃を警戒して肉薄しているのか?

俺もできれば距離を取って魔法でカタをつけたい。

棍棒を振るい、相手が避けるのに合わせて大きくバックステップする。


一樹「ストーンバレット!」


サイドステップで避けられると同時に風切り音。

矢を盾で防ぎ、縄分銅を剣で弾く。

いつの間に現れたのか、天井に張り付いた雪風が見える。


オカシラ「そこぉ!!」


短刀を構えて降下する雪風めがけ、体をよじりながら剣を振り抜く。

大きく尻尾を振って雪風が空中で体を仰け反らせる。

辛うじて剣は避けたものの、雪風は体勢を崩して地面に転がった。


オカシラ「全員動くな!」


オカシラが雪風の喉に剣を突き付ける。

俺は追撃しようとするガーディアン達を手で制する。

くそっ!俺の視線が雪風の攻撃を知らせてしまったか?


オカシラ「安心しろ。俺だって殺したい訳じゃない。洞窟の入り口まで道を空けてくれるだけでだけでいい。そこでこいつは解放する」

一樹「逃げ切れると思っているのか?」


どうすればいい?

人質に価値はないという風に装うべきか?

いや、今更それはもう無理か?

せめて平静であるように見せなければ。


オカシラ「やっぱ難しいかね?でも、投降したら領主様のとこに引き渡されちまうんだろ?」

一樹「安心しろ、領主は俺だ」

オカシラ「そいつは残念」


どういう意味だ?


オカシラ「俺と一騎討ちをしろ。応じるならこの女は解放する」

一樹「・・・いいだろう。開放しろ」


オカシラは素直に雪風に突き付けた剣を引く。

この世界の人間は一騎討ちが好きな奴が多いな。


オカシラ「往くぞ」

一樹「ああ」


俺はオカシラの連続攻撃を捌く事に集中する。

思い出せ、俺の持ち味は技術じゃない。

この世界の人間族を凌駕する純粋なスピードとパワーだ。


横薙ぎの攻撃を見極め、迎える棍棒で打ち払う。

真っ向から剣を弾き返され、オカシラの体勢が僅かに崩れる。

それでも正確に待ち受ける盾を、振り下ろす棍棒で打ち砕く!

いや、手応えが薄い?自ら引いて衝撃を殺したか。


オカシラ「なんてぇ馬鹿力だ」


オカシラが盾を落とし、感覚を確かめるように左手を握る。


オカシラ「左手は使い物にならねぇな。ま、どの道あんたが相手じゃ盾は意味が無さそうだ」


俺は無言で棍棒を構え直す。

オカシラは左手をそっと剣の柄に添えた。

オカシラは再び間合いを詰め、浅い攻撃をつなぐ。

浅い分、軽く、速くなった攻撃に弾き返す隙が見出せない。

捌き切れない攻撃が俺の体に小さな傷を刻んでいく。


俺は一度大きくバックステップして距離を取る。

オカシラは追撃をせず、その場で息を整えている。

だが、ここで魔法を撃ってもかわされるだけだろう。

ダンジョンから魔力供給を受けている分、スタミナでは分があるか。

このまま凌ぎきってオカシラが消耗するのを待つ手もあるか?


いや、違うな。

今度は俺のほうから距離を詰めてみる。

再び始まる高速の連続攻撃に押し戻される。

連撃と連撃の間の半拍以下の間を見出す。

次の一撃が繰り出される刹那、俺は再び後ろに跳んだ。


一樹「ストーンバレット!」


オカシラは避け切れず直撃を受ける。

あれだけ高速の連続攻撃はいちいち考えながらでは無理だろう。

おそらくパターン化されたコンビネーションを繰り返しているのだ。

積み重ねた鍛錬によって体に覚えこませた半ば自動の連続攻撃。

バリエーションがどの程度あるか分からないからカウンター狙いは危険。

だが、それでも止まれないタイミングくらいはどこかにあるだろう。


一樹「なにか言い残すことはあるか?」

オカシラ「・・・何も」


虚ろな目でオカシラが答える。

こいつはどういうつもりでオカシラなんて名乗っていたんだろう?


一樹「俺の知ってる鬼族の娘だがな、俺の捕まえた魚を全部食べてくれたよ。頭も尾っぽも全部な」

オカシラ「・・・・そう、か」


オカシラが事切れた。

我ながらどういうつもりでこんな台詞を吐いたのか。

どうにもセンスがないな。

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