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第54話 エスカレーター

カミツキウサギの件で宴会を開いた村唯一の宿屋は取り壊すことになっている。

代わりに百貨店の2階東側がホテルになっており、そこを女将に任すことにした。

冒険者や行商人が主な客らしいので、風呂トイレ共同の安い部屋が中心になる。

安く狭い部屋を14部屋、風呂トイレ付の大き目の部屋を3部屋用意した。

現在の宿屋よりは部屋数も多いし、需要的にも当面は問題はないだろう。


百貨店の中央にはガラス張りのエレベーターを設置してある。

ただ、残念なことに村人たちのリアクションは今一つだ。

地方では珍しいが、王都に行けばエレベーターは普通にあるらしい。

エレベーターはここでは革新的な技術とは言えない様だ。


突き詰めればワイヤーで吊ったカーゴを上げ下げするだけの装置か。

安全性や快適性、パワーやスピードを考えるといろいろと工夫の余地はあるだろう。

現代の地球のエレベーターには様々な技術や工夫が凝縮されているだろうと思う。

だが、原始的な人力エレベーターなら古代のコロッセオやマチュピチュにもあったらしい。

この世界にも有ったとしても不思議はないか。


なんだか悔しいので半ば諦めていたエスカレーターを設置する事にする。

と言っても、階段がベルト状になるギミックはどうにも見当が付かない。


そんな訳で俺はゴーレムを使った力技で対応する。

斜めに設置したレールの上を、四角い頭のゴーレムに行進させるのだ。

終端に着いたゴーレムは、ループ状のレールに逆さ吊りの状態で戻って行く。

股間部分にメインウィールがあり、短い脚の内腿と踝にはサブウィールがある。

サブウィールは戻る時に体を支える他に脱輪防止とブレーキの役割がある。

ゴーレムの背面下部には取手があり、それを次のゴーレムが掴んで連結する。


機械マニアや鉄道マニアに見られたら突っ込み所満載かな?

魔力とスペースの無駄遣いっぽい所も気になる。

お世辞にもスマートにやり方とは言えない。

地球にいた時にもっといろいろ勉強しておけば良かった。


ともあれ、エスカレーターの完成だ。

ゴーレムならダンジョンからの魔力供給が途絶え無い限りは自動修復がある。

大きなダメージなら修復に時間がかかるが、摩耗等の経年劣化は無視出来る。

ゴーレムを並べるのは一見贅沢だが、メンテナンスフリーならむしろ経済的かもしれない。


百貨店のテナント募集はおいおい進めていくとして、畑の拡張も進めなければならない。

停滞していた伐採を再開しつつ、空になったカミツキウサギの巣を崩していく。

畑のために地均しをする必要があるし、再び彼らが戻ってこないようにするためでもある。

切り株を除いてネズミが走り去ると、半ば以上かじられた子ウサギが転がっていた。


無言で手を合わせ、作業を再開する。

火葬も埋葬もしない。

それこそ人間のエゴ、ただの自己満足だろう。


ダンジョンの魔力の供給源は『領域』の森の生き物たちだ。

ダンジョンマスターである俺は、本来は森を守るべき立場なのだろう。

こうやって森を切り開く行為は、裏切りなのかもしれない。

だが、文明の中で育った俺としては開発を進めたい人間の気持ちも分かる。

領主として開発をコントロールすることで、共存できる道を模索したい。


さらに巣を崩していくと、タシッタシッと聞き覚えのある音が聞こえてくる。

逃げ遅れたらしいカミツキウサギが後足で地面を叩いてこちらを威嚇している。

よく見ると、背後に小さな子供たちがうずくまっている。

捨て切れなかったということか。


剣に手をかけるジェシカを手で制し、カミツキウサギに近づいてみる。

意を決した母ウサギが俺の腕に噛み付いてくる。

常人の腕なら肉を貫くらしいが、魔力で強化された俺には子猫に噛まれた程度だ。


一樹「なるみ、最初のダンジョンにこいつの寝床を用意できるか?」

なるみ「いいけど、飼うの?」

一樹「積極的に面倒を見る気はないが、巣穴さえあれば後は自分たちでなんとかするだろう」

なるみ「そだね。じゃあ、ゴブリンたちと競合しないように適当に作っとくよ」

一樹「頼む。あと、アネモネを呼んでくれ。子ウサギを運ぶのを手伝って欲しい」

なるみ「おっけー!」


これもエゴだろうか?

でも、生きている個体を無為に殺すのはやっぱり駄目だよな。

それに、ただの感傷とか慈善行為ってわけでもない。

環境保全や資源保護の観点から考えても子育て中の個体はあまり狩らない方がいいだろう。

ダンジョンに巣があれば冒険者への牽制になるし、場合によっては食料源にもなる。


暴れる母ウサギを抱きかかえて最初のダンジョンへと向かう。

なるみが用意した穴に枯れ草を敷いて子ウサギを下ろし、母ウサギを放した。

ここに住んでくれるかどうかは分からないが、後は当人に任せよう。

俺は泥を払ってメインダンジョンに戻り、風呂に入ることにする。


コバルト「一樹よ、背中を流してやろう」

一樹「コバルトか。急にどうした?」


浴室に全裸で入ってきたのは小さなエルフのアルケミストだ。

3人いるアルケミストの中で、一応主任研究者という肩書きを与えている。


コバルト「聞けばこの国では領主への報告は風呂場で全裸で行うのが慣わしというではないか。まったくスケベなことじゃ」

一樹「いや、別に俺がやらせてるわけじゃないぞ?」

コバルト「よいよい。男児がスケベなのはよいことじゃ。そうでなくては国が滅びる。無理やりはいかんが、大いに口説き大いに盛れ!」

一樹「それはそうなんだがな」

コバルト「あいにくとこの体では子は産んでやれぬが、見るなり触るなり好きにしてよいぞ?」

一樹「そりゃーどうも」


ついつい忘れがちにあるがこいつもガーディアン、魔道人形だ。

これ以上遠慮をすることもないだろう。


一樹「それで、報告というのは?」

コバルト「うむ、これじゃ」


コバルトが差し出したのはほぼ透明の四角い物体だ。


一樹「石鹸の試作品か」

コバルト「うむ、匂ってみよ」

一樹「・・・・わからん。特にこれといった匂いは感じないな」

コバルト「そうじゃろう。これはペルメ油の石鹸なのじゃ」


ペルメ?またこっち特有の植物の名前かな?


コバルト「ペルメ油から不純物をしっかり取り除き、特定の成分だけを分離抽出する。そうするとほぼ無色透明、匂いもほとんどしないのじゃ」

一樹「なるほど」

コバルト「ここまで白くするのはなかなか苦労したぞ。どうじゃ?これならば色も匂いも好きにつけられる。お主の言っていた貴族向けの商品に使えるのではないか?」

一樹「確かによさそうだ。使用感はどうなんだ?」

コバルト「それはこれから試してみようではないか」


コバルトはにんまりと笑うと、石鹸をこすって泡を立てる。


コバルト「一樹よ、背中に手が届かんから座れ」


言われるままに俺は腰掛ける。

コバルトは胸と手に泡をつけて正面から抱き着いてきた。

滑らかな泡が俺の背中を滑る。


コバルト「どうじゃ?なかなかよかろう?」

一樹「ああ、なかなかいいな」


俺も傍らに置かれた石鹸を拾い上げて泡を立てる。

コバルトの背中をこすると、滑らかさと肌の弾力が心地よい。


一樹「確かに売り物になりそうだ。色と香りのバリエーション、いろいろ作ってみてくれ」

コバルト「うむ、任せておけ」

一樹「洗顔用とか洗髪用とかも作れるか?あと、食器用とか衣類用も欲しいな」

コバルト「それは構わんが、ポーションも作るのじゃろ?時間さえあればいくらでもやるが、急ぐのであれば3人では手が足りんぞ」


コバルトはもぞもぞと体の向きを変えると、背中を俺にくっつけた。

そして俺の右手を取ってむにむにと洗い始める。


一樹「そうか。そうだな、すまん」

コバルト「『領域』もだいぶ拡がったんじゃろ?そろそろ増員できんかの?」

一樹「悪いがもうしばらく待ってくれ。必ず増員はする」


コバルトたちにやって欲しいことはまだまだ山ほどある。

人数を増やすのはもちろんだし、研究室も拡張が必要だろう。

だが、春になれば冒険者たちの動きが活発になると聞く。

今以上にダンジョンの防備を固めなくてはならない。


コバルト「分かった。それと、聞いておるとは思うがハーバリストも頼むぞ。化学合成でいろいろ出来なくもないが、バラの香りをつけるならバラを使ったほうが早い。肌に優しく香りのよい素材をいろいろ提供して欲しいからの」

一樹「そうだったな。だが、先にダンジョンの守りをなんとかしないといけなくてな」

コバルト「確かになるみを殺されては元も子も無いからの。順番やタイミングは任せる」


俺のダンジョンが攻略されるということは、なるみが殺されると言う事。

それだけは何としても避けなければならない。


一樹「悪いな。ただ、必要な物は随時知らせてくれ。すぐには対応できないかもしれないが、やるべき事は把握しておきたい」

コバルト「承知した。あまり根を詰め過ぎるでないぞ?」

一樹「ああ、わかった。ありがとな」

コバルト「ほれ、左手を寄越せ」


膝の上のコバルトが俺の左手をむにむにと洗い始める。

アルケミストの増員に研究室の拡張、ハーバリストの召喚か。

その前にメインダンジョンの防備も強化しないといけない。

最初のダンジョンも少し手を入れたほうがいいだろうか?


開拓村と経済特区の開発と防備の増強も必要だな。

治安維持組織や不動産管理会社的な組織も作らないといけない。

領主としての体裁を整える為に迎賓館と使用人の用意も必要か。

現金収入がまだ乏しいから、使用人はメイド型ガーディアンを召喚しなきゃだな。


ここまで幸運にも大した戦いもなく支配領域を増やす事ができた。

それに伴ってやる事も増えていっている。

仕事を任せられる有能で信頼できる部下が必要だ。

どうしたものかな?人を使うってのはどうも苦手なんだよね。

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