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第13話 天使族

シュバルツ「お、生きてやがったか」


岩壁に偽装されたエレベーターの前でシュバルツとスズネさんが待っていた。

やはりアーチャーを通してこちらの様子を伺っていたか。

今は状況説明を省けるのが助かる。


一樹「すまん、弓使いがやられた」

シュバルツ「そのようだな。こい」


促されるままにエレベーターに乗り、いつぞやの花園に出る。


シュバルツ「スズネ、直せ」

スズネ「イエス、マスター」


スズネさんの前に二人の担架を降ろす。

特にこれといった前触れもなく、炭化した表皮の黒が薄れていく。

見る間に血色のよい肌の色を取り戻し、形のよい乳房が現れた。

慌てて視線を逸らすと、視界の端で何かが光る。


シュバルツ「終わったぜ」


恐る恐る視線を戻すと、いつものビキニアーマー姿。

すでに半身を起こし、起き上がろうとしている。


一樹「よかった。ありがとう、助かった」

シュバルツ「気にすんな。つーか、そんなんじゃ持たないぜ?」


しまった、取り乱しすぎたか?

戦闘が前提にある以上、今後もガーディアンが倒れることはあるだろう。

核を破壊され、治療が・・いや、修復不能になることもあるかもしれない。

慣れなければならない。


一樹「すまん」

シュバルツ「それで、例の天使族はどうなった?」


俺はアーチャーが倒れた後のことを掻い摘んで説明した。

いつものビキニのメイドさんがお茶を淹れてくれる。

優しい笑顔に少し落ち着いた。


シュバルツ「俺のアーチャーに手加減ねぇ。でも、オークは消し飛ばしたんだろう?」

一樹「ああ、そうだな」

シュバルツ「スズネ、どう思う?」

スズネ「戦闘ログによると直前に回避行動を取ることで直撃を免れています。攻撃規模から考えても直撃を狙ったと考えるのが妥当と思われます」

シュバルツ「一樹のアーチャーでも避けられたと思うか?」

スズネ「いいえ、このタイミングでは戦闘経験に乏しいガーディアンでは回避行動がまず間に合いません」


弓使いは俺の召喚アプリにもあるが、同じ強さではないのか。


シュバルツ「だそうだ。ぎりぎり避けられるように撃った、って解釈もできるが、奴は俺からの借り物って知らなかったんだろ?壊すつもりで撃ったのさ」

一樹「すまん、話が逸れるが、どうしたら強い弓使いを召喚できるようになる?」

シュバルツ「経験と素材だな。弓使いにいろいろな戦闘を経験させれば技術が上がる。経験はダンジョンコアを通じて共有されるから、最初のうちは兵種をある程度絞ったほうがいいぜ。といっても、あんまりワンパターンだと対策もされやすいから、その辺はバランスだけどな」

一樹「なるほど」


睦月たちも何か訓練させたほうがいいのか。


シュバルツ「あと素材だが、魔力の具現化だけじゃどうしても性能に限界がでる。要所要所に適切な素材を使ってやれば、ボディも装備もより強力になる」

一樹「素材集めか・・・やることがまた増えるな」

シュバルツ「焦らなくていい。やれることからコツコツやればいいさ。そういや、うちのアーチャーの弓はどうなった?あれもそこそこレアな素材で組んでるんだぜ」


失念していた。

瓦礫の中だろうが、無事だろうか?


一樹「すまん、帰ったらすぐに確認する」

シュバルツ「そうか、じゃあ天使族撃退記念だ。もっといい弓持たせてやる」

一樹「いや、せっかくだがさすがにもらいすぎだ」

シュバルツ「気にすんな。当て付けるわけじゃないが、うちのアーチャーを守るためでもあるしな」

一樹「それについては本当にすまん」

シュバルツ「まあ、天使族が相手じゃ仕方ないさ。お前が生きているだけ上等だよ」

一樹「『試練』だと言っていたが、負けていればやはり殺されていたのか?」

シュバルツ「たぶんな。やつらの『聖域』付近に手を出したダンジョンマスターはだいたい狩られてるらしい。もっとも、この辺はけっこう離れてるからめったに来ないはずなんだがな」


要らんことをしておびき寄せてしまったか。

それにしても、ダンジョンマスターを狩る一族か。

仲間にするのは危険か?


一樹「アウラエルって天使族が俺に仕えるという話、どう思う?」

シュバルツ「受けたほうがいいな。じゃないと、今度こそ消されるぞ」

一樹「なんだそりゃ」

シュバルツ「やつらは面子を潰されるのを極端に嫌う。天使族からの臣従の申し出を蹴られるなんて、あっちゃならないことなのさ」

一樹「勝手なやつらだな。殺そうとしてみたり臣従したがったり、わけがわからん」

シュバルツ「そうだな。俺も詳しいことは知らん。だが、やつ等の『聖域』と『大神殿』に手を出さない限りは意外と真面目に働いてくれるみたいだぜ」


言われるまでもなく、だれかが大事にしているものをわざわざ壊そうなんて思わないが。


一樹「肝に銘じておくよ。その『聖域』と『大神殿』ってのはどこにあるんだ?」

シュバルツ「ずーーっと西のほうさ。当面は関わる事もないだろう」

一樹「そんな遠くのダンジョンマスターに仕えて何がしたいのかね」

シュバルツ「1つは単純に強い味方を増やしたいってことだな」


強い?天使族を退けたことで認められたということか?

それにしたってそんな遠くに味方を作ってどうしようというのか。


シュバルツ「やつらは強いし、仕事もできる。なにより見てくれがいい。そんな奴がお前の下で真面目に仕事をこなし、個人的にも親しく付き合う。そうすりゃ、お前は実務的にも心情的にもやつ等の虜になる。やつ等の『聖域』を守る駒のできあがりだ」


『世界の要』とは『聖域』を守る駒の意だろうか?

裏があるにしても、真面目に働いてくれるというならありがたいが・・・。


一樹「ひょっとしてここにもいるのか?俺なんかよりよっぽど強いだろ」

シュバルツ「ああ。だが俺はやつらの駒になる気はないからな。周囲の偵察と素材の収集、外の仕事だけやらしてる」


それはそれで大事な仕事だと思うが・・・。


シュバルツ「スズネ、プルマエルを呼べ」

スズネ「イエス、マスター」


返事はするが動きがない。

念話かなにかだろうか?


一樹「お前もいきなり戦いをふっかけられたのか?」

シュバルツ「いや、俺の時は普通に部下にしてくれと頼みに来たよ」

一樹「そういうパターンもあるのか」

シュバルツ「胡散くせぇから突っぱねたがな」

一樹「おいおい、消されるんじゃなかったのか?」

シュバルツ「幸い俺はそれなりにダンジョンが育った後のことだったからな。『聖域』から遠いこともあってつぶすのは手間がかかる。反面、取り込めれば戦力になる。それで判断を保留したんじゃないか?」


俺の場合は天使族を2人も送り込めば楽に潰せるか。


シュバルツ「何度か訪問を受ける間にこっちも情報を集めて、面倒な連中と知って折れたってとこだ」

一樹「なるほど」

シュバルツ「先に言っておくぞ。あいつの格好について、俺は何も指示はしていない」

一樹「それはどういう・・・」

女の声「シュバルツ様ーー!」


白く輝く大きな翼を背負った人型が飛来した。

その姿は確かに天の遣いを連想させそうだ。

身に着けているのがピンクのマイクロビキニでなければ。

地面まで1mほどのところで翼は溶けるように消え、そのまま軽やかに着地する。


天使族「シュバルツ様、お呼びでしょうか」


幼げな顔に不釣合いに立派な胸を揺らしながら小走りによってくる。


シュバルツ「お前に俺の友人を紹介しておこうと思ってな」

天使族「光栄です。プルマエルと申します。どうぞよろしくお願いします」

一樹「一樹です。よろしくお願いします」


差し出された右手を握ると、両手で握り返してきた。

笑顔でまっすぐにこちらを見つめる瞳がまぶしい。


シュバルツ「プルマエル、アウラエルという者を知っているか?」

プルマエル「アウラエルですか。確か、最近生まれたなかにそんな名前の子がいましたね」


最近?20歳くらいに見えたが、天使族は成長が早いのか?

天使族というぐらいだし、最初からあの姿で生まれるのかもしれない。


シュバルツ「一樹はアウラエルの新しい主人だ」

プルマエル「そうでしたか!おめでとうございます」

一樹「ありがとうございます。まだはっきり約束したわけではないですけどね」

プルマエル「一樹様、われわれ天使族は、主と定めた者を決して裏切りません。きっとお役に立ちますよ」


流れるような動作で俺の右手を両手で包む。


一樹「ええ、シュバルツからもそのように聞いております」

プルマエル「そうでしたか。ありがとうございます、シュバルツ様」


しっかりシュバルツに向き直って会釈をする。


プルマエル「ではアウラエルともども、改めてよろしくお願いいたします」

一樹「はい、よろしくお願いします」

プルマエル「一樹様はどちらにお住まいなのですか?」

一樹「向こうのすぐ隣ですね」

プルマエル「最近できた、失礼ですがまだ小さいダンジョンですよね。あの状態で天使族の試練に打ち勝たれたんですか?優秀な方なんですね」

一樹「いや、そんな・・・」

シュバルツ「プルマエル、今日は顔合わせだけでいい」


俺の言葉をさえぎるようにシュバルツが割ってはいる。

プルマエルのペースに乗せられ過ぎていたか?

独力で勝ったわけではないことをしゃべるのは得策ではないかもしれない。


プルマエル「失礼しました。はしゃぎすぎちゃいましたね」

一樹「いえ、こちらこそ」

プルマエル「シュバルツ様、今回収集した素材についてはいつも通り一覧をスズネさんに渡してありますので、ご確認くださいませ」

シュバルツ「わかった」


お仕事アピールも忘れない。


プルマエル「では一樹様、シュバルツ様。失礼いたします」


かわいらしく一礼すると、白い光の翼を展開する。

ゆったりとしたはばたきと共に体が浮き上がるが、風は起こらない。

少し後退してから踵を返すと、形のよいお尻を見せ付けるかのようにゆっくりと飛び去った。

あんまり堂々としているものだから、マイクロビキニにドギマギするこっちがおかしいように思えてくる。


一樹「ちょっと目のやり場に困るな」

シュバルツ「俺をビキニ好きと見た上で、差別化のためにより過激に、ってことだろうな」


ビキニメイドに囲まれて暮らす男にただのビキニじゃ刺激が弱いか。


シュバルツ「お前んとこの天使族はどんな格好するんだろうな?落とされるなよ?」

一樹「分かった。まあ、下心があるにしても、互恵関係が築けるなら別にいいとは思うけどな」

シュバルツ「そういう見方もあるかね」


シュバルツとなるみからの情報、そして俺の受けた印象は今のところ一致しているようだ。

信用仕切るのは危険かもしれないが、仲間に迎えるという方向で行くことにしよう。

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