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第123話 都市構想

伯爵軍の撤退が漸く完了し、何とも知れない斑模様の戦闘の痕跡が残された。

辺りは焼け焦げた臭いと腐臭に包まれているが、それでも安堵感すら覚える。

これでやっと落ち着いてこの地の開発と緑化に取り組むことが出来そうだ。


奴らの陣地跡には焼け焦げた馬車や木箱の残骸が転がっている。

これだけ広範囲に油を撒いて焼くなんて戦術はできれば取りたくなかった。

思いがけず強力な防御魔法の使い手が居たせいで奥の手を使わされてしまった。

こちらとしては『聖騎士』達以外の兵は必ずしも倒す必要の無い敵だ。

あとは見た目だけ派手な魔法で追い帰せれば良かったんだけどな。


ドクロマークの書かれた素焼きの壷の破片を見つけて踏み砕いた。

伯爵家の手の者に持ち込まれた毒薬、ようやく突き返してやれたな。

飲ませる前提の毒だから、ガス状では大した効果は無いと言う話だけどね。

だが、奴らがよく使う毒だったなら、その臭いに気づいた者も居たかもな。

毒殺未遂の意趣返しとしては生温いが、少しは慌ててくれただろうか?


さて、伯爵領と行き来を回復させるためにも街道を整備する必要がある。

だが、街道を整備する前に、まずは街として提供するダンジョンを造ろう。

いろいろあって石畳はがたがたで、とても普通の馬車が走れる状態では無い。

裏を返せば、今ならば接近はし難いし、されてもすぐに気付ける。

このタイミングでダンジョンを造り、とりあえず護りを固めよう。

街道を作るにしても、街と言う基点があった方が作りやすい。


街道予定地の1kmほど北側に、サブダンジョンのコアを据える。

まずは街にする予定の1km四方とその周囲30m程までフロア拡張をする。

更に、巨大な中洲を半ば縦断するように細長くフロアを拡張した。

細長い部分は南北がやや西よりの弧を描き、北が取水口、南が排水口になる。


今度は全体を地上2層、地下4層まで階層拡張をした。

地上2層の床が大河の橋と同じ高さになる様に地上1層は半ば埋もれている。

街道は地上2層の床と同じ高さの陸橋を人の手で東西に伸ばしていく予定だ。

手間はかかるが、完成すれば今迄の段差と水害リスクが軽減できるだろう。


ここまでで消費魔力が約120億、貯蓄が4割程も持っていかれてしまったな。

市街地部分は地上5層まで階層拡張する予定だが、それは後回しにしよう。

ひとまず市街地の地上2層部分の南北に開拓村の砦と同様の扉を設置する。

居住区や商業区の整備は後にして、今は防衛戦力の準備が優先だ。


制圧時に召喚済みなのが剣士202人、忍者354人、天使21人か。

それに加えてウィセル、サジタエル、アルマエルを各101人召喚する。

アルマエル''の盾にはエンペラーヘルスパイダーの挟角1対を埋め込んだ。

亀型亜龍の嘴に匹敵する素材は手元に無いので、防壁を重ねて対応しよう。


さらにアーチャーもフローレンとナターシャをそれぞれ150人召喚。

それぞれ100人はいつものビキニアーマーで城壁の守りなどに参加する。

50人ずつは、体の前面に先の細い十字を貼り付けたようなエロ衣装だ。

服と呼べるかは怪しい所ではあるが、肝心の胸部のコアはしっかり護る。

こちらは最下層のボス部屋を担当して貰う。


ボス部屋担当としては骸骨ブラの弥生も50人召喚した。

乙女の裸像型ゴーレムは剣2、盾2、鎖分銅4、杖2、弓2、マシンガン2。

バリスタや火炎放射などの固定型単機能ゴーレムも100体設置しておく。

サブダンジョンだが、狙われやすそうな立地なので防備はしっかりしておこう。


後は街を護る為に私服巡回型のジュリエッタとシャルロットをそれぞれ20人。

消火担当の水無月は街の規模が大きくなりそうな事もあって201人召喚した。

更に街を支える水路の北端には河港、南端には下水処理場を2セット設置する。

河港は迷った所ではあるが、取水口設置でフロア拡張するついでという感じだ。

下水処理場から発生するガスは、排気用ゴーレムで川底に細かい泡にして出す。


差し当たり、急ぎの部分はこんな所だろうか?

雪風に続き弥生、シャルロット、ジュリエッタまで番号が埋まってしまったな。

今後支配地域が増えた時の事を考えて識別番号の件を考え直さないといけない。

或いは、場所を固定せずにガーディアンを流動的に運用するべきだろうか?

その辺りも今後の課題として残る部分だな。


ダンジョンの市街地部分を予定していた地上5層まで階層拡張してみる。

消費魔力は32億ポイント、そしてそれ以上に維持費1億3800万が痛い。

メインダンジョンですら1日3200万程度だと言うのに大きすぎる。

俺と仲間達の住処と街1つじゃ規模が違い過ぎるから仕方ないけどね。

それを思えば、鬼族が居る事を差し引いても4倍ちょいの差は小さい方か?


魔力収支の事を考えると、大規模な階層拡張は緑化が進んだ後にしたかった。

だが、住民を入れた後に街を改装するとなるといろいろと面倒が多そうだ。

街の大まかな形だけは、最初の段階である程度固めてしまう事にしよう。

山脈の『領域』のおかげでまだなんとか魔力収支は黒字だしなんとかなる。


最上階の地上5層は外縁部のみ屋上を作ってあり、内側は窪んでいる。

外縁部は防衛施設として一般人立入禁止、内側は大部分を農地にする予定だ。

農地を一段低くしたのは、兵士や兵器の配置状況を見え難くする為だ。

農夫に紛れ込んだ工作員に背後を突かれない為の予防策でもある。


その内側部分にはサイコロの5の目の様に5つの穴が開いている。

中央のもの以外は地下3層までぶち抜きの巨大な吹き抜けの空間だ。

真ん中の穴は、地上1層に水路があるので地上2層の泉の広間までになる。

内部の閉塞感を緩和すると同時に、位置関係を把握し易くする為の工夫だ。

また、天使部隊や機動隊仕様の忍者部隊の出撃用でもある。


消火担当の水無月にも使って欲しいが、魔法少女の彼女に垂直移動は難しい。

人数もそれなりに用意したし、各フロアに支所を作って対応する事にしよう。

状況次第では階段を使ったり、天使部隊や忍者部隊に移動の補助をして貰う。


地上5層の北側中央には高さ4mほどの滝と噴水が設置してある。

地上1層を南北に走る水路に設置した水車で汲み上げた水を使った物だ。

この水は中央の吹き抜けに流れ込み、細い滝となって2層の泉まで落ちていく。

2つの滝とそれらを結ぶ細い水路の周囲はカフェスペースとして一般に開放する。

カフェスペースの周囲はぐるりと花壇で囲んで置いた。


中央の吹き抜けに流れ込む水は、北側中央の滝と比べて明らかに少ない。

わざわざ屋上まで水を汲み上げてまた落とすのは、農業用水の確保のついでだ。

来客や住人の目を楽しませると同時に、権威のアピールという側面もある。

ヨーロッパ貴族は権威の象徴として巨大な噴水を好んだと聞いた事がある。

大河のすぐ脇という立地ではあんまり意味は無いかも知れないけどね。

まあ、この高さまで水を汲み上げる力がある、という事は示せるだろう。


地上4層に巨大な貯水槽を設け、農業と風呂、トイレ用に使う。

飲用水は別途地下水脈から汲み上げているが、これは機密事項だ。

ダンジョン北端の取水口から毒を流そうとする奴もいるかもしれないからね。

当然だが、それはそれで警戒と確認は続けていこう。


あとはエレベーターとエスカレーターか。

5つの吹き抜けの脇にガラス張りのエレベーターをそれぞれ2基設置する。

その反対側にはエスカレーターもそれぞれ1対ずつ設置しておこう。

エスカレーターは交差パターンは止めて各フロアで歩いて貰う形にするかな。

地上5層まで上がれるのは中央のみで、それ以外は地上4層までだ。


それとは別に地上5層まで上がれる貨物用エレベーターも必要だな。

防衛区画のすぐ内側に、南北に各4基、東西に各1基で計10基を設置した。

門に近い南北に多めに設置した訳だが、街中にいける広めの通路も必要だな。

エレベーター前以外にも各フロアに碁盤の目状の広めの通路を作っておこう。

荷物の無い時はベンチや観葉樹を並べてもいいし、出店を置いてもいい。


あと気になるのは、南北に伸びる水路の地上2層の屋上部分だな。

市街地本体とくっつけると高さが損なわれて防御力が減じてしまう。

地上2層部分も市街地本体の手前は数十mに渡って壁や天井を除いてある。

東西に走る街道と交差する部分も、大きな荷物が通る事を想定して天井は撤去だ。


残された地上2層の細長い屋上部には花壇を並べてカフェにしよう。

城門の外なので、安全面ではいろいろと不安の残る場所ではある。

反面、立ち入りに認証が不要な分、誰でも気軽に立ち寄れるという利点もある。

街道を行き来する商人たちが気軽に利用できる休憩所として整備しよう。


テナント契約の際には十分に注意喚起をしないといけないな。

誰でも来れる場所である為、治安等については防壁内ほどの保証はできない事。

深夜営業や店舗での寝泊り、貴重品の保管もしないように制限した方がいいか。

有事の際は早めに門内に避難し、店舗や中の財物は諦める事も約束して貰おう。


いざという時は硬く門を閉ざして篭城戦に入る事になる。

敵性勢力の領地と隣接しているし、立地的に周囲が水没する可能性もある。

この街がしばらく孤立してしまう危険性は低くはないだろう。

だが、少なくとも水と食料に関しては数ヶ月、或いは数年は持ちこたえる。

その間に開拓村などの戦力で増援なり救援なりに行けばいい。


この戦略を支えるのが、先ほどから何度か触れている屋上農園という構想だ。

防衛設備などで影になりがちな場所は農機具置き場や堆肥化ブースにしよう。

地上5層の開放部100ヘクタール中95ヘクタール程は農地にできそうだ。

豚や羊、鶏なんかを一部飼うにしても5000人分くらいの食料は作れるか?

となると、目標人口は定住者が2000人くらいになるかな?


そうすると常駐兵力50人、有事の動員兵数が多くて500人ってとこか?

これなら周辺諸侯がここを脅威と見る心配はまず無いだろう。

逆に舐められて侵攻されるのが心配ではあるけどね。

常駐兵力がすでに1200を超えているとは思うまい。

緑化が進んで茂みが増えたらゴブリンも1万匹くらい追加しよう。


地上5層が主に農地で、地上4層は貯水槽と一部商業区。

地上3層と地上2層も主に商業区で、各種テナントや区役所、劇場などにする。

地上1層から地下2層までは水路の他は主に居住区で、学校や保育園も作ろう。

地下3層と地下4層は俺たち専用の区画で、他の者が入れば命の保障は無い。


肝心のボス部屋はというと、地図上では中央の吹き抜けのすぐ北側になる。

地下4層から地下2層までの3層分の吹き抜けの空間だ。

正面は先ほども触れた10体の乙女の裸像型ゴーレムと100体の単機能ゴーレム。

両サイドは矢狭間が並び、下には4体の鎖分銅の乙女の裸像型ゴーレムがいる。

基本的に他のダンジョンのボス部屋と同じ様な構成だ。


俺自身は5つの吹き抜けを使って地下3層まで降り、隠し扉でボス部屋に入る。

当然だが、隠し扉は俺かガーディアンで無いと反応しないようにしてある。

また、俺とガーディアン以外の者が吹き抜けに入れば槍が噴水の様に吹き上がる。

穂先はバキバキに焼入れした鋼やロックバイパーの歯も混ぜておこうかな。

それを掻い潜っても、着いた場所は天使部隊と忍者部隊の待機場所だ。

それらを突破してようやくボス部屋での戦闘に入れるというわけだ。

不安がない訳では無いが、簡単に突破される事はないだろう。


さて、細かい調整はおいおいやっていくとして、大枠の区画整理はこんなものかな?

地下3~4層の迷宮化と防衛設備の強化も進めていかなければならない。

だが、居住区と商業区をある程度整備したら人を入れられる状態になりそうだ。

後は住民を受け入れる前に文官や警備員、清掃員の増員もしておく必要もあるな。

地上2層と両岸を繋ぐ陸橋はすぐにはできないから、暫定通路の造成の方が先か。


『魔力パス』の強化訓練の機会は減ったが、やるべき事は山積みのようだ。

だが、統治に必要な文官の手配はクリスがやってくれる約束だ。

清掃員も同じく手配してくれる筈だし、必要なら冒険者ギルドに応援要請しよう。

暫定通路の造成についても冒険者ギルドに・・・いや、どうなんだ?

それもクリスなら建築系の職人ギルドに伝手がありそうな気がする。


警備員については『ハイランダー』に傭兵の増員をお願いする事になるかな?

鬼族の戦士団やステファン率いる開拓村の自警団にはお願いできないだろうしね。

あ、地上の治安維持についてはローゼンヴァルト公爵の兵を借りれるんだったか。

街の住人達の統治については基本的にクリスに丸投げで良さそうな気がしてきた。

公爵家の兵が居るなら、停戦期間が終わっても伯爵は手を出し難いよね?


俺がやる必要があるのは、基本的にダンジョン自体の操作と防備くらいかな?

地上2層の交差点はラウンドアバウト形式にしたから、ルールの周知は必要か。

水路は今は川の水を素通ししているが、フィルターも用意しないといけないな。

これも此方で用意したシステムだから、運用方法について伝える必要がある。

今後、あちらからの要請でダンジョンに手を加える事もあるかもしれない。

住人の事は大部分を任せるにしても、ある程度の連携は取っていかないとな。


後、魔力収支は一応黒字だが、お金の収支が今後どうなるかが不安なところだ。

この地は元々税収が少なく、周辺諸侯の各種援助を必要とする領だったと聞く。

それでも魔族、鬼族、狼人族の土地と接している為、王国はここを堅持してきた。

そうすると、ローゼンヴァルト公爵が派遣する兵の給金は公爵持ちでいいのかな?

仮にそうだとしても、その他の公務員の給金を払えるのだろうか?


経済効果が未知数で不安だが、また国債の発行が必要になりそうだな。

陸橋が完成すれば、交通の便は以前よりも改善される筈だ。

鬼族や狼人族との交易も盛んになり、宿場町として栄えることができるだろう。

ヘーゼルホーヘン伯爵領とシュテッヒパルメ子爵領の交易も期待できるかな?

王国内の交通事情は分からないが、たぶん都市部を通るより行き来し易いよね?

けど、シュテッヒパルメ子爵領へは山越えが必要なんだったか。


大きな馬車なら大きな田舎道の方を選んでくれる可能性はある。

だが、想像より王都周辺の交通網が整備されている、或いはされる可能性もある。

商人に限らず、ここに人を呼べるコンテンツを何か考えておく必要はあるだろう。

今までは林業で細々とやっていたらしいが、再開できるのは100年程先の話だ。

宿場町として宿と食事の提供は確定として、他に楽しめるものを考えていこう。


とりあえずはショービジネスの為のスペースを確保しておくか。

地上2~4層ぶち抜きの大劇場を東部の南北2箇所に作っておく。

ステージは地上3層で、地上2層は奈落とオーケストラピット、客席下は楽屋だ。

どうせなら地上1層まで繋げてリハーサル用の大練習室も造っておくかな。

地上1層は学校やダンス教室も作る予定だし劇場の関係者用入口もここにしよう。


地上3層の西側には小劇場を幾つか造り、奥の方は色街にしてしまおう。

色街はどうせ必要になるだろうから、始めから区画を分けておいた方がいい。

不要であったなら、後からでも一般店舗向けとして開放すればいいだけの事だ。


あとは、美術品の展示場は高さ4mの普通のテナントスペースでいいよな?

いや、たまにすごいでかい絵とか像とか持ち込む人も居るかも知れないな。

地上3~4層を繋げた展示スペースを市街地南西部に造るとしよう。

地上3層は劇場、アイドルグッズ、美術品、衣料品、装飾品が主になりそうだ。


よし、この辺で改めて纏めに入ろう。

地上2層は外に繋がる大通りが南北に貫いていて、その両脇を各種商店が囲む。

南側のメインゲートを入ってすぐ右に折れた場所には市役所もある。

更にその奥、市街地の南北の隅のほうは、旅人や商人向けの安めの宿になる。

宿の一部は劇場と直通になっており、スタッフや出演者向けとして使う。


地上3層はついさっき触れた劇場と美術品展示場と関連グッズ販売区画。

地上4層は貯水槽と大劇場や展示場の上部、後はちょっとお高い宿と食事処。

中央の吹き抜けの滝の裏には、俺用とクリス用の応接室も作ろう。

俺の応接室からはボス部屋に繋がる秘密のエレベーターも作っておく。

地上5層は中央がカフェエリアで、それ以外は農場区画だ。


地上1層、これは街の住人からすると地下1階の認識になるだろう。

ここには学校、病院、職業訓練所とダンス教室など各種練習場を作る。

そして、地下1~2層が居住区で、公民館や公衆浴場なども作っておこう。

一部は食料品や日用品用の店舗としてテナントを入れてもいいかな。


地下3~4層は俺たち専用区画だから、後からいくらでも改装できる。

これについては今急いで構想を固める必要はないだろう。


あー、刑務所忘れてた!

けど、一般人と更正前の犯罪者の隔離という観点からすると、街中には造れないな。

市街地を囲む厚さ30mの防壁内部が兵の詰め所になるが、一部を刑務所にするか。

ローゼンヴァルト公爵の兵は街の警邏もやってくれるという話だった。

それなら犯罪者を連行した後の取調室や留置所も必要だろうしちょうどいいか。

この世界の三権分立とか司法の公平性とか気にはなるが、必要なら介入しよう。


よし、今度こそ初期構想としては十分固まったよな?

防衛区画の内部はまだ考えていないが、そこも後からどうとでもなるだろう。

入るのは軍関係者のみのはずだから、そこは臨機応変に対応してくれる筈だ。

とりあえず、兵の宿舎と留置場と刑務所だけ作っておけばなんとかなる。


ここまで終わったところでクリスに内部を案内して概要を説明する。

文官も武官もある程度手配が終わっていたようだが想定より規模が大きかった様だ。

追加の人員についてローゼンヴァルト公爵家に打診してみるとの事だった。

給金は武官についてはやはり公爵家持ちだが、文官の分はこちらの税金かららしい。

『経済特区』の税収にいくらか余裕はあるが、暫くは国債で凌ぐ必要がありそうだ。


劇場についてはミランダに、色街についてはマティルデに管理を打診する。

規模が大きくなることについて戸惑いがちではあったが、二人とも承諾してくれた。

居住地、店舗、農地の賃貸契約については当面はクリス配下の文官に任せる。

いずれは成約ごとの歩合制にして民間委託を行い経費削減を試みよう。


いちご「ぴんぽんぱんぽーん」

みかん「お知らせします!ヘーゼルホーヘン伯爵率いる侵略軍の撃退は成功しました!」

めろん「西向きの街道は復旧までしばらく時間がかかりますが、南北への街道は問題なくご利用いただけます」

まろん「勇敢に戦った戦士たちや不安に苛まれる日々を耐え忍んだ住民の皆様の功績に応えるべく、仮想通貨利用時のポイント還元を向こう3ヶ月に渡り、なんと5倍に増量する事が決定いたしましたー!」

れもん「欲しかったあの品この品をお得に入手できるチャンスです!どうぞお見逃し無く!」

いちご「ぴんぽんぱんぽーん」


『経済特区』に『ふるーてぃあ』の声が響き渡る。

柄では無いが、兎人族に盛り上げて貰って戦勝パレードもやっておいた。

街のあちこちに戦勝を祝う幟や横断幕も掲げられ、花火も上げたりしている。

このお祭りムードで戦争中の陰鬱な雰囲気を消し飛ばしてやろう。

鈍化した経済活動が、これでなんとか持ち直してくれると嬉しいね。


また、街を守る為に戦った者たちへの報奨金も忘れては居ない。

せっかくだからこの機会に散財してくれると嬉しいんだけどね。

ポイント還元増量は実質的な減税、商人たちを呼び戻す契機にしたい。

売る側に直接の利益は無いが、商人なら巧く販促に使ってくれるだろう。


最初に俺が設定した税率は売上の1割だが今は累進課税で最大2割になっている。

クリスの提案で、小規模工房の保護による自由競争の維持の為と思って承認した。

だが、王国では大商会が力を持って貴族を脅かすのを防ぐ意味合いが強いらしい。

王国の大商会に幅を効かされても面倒だし、ここは一石二鳥と考えておこう。


そういえば、温泉宿周りの整備もだいたい終わっているし、そろそろ開業かな?

最初は国庫から補助金を出して、まずは温泉旅行を体験して貰うのがいいかな?

でも、最初を安くし過ぎると通常価格が高く感じられて却って客足が遠のくか?

とりあえずは「今なら地域限定商品券が貰えます!」くらいにしておくか。

商店街の福引で温泉旅行のペアチケットを10~20組位出してもいいかもな。


カエデ「おかえり、一樹。敵が5000と聞いた時には肝を冷やしたぞ」

一樹「心配をかけたね。犠牲が出なかったわけでは無かったが、なんとか勝てたよ」

カエデ「街が護れたならよかった。犠牲になった者たちも報われよう」

一樹「そうだな。ところで、後ろの2人は?」


温泉宿の再確認にメインダンジョンに戻った俺を、カエデと2人の少女が迎える。

カエデは出産で里帰りしていたが、戦争が落ち着くまで帰りを延期していたのだ。


ショウブ「お久しぶりです。ショウブです。その節はお世話になりました」

ハギ「ありがとうございました。どうぞ側室として置いてくださいませ」

ショウブ「ハギ?」

ハギ「あ、違った」

ショウブ「カエデ様付きの使用人として置いてくださいませ。どうぞよろしくお願いします」

一樹「そういう事か。よろしく頼むよ」

ハギ「よろしくお願いします」


ショウブとハギは山賊の一味に捕まっていた少女達だったな。

怖い思いをした筈だが、ぱっと見た限りでは元気そうで良かった。


カエデ「サクラもようやく首が据わったぞ。そろそろ抱いてくれるな?」

一樹「もちろんだ。よっと」

カエデ「よかったね、サクラ、とと様ですよー」

一樹「久しぶりだね、サクラ。覚えてるかい?」


サクラは盛大に泣き出した。

見知らぬ顔に不安を覚えたのか、或いは俺の抱き方は居心地が悪かったのかな?


ショウブ「一樹様、私が」


申し出たショウブにサクラを預けると、手馴れた様子であやし始めた。


一樹「二人は子守役なのか?」

カエデ「そんな所だ。産まれたての赤子は手がかかるからな」

一樹「なるほど」

カエデ「ところで、手を出すなとは言わぬが、ハギは3年は待つのだぞ?」

一樹「分かっている。というか、側室ってのは本気なのか?」

カエデ「黒曜殿の後継者がどんな男か気になる者も多いのだ。縁を結びたがる者も、監視したい者もな」


という事は、あの2人は鬼族の有力者の親族か関係者なのか?

俺を探る目的で、あの事件の後に接近した可能性もあるかな?


一樹「それは別に構わないよ。鬼族と敵対するつもりは無いからね」

カエデ「それを聞いて安心した」

一樹「それより、温泉宿の様子はどうだ?開業出来そうかな?」

カエデ「それはカシに確認した方が良いな。私も入ってみたが問題は無さそうだったぞ。他の者たちにも好評だ」


現在は鬼族の住人達を客に見立てて試験運用中だ。

研修中の人間族のスタッフもだいぶ慣れてきた様に見える。

駅ビルのテナント経営者も地下鉄開通を待ちわびているようだ。

戦勝ムードの盛り上がりに乗じて地下鉄と観光地の宣伝も頑張るか。


一樹「それはよかった。近く地下鉄を公開して、西側の客も入れてみることにしよう」


メインダンジョン周辺については、カシが正式に代官を兼任となった。

給金は俺の領の仮想通貨と領内で取れる農作物の一部という事になっている。

性格的に、受け取った農作物を全部共有の備蓄食料に回しそうな気もするな。

ともあれ、鬼族の村を任せられる人材が確保できた事は素直に喜ばしい。

観光地で問題が起こるようなら、カシの報告に応じて策を講じて行こう。


一樹「どんな様子だ?」

なるみ「寄って来てる。だいじょうぶそうだよ」


モニターには森の中を歩く半裸の少女が映っている。

人間族の手によって人間の様な見た目に『品種改良』されたゴブリンのメスだ。

力を抑える首輪を壊し、妊娠したゴブリンを『ゴブリンダンジョン』に誘導した。

見た目が女の子なので服を着せようとしたが、嫌がるのでほとんど裸だ。

辛うじて履いてくれた短いスカートだけを身に着けている。


念のため近くで見守りたかったが、俺が居たのではゴブリンたちが寄ってこない。

少し不安はあったが、メインダンジョン地上部から見守る事にした。


巣穴に近づくと、さっそくゴブリンたちが寄ってきた。

臭いで分かるのか、人間を襲う時の忍び寄るような動作ではない。

無遠慮にスカートを持ち上げると、股間に鼻をうずめて臭いを確認する。

娘のほうも特にそれを嫌がるような素振りは見せない。

そして娘とゴブリン達はダンジョンの奥へ入っていく。


なるみ「かずきおにぃちゃんが作った子供部屋の1つに向かってるみたいだね。妊娠したメスと、乳児とそのお母さんが集められてるみたい」

一樹「保育園って事か?意外と社会的なんだな」

アウラエル「興味深いですね。このように観察できる日が来るとは思っていませんでした」

一樹「そうだな」


雌や子供を守りやすい構造にしたから、野生とは異なるかも知れないけどね。

俺は見ようと思えばいつでも見れたんだが、特に興味を惹かれなかった。

冒険者の侵入に対して多少なりと障害になるならそれ以上は必要なかったからね。


なるみ「みてみて、こうやってね、オスが食料や水を運んでくるの。排泄物の運び出しもやるんだよ。メスはほぼ一生巣の中で過ごすの」

アウラエル「なるほど、ゴブリンに雌がいないという俗説はそこから生まれたのかもしれませんね」

一樹「そんな事が言われているのか?」

アウラエル「ええ、ゴブリンやオークに雌はおらず、他種族の女を捕らえて繁殖する必要があると信じる者は少なくないようです」

なるみ「変なの。たまにはそういう事もあるけど、それだけだとさすがに数が合わないよね」

アウラエル「そうですね。捕らわれた娘が1人当たり数十万匹から数百万匹のゴブリンを産まないといけなくなりますね」

一樹「それは確かに無茶だな」

なるみ「あ、ご飯食べ始めた。特に衝突とかも無さそうだね」

一樹「ああ。というか、適応早いな」


先ほどの娘は、特に緊張した様子もなく雄達が用意したという芋虫を食べている。

ゴブリンの食事としては普通なのだろうが、見た目が女の子だから違和感が凄い。

捕らわれていた頃は人間に近い食事を摂っていたんじゃないんだろうか?

野生へ戻る事を考えてわざわざ芋虫を用意したりはしてなさそうな様子だったけど。


一樹「なるみ、映像を消して二人にしてくれるか?何か問題が起きたら教えてくれ」

なるみ「はいはーい、ごゆっくりー」


芋虫を食いちぎる少女の映像なんて、あまり気持ちの良いものではないな。

だが、彼女は人間の都合で無理やり人間っぽい姿に改造されたゴブリンだ。

彼女自身が嫌がっている様子もないし、俺が無駄に気にする事ではない。


先住の雌ゴブリンたちは彼女を嫌がる様子も見られなかった。

彼女はゴブリンロードらしいから、単に力関係が上って事かもしれないけどね。

それとも、ゴブリンの雌は力に関係なく仲良く過ごすものなんだろうか?

今後もロード級以上を合流させていくから、そこは様子見だな。


一樹「とりあえず、妊娠した個体は丁重に扱われるようだな。仲間として受け入れられたと見ていいのか?」

アウラエル「そのようですね。妊娠している他の娘も順次合流させていきましょう」

一樹「わかった。だが、妊娠していない娘はどうなるかな?」

アウラエル「おそらく、まずは交尾でしょうね」

一樹「やはり、そうなるのか?」

アウラエル「ゴブリンの最大の強みは旺盛な繁殖力とそれが支える個体数です。妊娠していない雌を遊ばせておくとは思えません」

一樹「んー、まあ、そうなんだろうな」


ゴブリン同士の交尾であるならば俺が口を挟む事では無い。

彼女らも発情していて交配を望んでいるようだしね。

だが、群れに合流させたらすぐにゴブリンに犯されると思うとな・・・。

人間の少女のような姿をした彼女らを俺の手で引き渡す事には抵抗がある。


アウラエル「いっその事、主様が彼女らを全員孕ませてから送り出しては如何ですか?」

一樹「俺が?」

アウラエル「はい。妊娠していれば丁重に扱われることは確認できました。妊娠させてから合流させれば、交尾の前に群れに馴染む時間も作れるでしょう」

一樹「な、なるほど?」

アウラエル「主様が相手ならロード級以上の雌ゴブリンが一気に増えますので、戦力的にも今後の増強が期待できます」

一樹「それはそうだろうが、向こうの気持ちも考えないとな」

アウラエル「彼女らが主様に対し強く発情していたのをお忘れですか?ご不安なら改めて姿を見せて反応を確かめてから個別に判断してもよいでしょう」

一樹「なるほど・・・」

アウラエル「いずれにせよ、子供の居ない状態は雌ゴブリンにとっては強いストレスになるはずです。群れに帰すまでの間は相手をしてやる必要があります」

一樹「そうだったな」

アウラエル「一通り相手をした上で、どの娘を手元に残すか決めるのもよいと思いますよ」


人間の少女の様な姿の彼女らをゴブリンの群れに放り込むのはかなり抵抗がある。

だが、俺の決意が固まるまでただ手元に置いておくのは彼女らのストレスになるのか。

そして、彼女ら自身も俺に相手をして貰う事を望んでいるらしい。

加えて、上位種の個体を増やして群れに合流させれば群れの戦力強化にも繋がる、か。

んー、そう考えると俺が相手をするのが一番メリットが多く合理的なのか?

いや、合理的というならすぐに全員をゴブリンの群れに放り込むのが一番か?


一樹「それはいいとして、何百回も必要なんじゃなかったか?」

アウラエル「それについては考えがありますのでご安心ください。1度では無理かもしれませんが、10回以内には妊娠させられるでしょう」

一樹「あの人数を10回ずつか。まあ、数百回ずつよりはなんとかなりそうではあるな」

アウラエル「はい。妊娠中と授乳中は相手をする必要もなくなりますので、すぐに楽になります」

一樹「それなら大丈夫か・・・」

アウラエル「はい。ですので、少しでも気になる娘は全員手元に残しておくのがよいと思いますよ」

一樹「いや、それはどうかな」

アウラエル「完全に手放せば再び手に入れる事は困難です。ですが、3人目を妊娠した辺りで群れに戻せば問題ないでしょう」

一樹「なるほど・・・考えておこう」

アウラエル「はい」


俺との間にできた子供は相手の女のクローンになるんだったか。

それなら、形の上では娘でも遺伝的には近親相姦にはならないな。

素質のいい者を手元に残しておきつつ、群れに上位種を供給できるわけだ。

だが、それでは彼女らを道具のように扱っている人間族と変わらないだろうか?


原種のゴブリンは人間族が欲情する姿には程遠い。

今の姿になるまでには多くの、おそらくは娘達が望まぬ交配を強いられてきたのだろう。

だが、それは過去の経過であって今ある姿はもはや結果でしかない。

今の彼女らは生殖本能に狩られて渇き、自ら行為を求めている。

それだけなら格安娼館や遠征軍も同じ言い訳が使えるな。


しかし、俺ならば奴らのように何百回も空振りをさせる必要はない。

アウラエルの助けがあれば10回以内に彼女らの体に子を宿す事ができる。

彼女らもそれを望んでいる様だし、遠からず群れに合流もさせてやる。

そして、群れの強化は俺のダンジョンと彼女ら自身の安全にも繋がる。

なら、俺の行為は誰も傷つけず、寧ろ救済になっているのだろうか?


だとしたら、とりあえず全員を手元に残しておくか?

しばらく様子を見て、俺のキャパとか群れへの影響を観察しよう。

完全に手放すのは、その後で判断してもいいだろう。

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