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第112話 奴隷

『経済特区』地下の色街に2つめのえろえろダンス劇場を開設した。

増やすのは際どい衣装で踊る女の子を眺めながら酒と軽食を楽しむ劇場の方。

客の入りはもちろん、テナントの飲食店も踊り子も希望者がかなり多いからだ。

特に踊り子は文化祭以降、出演希望者が増えているらしい。


『ふるーてぃあ』や兎人族に感化されたのか、最近は住民の間でダンスが人気だ。

小劇場の地下練習室で行っているダンス教室の受講者も増えている。

ちなみに基礎レッスンと自主トレ用練習室は月に銀貨1枚で使い放題だ。

ただ、うちの領民か、領内の劇場でダンサーをしている者は無料だ。


これは色街の劇場だけでなく、小劇場の普通のダンスショーでも当然適用される。

ただ、こちらはやはり相応の技術と演技力が要求され、初心者には敷居が高い。

幼児期からダンス訓練を始め、種族的にも足の強い兎人族が大半を占めている。

だが色街なら、若くてそこそこかわいければダンスが多少下手でも仕事になる。


また、色街は税率が高くなる代わりに、従事者は一部の授業が無料で受けられる。

初歩的な読み書き、計算と、裁縫、料理、接客、清掃技術などの職業訓練だ。

こちらも正式に領民になれば、無条件でもっと高度な授業も受けられる。


どちらもうちの領民になっちゃえば解決する問題なんだけどね。

生まれ育った国を捨てると言うのはそれだけ抵抗の大きなものなんだろう。

兎人族を中心に領民は増えているが、躊躇いを持つ者の方が多い様だ。

移住先が『魔族』の国となればなおさらか。


それにしたって銀貨1枚出せば済む話だ。日本のダンス教室よりはかなり安い。

うちの領の給与水準なら、普通の飲食店の給仕とかでも出せない額では無い筈。

肌を晒す事への抵抗感が、おそらく日本のそれよりかなり小さいのだろう。

えろえろダンス劇場への出演希望者が増え、競争率が上がってきている。


その余波なのか、ヌードダンス劇場に流れる人間も増えてきているようだ。

こっちは人手不足だったから、自主的に来てくれるならこちらとしては助かる。

だが、「仕方なく」こういう仕事に就くというケースは出来るだけ減らしたい。

そんな事情もあってのえろえろダンス劇場の増設だ。


ただ、この街を作る上で俺が目指しているのは「花と芸術の街」だ。

少なくとも街は緑で縁取られ、街道には街路樹が並び、街中に花壇がある。

しかし、住民達が提供するサービスは主に食欲と色欲を満たす為のものだ。

食糧生産には力を入れるつもりだし、食欲に関しては別にいいんだけどね。

目指すのは「花と美食と芸術の街」でもいいのかもしれない。


食べ物と言えば、フライドポテドは残念な事に今のところ不評だ。

提案しても反応が微妙だったので、俺が実演して見せる事にした。

地球では自炊もしてたし、学生時代には飲食店でのバイト経験だってある。

フライドポテトの自作は初めてだったが、そこそこおいしく出来たと思う。

だが住民たちの反応は微妙で、勧めても2つ目に手を伸ばす者は居なかった。

次はマーガレットに相談してハーブソルトとかで改良を加えてみるかな?


ちょっと話が逸れたか?街のコンセプトの話に戻ろう。

当初の予定通り、鬼族と人間族を繋ぐ交易都市という側面も当然ある。

将来的には『魔界』の産物の流通経路にもしていく予定だ。

そうなれば、物だけでなく多くの人も行き交う事になるだろう。

せっかく人が集まるなら、娯楽とかでもっと金を落とさせたい。


単純に金を落とさせるだけなら賭博場でも造れば楽なのかもしれない。

だが、街を作ったそもそもの目的は金儲けでも権力欲でもない。

『魔族』やダンジョンのイメージ改善を図り、人間族たちと共存する事だ。

お金も住民達の生活改善や鉱物素材収集の為に必要ではあるんだけどね。

ただ、その手段は「きれい」「かわいい」「楽しい」でなければならない。


小劇場では『ふるーてぃあ』や兎人族を中心に連日公演が行われている。

彼らのダンスとアクロバットはなかなかに見応えがあると好評だ。

旅芸人や音楽隊などもたまに来て公演してくれるようになった。

うちの領からも質の良い劇団や楽団が生まれてくる事を期待したい。


小劇場の売店ではアイドルグッズの販売も始めた。

といっても、俺は地球であまり縁が無かったからよく分からない。

とりあえず、人気の踊り子の写真や直筆サインなどを中心に売っていく。

ロゴマークとかデフォルメした似顔絵を描いたグッズでもいいのかな?

写真の方はそこそこ売れているようなのでひとまず順調だ。


絵画や彫刻などと言った美術作品の製作と販売も推進している。

どんな職業でも、何かしら物を作るなら美術センスはあるに越した事は無い。

また、そういった作業はイメージ力が必要な魔法の基礎訓練にもなるらしい。

所謂「芸術家」で無くとも、それらの経験は役に立つはずだ。


オークションハウスの展示型会場は常設にしておいた。

絵でも何でも売れそうな作品が出来たら持ち込んでもらうことにする。

王都で高く売れそうな物が無いかと、商人達がたまに覗きに来ている。

将来有名になりそうな作家の作品を投機目的で買う者も居るようだ。

裸婦モチーフの売れ行きがいいのは男の性なのか客層の影響なのか?

ちゃんと美術品として売り買いされてる作品もあるとは思うけどね。


一通りスキャンしておき、物によってはレプリカの販売も打診している。

良い作品が出来れば継続的に収入が入るので、製作者達も熱が入る。

作品のスキャンデータを管理するためのサーバも作っておかないとな。

例によって2.5倍スケール、眼鏡とミニスカートの美少女フィギュアだ。

今回は画家をイメージし、パレットを絵筆を持たせておいた。


ちなみにモノクロコピー機なら品質はいろいろだが魔道具があるらしい。

カラーコピーもあるらしいが、これは王家の専売特許だそうだ。

上質紙に写真にカラーコピーと、王家はいろいろと独占しすぎじゃないかな?

まあ、写真とカラーコピーは技術的に被る部分も多そうだし仕方ないか?


オークションハウスの成人向け区画にはエロい絵や像が増えてきた。

普通に飾れる作品もあるのだが、数を捌くとなるとやはりエロ絵が強い。

公認の色街があるので、エロ目的の訪問者が多いせいもあるのかな?

不本意ながら「色欲の街」という裏の顔が着実に形成されつつあるようだ。


そうは言っても芸術教育ってのは一朝一夕でどうにかなる物ではないだろう。

低俗でも卑猥でも、まずは絵描きや造形師が食っていける環境が必要だ。

形はどうあれ、ここを「絵や像が金になる街」にしていかねばならない。


とりあえずは単なる娯楽としてのエロ作品でも別に構わない。

それはそれで需要があるだろうし、芸術の下地となる可能性だってある。

美とエロス、芸術と娯楽はしばしば同居する物だろうからね。


さて、俗といえば今日は色街で仕事があるので向かうとしよう。

色街の売店でも踊り子達の写真がよく売れているようだ。

こっちはヌードだったり下着姿だったりとエロがメインだけどね。

踊り子が希望するならパンツも売る。ここは俗に徹しよう。


マティルデ「こちらの娘達でございます」


色街の踊り子ギルドのマティルデに呼ばれた先には20人ほどの娘が居た。

この世界の踊り子は娼婦と兼業である事が多く、ここは娼婦ギルドでもある。

不本意な理由で登録に来た娘が居たら報告するようお願いしてある。


色街の話を聞いて、テナントとして娼館を経営したいと言う者が出てきた。

ここに居るのはその男が集めて来た娘達で、踊り子ギルドに登録に来ている。

娘達をこちらで一旦預かり、登録に必要な健康チェックを一通り終えた所だ。

そこまではいいのだが、問題は彼女らが奴隷身分であると言うことだ。


一樹「娼婦としての登録申請になっているが、間違いないか?」


俺の問いかけに、娘達は目を伏せて押し黙る。

奴隷にされる理由としては犯罪、借金、賠償などが認められているという。

親に売られたなどのケースも法的には借金奴隷と言う扱いになるそうだ。

賠償奴隷は主に敗戦国の兵士や国民らしい。


一樹「俺の街では原則として奴隷労働は認めていない。だが、自身の犯罪や浪費が原因で奴隷になった者については王国の法を尊重しようとも思っている。それ以外の理由で奴隷となり、娼婦以外の仕事を望んでいる者は居ないか?」


俺の街ではあるが、王国籍の男の権利を勝手に剥奪する訳にもいかない。

領内での権利の行使を禁じる、というのがぎりぎりのラインだろう。

かといって、ここを犯罪者や浪費家の駆け込み寺にする気もない。


一樹「どうする?このまま手続きを進めれば、お前達は娼婦として働く事になるがいいのか?」

少女「あの、他のお仕事を望む場合はどうなるのですか?」

一樹「この街に居る限りは一般の市民として扱われる。売春の強要を禁じ、住まいと仕事についてはこちらで紹介しよう。移住を希望するならそれも受け入れる」

少女「では、王国にもどったら?」

一樹「その場合は王国の法に従い、奴隷身分に戻る事になるだろうな。だが、あの男が引渡しを要求してもそれは拒絶しよう。この街で真面目に働いている限りは追い出したりはしない」


奴隷に対する権利の行使を禁じるからには移動の強要ももちろん禁止だ。

無理やり領外に連れ出そうとするなら誘拐や監禁として対応しよう。

これって内政干渉に当たるかな?王国の反感を買うのは間違いないよな。


男「6人?23人が申請したはずですが?」

一樹「監督と労役が必要と認められる者と、娼婦としての登録を希望した者はそれで全部だ。他の娘たちは他の仕事を探すと言っている」


彼女らが奴隷になった理由については俺の魔法で真偽判定をした。

自身の有責で奴隷になった者についてまで擁護するつもりは無い。

後は他の生き方を知らない者と、『魔族』を信用できない者たちだ。

マティルデが口添えしてくれなかったら、もっと多かったかもな。


男「あれらは私の奴隷ですよ!」

一樹「王国ではともかく、この地ではそのような権利の行使は認められない」

男「そんな!たった6人では娼館の経営は立ち行きません」

一樹「では募集してみるといい。公営娼館から引き抜いても構わんよ」


公営娼館では場所を提供し、会計の代行と警備を行っている。

シフト等は無く、働く頻度もタイミングも全くの娼婦任せだ。

供給が不安定で客に無駄足を踏ませる事も多く、マッチング効率は低い。

プロの経営を見せて貰えるならそれはそれで興味はある。


男「・・・分かりました。店舗の賃借契約を破棄し、この街から撤収しましょう」

一樹「それは残念だ。お気をつけて」

男「それはどうも。では、残りの奴隷達をお返し頂きたい」

一樹「彼女らは別の仕事を探しに行ったとお伝えしたはずだが?彼女らを連行する合理的な理由が無い」

男「彼女らは王国の法で認められた私の奴隷です!」

一樹「王国ではそうかもしれないが、さっきも言ったとおりこの地ではその権利の行使は認められない。移動の強要は誘拐として処罰する事になる」

男「王国臣民の財産を奪うおつもりか?」

一樹「街の住人の安全を守ろうと言うだけだ。罪の無い人間を理由無く連行することはできないし、誘拐を見過ごす事も出来ない」

男「・・・商売は信用が命。次があるとは思わない事ですね」

一樹「何も騙す様な事はしていない。そちらのリサーチ不足だろう」

男「ええ、やはり魔族とは相容れないようだ」


男は仲間と共に6人の奴隷達を引き連れて街を出て行った。

だが、これで終わりという事はないだろう。

何をしてくるかは分からないが、今から頭が痛い。


残った娘達にはそれぞれ住まいと職をあてがっていく。

『経済特区』で暮らす者については区役所のクリス配下の文官にお任せだ。

トラブルを避ける為、できるだけ接客以外の仕事を探してもらう。


うちの領民になると決意した者はとりあえず使用人部屋を使わせる。

うちのメイドになってもいいし、畑を手伝ってくれてもいい。

『経済特区』で働いてもいいが、できれば少し時間を置いて様子を見たい。


そこまで終わると俺はコアルームにテレポートしてベッドに倒れこんだ。

その勢いで女物のパンツがふわりと舞い上がる。

いつからか俺のベッドは『ぱんつ風呂』なるものに魔改造されている。

元に戻せと言っても、なぜかなるみがきいてくれないので仕方が無い。

まあ、パンツの形をしているだけで、要はただのコットンの布切れだ。

目を閉じてしまえば寝心地は悪くない。絵面は最悪だけどな。


なるみ「おつかれだねー」

一樹「ああ、ああいうのは苦手だよ。これで終わりとも思えないしな。あー、面倒くさい」

なるみ「それなら無理に首つっこまなきゃいいのに」


確かに、基本的には王国側の問題で、俺が口を出す事では無い。

似たような境遇の人間は王国内にまだまだたくさんいるのだろう。

たまたま目に付いた数人を助けた所で、根本的な解決にはならない。

それどころが、王国との衝突の種を増やしてしまった。


それに、今後は奴隷を連れた商人はこの街に来る事を避ける様になるだろう。

そうなると、商人の行き来が減って経済的な損失も生じてしまう。

他の奴隷たちを今回のように助ける事もできなくなるだろう。


一樹「だが、見ない振りをする訳にもいかないだろう」

なるみ「かずきおにぃちゃんがそれでいいならいいんだけどさ」


引き渡した6人も、本当にあれでよかったのだろうか?

自分で選んだ道とはいえ、主があいつでは碌な扱いでは無いだろう。

罪や選択の責任とその結果は、果たして釣り合っているのだろうか?


だが、犯罪者を奴隷として扱うと言うのは、ある種の合理性がある様にも思う。

犯罪に対しては捜査、裁判、収監、更生とどれも多くの税金が消費される。

社会に損失を与えた者を生かす為に、更に血税を投入するのは正しいのか?

せめて労役を課して多少なりと返還させるべきではないのか?


だが、一般人の安全を確保するには犯罪者を物理的に隔離するのが確実だ。

また、一般人が犯罪者と触れ合えば犯罪の手口を知り、認知が歪んだりもする。

反社会的な組織や人との交友は「セントラルエイト」の1つにも数えられていた。

更生前の犯罪者を市井に出せば周囲の人間が道を踏み外す危険まで増してしまう。


仮にそれらの問題をクリアできたとしても、刑罰の平等性の確保が難しい。

同じ「奴隷労役1年の刑」でも、その辛さは派遣先次第という事になる。

犯罪組織のフロント企業が犯罪奴隷の受け入れを申し出る構図も考えられるか。

となると、面倒でもやはり収監して隔離と更生指導をしないといけないのかな?

犯罪者は死刑か奴隷落ちってのが、管理する側としては楽そうだけどね。


一樹「良くは無いが、やるしかなさそうだな」

なるみ「そっかー」


ベッドの脇には『おしりぐるみ』なるものが並んでいる。

マリーたちのおしりの形と大きさを正確に再現したぬいぐるみらしい。

それを包んでいるのは、彼女らが実際に穿いていた本物のパンツだ。

とても人に見せられる部屋ではないな。


睦月「おにいちゃん、今日はおふろ入らないの?」

一樹「そうだな、入るか」


女物のパンツに埋もれている所を少女に見られて一瞬どきりとする。

だが、彼女もガーディアンだったな。気にする必要は無いんだっけ。

幼女を侍らせ、パンツに埋もれて眠り、奪ったパンツをベッド脇に並べる男か。

この部屋に踏み入られたなら、変態魔族として後世まで語り継がれる事だろう。

まあ、それが無くともなるみの命がかかっているから負けられないんだけどね。


『ぱんつ風呂』から身を起こし、胸の上の「パンツの様な物」を払い落とす。

入り口に目を向けると、ドアの上に大きな写真が掲げられている。

生まれたままの姿で小川で水と戯れるマリーとアーニャの写真だ。

枕元には花柄の下着姿のマリーの写真も飾ってある。


これも見られたらいろいろとまずいよな。

けど、アルミたちがインクの研究成果として印刷してくれた物だ。

なかなか捨てろとも言いづらい。


ま、この部屋への侵入を許したなら、それは俺となるみが死ぬときだ。

どの道背水の陣ならば、水の流れが多少増した所で変わりはないだろう。

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