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第107話 副産物

メイド「ひっ!ま、魔族!」


『経済特区』の留置場に顔を出すと、女が引きつった顔で叫んだ。

違法薬物の使用及び大量所持により処刑された男と一緒だったらしい。

事件に関与していないらしいのでこちらとしては開放したい。

しかし、所持金も無く、帰り方も分からないらしいので預かっている。

牢の中に入れてはいるが、当人が望めばいつでも出してやるつもりだ。


一樹「落ち着け。危害を加えるつもりは無い」

メイド「お役人様!どうか!どうかお助けを」


女がシャルロットに助けを求める。


一樹「すぐにこの街から出て行くというのなら、それでも構わないぞ?」

メイド「そ、それは・・・」

一樹「開けろ」

シャルロット003「はっ」


俺が中に入ると、恐怖の表情で後ずさる。

調書によれば南部貴族のイーランプライズ子爵家のメイドらしい。

今回は親戚の男の旅行に同行するよう指示されたとの事だ。

王国南部は『魔族』排斥の風潮が強いと言う話だったか。


一樹「押さえていろ」

シャルロット003「はっ」

メイド「ひっ」


女の頭に手を当てて魔力を流し、「まどろめ」と念じる。

女の身体から少し力が抜けるのを感じた。


一樹「落ち着いたか?」

メイド「は、はい」

一樹「今からいくつか質問をする。事実に関わらずすべて『はい』と答えろ」

メイド「え?あの・・・」

一樹「この間の発言を偽証や自白として扱う事はないから安心しろ。分かったな?」

メイド「はい」

一樹「お前は人間族だな?」

メイド「はい」

一樹「お前はオーガ族だな?」

メイド「・・・はい」

一樹「お前は男だな?」

メイド「・・はい」

一樹「お前は女だな?」

メイド「はい」


サンプルとしてはこんなものでいいか。


一樹「処刑された男が違法薬物を持ち込んだ事を知っていたか?」

メイド「・・・はい」

一樹「お前はそいつの身の回りの世話以外で何か指示を受けているか?」

メイド「はい」

一樹「怪しい者と接触するのを見たか?」

メイド「・・はい」

一樹「イーランプライズ子爵は異種族の女を集めているな?」

メイド「・・・はい」

一樹「監禁場所を知っているか?」

メイド「・・はい」


異種族の女を集めているという噂位はきいた事がある感じか?

だが、薬についても監禁についても具体的な情報は知らなさそうだ。

俺は女の頭から手を離した。


一樹「ここからは普通に答えていい。イーランプライズ子爵領は俺も詳しい場所は知らないが、王都を挟んで反対側らしい。ちょっと遠そうだな」

メイド「そう・・・ですか」

一樹「ローゼンヴァルト公爵家に伝手があるからそっちに頼んでもいいんだが、南部貴族と北部貴族は仲があまりよくないらしいな」

メイド「はい」

一樹「王国内の政情には疎くてね。具体的にどういう関係かは正直知らん。南部貴族のメイドの事で北部貴族のローゼンヴァルト公爵家の手を煩わせた場合、帰ってからお前の立場が悪くなる可能性はあるか?」

メイド「それは・・・わかりません」

一樹「違法薬物について関与していないようだからお前の事は解放したい。だが自力で帰るのは難しいと言う話だったな」

メイド「はい」

一樹「いくつか選択肢を提示しよう。1つ目はさっさとここを出て自力で帰るか別の誰かを頼る。2つ目はローゼンヴァルト公爵家の手の者に引き渡す。3つ目はこの街で働いて旅費を稼ぐ。仕事の斡旋くらいはしてやろう。4つ目は俺に忠誠を誓ってここの領民になる。俺に提案できるのはこんな所だな。どれがいい?」

メイド「えっと・・・その、3つ目はどんなお仕事でしょうか?」

一樹「ここは飲食店や宿屋が多いから、女だと給仕や調理辺りの仕事が多い。詳しいことは区役所の職業斡旋所できいてくれ」

メイド「分かりました。では、それでお願いします」

一樹「わかった。シャルロット、連れて行ってやってくれ」

シャルロット003「はっ」


シャルロットに連れられて女は牢を出て行った。

イーランプライズ子爵家ときいて期待したが、裏の顔は知らない様だ。

ただのメイドであれば、大した情報源にはならないだろう。

トールヴートにいい知らせを伝えることは難しそうだ。


夜になるのを待って、俺はキャシー邸に向かう。

キャシーの健康状態を確認し、軽く言葉を交わした。

寝室を出ると、今日もクリスに執務室へと招かれる。

差し出された文書には男のプロフィールの写しが書かれていた。


クリス「最近になって王国紳士録に登録されたばかりの方のようで、私も実家に問い合わせるまで存じ上げませんでした」

一樹「フェイパン=イーランプライズ、36歳?」

クリス「社交界デビューにしては遅すぎますね。血筋も本家から遠すぎます。実際、最近まで平民として暮らしていたようです」


体育祭でどこぞの騎士が言っていた「やんごとなき御方」とやらはこいつか。

違法薬物の大量持込の件で、武装して抵抗した為その場で処断したらしい。

俺はその場に居なかったので後から報告を聞いて知ったところだけどね。


一樹「どうにも怪しいな」

クリス「ええ。代官である私に挨拶も無く、違法薬物を持ち込んだ上に街で騒ぎを起こすというのは、明らかに挑発ですね」


処刑された男はイーランプライズ子爵の遠縁と妾の間の息子だったらしい。

貴族の末席とはいえ、そんな立場で使用人連れて旅行とか出来るものなのか?

そして、なぜ、どうやって禁止薬物を大量に持ち込んだのか?

次からは処刑する前に情報を取れるだけ取るように言っとかないとな。

今回は相手が武器を持って抵抗したらしいから仕方ないけどね。


一樹「殺したのはまずかったか?」

クリス「それを今論じる意味は無いでしょう。それより彼の遺体は今どこに?」

一樹「処分した」

クリス「分かりました。後はこちらで対処しておきましょう。一樹様はくれぐれも毅然とした態度を崩さぬようお願いします」

一樹「分かった」


この件でイーランプライズ子爵家はいろいろと文句を言ってくるのだろう。

だが、法を犯した上で相手が公爵家ではあまり強気にも出れないか?

虎の威を借る形になる上に、公爵家にまた借りを作ることになるな。

俺はせめて弱みを見せぬようにせいぜい気をつける事にしなければ。


クリス「ところで、ケリヨト地方の件は考えて貰えましたか?」

一樹「正直なところ、あまり乗り気はしないな。俺の支配地域が増える事自体はありがたいが、人間族の街の面倒を見ろと言うのであれば負担が増えるだけだ」

クリス「街の統治に必要な人材についてはこちらで手配しますよ?」


実務を公爵家寄りの人間で固めて、そっちの勢力に取り込むのが狙いなんだろう。

まあ、王国社会での派閥闘争なんて興味はないからそこはどうでもいい。

人間族を統治する人材を派遣してもらえるのはむしろ助かる。


一樹「それは有難いが、こちらに旨みが無さ過ぎる」

クリス「領主の地位では足りませんか。何をお望みでしょう?」

一樹「土地はともかく、王国での地位に興味は無い。街は1km四方程度に縮小し、その他の区域については人間族の手出しを禁じ、こちらに全権を渡すと言うなら考えてもいい」

クリス「1km四方ですか。残りはどうするおつもりです?」

一樹「森にする。あそこはそれなりに面積はあるが、地形としては大きな中州のようなものだろう。定住に向いているとは思えん」

クリス「ええ、入植が始まったのはここ数年の事ですが、それ以前には何度かあの地が水没したこともあったと聞いています」

一樹「街を造るならダンジョンで守ってやる必要があるが、大きな街だとこちらの魔力の負担も大きくなる」

クリス「なるほど」

一樹「それに大雨の度に難民が出ては面倒だ。俺が守っている区画以外は居住も耕作も禁止とする。森ならそうそう流される事もないし、林業や狩猟の場としても使えるだろう」

クリス「分かりました。では、そのように公爵閣下に打診しておきましょう」

一樹「いいのか?」


それなりに無茶な要求をしていると思うんだけどな。

森については事前に軽く話はしていたけどね。


クリス「仰るとおり、元より人が住むのに適した土地では有りません。加えて、下流域の水害や作物の取れ高に一樹様の言う様な影響が有るのなら、我々とも利害が一致します」

一樹「なるほど」

クリス「なにより、一樹様には早く王国での地位を持っていただいて、カトリーヌ様の地位を回復したいのですよ。破天荒ではありますが、お優しい方です」

一樹「・・・そうだな」


キャシー自身は貴族社会に戻りたがっているようには見えないけどな。

それでも、「魔族の愛人」という立場はさすがに外聞が悪すぎるか?

それにキャシー本人はともかく、親族が気にしているという話らしい。

辺境の下級貴族の妻というのは、四女とはいえ公爵家令嬢としては少し厳しい。

それでも今よりは体裁は保てるし、社交界とも適当な距離を取れるかもしれない。


一樹「そうだ、公爵家の名でケリヨト地方を治める者に宛てて無期限の命令書を出して欲しい」

クリス「一樹様に宛てて、という事ですか」

一樹「俺を含め、将来に渡って血筋や世代を問わず当該地域の統治者全員に対して永続的にだ」

クリス「どのような内容でしょう?」

一樹「主旨としてはこの地を森林保護区とし、その保全に努める事だ。森を壊すのは一瞬だが、育てるのは100年単位で時間がかかる。あの土地を森にしておきたいなら、可能であれば人類の存続する限り、せめて公爵家が存続する限りは守り続けて欲しい」

クリス「なるほど、では公爵家の名において正式な命令として公示しろという事ですかね」

一樹「そうなるかな。俺はともかく、今後の領主全員に受け継いでもらわないといけないからな」


俺が領主を勤める間は、当然だが可能な限り森林の回復と保護に取り組むつもりだ。

だが、『魔族』の名誉男爵なんて微妙な地位がいつまで持つか分からない。

そんな者が出した命令書など、代変わりすればすぐに上書きされてしまうだろう。

しかし、公爵家の名において出された命令書なら、次の統治者の行動も制限できる。

森林保護の努力義務、伐採許可の目安などをその中で規定してもらう。


俺が作る小さな街と街道を除く全域を森林保護区に指定してもらおう。

保護区はいくつかの区画に分け、面積に応じた樹木の確保を義務付ける。

1アール当り樹齢200年以上が1本、50年以上が15本くらいあればいいかな?

ここで定めた基準値を超過する分だけ伐採可とする。


ただ、これだと向こう200年は全く木材の出荷が出来なくなってしまう。

なので、200年の期限付き特例として、樹齢200年の制限は無しにしてもらおう。

俺は1アール当り3本程度を保存樹に指定して、将来に備えておく事にする。


王国側が定めるこの地の支配者はこの先何度も変わっていくだろう。

だが、基盤インフラを支えるダンジョンコアは『魔族』にしか扱えない。

なるみの守護を引き継いだ誰かが、今後もその地域の影の支配者となるだろう。

その時、人間族が必要以上に樹を切る様なら、その『魔族』との戦争になる。

公爵家の命令書は戦争を避け、人間族と『魔族』が共存する為の楔だ。


一樹「ああ、それともう1つ。如何なる理由があろうとも、俺の兵は王家にも公爵家にも貸し出すつもりはない。自分の領の防衛に専念する」

クリス「ええ、元よりその様な事をお願いするつもりはありません」


これをあっさりと承諾されるとは意外だった。

一応は公爵の傘下に入るとなれば、有事には当然兵を要求されると思っていた。

ガーディアンが『領域』外で動けない事は既に知っていると言う事だろうか?


クリスによると、ケリヨト地方の開発が進み人口が増えたのはここ数年の事らしい。

今までは一部の丘に小さな村があるだけで、税収などほとんど期待できない場所だった。

しかし、ハイランドや魔界に接し、街道もあるため統治者を置かない訳にもいかない。

そんな事情で、領主と言ってもほとんど領民の居ない名ばかり貴族だったらしい。

経済的にも軍事的にも、常に周辺貴族の支援を必要とする状態だったそうだ。

肩書きとしては領主であり貴族ではある物の、周囲の認識は下級官吏に近いようだ。


そんな土地だったから対立派閥の貴族の進出を看過していた訳かな?

だが、バルバス男爵が存外野心家だったのがローゼンヴァルト陣営の誤算。

いや、暴走して自滅しかけてるわけだから、むしろ計算どおりなのか?

今度は俺に統治を任せるつもりらしいが、『魔族』相手に不安は無いのか?

それも開拓村や『経済特区』の共同統治を見て問題なしと判断したのか?


ともかく、そんな場所故に有事に派兵を期待されることもない。

積極的に関わりを持とうとする王国貴族も少ないし、王城に呼ばれる事もまずない。

王国貴族の末席でありながら、王家の人間が存在を認識しているかも怪しいという。

代替わりについての報告書も、より優先度の高いものの中に埋もれてしまうだろう。

俺に王国貴族の肩書きを与える上で、これ以上ないくらい都合の良い場所のようだ。

王国貴族を送れば左遷のような扱いになるが、森にしろというなら俺にとっては好都合だ。


クリス「ほかにご要望はありませんか?」

一樹「いや、今の所はそのくらいだな」

クリス「承知しました。この内容なら公爵閣下もおそらくは承諾されるでしょう」


名ばかり貴族とはいえ、王国貴族に加わるのは正直言って気が進まない。

何より、リーリエシュタッヘル派閥にとってはやっと手に入れた魔界への窓口だ。

それに加えて暫定とはいえ新領主が『魔族』と在っては黙っては居ないだろう。

現バルバス男爵が大人しく領主の座を明け渡すとは到底思えない。

ひと波乱どころでは済みそうに無いがキャシーとアイナの為にはやるしかないのか?


一樹「中央の関心が薄いというのは辺境の弱小貴族という事が前提だろう?それなら大きな建物とか造るとまずいんじゃないか?」

クリス「いえ、1km四方の小さな村と言うことであればそう警戒されることもないでしょう。むしろ、立派な建物で統治能力の違いを見せ付けた方がいいですね」

一樹「兵力については?」

クリス「公爵家が軍事援助しているという体裁を取る必要はありますね。国境警備のために兵舎の準備だけはお願いします」

一樹「疑いたくはないが、今までが今までだからな。王国軍が駐屯していると言うのは正直なところ居心地が悪い」

クリス「問題を起こさぬようよく言い聞かせておきましょう。主任務は国境警備になりますが、衛兵や警邏隊、看守として使って頂いても構いませんよ」


今度の街の住民は建前ではなく純然たる王国臣民か。

ならば住民の守護は王国騎士に任せるという事で問題は無いのかな?

地上は王国騎士に任せて、ガーディアンはダンジョン深層に集中配備するか。


一樹「分かった。あと『アーバンコア』の様な物がある事ついてはどう説明する?」

クリス「聖書にも魔族と取引をする例が無い訳ではありません。説明のしようはありますよ」

一樹「大丈夫なのか?」

クリス「ええ、多少は荒れるでしょうが、今度こそうまくやりますよ」


その「多少の荒れ」でいったい何人が死んだと・・・ん?

どこか遠くを見るように、一瞬だけクリスが微かに目を伏せていた。

先日の砦での攻防の話をしている訳ではないのか?


クリス「いずれにしても、あれは魔族の固有能力なのでしょう?人間族には扱えないという話でしたね」

一樹「ああ、その通りだ」

クリス「一樹様がいるからこそ受けられる恩恵、という事であれば、奪おうとする者も追い出そうとする者も出ないでしょう。なんとかしますよ」

一樹「分かった、任せる」


対立派閥の貴族たちの妨害が気懸かりなのは変わらない。

だが、その辺の対応はクリスたちに任せるとしよう。

俺はキャシー邸を辞して帰途に付く。


俺が領主になるといっても、街に関わる部下は文官も武官も公爵家が手配した人間達か。

公爵家の兵を使っていいという話だったが、本当に俺の言う事を聞いてくれるのだろうか?

最初に戦ったバルバスの軍勢も、中身はほとんど伯爵家の兵だったりしたのかな?

周囲に名ばかり貴族と認知された状態なら、統率を執るのはなかなか大変だっただろう。

盗賊退治などの対応が遅いと不評だったようだが、借り物の兵では気軽には動かし難いか。

バルバスは上位貴族に依存する状況をなんとか打開しようとしていたのかな?

奴もいろいろと苦労していたのかもしれない。


開拓村の拠点に戻って風呂に入ると、今日は弥生が入ってきた。

白のワンピースと大きな三角帽子を身に着けたエルフ耳の魔女型ガーディアンだ。

浴室と脱衣所を隔てる扉を全開にしてから、淡々と服を脱いでいく。

水色のチェックのブラを籠に入れた後でようやく俺と視線を合わせる。


弥生’「一樹様、失礼しますね」

一樹「ああ、よろしく」


他の女性型ガーディアンと同じように、身体を密着させながら俺の身体を洗ってくれる。

俺も石鹸を泡立てて弥生の背中を両手で撫でるように洗っていく。

ガーディアンの身体は自動洗浄機能があるらしいのだが、気分の問題だ。

石鹸の泡で全身ぬるぬるになりながら互いの身体を撫で洗う。

ただ、ここまでしておいて最後までさせてくれないのが悩ましい所だ。


弥生’「『ゴブリンダンジョン』の地下3層ボス部屋への冒険者の侵入頻度が上がっています。装備を強化していただけないでしょうか?」


俺の身体を洗い終わった弥生は、全裸のままで報告を始める。

透き通るような白い肌の美しい肢体を隠そうともしない。


一樹「強化には魔物の素材を使うんだったか」

弥生’「はい。『発動体』の質が上がればより強固な魔道防壁を展開できます。単機能ゴーレムの破損頻度を下げられるはずです」


攻撃用の単機能ゴーレムが何体かフロアボスの背後の壁の上部に埋め込まれている。

廉価版の固定型単機能ゴーレムは魔道防壁の展開機能はなく、強度は普通の石と変わらない。

弥生たちの防御はどうしてもボス周りが中心になるから侵入者の攻撃で壊される事もある。

それ自体は修理すれば済むことだが、そこに居る2人の魔女の安全にも関わる事だな。


一樹「亜龍と大蜘蛛の爪があるが、数が少なくてな。使いどころを思案しているところだ」


天使族や竜人族など一部の種族以外は、魔法を使う時に『発動体』が必要になる。

魔力を体外に放出する補助となるもので、代表的なものが魔道師などが使う杖だ。

これの強化に必要なのが一部の鉱物や魔物の爪、牙、角などと言った攻撃部位らしい。


先日、グリシーヌが亜龍と大蜘蛛をそれぞれ1体狩ってくれたので杖数本は作れる。

だが、すでに数百人いる魔道師系ガーディアンの誰に割り当てるべきだろうか?

戦闘頻度の高い場所に割り当てれば大いに活躍してくれることだろう。

だが、同時に貴重で強力な装備が敵の手に渡ってしまうリスクも高くなる。

物が奪われるだけならいいが、敵が強くなれば味方の命の危険も増してしまう。


弥生’「では、ストーンバイパーの牙ならどうでしょう?既にけっこうな数が貯まっているはずです」

一樹「そうなのか?ストーンバイパー狩りなんて指示してたっけ?」

弥生’「いえ、侵入者の排除と住み着いているゴブリンの援護を行った結果です」

一樹「ダンジョンってストーンバイパーも入ってくるんだ?」

弥生’「はい。彼らの主食はゴブリンやカミツキウサギですから」

一樹「ああ、そういうことか」


東側のダンジョンにはくず肉を放り込み、ゴブリンやスライムをおびき寄せている。

今度はゴブリンを餌にストーンバイパーを居つかせるってのも考えてみるかな?

けど、主食がゴブリンなら、それより大きな人間はあんまり襲わないかな?


まあ、それはまた今度考えるとして話を戻そう。

ストーンバイパーはこの辺りに生息する蛇型の魔獣らしい。

それなら冒険者がその牙と同等かそれ以上の『発動体』を持っている可能性は高い。

亜龍の爪ほど強力では無いだろうが、奪われた場合のリスクは無視できそうだ。


一樹「ストーンバイパーの牙を使うのはいいが、質的な問題は無いのか?」

弥生’「はい。戦闘中の連続使用という前提であれば、現状ではそれで十分です」


時間をかけてしっかり魔力を練り上げるならもっと上の装備がいいという事か。

攻城魔道師と対峙する砦の魔女にはもっと良い杖を用意した方がいいのだろう。

また「現状では」と言うからには、成長すれば魔力の収斂速度ももっと上がるのか?

素材集めももっと積極的に取り組まないと行けないな。


一樹「分かった。杖は手配しておこう」

弥生’「ありがとうございます。では失礼します」


弥生は俺の手を取って自分のおっぱいに押し付ける。

そして、何かを確かめるようにその動作を何度か繰り返した。

ふにふにとしたおっぱいの感触が繰り返し俺の手のひらから伝わってくる。


一樹「どうした?」

弥生’「何か間違っていますか?」

一樹「いや、間違いも何も・・・」


これはいつからか定着した女性型ガーディアンの退出の挨拶だ。

妙な習慣だが、やめさせる理由も無いのでそのままにしてある。

当然だが、正しい作法なんてものは存在しない。


ただ、よく来てくれるローズたち生産系ガーディアンはいつも笑顔がかわいい。

戦闘系ガーディアンも表情が無い訳では無いが、ちょっと硬めの印象を受ける。

おっぱいは嬉しいんだが、真顔でやられるとなんとなく居心地が悪い。


一樹「あー、別に無理にやる必要は無いんだぞ?」

弥生’「いえ、何も無理な事はありません。ですが、私のおっぱいでは喜んでいただけないようですね」

一樹「いや!そういうわけじゃないんだ。弥生のおっぱいもすごく魅力的だよ」

弥生’「では、やはりやり方の問題でしょうか?」


弥生が再びいろいろ角度を変えたりしながら俺の手をおっぱいに押し当てる。

今度はふにふにと揉む様に俺の手でおっぱいを揺らしたりもする。


一樹「えーと、笑えば、いいと思うよ」

弥生’「うふふふふ」

一樹「んー、まあ、そうだね」

弥生’「あはははは。おーっほっほっ」

一樹「いや、キャラ崩壊してるから!」


男の手を自分のおっぱいに押し付けながら大笑いとか、もはや痴女だよ。


一樹「言い方が悪かったね。笑うと言うより、微笑むと言った方がよかったかな」

弥生’「こうですか?」

一樹「ああ、うん。いいと思う」


弥生はにこりと微笑むと、改めて俺の手をおっぱいに押し当てた。

ドキリとした心情を見透かされたかのように、繰り返し微笑みとおっぱいの攻勢が続く。

その度に俺はどきどきさせられてしまう。


一樹「えーと、無理に笑ってるわけじゃないよね?」

弥生’「はい、一樹様に喜んでいただけるなら、私も嬉しいです」

一樹「それならいいんだが・・・」

弥生’「ふふ、覚えました。では今後こそ失礼しますね」

一樹「あ、ああ。ありがとう」


ようやく俺の手をおっぱいから離すと、弥生は浴室を出る。

脱衣所の扉を全開にしたまま、ゆっくりと身体を拭き始めた。

美しいその体を眺めていると、不意に『聖騎士』一行の侵入が思い出される。

弥生の身体が切り裂かれ、胸の魔石が抉り出される様がフラッシュバックする。


待て、あれはコピー人形であって弥生本人ではない。

いや、どちらも同じ魔道人形だから同じ事なのは分かっている筈。


最初の頃は地下2層のオーク部屋でけっこう撃退できてたんだけどな。

最近は突破されて地下3層まで侵入される事が多くなった。

おそらく理由は主に2つ、いや3つか?


1つはオーク部屋の情報が冒険者に出回ったことで対策されたこと。

1つはメインコア移転に伴い、忍者娘が抜けて援護射撃の質が落ちたこと。

1つは調査に入った『聖騎士』の未帰還により、注目が集まっていること。


上の2つはまだいい。

ゴブリンの魔石を拾うだけで帰ってくれるなら、そう目くじらを立てるつもりはない。

こちらも戦闘データが取れるから、それなりにメリットもあるしね。

だが、3つ目のおかげで地下3層のボス部屋に挑む侵入者が増えてきた。

3層のボス部屋には魔女も二人いるから、こちらも殺すつもりで臨む必要がある。


このまま3層ボス部屋への侵入が続けば、いずれは突破されてしまうだろう。

そうなれば再び弥生の胸を切り割かれ、魔石を抉り出される事になってしまう。

突破されないまでも、弥生が傷を負う可能性だってある。


一樹「なるみ、ストーンバイパーの牙は今どれくらい貯まってるんだ?」

なるみ「んーと、137匹分だね。杖にするなら274本分かな」

一樹「そんなに来てたのか?」

なるみ「うん、ゴブリン飼ってるとちょくちょく寄ってくるんだよ」


別に飼ってる訳じゃ・・・いや、飼ってる事になるのか?


一樹「杖に加工するのに、ほかに必要な物はあるか?」

なるみ「ベースは樫がいいかな?あとは弥生さん用なら大き目のラブラドライトがあるといいかも」

一樹「分かった、取り寄せられるか確認して置こう」

なるみ「2つとも『領域』内で採取できるよ。ミカエルさんとかに集めてもらうね」

一樹「そうか、なら頼んだ」

なるみ「牙は全部杖にしちゃっていいの?」

一樹「ああ、やってくれ」


脱衣所の弥生はようやく身体を拭き終わり、ゆっくりと下着を身に着け始める。

素材は全部『領域』内で確保できるみたいだし、惜しむ必要も無いだろう。

300本足らずでは今居る魔女にも行き渡らないしね。

彼女らの命がかかった状況で物を惜しむ訳にもいかない。


なるみ「小さい方の歯は1000本以上有るけどこっちはどうする?弥生さん用には微妙だけど、睦月ちゃんと如月ちゃんにはちょうどいいかも」

一樹「ならその2人の分も頼む」

なるみ「あい。それでもだいぶ余るね。後は鏃や槍にしてもいいし、マシンガンロッドに使ってもいいかもね」


鏃はともかく、槍は今のところ使い手が居ないな。

マシンガンロッドというのはボス部屋のゴーレムの一部に持たせているものだ。

小さな杖を束ねた物で、威力は低いが連射性能を重視して作ってある。

致命打は与えられないだろうが、弾幕を張って敵を牽制して貰う予定だ。


一樹「まずはマシンガンロッドを全部強化しよう。残った内の半分は鏃にして、後は保留だ」

なるみ「あいさー。じゃあ、残りは未来の魔法少女の為にキープだね」


魔獣の牙を使った鏃なら魔法で弓の威力を強化できる。

カミツキウサギの前歯でもいいが、1匹で矢4本では数を揃えるのが難しい。

槍に出来るサイズの歯なら鏃は4個くらいかな?蛇1匹で矢を数十本作れそうだ。

サジタエルが有効に使ってくれるだろう。


後は槍はどうするかな?

懐に入られない限りは基本的に剣より槍の方が強いはずだ。

こっちは基本的に待ち構える側だから、可搬性も気にする必要はない。

将来的には槍兵部隊も作ったほうがいいのだろう。


湯船を出て脱衣所に向かうと、弥生は下着姿のまま髪を梳いていた。

なぜか脱衣所では俺が見えないものとして振舞うことになっているらしい。

俺は抗えずに水色のチェックのブラに包まれた弥生の胸元を覗き込んだ。

肌荒れ1つない美しいデコルテをしばし眺めてから、俺は眠りに付いた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


『経済特区』東部の山で木材に適していそうな樹を切り、抜根する。

更に少しだけ掘り進め、街で出たゴミを放り込む。

厚めに土を被せてから、樹の苗を植えた。


開拓村も『経済特区』も住民が増え、人や物の行き来も多くなった。

それに応じて、当然のように出てくるゴミも増えていっている。

プラスチックが無いみたいだから、石やガラス以外は生分解性素材なのが救いか。

これなら山に埋めれば、土に還って草木の養分になってくれるだろう。


生ゴミなどを有機肥料として使う事の是非は地球で議論を呼んでいたな。

分解される過程で二酸化炭素より温暖化効果の高いメタンが発生するためだ。

代わりに焼却処分したり、プラスチックに混ぜ込んで使うなどしていた。

だが、自然界では動植物の死骸や糞尿はどれも腐敗して循環しているはずだ。

なぜ、田畑で腐る事だけが問題になるのか?


自然界にはメタンを吸収する微生物が存在し、過剰発生を防いでいるらしい。

しかし、田畑など人間に歪められた環境ではそう言った微生物が生き難い。

その微生物が生きやすい環境に調整した水田ではメタン排出量が9割も減ったと言う。

畑でも似たような試みは進められているそうだ。


この世界でも同様にメタン排出の問題があるのかは分からない。

メタンに限らず、分解の過程で何か蓄積されるとまずい物質が出てくる可能性はある。

だが、この世界の生態系が古くから持続しているなら、その循環システムもある筈だ。

里山として整備する事で『経済特区』周辺の山の生態系は多少なりと歪められる。

だが、それでもただの田畑よりはずっと自然環境に近い。


街を少し離れれば、黒曜さんが守ってきた原生林も広がっている。

都市機能を積層化し地上設備は最小限に抑え、無許可の伐採をしっかり抑制する。

これ以上森を削らなければ、おそらくここでは大きな問題にはならないはずだ。

腐敗によって何か問題のある物質が発生するなら、他に気になるのは下水処理場か。


下水処理場の上部には山の斜面に半ば埋め込む形でダンジョン地上部を作った。

深さ8mの箱型で、湧き水が流れ込む溜め池のような形になっている。

その床から下水処理場で発生したガスを無数の小さな泡にして吹き出して行く。

吹き出る泡が作る対流によって起きる水の循環と、絶えず流れ込む湧き水。

それらによって水中のガスの飽和を防ぐ仕組みになっている。


地球で行われていた田畑のメタンガス排出量削減の取り組みを思い出してみた。

問題はメタンガスを食べる微生物を、動物性プランクトンが食べ尽くしてしまう事。

自然界ではその動物性プランクトンを食べる小さな虫や小魚がいてバランスが取れる。

しかし、田畑では虫や小魚が排除されるため、動物性プランクトンが増え過ぎてしまう。

従って、該当のプランクトンを食べる虫や小魚と共存できる田畑を作る事が課題となる。


今回の溜め池では農作物と虫や小魚の共存と言う細かい調整をする必要はない。

単純にメタンガスを食べる微生物の天敵の天敵を投入しておけば良いのだ。

更にその生き物を食べる小鳥などがよってきて、メタンは森へ還元される事だろう。

厄介者扱いだったメタンガスが森林資源に化けてくれると言う訳だ。


この世界で、どの生物がその調整役に該当するのかはよく分からない。

その選定や採集、飼育環境の整備についてはアネモネやパンジーたちにお願いした。

メタンを食べる微生物も、それを守る小魚も周辺の川や沼から採集していく。

これなら外来種として周囲の環境を破壊する心配もないだろう。


一樹「有線・・・だと?」

なるみ「杖の強化で1発1発の威力も上がったからね。それを連射するとなると、無線じゃ魔力供給が追いつかないんだよ」

一樹「なるほど」


なるみに呼ばれて戻ったボス部屋には、改装されたマシンガンゴーレムの姿。

高さ3メートルほどの乙女の裸像が、長大な杖を両手で横向きに構えている。

その先端を囲むようにストーンバイパーの巨大な歯が固定されている。

歯の根元にはそれぞれ虹色に輝く石も嵌め込まれているようだ。


なるみ「ケーブルにはミスリルと、前面の盾にはストーンバイパーの革を使ったけどいいよね?」

一樹「ああ、問題ない。良い出来だ」

なるみ「でしょー」


マシンガンゴーレムの前面には少し傾斜したV字の盾が床に固定されている。

足元と魔力供給ケーブルを守るためのものだろう。

腰から上は隠れて居ないが、このゴーレムには魔道防壁の展開機能もある。

必要であれば弥生たちも魔道防壁で援護するだろう。


マシンガンゴーレムの運用はボス部屋限定って事になるか。

俺達は原則として専守防衛だし、基本的にはそれで問題ないかな。

繰り返し攻撃してくる奴がいるようならその拠点を叩く必要もあるけどね。

だが、その時にはまた別のガーディアンで対応する事にしよう。

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