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第102話 違法伐採

姿を売りたいという娘はその後も後を続いた。

親の借金絡みでまとまった金が欲しい娘はそこそこ居るようだ。

親の借金で娘が身体を売るなんて事態は出来れば起こしたくない。


しかし、王国内で発生した債務を勝手に俺が消すことは出来ない。

自己破産制度なども導入したが、王国内で借りた金は対象外になる。

領内での暴力的な取立てを禁止するなどの法律を制定はした。

親族であっても保証人や連帯債務者以外への請求も禁止した。

保証人であっても契約時に未成年の者は領内では無効と見做す。


借金苦で苦しむ人間に同情はするが、借りた金は返すのが道理。

王国への内政干渉はできないし、債権者の権利も保護すべきものだ。

その辺とのバランスを考えると、俺に出来るのはこの辺までだろう。

債務者本人と成人の保証人は、真面目に働いている間は暴力からは守る。

だが、返済が滞り、債権者が求めるのであれば領外に追放する。


さて、話を戻して親の借金で身を売ろうとする娘をどうするか。

親を捨ててうちの領民になると言うのであれば保護はしよう。

借金の原因が単なる浪費癖とかいうならすっぱりきった方がいい。

だが、事業失敗とかが原因だとなかなか捨てられない。


「姿を売る」とはヌード劇場の踊り子人形のモデルになる契約だ。

ただ、これは半分以上が俺の自己満足が理由になっている。

一応、人型ガーディアンを造るのを面倒に見せる偽装工作でもある。

どちらの理由でも、あまり取引の数を増やす訳にはいかない。


どの道、すべての借金を肩代わり出来るわけでもない。

それに救済が必要であるならば本来それは王国がやるべき事だ。

その辺は俺もある程度割り切らないといけないのだろう。

せめてきちんと対価が受け取れるように色街をしっかり管理しよう。


さて、『国債』の方はさっそく大口の申し込みがあった。

キャシーが2000口、クリスが400口、兎人族協会が100口買ってくれた。

他の住民達からもちらほらと申し込みがあり、計2700口ほどになった。

王国通貨で金貨2700枚、日本円だと2億7000万円くらいか?


キャシーとクリスはそれぞれ実家の代理人としての申し込みだろう。

それだけこの領への期待が強いって事なのかな?

単純に分散投資の為に投資話に耳聡いって可能性もあるけどね。

利率は低いけど、少なくとも契約上はノーリスクの投資だ。


兎人族は個人でも申し込みがけっこう多かったらしい。

彼らが作る農産物はうちの領の大きな収入源となっている。

ただ、税と借地料、販売手数料等を引いたら後は育てたものの財産だ。

彼らの預金額はそこそこの額になっているから自然な流れかもしれない。

ただ、短命ゆえか、受取人に子供や兎人族協会を指定する者が多かった。


そこそこまとまった金が手に入ったので、そろそろ迎賓館を整備しよう。

通りを挟んで警察署や小劇場の東側の500m四方を迎賓館区画とする。

区画の北東部には大きめで警備も厳重な貴賓館を造る。

西側は一般開放された庭園で、南西部にパーティー会場を作る。

そちらは住民達の冠婚葬祭や商談の場として使って貰う。


それぞれ簡単なラーメン構造をこちらで用意し、王国風に装飾してもらう。

キャシー邸でやった事の規模を大きくした感じだ。

上下水道と階段、ゴーレムを利用したエレベーターと洗濯機は用意する。

柵や庭の造成、内装や調度品についてはクリスに手配を委託しよう。


貴賓館は公爵家名義で使うことも多くなるだろう。

彼らの品位や威信を損ねないような内容にする必要がある。

加えて王国の文化・風習や宗教への配慮も必要となると、俺では手に負えない。

建物の大枠をこちらで用意するとはいえ、予算が金貨2000枚は心細いかな?

本命の迎賓館は別に持ってるだろうし、地方都市の分で贅沢は言わないよね?


『経済特区』は既に鬼族と人間族の通商拠点になりつつある。

俺たちが作るポーションや石鹸もなかなかに順調な売れ行きだ。

貴族や豪商が大口の商談をするのに庭園つきの高級料亭は必要だろう。

これで『経済特区』の経済規模が一気に拡大することを期待したい。


さて、そういった華やかな部分はクリスや民間に任せておくとしよう。

一方で俺は『プライベート・ブラック』の格好で物陰に潜んでいた。

例の樵小屋周辺の攻防がだんだんと激化してきているらしい。

ゴブリン部隊だけではそろそろ対応が難しいレベルになりつつある。


剣士1「反撃だ!陣形を整えろ!撃て!」

女魔道師「アイスブリット!」


護衛の冒険者達から次々と矢と魔法が放たれる。

ゴブリンたちは散り散りになって逃げていく。

木立が邪魔になって森の中の小さなゴブリンにはなかなか当たらない。

ただ、弓に関しては威力も射程も冒険者達の方がゴブリンより上だ。


剣士1「さあ、今のうちに樹を!」

樵「あいよ」


斧を振り下ろす音が森の中に木霊して行く。

盾と弓を並べた冒険者達の守りをゴブリンでは突破できない。

雪風たちも姿を見せずに吹き矢だけで援護するのは限界がある。

俺達が直接手を下さなければならない時が来たようだ。


しかし、雪風の姿を見せるなら殲滅しなければならない。

俺が『プライベート・ブラック』として追い散らすか?

だが、あの女魔道師はマリーと同じくらいの年頃かな?

俺は彼女を攻撃できるのか?


『ゴブリンダンジョン』で間接的には男女問わず何人も殺している。

だが、直接となるとやはり女に攻撃するのにはかなり抵抗がある。

女に攻撃できないと悟られるとそれはそれで後が面倒だ。

だが、人間族は『発動体』がなければ魔法を行使できないはず。

あの杖さえ奪ってしまえば、「殺すまでも無い」状況に出来る。


一樹「なるみ、雪風を下がらせろ。周辺のジュリエッタとシャルロッテを各10名召集、縄分銅を硬質ゴムから鉛分銅に換装して集合だ」

なるみ「あいさー」


殺すつもりはないが、武装した敵を相手に硬質ゴムじゃ頼りない。

官憲を前に出すとその後の手続きが面倒だが仕方がないか。

拘束後のやり取りを考えると今から頭が痛くなってくるな。


ジュリエッタ525「換装完了しました。ご命令を」

一樹「うおっ」


すぐ耳元からきこえた声に思わず小さな声が出る。

気配が無いのはさすがだね。っつか速いな。


一樹「あの女から杖を取り上げて傷つけずに無力化したい。できるか?」

ジュリエッタ525「やってみます」

一樹「俺が正面から突っ込んで注意を引く。その間に全員を無力化してくれ」

シャルロット522「了解にゃん」


俺は正面の茂みからガサリと大きな物音を立てて現れる。

冒険者達の注意が俺に向いたのを確認して突進する。

両脇の茂みから縄分銅と投げクナイが飛んでくるのが見える。


女魔道師「ひゃっ」

射手「つっ!」


俺は正面の剣士の盾に棍棒を振り下ろして薙ぎ倒す。

左腕は折れただろうからしばらくは動けまい。

視界の隅に魔道師の杖が飛んでいくのが見える。

射手の方は弦をきったのか?すごい命中精度だな。


2人目の剣士が切りかかってくる。

真っ向から棍棒で弾き返すと、剣はあっさりと砕けた。

男の表情が・・・いや、頭部が歪んだ。

しまった、殺さず追い返せと言うのを忘れていたな。

先ほど殴り倒した剣士も既に止めを刺されている。

一人残った女魔道師を見遣る。


女魔道師「ひっ!」

ジュリエッタ525「待たれよ!この女は既に戦意を失っている」

一樹「今はそうでも、逃せばまた森を荒らしに来るぞ」


今の俺は仮面をつけて『プライベート・ブラック』として振舞っている。

なるみに頼んで仮面にボイス・チェンジャーも仕込んでもらった。

「魔力の感じ」とかいうのも分かりにくいようにしてあるらしい。

魔力波長を調べる魔道具を直接当てられでもしなければ同一人物とは分からない。


ジュリエッタ525「連行して一樹様の判断を仰ぐ」

一樹「この場で殺せば済む事だろう。俺たちに武器を向けたんだ。殺す理由として不足はあるまい?」

ジュリエッタ525「この場は一樹様の管轄だ。ご助勢には感謝する」

一樹「ふん、甘いことだ」


「魔族の下級兵」をイメージしたコスチュームの俺は武器を収めその場を去る。

この辺のやり取りはこういった事態を想定して事前に打ち合わせてある。

強硬派の『プライベート・ブラック』と穏健派の『一樹』という演出だ。

シャルロットたちが容赦なく殺してしまったのは想定外だったけどね。

ジュリエッタたちは冒険者たちの死体を回収し、生き残った女を連行した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


俺が牢屋についたとき、女魔道師は所持品検査の最中だった。

全裸に剥かれた状態で台の上に四つん這いにさせられている。

看守はローションを指につけて中をまさぐっていく。

上の方も圧迫し、直腸内の異物の有無もチェックする。


女魔道師「ん、くっ・・・」

ジェシカ647「立って良し!服を来ていいぞ」


女は差し出された服を引っ手繰る様に受け取った。

俺の存在に気づくと、そのまま胸に押し当てる。


女魔道師「ちょっと!何見てるのよ!」

ジェシカ647「さっさと服をきろ!」


しばしの逡巡の後、女は観念したように服を広げる。

中央に穴の開いた、長さ160cmほどの長方形の布だ。


女魔道師「なんなのこれ?こんなのどうしろっていうのよ?」

ジェシカ647「中央の穴に首を通して脇の紐を結べ」

女魔道師「そんなの見れば分かるわよ!これが服ですって?ゴブリンじゃあるまいし!」

一樹「囚人にはそれで十分だろう。不満ならゴブリンの腰蓑でも貸してやろうか?」


女は俺を睨み付けると、無言のまま与えられた服に首を通す。


女魔道師「いったい何の罪だって言うの?」

一樹「森林の違法伐採及び公務執行妨害だ」

女魔道師「どういうことよ?私達はゴブリンが出るって言うから樵達の護衛を引き受けただけよ」

一樹「つまり共犯は認める訳だな?あの辺りは伐採禁止区域。ゴブリンは森の警護隊だ」

女魔道師「ゴブリンがあなたの手下って訳?ならそっちだって人間の村を襲っているじゃない!」

一樹「それは別の奴等だな。そういう連中を自衛の為に殺すのは好きにすれば良い。だが、俺の配下は森で大人しく暮らして居るよ」


俺の手下は正確にはゴブリンを模したガーディアン、魔道人形だ。

当然統制は完璧、人間の村からは麦1粒たりと盗んではいない。


女魔道師「そんなの区別なんて出来る訳無いでしょう!」

一樹「区別が難しいのは理解できる。だが、その理屈で言うなら、人間族は魔族の森を荒らすから見つけ次第殺していいって事になるな」

女魔道師「そんな訳ないでしょう!」

一樹「どう違うのだ?少なくとも俺たちは区別しているぞ。森を荒らす者は排除しているが、人間たちの村を襲ったりはしていない」

女魔道師「全然違うわよ!なんでいきなりこんな事になるわけ」


全く反論になっていない。

まあ、そういう人間は珍しいわけでもないがな。


一樹「何度も警告はした。今までゴブリンの矢で致命傷を負った者は居なかっただろう?」

女魔道師「だからって殺す事ないじゃない!」

一樹「そうか?警告を無視して違法行為を続けたばかりか、警備隊に武器を向けたのだ。殺されて文句を言える状況ではあるまい」

女魔道師「あのゴブリンが警備隊ですって?ただの野良ゴブリンの駆逐依頼だったはずなのに、とんだ貧乏くじだわ」

一樹「むしろ幸運だったと思うがね?野良ゴブリンが相手だったなら、今頃お前はもう妊娠済みだよ」


ゴブリンはどういうわけかほとんどの人型種族を妊娠させることができる。

そして、上位種族と交配した個体は高確率で強力な変異種になるらしい。

人間の若い女が居れば当然生け捕りにして巣穴に監禁しようとするだろう。


女魔道師「もういいでしょう?あたし達は樵の護衛依頼を引き受けただけよ。ここから出して」

一樹「それについてはもうしばらく検討させてもらおう。お前が共犯者であるという事実は変わらないし、反省の態度も見られないからな」

女魔道師「知らなかったって言ってるでしょう!」

一樹「それで無罪になるなら大抵の犯罪は言い逃れが出来るな。仮に知らなかったというのが事実だったとして、野良ゴブリンが法律だの所有権だのを理解していると思うか?それでもお前たちは殺すのだろう?」

女魔道師「ゴブリンと一緒にしないでよ!あたしは人間よ!?」

一樹「なら聞き分けろ。法を知らずとも罪は罪、そのくらいの道理はわかるだろう」

女魔道師「じゃあ、あんたの手下どもはわきまえてるわけ?」

一樹「もちろんだ。その辺りの指導監督は徹底している。それに、村を荒らすような奴は殺していいとお前たちのギルドにも伝えた筈だぞ?もっとも、俺の配下にそんな阿呆が居たなら、お前たちが殺さずとも俺が殺すがな」


絶対服従の魔道人形なんだから有り得ない話だけどな。

まあ、仮に暴走することがあったなら処分するのは間違いない。


女魔道師「・・・それで、あたしはどうなるわけ?」

一樹「具体的な所はこれから協議する事になるが、まずは武器・防具の類は没収、そして罰金か懲役だな。加えてクリミナルデータベースに登録され、行動や立ち入り区域に一定の制限がかかる。そんなところだ」


女はようやく観念したのか押し黙る。

俺も今後の事を検討する為に一度この場を離れよう。


一樹「次からは依頼内容の適法性もちゃんと確認することだな」


さて、この女の処遇をどうしたものだろうか?

違法行為とはいえ伐採で死刑や懲役というのは人間族は納得しないだろう。

だが、『領域』の樹木をきられるのは俺やなるみにとっては死活問題だ。

樹木を勝手にきる行為は俺たちからすれば殺人や傷害と同義といってもいい。


樹木を切れば俺たちの力が減衰する事は知られているのだろうか?

あの樵や冒険者たちにその認識はあったのだろうか?


仮に俺たちへの加害の意図がなかったならこれは過失傷害罪か?

いや、過失傷害未遂ならそもそも罪が成立しないのか?いや、既遂か?

そして違法伐採については故意で現行犯、でも違法性について彼女は善意か。

教養課程でかじった程度の法学知識じゃどうにも判断が難しいな。


森の生き物が俺たちの魔力の供給源であることを知られているかは不明。

知らないか、まだ仮説程度の段階なら確証を与えるような言動は避けたい。

そういう意味では違法伐採にあまり目くじらを立てるわけには行かない。

それでも俺たちの生死に関わることだからしっかりと阻止はしないといけない。


アウラエル「死罰でよいのではありませんか?」

一樹「いや、違法伐採で死刑というは、さすがに領民たちも納得しないだろう?」

アウラエル「確かにその罪状では難しいでしょう。ですが、警備隊に対して武器を向けて抵抗したということであれば死罰は十分妥当です」

一樹「それは・・・そうなんだが」


日本だと公務執行妨害ってどれくらいの罪だったっけ?

海外だと武器を持って抵抗したらその場で射殺って話もよく聞くな。

抵抗したけど結果として生きたまま捕まったケースではどうなんだろ?

いや、そもそもここは地球じゃないんだし、あっちの基準で考えちゃ駄目なのか?


アウラエル「少なくともアウローラ王国では死罰ですね。これを軽い罰で開放したとあっては警備隊の安全や国の威信にも関わります。延いては治安の悪化、領民の安全を脅かす問題ですよ」

一樹「そう・・・だな」

アウラエル「どうしても気が進まないということでしたら、主様への忠誠心を教え込んで手駒にするという手もありますね」

一樹「忠誠心って・・・・洗脳ということか?」

アウラエル「そういう言い方もありますね。それとも『ここの領主の配下に武器を振るっても、投降すれば大した罪には問われない』、そう吹聴されることをお望みですか?」

一樹「いや、確かにアウラエルの言うとおりだな」


共にダンジョンを守る仲間たちの危険を増やすわけにはいかない。

他にいい手が思いつかない以上、それしか方法はなさそうだ。

殺すか洗脳するかの2択、俺もどんどん悪役じみていくな。

まあ、端から正義のヒーローなんて柄じゃないけどさ。

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