暴君な幼馴染と結婚する弓の魔術師の物語
この世界に転生してから十年の月日が流れて、俺は通算して三十回目の誕生日を先日迎えた。
あっちの世界でも両親に大切に育てて貰って本当に感謝している。
子は両親を選べれないって言うけれど、生まれ変わっても俺は人情味溢れる暖かい両親の間に生まれることが出来てつくづく幸せ者だと思う。
こちらの世界じゃスマホもなければネットもない。 と、言うか電気すらない。
今、俺が生きている世界にはハイテクな機械が存在しない代わりに魔法が当たり前にあるファンタジーな世界だ。
そんな世界に身を置く俺に生きていく術を身に付けさせようと俺にとって二人目の父親は弓を教えてくれる。そして、二人目の母親は俺に魔術を教えてくれる。
俺はあっちの世界では親孝行なんてすることも出来ずにあっけなく戦死してしまった。
両親の反対を押切、粋がって軍隊なんぞに入らなければ今頃幼馴染の美優紀と結婚して、普通に子供も生まれて、孫の顔の一人や二人は見せてあげられたのかもしれない。
今じゃ叶わないけど。
だから、俺はこの世界で必ず親孝行が出来る立派な男になろうと決心した。
そう、俺は素敵なお嫁さんと結婚して幸せな家庭を築く。
その為には今日から始まる学舎で立派な成績を修めてみせる!
俺は心の中で人知れず固い誓いを立てた。
ついでに腕を上げて王者ポーズを決めてみた。
「リオ、早く朝御飯食べないと遅刻するわよ」
「はぁい、母様」
「ゴレちゃん、このお皿も運んでもらえる」
この子は俺が幼少の時に土魔法で作った自家製ゴーレムだ。
朝食を食べていたら急に玄関が蹴破られたんじゃないかと思う音を発てて開かれた。
こんな嵐のような登場の仕方……もう来たらしい。隣人のシュティーレ・モリフォスが。
「リオ!! 私の下僕の分際で優雅に朝食を食べているなんて、何様のつもり!?」
今の俺と同い年のティーレは、母親の遺伝が強いのか見た目は可愛らしく、将来は美人決定が確実視されクラスでモテる人種に入るであろう容姿を持ち合わせている。
が、しかし、俺に対してだけは暴君のように振る舞い、俺を下僕のように扱う。
「わかったよ、今から行くから」
「ふん! では、おば様行って参ります」
「気を付けてね二人とも」
「うん、じゃ行ってきます」
俺はトレントの指と稀少価値のあるキングトレントの髭を組み合わせて作られた弓を持ってティーレと学舎に向かう。
ここからだ、今日からこのイリーリオ・ヴォーデンの物語が始まるんだ!