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ワンさんとごすずん

作者: 三上 渉

柴犬のワンさんとごすずん(ご主人)が会話するだけの超ショートショート

3分で終わるプロトタイプ小話です

とある夕暮れ時

古めかしい木の机に向かい小説を書く男の姿があった


彼の名はごすずん

もちろん本名ではないが、彼の名は特に重要な事ではないので割愛する


その時、一匹の柴犬が散歩用のリードを咥えながらてくてくと部屋の中に入ってきた

柴犬はごすずんの後ろにスッとそれを置くと、その場でお座りをする。そして・・・


「ごすずん。散歩に行きたいと願いまして候」


と、おもむろにおかしな日本語で陳情した


柴犬の名はワンさん

何故か人語を喋る柴犬であるが、これまた特に重要な事ではないので割愛する


ワンさんの陳情に、ごすずんは椅子をくるりと回して振り向くと


「そうですね・・・」


額に指を当て、少しだけ考えてから


「残念ながら仕事中なので。その提案は却下とさせていただきます」


と、笑みを浮かべながら言った


ガーン!


「そうでありますか・・・」


ワンさんはごすずんの言葉に残念そうに俯くが


「無念ではありますが致し方なし・・・」


と言って、すんなりとごすずんの言葉を受け入れた


「おや?物分かりが良いのですね」


あまりにあっさりとワンさんが引き下がった為、逆にごすずんの方が気になってしまい、そうワンさんに問いかけた


「吾輩、タダ飯食らいであります故。過度な我儘は致しかねる所存であります」

「まあ確かにその通りですが、普通の犬はその様な事を気にしない物ですよ」

「ですが、働かざる者散歩するべからずということわざもある事ですし」

「微妙に間違っていますね。普通犬は働きませんし、働かなくても散歩に行って良いと思います」


そう諭すように話すごすずんに、ワンさんは顔を上げて問いかける


「そうでありますか?」

「そうです」


まっすぐごすずんを見つめるワンさんに、ごすずんは微笑みながらそう答えた


「では吾輩、散歩に行きたいと願いますれば・・・」

「却下します」

「・・・!(ガーン)」


鳩が豆鉄砲を食ったような顔になったあと、ワンさんは俯きながら言う


「諸行無常でありますな・・・」

「おや?なかなか難しい言葉を知っていますね、どこで覚えたのですか?」


そう、ごすずんは興味深そうにワンさんに問いかけた


「吾輩、勤勉でありますれば。知は力なりと申しますし」

「なるほど、確かに。他にはどの様な言葉を勉強されているので?」

「そうでありますな・・・」


ごすずんの言葉にワンさんは少し考え込むと


「驕れるもの久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。盛者必衰の理でありますな」

「ほほう、なかなか深い言葉ですね」


感心した様に頷くごすずんに、ワンさんが続けて言った


「はい。人の世の終わりもそう遠くはないと思われます故、ぴったりかと」

「おっと?何やら不穏な発言ですね。まさか喋る犬達による人類殲滅計画などが進行してたりしませんか?」


そのごすずんの問いに対し、ワンさんはつぶらな瞳を向けながら答える


「ごすずん、安心してほしい。その時は吾輩がごすずんの身の安全を保障するであります」


その答えに、ごすずんは笑みを浮かべると


「全く安心出来ない言葉をありがとう、ワンさん。そこはそんな計画は存在しませんと言ってほしかったですね」

「これは気がきかず、陳謝します。吾輩、嘘が吐けぬ性格故・・・」

「いえいえ、お気になさらず。さて、警察かFBIのどちらに伝えるべきか迷う所ですが・・・」


そう言って、ごすずんは椅子から立ち上がると言った


「とりあえずは散歩へ行きましょうか。仕事をする気も失せてしまいましたし」

「・・・!よろしいのでありますか?ごすずん」

「ええ。私の行動に人類の未来がかかっている事ですしね」


こうして、白紙の原稿用紙に背を向け

ごすずんとワンさんは共に部屋を出ていき、散歩に向かうのであった

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