アザアリブス
顔に青アザのある13歳の時に水無 雨。
不器量な彼女はある日、クラスメイトに「アザアリブス」とあだなをつけられたしまう。
怒った雨はある一言を放つ。
私、水無 雨の顔には生まれつき目の周りにアザがある。
それなりに目立つアザだが、幼稚園の頃はむしろ左右非対称大きさや形が微妙に違う目とか低くて丸い鼻、形の良くない唇の方を気にしていた。
親戚の叔母などは赤ん坊の私のそのあまりのブスさに驚愕し「
青アザは薄くなったわけでもないが、濃くなったわけでもない。大きさは変わらないが顔は子供の頃に比べて大きくなったのでアザが顔を占める面積は小さくなったはずなのに。
中学1年生の6月、雨がしとしと振る五月のこと、放課後5人の人気者のクラスメイトが美術部の帰りに言ってるとこを聞いてしまったのだ。
ナナリーというあだ名の泉 奈々李という名前のその子は言った。
「水無の私服見たことあるんだけどさ、思ったより普通だったよ」
「思ったより普通ってなんだよ」
「だって顔にアザあるじゃん、あいつ。アザ有りブスだかから絶対私服もダサいと思って。そしたら案外普通だった。まあ野暮ったくはあったけどね」
「アザ有りブスって…ハハッ!」
「いやぁ、ミズナシブスはアザアリブスみたいな?」
「おー!!」
「うまい!」
「座布団一枚」
「いやいや、お前性格悪いな。アザーリブス、マジウケるし」
ショックを受けて私は雨の中傘も刺さずに返って風邪を引いて休んだ。
1日休んで負けるもんか!みたいな気分になった私はまだ少し咳は出たけどマスクをしながら登校した。アザーリブスとあだ名をつけた子は休んだ理由を知らないので「アザアリ」とあだ名をつけた子は私があの話を聞いていたなんて知らずに
「水無さん昨日休んだけど、大丈夫?」
なんて声をかけて来た。以前なら優しい笑顔だと思ったかもしれない。
しかし、それは不気味なほどの作り笑いであった。
体がカッと熱くなるような怒りを感じた。
私はその子を見つめてにっこり笑って
「アザーリブスです!イェイ☆」
とピースしてみた。
泉奈々李は
「あの話聞いてたの!?」
と驚いた。
教室がザワザワした。
「え…何…アザーリブスって」
「え、だめでしょ…」
「でもちょっとウケね?」
「陰でなら何を言っても良くね?」
「ええ…」
「…じ、実は…リィエはその場にいてナナリー最低って思ったけど言えなかった」
「ってかそれがストレスで水無さん風邪ひいたんじゃね…」
「イジメ?」
「なんかちょっとナナリンムカついてたからスカッとしたかも」
「ってかさぁ、前から思ってたけどナナリー、マジ性格悪いよね〜」
次の日、泉奈々李のほうが学校を休んだのは私にとって意外なことだった。
そして泉奈々李と仲の良かった三人メリー、ユキリン、リィエとお互いを呼び合う三人は凄い勢いで悪口を言っていた。
「私、元々奈々李、嫌いだったんだよね。あいつ馬鹿じゃん。そのくせ悪口だけは言うって言う」
「しかも自分で思うほど可愛くないよね」
「あっリィエ聞いたことある!勘違いブスってやつだ!顔はともかく性格がもうブスだよね。勘違いブス。水無さんみたいな大人しくて良い子をいじめてさ」
「うーわ、うーわ、1番痛い奴!最悪マジ最悪」
とメリーが大げさに顔をしかめれば、ユキリンが
「ってかあいつ小学校の時いじめやってたっしょ?」
リィエが、
「そんなのずっとじゃん。あいつが通ってる塾、めっちゃ人多いけど、生徒であいつのこと知らないやつ、それこそ一人もいないかんね。いじめエグいから」
「うわぁ、それってもう犯罪者レベル」
「いじめって犯罪だよね。うちのママも言ってた」
「出た!リィエのマザコン。あー私もう奈々李と口聞きたくないなあ」
「えーじゃあ、私等、犯罪者と今まで話してたってこと?」
「うちのママ、友達とは自分で選べってリィエはナナリーともう友達やめようかな」
私はゾッとした。教室で割と大きな声量で友達だったはずの泉
奈々李をことごとく貶す3人。
ずいぶんあとになってユキリンこと北野ゆきこの「奈々李のいじめは塾で誰もが知るほどである」というのは誇張だったことなどを知ったが。
しかし私が私が1番ゾッとしたのは新妻リィエであった。
というのもハーフ故に明るい茶髪とそれと同じ色の目をした幼く愛くるしい見た目の彼女リィエは奈々李が私に「アザアリブス」と言うあだ名をつけたとき、その場にいた。
リィエが「アザアリブスってハハッ!」と笑ったときは心の底から楽しそうだった。
私はリィエが私を良い子なんて一ミリたりとも私の事をいい子なんて思っていないと知っていた。
関わらずリィエは『内心引いていたが、常々良い子な水無さんを可哀想に思ったが、止めることも出来なかった』持つというふうになっている。
そもそも普段は小さい声でしか話さないのに悪口を言われたときだけハキハキと周りにそれを暗に言いつけるように大声で言うやつ私のようなやつが性格が良い訳ないだろう。
リィエが私を良い子なんて思ってないのは知っている。
そもそも私は『被害者はとりあえず良い子」なんて風潮は大嫌いだった。
そもそもこの場合、私は被害者なのか加害者なのか分からなかったし。それもあってあんなこと言うんじゃなかったとナナリーに申し訳なく思ったほどだ。
そのまた次の日、ナナリーが学校にやってきたが、来たときは楽しそうだったのにナナリーは3人にいないものとして扱われると
後で聞いた話によると、昨日ナナリーをみんなでお見合いに行って、3人はナナリーが有頂天になれるようにしてから、学校で無視をしたらしい。
ナナリーはそのうちリィエ達とは違う大人しめのグループに所属するようになり、泉奈々李は1年生の終わりにはすっかり大人しい子になっていた。